RESET▷▶3話

「ふぁあ〜あ」


いつもと同じベッドであくびをする。

いつもと同じ目覚めだったはずだ。

ただ違うのはラジオから流れる今日の日付と──ってあれ?


「6月14日!?」


2ヶ月も戻ってる?

前に戻った時は1ヶ月だけだったのに…


「さてはこれ、戻る時間変わるな?!」


私ってちょっと凄いのかも。

2回も戻れるなんて。

やっぱこれ魔法?超能力?


「ま、どっちでもいいけどさ。」


そこではたと思い出してメールを打つ。


『送信先:奏

本文:奏、おはよう☀

いきなり変なこと訊いちゃうかもなんだけど、私達ってさ| 』


とまで打って指が固まる。


「こんなこと訊いて何になるんだろ。」


すぐに打った文字を消す。

気分を変えるように両手でペちんと頬を叩き、鏡に向き合う。


「今日の私は今日の私!大丈夫!」


深呼吸とともにこんがりトーストの匂いがして、パタパタと部屋を出ていった。

朝食の目玉焼きトーストを食べながら何気なくテレビを見る。

聞き飽きたニュースが速報として流れてきた。

そっか、繰り返すってこういう事か。

聞き飽きたニュース、見慣れた景色、既視感で溢れかえる日常がどこか可笑しくも思えた。



「奏!おはよう!」


「おう、おはよう和音。」


きっといつもどうりのあいさつだった。

きっと今回は大丈夫。3回目の別れは告げさせない。


いくら私が悩んでも、お構いなしに地球儀は回る。

私が悩む事なんて周りの誰にも、奏にさえも、関係無いのだ。

それでも奏の日常が少しでも変わるように。



「和音。」


「ひゃ、冷たっ!そ、奏!」


私の首にオレンジジュースをあてて、奏がニヤリと笑う。

そんなイタズラっぽい笑顔も大好きだった。


「ありがと。」


こんなんでも振られるのかな。

ダメダメ私。弱気になっちゃ。頑張るって決めたんだから。

思い出増えたら思いとどまってくれるのかな。


「奏、デートしない?」


「デート?」


「そっ。デート。」


「いつ」


「今から。」


「今からってお前学校は…」


「サボっちゃおっか」


イタズラ好きな子供のみたいに笑う。


「ったく怒られてもしんねーかんな?」


口調は怖いけど、奏の優しさだよ。



「うっひゃぁああ!」


髪をなびかせる風が気持ちいい。

ふたり乗りした自転車が坂道を駆けていく。


「俺初めて学校サボったんだけどぉ?」


風に負けないように大きな声で話す。

「私もー!」


奏に心配はかけないから。ニヘっと笑ってみせる。


「せんせーに見つかったら怒られるんだろーなぁー」


『お前らなぁ、青春もそこそこにしろよぉ!俺の夏まで奪いやがってコノヤロー!』


「うわ、言いそう!超柳田やなぎたじゃん!」


誰もいない道で大笑いする。


「マジで俺知らねーからな!」


「大丈夫!大丈夫!ノープロブレぇム!!!」


そう叫んだ所で自転車をコンビニに停める。


スーパーカ○プ2点お買い上げ。

川原にふたりで並んで腰をおろすと、カッチカチのアイスにスプーンをぶっ刺す。

よく食べるアイスはいつもより甘くなくて、いつもより冷たかった。


「ねぇ奏。」


「ん?」


スプーンをくわえたままこっちを向くから、なんだか笑いそうになる。


「奏はさ、私に隠し事とかしてる?」


「してる。」


「ふーん、どんな秘密?」


「それ言っちゃったら秘密じゃねぇじゃん」


「確かに。でもこの和音様に隠し事とはいい度胸してんな。」


「ぜってー言わねぇ。」


言われへんのかい!


「ばーかばーかケーチケーチ」


「はいはい。どうせケチですよっと。」


そう言って立ち上がった奏は、ふたり分のゴミを捨てに行った。


「隠し…事…」


奏、隠し事してるんだ。言えないよう秘密。私が振られたのってそのせいなのかな。

隠し事はなるべく少なくして欲しかった。何でも話して欲しかった何でも話せる彼女になりたかった。


「…なで?和音?」


「ふげ?」


「えぇお前なんで泣いてん…俺変なこと言ったか!?俺なんかしちゃった!?」


「へ?」


頬が、冷たくて目頭が熱いのでようやく気が付いた。私、泣いてる。


「ううん!ごめんごめん。何でもないよ!目にゴミ入っちゃっただけ!」


「本当か?大丈夫ならいいんだけどさ」


不安を全て隠すように奏の手を握った。握り返して来た手が熱かった。

夕日と同じ色をした奏の横顔が、嘘じゃ無ければいいと、ただ願っていた。




「和音。別れよう。」


それでもこの日はやって来てしまった。

3度目の夏、一つ目の涙が頬を翔けて青い花に落ちた。


いつもと同じ屋上の匂いがした。

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