こんな夢をみた
三塚章
第1話 こんな夢をみた
その夢の中で、私は独房に囚われてた。その中には家具も何もなくて、正面は鉄格子ごしに細い通路が見えるだけ。左右と後は灰色の壁。背後の壁には高い位置に横長の細い窓があって、そこから漏れる光で今は日が落ちたばかりだと分かった。
たまにどこかで咳払いや歩き回る音がするから、私の独房の両端にも同じような房が並んでるだとわかった。
私は、ずっと部屋の隅で膝を抱えて座りこんでた。
窓から差し込む明るさが完全に消えて、辺りが真っ暗になった頃、前の廊下を歩く幾つかの足音が聞こえてきたんだ。自分の影も消えた暗闇で、歩いている者の姿は見えなかった。
その何者か達は私の檻に近付き、通り過ぎる。そして廊下の奥の辺りで立ち止まったみたいだった。軋みながらどこかの檻の開く音。
小さく女性の悲鳴があがった。そして銃声。悲鳴が途切れて、人体が床に倒れる音。そしてまた足音。
その足音が完全に消えたとき、隣の独房からかぼそい女性の声が聞こえてきた。
「一日に一発ずつだよ」
つまり、一日に一人、この牢獄に囚われている囚人が殺されているらしい。
私は、その声の女性に「なんでここにいるのか」とか「ここはどこなのか」とか「なんで殺されないといけないのか」とか色々と質問した。でも相手は黙ったままで何も答えてくれなかった。
また日が昇り、朝がきた。もうだいぶ長い間拘束されているはずなのに、不思議な事に、喉も乾かなかったし、腹も減らなかった。
そしてまた日が傾いて、夜になる。また、何人かの足音が響いてきた。そして私の牢獄を通り過ぎ、しばらく行った所で止まる。そして銃声がして、気がついた。
昨日よりも、銃声の位置が近くなってる。
夢の中の不思議さで、私はあと五つ、廊下の奥に牢獄があるのが分かった。つまり、あと五日後に私は殺されるっこと。
朝が来て、夜が来て、また朝が来て……いよいよ私が殺される番が来た。足音が目の前で止まって、鍵が開く。赤い軍服を着た三人の男達が独房に入って来ようとする。真ん中に立っている男は、拳銃を持ってた。
私は真ん中の男を突き飛ばして廊下に出た。
追い掛けてくる気配を感じながら、細い廊下を走り、突き当たりの扉を駆け抜ける。
扉は外に通じていて、そこで初めて今まで閉じこめられていた場所が、まるでおとぎ話に出てくるような城だとわかった。
一言も何も言わないで、三人の兵達は追ってくる。城の庭はちょっと不思議な造りをしていて……
と、ここまで夢の内容を語ったところで、今まで黙って話を聞いていた友人が初めて 「ねえ」と口を挟んだ。
「その城ってさ、入り口から飛び石が続いてる?」
そう。私が夢で見た城は、だだっ広い芝生の真ん中に建っていた。なぜかその芝生は水に浸かっていて、城の玄関から四角い大きな飛び石が並んでいた。私はその飛び石を必死でつたって逃げたのだ。
「そうそう、確かに飛び石があった! なんで分かったの?」
私の質問に、友人はシレッと答えた。
「だって、私も同じ夢を見たもの。ひょっとすると、近くの檻に入っていたのかもしれない」
こんな夢をみた 三塚章 @mituduka
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