後悔

 死神になってから、人の死に関わることが増えた。まあ、当然といえば当然なのだが、それが結構きつい。死神とて、人を死なせるためにいる訳ではない。ただ、死んだ人間を次の世界に案内するだけ。


(君には、生きていて欲しいんだけどな…。)


 目の前には、身も心もぼろぼろになった、中学生くらいの少女がいた。

 その少女を見ると、昔の自分を思い出してしまう。昔というか、死神になる前の、自分。少女は驚くかもしれないが、死神は最初から死神として生まれるやつもいれば、俺みたいに元人間のやつもいるのだ。


 当時の俺といえば、ほぼこの少女みたいな感じだ。生きる意味が見いだせず、いつも死にそうな顔をしていたと思う。そのせいでいじめの対象になり、周りの人も近づこうとはしなかった。

 だから、少女の気持ちは分かっているつもりだ。この後言いそうなことも……ほら、「連れていけるか」って。それ、遠まわしに「死にたい」って言っているようなもんだよ。


 俺を死神にしてくれた人は、もちろん死神だ。あの人に俺は、この子と同じような事を言った。

「今、お前にあの世に連れていってもらえれば、俺は死ねるのか?」

 すると、その死神はこう言った。


「たとえ死神だからって、そんな人殺しみたいなことしたくないよー。」


 その言葉が自分の中に残っていたからか、少女にも同じことを言ってしまった。そしてそのまま、死ぬのを辞めるように言ってみる。

 すると、ふと少女の考えていることが頭に入ってきた。

(何も知らないくせに。死んでいる死神に、分かるような話でもないのに。)

 俺はその言葉を聞いて、少しムッとした。死神にも分かるに決まっているではないか。しかも俺は、君と全く同じ経験をしたことがある。分かりすぎているほどだ。

 そんなことを思われていると知った途端、少し傷ついた自分がいた。

 どうすれば、こんな彼女を救ってやれるのだろうと考えるが、もう手遅れなのかも知れないとも、思ってしまう。


(こんな時、あの人は……)

 どんな言葉を、掛けてくれただろうか。



(自殺はね、罪なんだよ。)

 ふと、懐かしい声がした。


「どうして。別に罪だって決まってるわけじゃないじゃないか。」

「人が自殺したら、誰かが悲しむでしょ?人を悲しませるってね、罪なんだよ。だから自殺は罪。」


 当時の俺は、幼くて、頭が悪かったから、理解出来なかった。だから、死神になりたいと、悲しい顔をするあの人に言った。人生に愛想が尽きたから。あの人が言ったことの意味を、知りたかったから。


 _____やっと、わかった気がする。



 自分の思うこと全てを話し終えると、少女は泣いていた。そして、「頑張ってみる。」と、言ってくれた。

 少しは、死神になって良かったと思えた。でも、あの時の俺は、辛かったあの人の気持ちも考えずに、自分勝手に行動した。馬鹿な奴だ。


 この後悔は、この永遠の命に深く刻まれてしまった。それを消す事はできない。

 それでも、また俺みたいに後悔する人が出ないように。そして、辛く思いながら、俺を死神にしてくれたあの人のためにも、俺は死神らしくないことをする。



 少女は、また涙を流しながら、精一杯の笑顔で、多分初めて言うであろう感謝の言葉を言ってくれた。


 その笑顔は、どことなく、あの死神俺の恩人に似ていた。







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輪廻する思い 如月あらた @Arata_

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