第6話 葉の数は多ければいいってもんでもない
小学生の私の楽しみと言えば、学校帰りの道草だった。母曰く「本当の道草」というやつで、どういう事かというと雑草を摘んでは持って帰っていたからなのだ。
線香花火のようなカヤツリグサ、まとめたら小さなホウキになりそうなメヒシバ、メヒシバに似ているんだけど穂も茎も太くてメヒシバよりも抜きにくいオヒシバ、昔の子供はままごと遊びでお赤飯に見立てたというイヌタデ(通称 赤マンマ)、試験管ブラシそっくりで、これも抜きにくいチカラシバ、あまり見かけなかったけれども見つけたらスペシャルボーナスのような気持ちになったカラスウリ…等々、私が小学生だった四十年前の通学路にはワクワクするような植物がたくさん生えていたのである。
残念なことに、この趣味に付き合ってくれるような同級生はいなかったので、専ら一人だけの楽しみだったのであるが、一つだけ、何人かで競って探したものがある。それは「葉の数が4枚以上のクローバー」である。
四つ葉のクローバーは幸せを呼ぶシンボルだが、通学路の傍の空き地に生えていたクローバーには、かなり高確率で四つ葉以上のものが混ざっていたのだ。四つ葉は当たり前、五枚や時には六枚のものも生えていた。当時としては宝の山のような場所だったのだ。四つ葉より葉の数が多い、という事は、更に幸運になれる、と、必死になって探したものだった。
さて、それから十年程経った頃である。父の友達で、麻雀で大負けして百万程借金を負ってしまった人が父にお金を借りていたのだが、その人が数万ずつ返済にくるついでに我が家によく遊びにきていた。この人を仮にXさんとする。
Xさんは、そういう事情が無くても、お金になることなら色々と請け負っていたようだが、ある日、その時でもだいぶ前の事だと言っていたから、おそらく七十年代前半頃に請け負っていた仕事の話をしてくれたことがある。
なんでも、あるところから薬品の処分を頼まれたのだが、それを受け取る度に裏庭にそのまま捨てていたのだそうだ。今じゃ考えられない話である。
さて、Xさんの家の裏庭にはクローバーが生えていたのだが、薬品を投棄するようになってからしばらくした時のこと。ふと見るとクローバーの葉の数がおかしい。
五枚だったり六枚だったり…葉の数が多いものがたくさん生えていることに気付いたのだそうだ。ぞっとしたXさんは、すぐに、その依頼を引き受ける事を辞めた。
…という事は、あの通学路のクローバーは…。
と、いう話を生徒にしたら、「夢がない」と言われてしまった。
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