第3話 山のお土産
高校一年の時に、学校の行事で八ヶ岳の某所に登った事がある。
わが父は、若い頃に登山に青春を捧げていたためか、私にも立派な登山の装備を準備してくれた。都心に近い場所にある専門店に行き、登山用の靴下を何重にも履かせて実際に登るときと同じ状態にして、いくつもの登山靴を試し履きさせて、これは、というものを選べた頃には小一時間は経っていたと思う。立派な登山靴にニッカボッカ、ベレー帽というスタイルは今思えばバブル期に差し掛からんとするDCブランド全盛期の高校生のスタイルではない。
そんなこんなで独りだけ立派な登山スタイルで登ったが、これが登りではとても有難かった。高木限界を超えた辺りまで到達すると目的地までは岩場を登ったりせねばならず頑丈な登山靴は大いに役に立ったのである。
問題は下りだった。
父の教えで「山は下りこそ気を付けろ」というのがある。下りは登り以上に足に負担がかかるので、いくら楽でも、歩幅を小さくし衝撃を少なくするように気をつけろ、というものだ。その時の私も、気を付けていたはずだった。けれども、これまで登ったことのない高さの山を登った後では、ついつい、気が緩んでしまっていた。靴も緩んでいたようだ。靴擦れが出来てしまった。ひどい痛みを我慢しながら山道を下っていった。
半分以下まで下ってしまえば、周りはすっかり森林の様相を呈している。フラフラしながら歩いていると、前方の木の陰に作業着姿の若者がいるのが見えた、が気が付くのとほぼ同時に、その姿は掻き消えてしまっていた。疲れが見せた幻覚だったのだろうか。
家に帰ったその日の事である。台所にいた母が「おまえ、何か拾ってきた?」と言い出した。「誰かがアタシのエプロンを引っ張ってる。」
山で見たアレ、拾ってきちゃったのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます