第2話 お稲荷様と大学と

 聞いた話である。

 ある大学には、敷地内にお稲荷様があった。戦時中は軍の施設があり、戦後は理系の学部学科に特化した大学が設置された場所であり、其れ以前はおそらく何もない場所だったろう。そんな場所に、そのお稲荷様がいつ頃、誰によって建てられたのか、記録を調べればわかったのかもしれないが、噂好きな年ごろの学生にすら知られていなかったのだから、誰も知る由がなかった。

 ある時、施設の増設が決まり、お稲荷様を撤去することになった。ところが、その計画が持ち上がったとたん、次々と事故が起こった。事務職の人が大けがをする。女子寮の管理人がこっそり飼っていた猫が車に轢かれて死ぬ。管理人の奥さんも足を怪我してしまった。その他にも何件か、その手の事故が起きたらしい。そこで、撤去は中止して、校舎の屋上に移設し、丁寧に神事も執り行ったところ、その後は平穏な時間が戻った。

 …と、思っていたのだが、数年前にテレビのワイドショーに取り上げられるような事件が起きてしまった。今度は殺人事件である。学内で起きた事件ではなかったが、大学の元教授が学生を殺してしまったため、一時はテレビカメラが撮影に来たりとちょっとした騒ぎになってしまった。

 しかし、なぜ二十年も経った頃に、また、不穏な事件が起きる事になったのだろうか。考えられるのは、最近になって、新しい校舎がまた一つ増えた事ぐらいである。そういえば、殺されてしまった学生は、その新しい校舎に入った新設学科にどうも所属していたようだ。

 もしかして、お稲荷様の他にも、知られていない、何か触ってはいけない存在を動かしてしまったのだろうか。そして、その存在に誰も気づいていなかったら…。あまり考えたくはないが、その後は事件も事故も起こらず、学生の数も減ることはなく、平穏な時間が戻ったようである。




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