第3話

その試合の後は、俺の高校の試合だった。

相手は、自称頑張れば勝てる高校。よくいる感じ。

すっげえ覚えてるのは、先輩たちがただうまいということだけ。

一人一人が自分のやるべきことをわかっていて、連携がチームワークが滑らかだった。ああ、こういううまいもあるんだなってただ尊敬した。


押せ押せオフェンス、なんて周りが応援している声に合わせて言ってみた。大きな声を出すって少し恥ずかしかった。ちゃんと応援するなんて照れ臭かった。でも、大きな声を出した後はどこか爽快だった。


「すーーごかったな!先輩たち!!」

安藤はやはり興奮冷めやらぬ、とでもいうように鼻をふんふん鳴らしながら俺に話しかける。近い。全体的に近けえよ。

そんな安藤を手で追い返していると、視界にジャグを運ぶうちのマネージャーが目に入った。

重そうに抱えている。女の人なんだから、無理させない方がいいよな。

「持とうか?」

俺はギャラリーから降りてコートの端へ駆け寄ってマネージャーである榎本にそう言った。

「え!あ、いいよいいよ!仕事だから!」

榎本はそういうとまた重そうなジャグを抱えるために腰を曲げた。


「あーーー!あかりちゃん!!また一人で持って!」

榎本を見つけたマネージャーの先輩、栗木先輩が大きな声を上げてこっちに駆け寄ってきた。もー、なんていいながら栗木先輩は榎本のジャグを床に置かせた。

「あかりちゃん。これすっごい重いんだから声かけてね。そしたら一緒に持っていくから!」

腰折れちゃうよー、なんて笑いながら栗木先輩はようやく俺に気付いた。

「あ!落合君!ちょうどよかった!これ持って行ってくれない?あかりちゃんとこれから他の仕事しなくちゃいけないんだ…」

「あ、いいっすよ」

先輩からジャグを受け取ると俺は水道へ向かった。


マネージャーってすごいよな。先輩から受け取ったジャグは女子が持つにはひどくずっしりとしていて。正直、重。

うちの荷物のあった水道までそれを持っていってジャグを水道におろした瞬間の解放感。もう二度と持たねえ。

「和也君は、優男でっすねぇ~」

「いたなら手伝えよ」

たかがジャグに疲れてしまった俺は、重いの無理ー、とかほざいてる安藤の世話をする気にもなれず、ほかの人たちが集まっているところへ合流した。


うあー、なんてうなりながら輪に入ると、一人で携帯を見ているやつを見つけた。

中川、って言った気がする。

みんなと話すより優先したいその携帯の中身が気になって俺は、中川のもとへそろーっと忍寄ってみた。

「よっ」

「お、落合君」

「なにしてんの」

そう言いながら中川の携帯をちらりと覗く。

画面に映っていたのは、あるバスケ選手の画像。有名な。アメリカの。

「それ」

「え!?あ、これ?うん。俺の憧れ」

黒い肌にまんべんなくついた筋肉と他よりも少し小さめな身長。そこに映っていたのはまさしく、俺のこの世界に連れ込んだ張本人で。

少し嬉しかった。中川も嬉しそうだった。


そのあと俺と中川は帰り道でもずっとその選手のことを語った。

驚いた。ここまで話の分かるやつがいるなんて思ってもいなかったから。


こうして俺の初の公式戦は、話が分かるやつがいたことへの満足感と、まだ上がいることへのワクワク感で幕を閉じた。





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