第2話
二年前。
あの怒涛の挨拶はどうやらあれからバスケ部の中の伝説となったらしく、俺は三日間ほどいじられ続けた。
先輩たちはやはり上手く、高校のレベルというものを思い知ることになるのだが。
最初は何かと走ることが多くて、練習の半分以上をダッシュやランニングに使うことも多かった。
最初に話しかけてきたのが、あの安藤。
「落合君ってさ、1組だよね」
バスケ部で唯一の同じクラスの奴だった。
安藤とは何かと気は合わず、音楽の趣味。食べ物の好み。服のテイスト。時間の感覚。何から何まであいつは俺とは逆だった。
それに反比例するかのように、俺たちはバスケのスタイルだけはぴったりと合っていた。
入部して2週間で、初めての公式戦に行った。
一年だった俺はベンチになんて入れるはずもなく、ギャラリーで応援組だったわけなんだけど。
「すっげえ」
空気が違うってこういうことだと思った。
「だよな」
思わず漏れた声は消えることなく隣の安藤に届いていて、彼もまたこの空気を感じたようだった。
「落合君。安藤君。みんな行くって」
二人して空気に飲まれてこの会場に足を踏み入れられないでいると、後ろから同じ学年の本宮が声をかけてきた。
本宮は、眉くらいまで伸びている前髪がチャームポイントだろうか。猫っ毛だ。
何かとみんなをことを見ていて、こうやって気を使って声をかけてくれる。
「おお。本宮ありがとうな。てかずっと、陽でいいって言ってるだろ」
そう笑いながら安藤、もとい安藤陽は本宮の肩をつかんで中に入っていった。
俺も続いて入る。先輩たちが荷物を置いた場所のそばにリュックを放り投げて、ギャラリーまで急ぐ。
ああ。バスケだ。
どこかもわからない高校が。高校生たちがたった一つのボールにあんなに魅了されている。応援の声。ドリブルの音。ハンズアップの声。監督の視線。全部が俺を奮い立たせた。
「和也はどっちが勝つと思う?」
声に反応して視線を向けると、隣には俺と同じくらい真剣な顔をした安藤がいた。
「白」
「だよな」
見たところ第二ピリオドで、4点差で黒が優勢だった。
でもわかる。あきらめていない。
そして、白はただシュート率が悪いだけで攻め切れている。黒のマグレシュート率の高さとはわけが違う。
「白のさ、5番。いいな」
「わかる」
「ああ、なりたいよな」
「……わかる」
誰よりも声を出して、誰よりも真剣で。熱く。心は熱く。それでいて頭は冷静だ。
「見たかよあのブロック」
恵まれた身長に体格。そして焦らないメンタル。声。
「あの5番、県選抜だって」
「まじかよ」
気付くと安藤の隣には本宮がいてさりげなく教えてくれた。
道理でうまいわけだ。
それからずっと俺たちはその試合にくぎ付けで。先輩たちに熱心なのはいいけど、行くぜ?、なんていわれるまで一回も集中が切れることはなかった。
「俺たち、ああなれるかな」
本宮がボソッとつぶやく。
俺と同じことを思っていた。安藤も思っていたようだった。
「なれるよ」
後ろから声がして俺たち三人が驚いて後ろを向くと立っていたのは部長だった。
「俺、お前らならなれると思うよ」
そう言って笑う。いつもなら、ほんとですかー?なんて笑いながら返すのに、何かが違った。そう。何かが違ったんだ。
「なります」
俺の口から零れ落ちたのはそんな言葉だった。
結局あの試合は後半に形になってきた白の圧勝だったらしい。
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