第6話 Aパート [吹雪の前兆]
空が曇ってしばらく、雪が降り始めてきた。
この辺は冬になると積雪量が少し多いらしい。
なんでも、雪が降りやすくなったのは30年前からと聞いたことがある。
ネオンが煌々とする薄暗い帰路を歩いている途中に、突然と路地の影から現れた黒いスーツ姿の茶髪の女性が話しかけてきた。
「こんにちわ、マキナ」
リュウコだ。この辺を歩いていたのだろうか?
「偶然ね、こんなところで何してるの?」
「偶然じゃなくて必然。あなたにやってもらいたい事があるの」
成程。今日の予定と私用はもう何もないが・・・
「ついて来て」
リュウコの言われたとおりに、歩き出した彼女の後について行くと、薄暗そうな路地に入っていく。
路地は軒並みの裏口が並んでいた。それに通りよりもさらに薄暗かった。
リュウコは足を止めると
「ミスターレイノルズがある場所を突き止める物を持ってきてくれたの。そういえば彼言ってたわよ?あなたもチンピラ殺した際に出くわしたって」
「それは偶然だ。それで、何をすればいいの?」
そう目的を聞くとリュウコが路地の奥にある裏口のドアを左手で指さした。
「あの建物の中にいる猫ちゃんを救出して欲しいの」
「えっーと・・・猫なら、どこにでもいるんじゃないか?」
そう返すと、リュウコは首を横に一振りして
「密輸目的の犯罪組織に捕まっているの。人工じゃなくて本物の猫だから、連中にとっては猫を多額の金額に換える気でしょうね」
「"天然動物保護法"。種類にもよるけど重い犯罪を犯してることには間違いないが、中の奴らをどうするのかい?」
「そうね・・・ちょっと待ってて」
と言うとリュウコが、左手で左目を覆う。何をしているのだろう?
「・・・中に3人と・・・奥の部屋に1人。おっと、1人が3人のところへ行ったわ。叩きのめすなら今がチャンスね」
透視能力か何かで偵察をしているのか?とも窺えるように思える。
まだ左手で左目を覆いながらまだリュウコはぶつぶつ言っている。
「とりあえず4人ってところね、そして猫のゲージは離れたところにあると・・・。
はぅ・・・という分けだからぁ、猫をこっそり、さらってきてちょうだい・・・げほっ」
リュウコは急に息を切らし始めた。
あの透視能力的な力は体力を消耗するようだ。
「リュウコ・・・?大丈夫?」
「この力を使うといつもこうなるの。・・・気にしないで。私はクラブの裏口辺りにいるから、そこで落合いましょう」
と言うと、リュウコは自らの姿を透明にし気配すらも消した。
単独で、裏口から建物に入ると、視界に入ってきたのは薄暗く広い倉庫のような部屋。
棚に箱や籠などが沢山置いてあるせいか、光がところどころに届いていない。
暗闇に沿って姿勢を低くしながら進むと、棚の隙間から男らがテーブルゲームを楽しんでいるのが見えた。
暗闇を味方にしてゆっくり進んでいくと、微かにいびきのような音が聞こえてきた。
ゆっくりとその音の持ち主へと近づくと、ゲージの中で小さな動物が寝ていた。
白い毛並みの動物だ。ゲージの扉から顔を覗こうとすると、動物の方から顔を見せてきた。
顔からしてトラの子供っぽく、怯えているのか暴れはしないでゲージの奥へうずくまってしまう。
確かに猫と言えば猫だが・・・リュウコはトラの子を保護してどうする気なのだろう。
ゲージの固定ロックに触れると、扉は音もせず開いた。
ゲージから子トラを出すのは良いとして、暴れてしまったりすると奴らに見つかってしまうだろう。
さてどうしたものかと思ったがゲージの傍の広げてあった布を見て、方法を思いついた。
それに男らも先程より笑い騒いでいる。これはチャンス。
うるさいうちに子トラの目をさっと布で覆い、肩に担ぎ抱えて出口まで足音をたてないように走った。
なんとか外に出れたも気付かれるのは時間の問題だ、一先ず落ち合う場所まで早く向かう事にした。
無事に落ち合う場所に辿り着けた。抱き抱えられている子トラはいつの間にか寝ている。
クラブに行くと、入口の前でメイドの霧雪ろせつが
「あ~やっと来た!ボスのところへ案内するわ」
「助かった、頼むわ」
霧雪の後についていく。歩きながら話す。
「ねぇ、いつもリュウコはあんな調子なの?」
「ボスが言うようには透視能力かな?それを使った際はね。透視した距離によってとか言っていたんだけど使った後はやっぱりそうなのよ。頭の後ろの方が痛くなるんだって」
「後頭部か、視覚野とかあったな。でもリュウコ自身は義体化しているようだったから生身の人間が負荷の掛かる魔法や特殊能力を使うよりはデメリットは少ない気もしないけど」
すると2階に上がって少し歩いたところで霧雪は一旦足を止め、後ろにいたわたしの方を振り向き
「"しているようだった"?」
と何かに触れてしまったようだった。
「マキ、あんたはボスと最初にあった時のこと覚えてないの?」
霧雪はすらっとした人差し指を間接を反らせながら聞いてきた。
「この場所に来た時のこと・・・?」
「はぁ、なるほどね。15歳の時に入院していた頃ボスもあんたと同じ病棟、それも同じ病室で入院していたっていうその話をよく言っているわ。話もしていたって」
こっちを見て1度ため息をし、やれやれと話をしている霧雪の後ろから、部屋から出て来たリュウコが
「せつ、呆れないであげて。マキナは私より後に来た患者だった。というかその話はその抱えているホワイトタイガーの子どもを保護してからにするわ」
リュウコの言うとおりに子トラを抱いてもらい、部屋に連れて行ってもらった。
リュウコが戻ってくるのを、2階のバーの一角で待っていた。
2階の吹き抜けから、1階の広いフロアから人々が集まって盛り上がってきた空気、そして音楽を司る役割のDJの盛り上げが窺える。夕方なのに騒がしくなってきた。
鏡張りの大窓からフロアの様子を眺めていると、リュウコが戻ってきた。
「待たせたわね」
「大丈夫だよ。それよりあのホワイトタイガーって猫を、飼うのか?」
「いえ、実はあの虎はロシア人の実業家の子なんだけど、どこかへ行ってしまった様でさ。でも一方でイタリアンマフィアの連中が白虎を持っていたという情報が来てね」
リュウコが隣の長椅子に腰かける。
「要はわたしがした事って別に悪くないことなんだ。ふむむ」
「寧むしろ良い事よ。報酬は後楽しみにね」
「あんなに報酬貰ったばっかりなのに、悪いね」
「それは会社の方からよ、マキナ。あれでも色々差し引いての報酬よ。とりあえずリンゴのサイダーなんてどう?」
リュウコが飲み物のボトルと2人分のグラスを持ってきていた。
先にわたしのグラスに注いでくれた。
「ありがとう。なかなか良い香りだね」
「いえ、こっちこそ付き合ってもらって。あの、せつが言っていたことなんだけどね・・・」
リュウコは先程の話を始める前にグラスの中で弾けているサイダーをひと口飲んだ。
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