第4話.B パート [ 危険の前触れ ]
*
一方、とあるバーにて、ウルフ達はキングピンが送ってきた刺客との銃撃戦を終えたところだった。
ウルフの仲間である、薄緑フード付きトレーナーを来た"イライジャ"、黒ジャケットの青年の"賢太郎"(けんたろう)と獣然じゅうぜん刑事は、敵の死体とめちゃくちゃになったバーを見渡して、
それぞれの銃の銃身を降ろし一息つく。
年老いたバーのマスターはカウンターの裏で怯えながら
「ももも、もう、おわ・・・終わりましたか?」
とゆっくり立ち上がる。
「おい、ケン、イライジャ、外に誰かいるか?」
とルガーを構えたウルフが小声で状況を聞きだすと
「誰もいない、車もネズミも蠅ハエもな。」
外から戻ってきたイライジャが報告する。
「・・・嫌な予感がしますね。ずらかった後にしては静かすぎる」
同時に戻ってきた賢太郎も報告する。
「おい、厨房の方から何か聴こえないか?」
と獣人特有の耳を持つ刑事が厨房の方向へ銃口を向ける。
ウルフ達も音に反応して裏から来る"何か"に向けて銃を構え、それぞれは遮蔽物となるものの裏へ隠れ、
撃つタイミングを待つ。
ケンはカウンターに背を合わせてしゃがみ、手から魔方陣を浮き上がらせてシールドを召喚した。
のしのしと重く踏み込むような音で、やがてその音の持ち主が現れた。
黒く頑丈なヘヴィーアーマーを装備した重装兵だった、軽機関銃を持った危険な奴だ。
重装兵は堂々と姿を現すと同時に軽機関銃を乱射してきた瞬間にウルフ達も一斉に撃ち返した。
ケンもシールドを前へ前へと押しやり、軽機関銃から発射される沢山の弾丸の流れをシールドで防いだ。
幸いにもバーの中は広々としていて、どちら側にしろ、背後を追い込まれる可能性はなかった。
あっちはのろのろとした一歩一歩、アーマーの重量のせいで遅い、だが撃っても撃っても銃撃が効いている様子は伺えない。
しばらくして銃弾と銃声が止まない中、
「!ハハハハ!老いぼれめ!」
と重装兵が乱射しながら大声で笑い、コンロまで来ると、乱射をやめて銃身を持っていた左手を離してガスの元栓へ手を伸ばし、それを開けた。
「撃つな!爆発しちまうぞ!」
とイライジャが叫んで全員の射撃を中止させ、銃口を向けたままにした。
重装兵は軽機関銃の銃口を、睨んでいるイライジャたちを前に後ずさりし、
ゆっくりとその外へ出たようだった。
その後は誰も来ず、銃声も静まり返り、幸いマスターと4人の男達はなんとか生き延びた。
ケンが立ち上がり、強襲してきた刺客たちの死体の数を目で数えた。
「7人・・・だな・・・掃除屋にここへ来てもらうようにしましょう」
その横で獣然は耳をへこませて
「・・・アンタらはいつもこんな酷い目に合っているのか?」
「これは、相手が悪かったな。デカい犯罪組織となると差し金を送ってくるってのは、わかっていたさ」
ウルフは、刑事の困惑に息を切らしながら答えた。
ケンが窓にふと目をやり、外の様子を見に窓際へ行くとその時、
「RPGだー!伏せろ!」
叫びに、その場にいた全員が姿勢を低くしようとしたが、その前に爆発音が轟き、凄まじい爆風によって
全員が吹き飛ばされ、厨房からもガスが引火して爆発が連鎖する。
煙と粉塵が舞い、火が燃え始めた。
「痛てて」と呟きながら獣然は呟きながら衝撃で瞑ってしまった目を開くと、飛び込んできたのは周りを包む火、半壊した店内と焼けている複数の刺客の死体、そして負傷した仲間達の姿だった。
まず仲間を救わなければと急いで立ち上がった獣然はイライジャの元へと駆け寄り、
「おい立てるか!?おい!」 と肩を軽く叩く。
「あ、あぁ、まず皆を助けてここを脱出しなきゃな、クソッ」
膝に手をついてイライジャがなんとか立ち上がる。
「皆・・・無事か・・・?」
とイライジャの後ろから声がした。
声がした窓際の方を見ると、いつの間にか、ケンを庇っていたウルフがかなりの重傷を負っていた。
「旦那!死ぬんじゃねぇぞ!今助けるからな、俺の方に掴まれ」
「すまねぇ。・・・左足の感覚がないんだ、やられたな」
イライジャが姿勢を一旦低くしてウルフに肩を貸して、右足でなんとか立ち上がるのを手伝った。
その横で獣然は、気絶していたケンを負ぶって
「マスター、無事ですか!?あの出入り口は火だらけだ・・・裏口からいきましょう」
「は、はい。刑事さん」
と言って物陰からマスターも立ち上がり、急いで裏口のドアを目指して走った。
そして5人の男達は、崩れかけの店内から脱出することができた・・・。
*
マキナ達はフードコートエリアの食堂にて、昼食と会計を済ませてあとにした。
そして屋内の通りを歩きながら会話していた。
「ふぅー、満腹!」
と満足なリラの喜ぶ顔を横目にする。
「そういえばマキナの義体の種類は胃の要領というのか、小さいのか?」
と人工の器官に興味を示すアレリアに
「まあね。でもある程度摂取すれば満腹中枢を自動的に調整されるから物足りなさは感じないわ」
と簡単に説明した。
「ということは・・・じゃあ食費が節約できるね」
「それもそうだけど、代わりに健康診断とか・・・まぁ機械の体だから、不自由もちょっと増えたけどね」
左側にいるアレリアと話し続けていると、右にいた水絵みずえがぐいぐいと左肘で軽く突いてくる。
「なんで公安局の方と知り合えたのよ」と小声で言ってくる。
「友達の友達って感じかな。わたしも最初は、カッコいい年上の人かなと思ったんだけどまさか同い年とは思ってなくて」
と言うと、アレリアが肩を叩く。
「私も、君を最初は普通の人間と思っていたが、サイボーグとは思わなかった」
「えへっ。この体はお母さんとその友達の人たちがくれた大切で・・・この世に一つとしかない、
わたしだけの生涯の宝物」
と返すと、アレリアが優しい笑みを見せる。
1階まで降りてきてくると、私服の裾を「ねぇねぇ」と、リラが片手で引っ張ってきた。
「どしたの?」
とさっきから大人しい妹の様子を伺うと
「あのね・・・眠たいの」
と左目のまぶたを1回こすりながら言った。
「ふふっ、リラちゃん相変わらずかわいいわね」
と水絵が微笑む。
このモールの建物は、今じゃあまり珍しくないが、高層で屋内が広々としている。
それに人気も多いから疲れるのもわからないでもない。
屋内の中央の柱があるところ以外は構造上迷いやすい人がいるというのも、始めて来た人や慣れない人には、多いかもしれない。
ましてや、今になって混雑し初めているから、人混みがさらに迷わす可能性もある。
「一度、あそこ寄ってから負んぶしてあげる」
最寄の隅っこの座れるところへ手を繋いで連れて行くと、リラが眠そうに1回ゆっくりと頷いた。
人混みを交わして着いたそこは、案外人がいないものだった。
「足はわたしの前のほうに組んでおいてね、お姉ちゃん負んぶするの久々だから」
「うん」
と今にも眠りに入りそうな妹を負ぶって、丁度、人混みが空いてきたころに外に出た。
「荷物、ウチが持とうか?」
「おぉ~、助かるよ」
わたしが両手に握り持っている2つの買った物の袋に手を差し伸べてきた水絵が、代わって持ってくれた。
「誰かが隣に居てくれると、支えれるものだね」
アレリアがそう呟く。
そして彼女のフォーマルなスーツの胸ポケットからアラームが鳴る。
「あっ、と・・・呼び出しか。急用ができてしまってね、話せて楽しかったよ。またな」
「ええ、こちらこそ、またね」
「気をつけて行きなよ~」
手を振るわたし達にアレリアはちらっと手を振り返して、駆け足で真っ直ぐ呼び出された場所へ向かう。
「もう夕方かー、わたし達も帰ろうか」
「うん」
急ぐ若手捜査官の彼女の背を見送り、夕日と化す太陽の光が正面の街並みに差す、車を停めてきた駐車場へ歩き始める。
「そういえば水絵って明日はバイト?」
「そうなの。店長に頼まれちゃってね、まぁ仕事場の人たちは優しいから別に嫌じゃないの」
「そっか・・・大変だなぁ。わたしも母さんの手伝いとかこれと言ってないし・・・。
わたしもなんだかやることないと退屈だし」
話しながら道中の道端にいる白い猫に一瞬目をやる。
「見つけた。マキナと私の似てるとこ。」
「えっ?あの猫に見たこと?」
「猫とか犬とかいるとそれに一瞬目が行くってこと」
「そっか。でも最近は人工の動物か自然の動物かって一目で見分けなれないのもあるからなぁ、どっちなんだろうって」
「ふふっ、それも分かるわ」
と話し合いながらながら歩いていると、目の前にその駐車場が見えてきた。
ついでに自分の車のシェベルの姿も見える。
今日は大変な目に合いかけたが、水絵とリラとのお出かけは無事に終わることができた。
だが、恐らくあの一件から油断はできなくなってしまった。
しばらくは来る戦いに備えなければならないだろう。
そして大切な人達に手出しはさせないと、わたしの心の底が誓う...。
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