第4話.A パート [ サイボーグはトイレに行くか? ]
3人は休憩所でアイスバーを食べた後、4階のカルチャーコーナーで見回っていた
そして3人は別行動として、それぞれが見に行きたい売り場へ足を運ぶ。
わたしは1人で書店のところへ行った。
ふと視界に入った本を手に取ると、そうだ!これだ!・・・これ新刊じゃないか!歓喜しつつ、思い出した。
[姫白伍長]というタイトルの単行本を手に取る、表紙から好きなSF感がする。
少しばかり本のページを捲りつつ、眺めていた。
・・・左後ろから気配がする、横目にやると、
左から歩いて来るベージュのスーツ男がガース氏の[ヒットマン]の少し大き目の単行本を、丸めて不自然な持ち方で持っていた。
右手でグリップを持ち、左手で単行本で銃か何かを包んでいた。
持ち方からして、消音器具サイレンサー付きのハンドガンを包み隠しているのだと思う。
黒い銃身がこちらを向くと、同時にわたしの戦闘本能が今だ!と脳内で叫び、その男ヒットマンにスライディングし右足で男の左膝を強く蹴った。
ヒットマンが倒れ、蹴り落とした拳銃をわたしの右手で透かさず拾った。
銃口をヒットマンの頭に向けながら彼のスーツの胸倉を掴み、「死にたい?」と言うことを聞かなければ撃つぞと警告を静かに言い、その場に立たせた。
「クソッ・・・わかった」
この男は外見からして若そうだった、どこかのチンピラか雇われの若い暗殺者か。
抵抗する様も無く、「わかったわかった」と呟いて、男の後ろに回って背中に拳銃を突きつけてぐいぐいと前に進むよう銃身を押し付ける。
男の銃には銃の所持者登録制御システムすら付いていなかった、それに新しい洗浄された銃だろう。
この銃は[ジェリコ941]だが70年代の銃火器であれば、せめても所持者防犯ローギバーシステムぐらいは付いていなければ、これは違法で洗浄された銃だ。登録しなくとも誰でも使える。
今日はいわゆる非番であって、それにプライベートだ、水絵みずえもリラも、周りの人間にも騒ぎを立てるわけにはいかないし、何かあったように察されてもいけないし、面倒ごとも勘弁だ。
奥のお手洗いの2部屋ある性別のないトイレの右のトイレまで進ませ、スライドドア近くの清掃中の小さい看板をドア前に置いた。
ドアを素早く開けて背中を蹴り、ドアのロックをしてわたしは男にまた蹴りを入れ、男は悶絶し、腹を抱えた、男の表情は屈辱と焦りで満ちていた。
トイレは綺麗に掃除が行き届いているようで、トイレットペーパーのカスや、匂いからも、これは立派な掃除担当がいるもんだと思わせてくれる。
これに免じて血を流さないで済ましたい所存だ。
男に「そこに正座なさい」と静かに銃口を突きつけてそう言った。
持っていた本を左手で奪った。
「両手を足と尻の間に挟め、・・・そうだ、それでいい。少しでも変な素振りでも見えたら撃つわ。」
男は正座はあまりしなそうだった、正座しながらもじもじしている。
「雇い主を言ってくれるなら解放をすることも考えるけど、さらに場所も言ってくれるならお前をこちら側に寝返っても逃げても・・・許してあげるわ」
「雇い主のことは言えない・・・その人の名前を言うと、この後頭部の小ちっこい機械が反応して俺を殺す・・・剥がし方はその人か幹部しか知らない、撃たないでくれ、このまま後ろに向くから、この首辺りの鼠色のヤツがそうだ」
そう言うと男は自分から膝を少しずつ動かして、こちらに背を向けた。
グレーの機械が見えた。ランプが点滅している。
「・・・これか、脅されているのかそうでないのかは知らんが、それは置いておく。
こうやって問いただされるのは初めてではなさそうね、まず場所を言いなさい」
「わかった・・・ネオカブキシティーだ、"サッドサウンド"っていう店でアンタを殺すよう言われた。アローヘッドの"プロトタイプ"がどうとか・・・」
「アローヘッド、あの医療と軍事産業の会社か」
と言って、男の右肩を撃つ。
「グッ・・・!わかった、な、名前を・・・言う、それにアンタらに手を出さないように言っておく」
腕の太さからわかっていたが、
男も右腕は機械化していたようで、激痛ほどではなかったようだ。
「名前はいい、死んだらこの時間が無駄になってしまうし、その代わりで特徴を言ってもらえないかしら?」
男は先ほどよりも焦り顔になった。
「ブロンドの髪、サングラス、ヨーロッパから来たと言っていた・・・そうだ、アイツだ!デイヴ・"キングピン"・ウォーデン・・・だ・・・あんたらが取り返した"兵器"は主席も欲しがっ・・・」
男は突然名前まで言った、そして兵器を"主席"とやらが欲しがっていることを言いかけると、後頭部の小型装置が小さな音を立て、電撃を浴びているかのようにうぐぐと突然頭を振り始めて、男は発作を起こしてもがき苦しみながら泡を吹き、それが口から出そうになっている。
そして目が白くなり、もう肌の色が白くなり始めている。
そして男は動かなくなった、死んだのだ。
わたしは何もせず、できずに死なせてしまった、そして呆然としている。
得た手がかりはアローヘッドが狙われていることと、しかもそれはキングピンや主席が狙っているということだけだ。
男は、わたしの暗殺あるいは義頭の中の脳の強奪を失敗し、そして彼にとってはキングピンとやらの仕事の失敗は死よりも恐ろしい何かがあるのだと確信を覚えた。
だから名前を吐いて死を選んだのだろう・・・。
ヒットマンの死亡を確認してからわたしは、スマートフォンで"掃除屋"に死体を持っていってもらうように連絡した。
割と近くにいたようで、10分も掛からずに来てくれた、車椅子の老人を装った掃除屋の男"ツカダ"と袋持ちの外国人のグエンが、ドアをノックした。
本職の清掃員も今日は休みのはずなのに。
開けてあげると「まいど」とツカダがグエンに車椅子を押されながら中に入った。
「こんにちわ」
と挨拶するとツカダは
「この男を・・・」
とわたしが言いかけると
「あっ、何も言わんでいいですよ、お代は結構、借りがありますからねぇ」
ツカダが言うのに合わせてグエンは、鼻の前で人差し指を立てた、。
そして、ツカダと無口のグエンは作業の準備を始めて、わたしはその言葉に頷いてトイレをあとにした。
戻ると、本屋の中はあまり人がいなかった。
丁度空いていたスペースに置いていた[姫白伍長]と左手に持っていた[ヒットマン]の単行本を一巻ずつと、他に前々から欲しいと思っていたコミック本を手に取り、全部で5冊を両手に抱え、レジに持って行って会計を済ませて本屋を後にした。
4階の広々とした通りに出ると、行き交う人々で賑わって、吹き抜けにガラス張りの天井から指す日差しがまだ照らされている。
左腕に付けたASアームストロングの携帯端末で時刻を確認する。
最近はこの一般に出回ったばかりのこの端末はASと略されるようになっていたというのをテレビでやっていた。
画面を見ると、手持ちのスマートフォンと連動がOFFになっていたのでONにし直した。
すると電話のブザーが、ジーンズの右ポケットから鳴った。
吹き抜け寄りの手すりへ背で寄っ掛り、電話に出た。水絵みずえからだった。
『もしもし、マキナ?買い物終わったから今、リラちゃんと一緒に6階にいるんだけど・・・』
「わたしも丁度本買い終わったところだから今向かうよ、そっかもうお昼なのか」
『まだ12時前だけど、洋食にするか和食にするか、どうしようかなって話してたところよ~』
「そっか、わたしは洋食屋の気分かな。それにあそこの窓際の席の方が眺めが良いと思う」
『じゃ、それで。エスカレーター前のベンチで待ってるよ~』
と電話がここで切れた。
エスカレーターより、奥のエレベーターの方が早いと思って、エレベーターに向かった。
*
6階に到着したエレベーターのドアが開くと、さっきの本屋のこともあって、身構えそうになるが、エレベーターの前には誰もいなかった、内心ホッとした。
前方の待合所のベンチが見えたので向かうと、水絵たちがこっちに気づいてくれた。
立ち上がったリラが駆け寄って
「お姉ちゃんお姉ちゃん!!これ買ってみたの!動く猫耳だよ~!」
「おー、これテレビのニュースでやってたやつじゃん、そういえばリラはこの間バイトの給料日だったね」
「そ、それにかわいいなぁと思って前々から買おうかなと思ってた♪」
早速被った猫耳も、リラのご機嫌に合わせて動いている。
後ろから水絵がリラの頭を猫耳ごと撫でて
「もふもふしてる~、流石7525円だけはあるね」
うふふとなりながら、毛並みの触り心地を体感している。
「先輩の手で撫でられると、はにゃ~んってなっちゃりそー・・・っす」
「いい後輩を持ったなぁ」
とこの2人にクスッとなる。と、突然AS端末からメールが来る。
"アレリア"からだ・・・。
<久しぶり、君の左を見てみな、見えたら一緒に食事に混ざってもいいかな?>
と2人が撫で合いをしている間に左を見ると、吹き抜けの反対側に手を振るボーイッシュな女性がいる。
<こっちに来て>と返信すると、アレリアがこっちへ移動し始めた。
「あの水絵さん・・・?」
「ん?どした?」
「わたしの友達なんだけど、食事誘っていい?」
わたしがもう一度アレリアのほうを向くと水絵はすぐわかったようで
「あの女の人?うん、別に構わないけど・・・外国の人?」
「6ヶ国語できる子」
「ホント、マキナって友達作るの上手いよねぇ~」
このこのっと右肘で軽く突いてくる。
「・・・カッコいい人」とリラが呟く
アレリアが歩いてきた、姿勢がいいのかクールに見える。
「こんにちわ、小鳥遊ご一行。突然混ぜていただいて申し訳ない、ミス筆崎」
「あっ、いえいえ、と、とんでもない」
「そう畏まらないで、大丈夫ですよ」
優雅さに少し緊張しているのか、水絵。
しかしこの男女、一体何の用なのだろう・・・彼女は仲間であるが神出鬼没だし、彼女が現れると何か危険な匂いがしないでもない・・・。
こう思いながら、わたし達4人組パーティは洋食専門の飲食店へ向かう・・・。
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