第1話.B パート [ 力の芽生えとコンフィグ ]

 昨晩の電話通りの場所へ向かう間。

 街を歩きながらわたしは過去を振り返ってみた。


 -6年前

わたしが中学3年生の時、部活はやっていなかった。

 というのも2年生の夏の頃の部活の合宿で確か、

部員の皆とバスに乗っていた。

 合同合宿で埼玉に向かっていたバスで、高速道路を走っていた。

 わたしは真ん中辺りの座席に座っていて、途中で前辺りの座席にいる部員が

どよめき始めた。

 わたしの目からは渋滞しているようにしか見えなかったが

突然銃声がなり、それと連なるように爆発音がした。

 どうにかしなければとわたしはは思い、

「伏せて!」

と言って、周りを席に隠れているように指示した。

 わたしは空いた真ん中の通路を、銃弾がガラスにヒビをいれ飛び交う中、

ホフク前進でなんとかバスの自動ドアまで辿り着いた。

先生や運転手さんは

「どこ行くの!?」「お嬢さん危ないよ!!」と降りるのを止めようとした。

 だが何を考えたのだろうか、アクションヒーローになりたかったのか?

 それともママから受け継いだ軍人の血が反応したのか?

 わたしはバスから降りた、後ろを振り向かずに。


 外に出ると車の中や後ろに隠れる人、走って避難する人や、

2人の警官と銃撃戦をしているいわゆるテロリスト達、そしてわたしの目の前で倒れている。

 おそらくテロリスト一人の死体とマスタートリガー機能のない旧式ライフル。

 最近のゲームではよく見かける銃だ、FALは大体扱い方ぐらいはわかっている、

という確信でしかなかった。

 それについ最近、時間の流れを一時的に遅くする能力を取得した。

[バレットタイム]と名づけている。


 わたしは背を低くしつつ、応戦しようと行動してしまった。

 遮蔽物の車のボンネットから白いホッケーマスクの頭が見えた。

 銃撃戦の真っ只中、警官達に気を取られていて、こっちには気づいていない!

今だ!わたしはライフルを構え、白ホッケーマスクの頭を狙い、発砲した。

「一人やられた!左側から来るぞ!」

 赤ホッケーマスクが叫び、こっちに撃ってきた。

 青ホッケーマスクは殺害した警官の魂から、魔神の様な使い魔を召喚したが、

手懐けることに失敗して使い魔は抵抗し、青マスクに攻撃している。

 青マスクは負傷を負うも、使い魔を倒したが、[バレットタイム]を発動したわたしに隙を突かれ殺された。


「民間人だ!撃つな!」

と警官の一人が仲間の警官に警告した。

 恐らくこちらが見えているとわかり、少しだけ余所見をしてしまった。

 するとどこに隠れていたのだろうか? 緑色のネズミのマスクが爆弾ベストを着たまま、赤マスクの後ろのバンから現れた、おまけにガソリン缶を片手で持っている。


「俺を巻き添えにするな!」

と叫んだ赤マスクのこともお構いなしに緑マスクは安全グリップを抜いた。

男が自爆した途端に、[バレットタイム]の効果が切れてしまい、よろけて爆風に巻き込まれてしまう。


 ここからはわたしの記憶は、重傷だったために[オーグメンテーション]といういわゆる義体化の手術し、長い入院生活から退院するまで覚えていない。

それに母さんが神経とか人工工学の医学者で、ドヴォルザークサイバネティック社に勤めていたこともあって、最新型のサイバーウェアのパーツをもらった。

 それにあの事件は、バンを捨てて逃走したドライバーやテロリストの仲間も一週間もしないうちに逮捕され解決した。

 そのあとも色々あったけど、なんやかんやで3年生になって卒業間近。

*

 -と昔を思い出しながら歩いているうちに約束の場所が見えてきた。

 レッド・サークルというクラブは昼間でも出入り口前に列ができている。

 クラブである建物の正面から右側が路地とクラブの裏口にになっていて、

従業員たちはそこの裏口からも出入りできるようだ。


 するとこっちを見たメイド風の黄髪ロングの少女が駆け寄って来て

「あなたが小鳥遊さんね?御姉様がお待ちよ、案内するわ」

そう言われて、少女に手を牽かれて正面の入り口から列に並ばずも、警備員が一歩左に退いてVIPのように入店させてもらった。


入り口の扉の向こうは、

ネオンとスモーク、テクノとDJに踊る大勢の客人達、そしてスーツの警備員。

少女の後をついて行くと、一階の左側の階段から二階に上がり

上がって左にバーがあるのが見えた、さらに通路を真っ直ぐ、奥へ行くと黒く頑丈な扉が見えた。

その扉の前の女性・・・いや、メイドアンドロイドが

「マゼンダ、客人をお連れしたわよ」

「お疲れ様です霧雪さん、支配人が事務所でお待ちです」

と扉を開け、霧雪という少女とわたしを入れてくれた。


「結構かわいいメイドじゃん、それにこの店、わたしのお気に入りかも」

「そう言っていただけると嬉しいわ、支配人はあなたの腕を買いたがっているからね」

と言いわたしと霧雪は、カラス張りの部屋が並ぶ通路を通り、またも頑丈そうな扉に着いた。

 霧雪は扉の右側にある認証装置らしきモノに顔を近づけ

「ちょっと待ってて、すぐ終わるから」

網膜スキャンの装置となると凄いセキュリティのようだが、

支配人はただのお金持ちではなさそうだ。

 扉のスキャン装置から"確認しました"と音声が流れると、扉が開く

「ごゆっくり~」

と霧雪は言った、どうやら少女がわたしを案内してくれるのはここまでのようだ。

「ありがとう」

とわたしはお礼を言った。

 入室する瞬間にわたしの表情は無意識に真剣な顔になっているだろう、恐らく。

 支配人の部屋では奥の机に清楚で肌白い茶髪の女性が座っていて、その前には黒いコートの男とその隣にアーマーを着ている用心棒らしき者が座っていた。


「・・・貴女が昨晩の電話の人ね」

「ええ、ミス・マキナ。"休業"したまま引退するかと思ったけど来てくれてよかったわ。こちらはアローヘッド社の警備主任の堀内 護さんよ」

「どうも、貴方の活躍の話は風作さんから伺っています。」

風作・・・か。

彼が挨拶すると同時にわたしも軽くお辞儀をした。

「マキナ、そこに座って。今から説明をするから、

堀内さん、例の装置の写真を」


「ミス・マキナ、我が社の異次元の観測、開通計画の話をご存知ですかな?」

堀内は鞄からファイルを取り出し、図面やその異次元の空間が開きつつあるような写真などを5枚取り出した。

「稀に噂じゃ聞くけど、魔法がある程度復活した今じゃ、結果を出せる可能性があるね」


 魔法は人によっては魔法の強弱や性質、消費する精神、魔力、そして属性は違ってくる。

 だが鍛えたり、装置を利用してその魔法を強化すれば魔法を改善できるようになっている。

 それに中には時空の裂け目からオブジェクトやアイテムを作り出したり、霊と会話、使い魔として召喚したり、壁越しから人を見ることが出来たりする強力な魔術を

持つ者も稀にいる。

まぁ、オーグメンテーションを施せばそれなりに匹敵するほどの機能を使えることはできるが・・・。


「昨日、我が社で強盗が起きまして、防護服のやつらが・・・5、6人いや、それ以上か。ソイツらが研究室から次元転送装置のプロトタイプが盗まれ、研究員が誘拐されました。ついでに警備側でも数十人撃たれました」

「昨日?・・・もしかしてあの乱射事件は、警察の陽動させる為の可能性が?」

堀内は頷き、またファイルから監視カメラらしきから撮った写真と顎鬚と頬に傷を負った男の写真を取り出し、風作はそれを見て

「その男はマードックスよ、"ギルド"じゃ過激派の環境保護団体[フロント・ガス]の団長として危険人物リスト入りしてる。目的を果たすためならどんな危険なことも引き起こすでしょうね」

「ちょっと失礼」

とわたしは腕に着けた端末からホログラムヴィジョンを立ち上げてギルドを開き、

そこから[ブラックリスト/指名手配犯]の欄へとんだ。

 そのページを人差し指でスクロールさせ、写真と同じ男を探し出した。

「この男か・・・リストの情報によるとカルト宗教団に近い類ってヤツね、表ながらな活動もしてるけど裏では武器を収集して、信者とかに与えてる・・・危険そうな」

・・・なんとなく緊張してしまい、沈黙が少し続く。


 彼らのどんな場所で企みを阻止するも、敵が少人数にしろ、対人戦闘をするのに十分な武装をした敵十人となると、こちらからも犠牲が出る可能性がある。

たまに義体化した者が犯人グループにいるとこれも割りと厄介だ、アンドロイドも同様、静電気を帯びた特殊弾であるエレキ弾や、テーザー、EMPグレネードといった、機械体の機能を麻痺させるような兵器がなければ鉛の雨をしこたま食らわせなければならない。


わたしは2年前のに、デパートで暴走したアンドロイドと戦ったことがあるが、丈夫で軽い義体のサイバーウェアが一部だけ破損し掛けたことがあり、昔の仲間達がそのアンドロイドを大破させていなかったらわたしはめちゃくちゃだっただろう・・・。


「・・・そうだ、警備主任さん、貴社のセキュリティの手配とか警察とかの協力は?」

「ええ、勿論です。できますよ、警察からの協力は夕沈刑事がいます」

「あの人はわたしも知ってる、信頼もできるし、何せちゃんとした特殊訓練を受けてる人だし」


「おっと」

風作は時間を確認して

「マキナの"昔の友達"も来るころじゃないかしら?2階のバーにいるんじゃない?」

「"昔の友達"?とりあえずそのバーへ行っても?」

「もちろん、私は警備主任さんをお送りしなきゃ」

そういえば堀内の横にいる巨漢の男は何一つ話もしないと思いつつ、

「わたしはこれで失礼するわ、ミス風作」

「マキナ、あなたの場合はリュウコでもいいわ」

リュウコ?・・・この件が終わるまで、いやそれ以降も、か

彼女は解決するのに重要な一人になるかもしれないので、

下の名前ごと覚えておこう。

そして椅子から立ち上がり、支配人の部屋から退出した・・・。


*

バーのフロア内は、下のフロアと違って

 空気清浄機から出てくる無臭の煙のようなミストと、[One more kiss, dear]のジャズ調の曲が流れていた。

 それに空間の防音効果が効いてるのか、下から流れてるテクノがあまり聴こえなくなった。

 バーにいたのは、バール・"ウルフ"・ブロンソンと、黒城 "ブラッククイーン"ダコタとサングラスをした男が一人いた。


 ウルフは設計士をやっていた一人だったが、妻さんを強盗に殺害されて、

娘さんは電脳化をしていて助かったものの、負傷と精神的ショックを負ってしまう。

 悲しみと怒りに[狼男]に覚醒した彼は何を思ったのか、手始めに犯罪者を自らの手で処刑や負傷を負わせて、さらに妻の仇であるチンピラを撃ったのだ。

 関東における犯罪率が減ったのも、ウルフの行動が影響したのではと説もある。


 "ブラッククイーン"こと黒城は、セイレーンでゴスロリが似合うアメリカ人のハーフで、父が在日米軍の大佐ということもあって戦闘やカリスマ性に溢れている、慈善活動をやったりしてる裏で、不良やチンピラは彼女には逆らえんように圧力をかけられ、逆らったり犯罪行動をしているのを見られたら最期、

彼女が率いる"プレデタースクワッド"の餌食だ。

ネオン街の治安や風紀を司る一人にもなりつつある。

ちなみにプレデタースクワッドとは、彼女はアンドロイドを数体従える程の能力を持っていて、言わば[傀儡使い]というスタイル、透明な護衛アンドロイドを従えていて

彼女の近くにいるのは確かだが、どこにいるかははっきり見えない。


「あら小鳥遊さん、ごきげんよう。葉上さん達は今日はいないようですわね?」

黒城はグラスを机の上に置き、隣の席へ座るよう手招きした。

「あぁ、今日はわたしと貴女達だけみたいね・・・ということは貴方達も呼ばれたのね」


 ウルフはグラスに注いであったお酒を一口飲み、

「流子お嬢さんだろ?風作財閥の。随分大きくなったもんだぁ、それにありゃ隙がない来たね。ハハハ」

「風作財閥?名前だけなら聞いたことあるかも」

「・・・イブシアームズ工業って聞いたことあるか?」

ウルフの隣の男がそう言った

「イブシアームズは確か、ローギバーシステムの付いたISA-51ハンドガンとかユニークな武器とか色んなの作っているとこ?」

「そうそう、そこの会社のCEOが彼女の娘なんだ」

「へぇ~、そうなんですねぇ、・・・あぁ、なるほど」

わたしはコーラをドリンクバーからコップにあけ、黒城の左隣の空いている席に座り、それを一口飲んだ。


「で、そこのイケメンくんは?」

とわたしは訊ね、ウルフはその男の方をポンと軽く叩く。

「コイツは"ドライバー"だ。今回の[マードックス・キャプチャー]作戦での運転手役さ、腕はいいんだぞ?

車イジリも良いしなぁ」

「ウルフさん、そろそろ元老院のところへいきましょうか」

「あぁ、じゃあそろそろ・・・お嬢さん達も支配人の奢りだから、

もし何もなければそのまま帰ってもいいそうだ、と流子お嬢さんから」

「わかったわ、わたしは黒城ちゃんと飲んでるから、あっ、そうだ!

霧雪さんいるかなぁ?」


ウルフとドライバーはクラブを後にし、

わたしと黒城はまだバーのフロアに残ることにした・・・。

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