私の作品を書き直してみませんか:僕たちの恋物語

ゆきんこさんの自主企画:私の作品を書き直してみませんか の参加作品です。


お題

「僕たちの恋物語:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885460276



*******************

一日目:同棲生活は突然に

 

 僕はふと目が覚めた。枕元の時計を一瞥すると、六時を指していた。

七時に目覚まし時計をセットしていたので、いつもよりも一時間早く起きた事になる。

「嫌な予感がする…。」

そんな気がしただけなのだが、ふと怖くなって二度寝はやめることにした。


ベッドから起きて部屋から出ると、家の中に人の気配がする。

父の海外出張がハワイだと聞いた母が出張について行ったので、三日間この家には僕しかいないはずだ。

泥棒だろうか。いやいやこんな朝っぱらに泥棒はないだろう。

僕は大きな深呼吸をしてダイニングの扉を開けた。気配のする方へと目を向けると、キッチンにエプロンをつけた制服姿の女の子がいた。


えっ…!?

僕は想定外の出来事に思わず固まってしまった。

いやいやいやいや。

無かったことにしてドアを閉めようとしたが、彼女がドアの間に片足をねじ込んできた。


「おは…」

「お、お前は誰だ!住居不法侵入で警察に通報する!!」

威圧感は全く感じられなかったと思うが、これでも目一杯の脅迫だ。


彼女は僕の方をキョトンとした顔で見つめながらこう言った。

「えっ? 聞いてないの?」

僕たちの間に、沈黙が訪れた。


そういえば出発前に母が「隆司はどうせ家事とかしないだろうから」と隣の部屋で一人暮らしをいている人に来て貰えるよう頼んでおいたと言っていたような気がする。


「えーと。母さんが言っていた…」

「そうそう。私は橘 真美(たちばなまみ)、三日間よろしくね。」

「僕は小浮気 隆司(こぶきたかし)。こちらこそよろしく。」


自己紹介も終わり、一瞬和やかなムードになったところで真美が唐突に切り出した。

「今日の朝食のメニューの一つに針が入っているから探してみてね。」

衝撃の一言だった。


朝おきたら制服姿の美少女が僕の家に、という時点で既に漫画のような出来事だが、

その美少女の口から朝食のメニューに針を入れたという更に耳を疑うような発言が飛び出した。ちょっと状況についていけない。

そもそも針とか冗談だとしても正直言って…笑えない。


「…それって、冗談だよね?」

「冗談なわけないじゃない。」


さも当たり前のような口調で真美は言った。

彼女は僕を殺そうとしているのか。

「あとちょっとで出来上がるから、そこの椅子に座って待っててね♡」

戦慄が走った。


僕は椅子に座り、朝食が出来るのを待っていた。

美少女が僕に朝食を作ってくれる…普通ならば心待ちにするはずのシチュエーションだが、ありえないほどに憂鬱だった。


「出来た。ええと…小浮気。針も入れたし、完璧だよ。」

納豆と僕を交互に見ながら笑顔で彼女は言った。

あぁ、針はその中か…。

「針さえ入ってなければありがとう。」

僕はがっくりしながら彼女にお礼を言った。


「あっははははは!!」

真美はいきなり大声で笑い出した。

怖い。怖過ぎる。これを狂人というのだろうか。無理だ。

朝食をとるのは諦め、取り敢えずここから逃げようと思う。


「橘、僕はもう学校に行くから鍵は閉めといてね。」

食卓を離れ、そそくさと玄関に向かおうとしたその時


「あははははは!!もうだめ、死んじゃう。ホントにもうだめ。さっきのは嘘なのに、まさか本当に信じるとは思わなかったよ。あははははは!!」

肩を震わせながら僕の方を指さして真美が大笑いしだした。


「えっ? あっそうか。あはは……」

内心殴ってやろうかとも思ったが、普通に考えるとありえない嘘を真に受けてしまった恥ずかしさから咄嗟に言葉が出なかった僕は、曖昧に濁して終わってしまった。


「いってらっしゃい。」

靴を履いて扉を開けようとすると、不意に後ろから声を掛けられた。

そんなつもりはなかったが僕は便宜上こう言った。

「いってきます。」

僕は扉を開けた。



通学路を歩きながら、僕はこれからの三日間について考えていた。健全な男子高校生が美少女と一つ屋根の下というこの状況だったら、男女の関係に発展してもおかしくはない。というか、むしろそれが自然な流れだと思う。

でも彼女、真美にはそんな感情を抱かないような気がしてならない。


そんなことを考えていると、気づいたら校門をくぐり抜けて下駄箱で靴を履き替えるところだった。僕以外はまだ誰も来てはいなそうだ。ここは川北高校、僕の通う学校だ。





「ちょっと早過ぎたかな。」

そんなことを思いつつも教室に入り一人寂しく席に着いた。一人で寂しいのは友達がいないのでいつものことなのだが、今日はそういうことではなく、物理的に一人だった。時計を見ると七時三十分であった。


「…やっぱり早かったか。」

僕はコンビニにでも寄ってパンでも買ってくればよかったと机に突っ伏した。


そんな小言をぼやいていると、廊下の方から足音が聞こえてくる。足音はこちらへと近づいてきて扉の前で止まった。

がらがらと開いた扉の音は、臆病なのを隠しているようなそんな弱々しい音だった。


扉を開けた人物の姿が露わになる。その風貌を一言で表すのは難しかった。

例えるならば『ハナイカリ』のような人だった。目立たないが、すらっとしてどこか可憐さがある彼女の姿は、真夏の朝のまだ誰もいない教室に空気によく映えた。


クラスにこんな可愛い子いたっけ…そんなことを考えていると視線を感じた。

彼女が机の前まで来て、僕のことをじっと見ている。

思想に耽っていたので教室に入ってきたことに全然気がつかなかった。


「どっ…どうしたの?」

僕がその女の子に声をかけると、何かを言おうとしていた彼女は慌てて表情を一変させ口角を上げ軽く微笑んだ。


「えっとね。なんでもない。」

「えっ…あっ、うん。」


何を言おうとしていたんだろう。めちゃくちゃ気になる…!




それから会話もないまま朝礼の時間になり、昼休みが過ぎ、帰りのホームルームも終わりに差し掛かった頃だった。

「あのさ、今日は一緒に帰ろ?」

そういってきたのは、朝の女の子だった。

「え?あっうん…」


 こうして二人で帰ることになったのだが、きっと二分か三分くらいだと思う。沈黙の時間が続いていた。沈黙が気まずくなった僕は、慌てて話題を振った。


「あのさ、今日はなんで、僕と帰っているの?」

「ちょっと、話したいことがあるから…」

これはもしかして…もしかすると?

僕は内心、告白されるシチュエーションだと思って気分が高揚していた。

友達がいなくても彼女ができれば僕の学園生活も大逆転だ!


「えっ?あっうん…」

がっついているように見えたら恥ずかしいので、僕は今の気持ちを彼女に悟られないよう平常心を装った。


「ねぇ。小浮気くんって今、橘さんと同棲しているでしょ?」

えっ…そこ?

僕は驚愕した。告白だと思ってドキドキした僕のときめきを返して欲しい。

そもそも真美が家に来た事は誰にも言ってないし、朝だって誰にも見られていないはずだ。なのに、この女の子は知っていた。


「そうだけど、なんで知っているの?」

これじゃあもう告白なんて甘い話じゃない。ぼっちの癖に女と同棲しているけしからんやつという変な噂が流れてしまう。しかも相手はあの針女だ。

夏のむわっとした空気の中、背筋がさぁっと冷えていく心地がした。


「橘さん、学校で言い回っていたから学校中の人が多分知ってる。」

「具体的にはなんて?」

「えっと、それはね…」


僕はそれを聞いて殺意が湧いた。




『ハナイカリ』の彼女とそこの辻で別れ、家の鍵を開けて中に入るやいなや

僕はリビングでくつろいでいる真美に食ってかかった。

「学校中に、『自宅警備員と同棲するよ!』って言いまわっていたのは本当か!!」


真美は満足そうに僕を見ると、聞いてもいないのにべらべらと今日の出来事を話し出した。話の中で、自宅警備員=小浮気隆司になっていたことには目から水が湧きそうになった。俯いて肩を震わせていると

「あれあれ?毎日ズル休みして、自宅警備しているのは誰かなぁ?」

バカにするような口調で彼女は言ってきた。


「ぐはっ!心に刺さるからやめろ!!」

「毎日タダ働き、お疲れ様です!」

更に追い打ちをかけるように続けられた。

「ぐふっ!!」

この際同棲の件は置いておいて、真美と生活すると煽り耐性が付きそうだと思った。




「ガチャ」

玄関から鍵を開ける音がした。

「ただいま!」

後ろを振り返ると大きなリュックを背負った小学四年生ぐらいの幼女が立っていた。

僕の妹だ。そうだ確か林間学校が終わって、今日は家に戻ってくる日だった。

すっかり忘れていた…!


「小学生の彼女が居たんだね!」と真美。

「違う!!」僕は間髪入れずに突っ込んだ。

そこは断固否定しておかねばならないと思ったからだ。

「なに言ってんのよお兄ちゃん!私たち付き合ってるでしょ!!」

靴を脱ぎながら妹が言葉を被せてくる。余計に混乱する発言はやめて欲しい。


「恥ずかしがらなくていいんだよ~」

「違うわ!!」

妹は上目遣いをしながら僕に迫ってくる。一体どこでこんなことを覚えてきたのか。

たじたじしながら妹をぐっと横に押しのける。


「お兄ちゃんはリアクションが面白いからからかい甲斐があるんだよねー。」

「わかるわかる。」

「こら、そこ二人!なに意気投合してるんだよ!!」

「「あはは~♪」」


そんなやりとりの後、妹の土産話を聞きながら早めの夕食をとった。

カレーだったが、流石に針は入っていなかった。

その後はテレビを見たり他愛もない会話をしたりして何事もなく一日が終わった。

普通過ぎて逆に身構えてしまい、部屋のベッドに入るまで僕は気が気じゃなかった。



あと二日、僕の身はもつのだろうか…。



*******************


第1章だけですがリライトしてみました。

ま、間に合った…。


他の人の文章をリライトするのって初めてやりました。

地の文をなるべく活かして書き直すことがこんなに難しいとは。

これで(企画の意図にちゃんと)合っているのか…と不安はありますが

でも、楽しかったです!



5/25追加

2章目続き書いたよ!


https://kakuyomu.jp/works/1177354054883741979/episodes/1177354054885966897

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