二部 8話 八咫烏の復活

 ノイズでの俺の仕事が決まった。昼は研究者に色んなアイデアを出し、新兵器の開発を一緒に考える。夜は博士の作ったゲームをプレイし、バグがちゃんと再現できているか逆デバッグをする。

 俺達が所属している『ノイズ技術試験隊』は一応公務員なので、研究員ほどではないが給料は出る。これでとりあえずはこの国で生きていくための地盤は確保出来た。今のところは順調だな。 

 そういえばラジオがあった。なけなしの給料からコツコツ貯めて買ったんだった。


「この国の科学力って結構進んでるな。アクセルとはえらい違いだ」


 少し聞いて見るか。呟いて電源を押すと。


『……ではこれより国際ニュースの時間です。今、隣国ベルゼルクでは謎の下着ドロボーが世間を騒がせております。被害にあった女性はみな王国きっての女騎士ばかりのそうで……。正面から彼女たちを突き飛ばした後、堂々と下着を奪い去ったとのことです。付近では謎の黒い騎士の姿が目撃されています。他の目撃者によれば首がなかったとも……。これらの事件が魔王軍の仕業かどうか、現在調査中とのことで――』

「ぶっ」

 

 絶対犯人はあいつだろ!

 あのおっさんはなにをやっているんだ。

 いやもう今頃あいつがなにしようが関係ない。ラジオを切って次の行動を取るとするか。


「いでよアーネス!」


 小型の魔方陣を起動させて、使い魔を呼び出す。

 あれ?

 反応しないな。

 悪魔は約束を守るんじゃなかったのか? なぜ出てこない? 例外があったりするのか考えていると。


「なんスか? 呼びましたかご主人様。ふあああ」


 すると扉をガチャっと開けて、パジャマ姿のアーネスが眠そうにやってきた。


「お前魔方陣があるんだからそっちから来いよ! せっかく書いたんだぞ?」

「だって最近ヒマで。それでずっと例の『最終兵器』やってて、寝てなくてさあ。魔方陣から出るのめんどくさいんで。隣の部屋にいるんで用があるんならノックしてくださいよ」


 この駄悪魔め。

 すっかりニート生活が板につきやがって。俺が暇つぶし用に持ち帰った『ゲームガール』で遊んでんじゃねえ。

 せっかく悪魔を支配下に置いたものの、この安全な国ではやることがなかった。完全に彼女をもてあましている。


「最初はあんたらに捕まって、どうなるかと思ったけどこれなら大した事なさそうだね。この国の飯は変わってるねえ。あたしは別に食べなくてもいいんだけどさ」


 携帯用の固形食物を見つめている女悪魔


「普通女悪魔を手にしたんなら、あんなことやこんなことを要求するかと思ったよ。なんだあんた、卑劣な割りに意外とヘタレなんだな!」

「それをしたいのは山々なんだが……」


 残念そうに肩をすくめていると、


『ライトニング!』

「いたっ! 何?」

 

 急な電撃を食らい、驚くアーネス。


「奴隷の分際でマサキ様を誘惑するとは……いい度胸じゃないか」


 おどろおどろしい声が聞こえてくる。


「ほら、このベッドの下を見ろ。レイが監視してる」

「どうやってこんな狭いところに? お前、いやレイ様。あなた本当に人間か?」


 ベッドの真下を確認し、驚いた顔で聞いている女悪魔。


「まあそういうのはいい。で、他の使い道を考えないとな。お前人間に変身できないの? 出来るわけないか。出来てたらわざわざフード被らないもんな。はぁー」

「かってに聞いてかってにがっかりしないで下さいよ! 悪魔だって傷つきますよ?」


 反論する悪魔の姿を眺めながら考える。何か……なにかコイツにも出来ることは……。


「いいかアーネスよ。悪魔は人間に対し、魂で取引をするそうだが……、それだけにこだわりすぎてはダメだ。仮にだ、話し合いの通用しない、自分より強い人間が相手だとどうする? 契約を踏み倒されても泣き寝入りするしかないぞ? そのとききっと後悔しても遅いぞ?」

「もうすでに後悔してるんですけど?」

「まぁ俺は……俺たちの事は置いといてだな。人間がみんな俺のような心優しい人間ばかりとは限らない。もし魔王を倒せそうなチート勇者にいつもの調子で行ってみろ。瞬殺だぞ? だが人間には魂以外にも物事に価値を見出す生き物だ。そうたとえばお金。自分がやられそうなとき、大金を渡せば見逃してもらうかもしれない。悪魔といえど人間とかかわりを持つのなら貯蓄は必要だ」


 悪魔へ俺の持論を説教してやることにした。


「はぁ? だがらなんだって言うんです? ご主人」

「つまり働け!」


 手っ取り早く本題に入った。


「なんだと! ふざけんじゃないよ! この上位悪魔のアーネスに人間のように働けだって? 悪魔の誇りを侮辱する気か!」

「悪魔の誇りだと? いっつもいっつもゲームガールやってゴロゴロしているお前が? ただのニートじゃねえか! お前だけ家で遊んでんの見るのムカつくから! どっかで働いて来い!」

「金がほしけりゃ奪えばいいのさ。それが悪魔流ってもんだよ」

「お前今は俺の部下ってことを理解しろよ。そんな事やったらまた追い出されるかもしれないだろ? その内お前に相応しい仕事を考えてやるからさ。それまでちょっと真っ当に働いて来いよ。これは命令だぞ!」

「またってご主人、前にもなにかやらかしたんですか?」

「うるさい! つべこべ言わずに付いて来い! 働くぞ!」


 まるで引きこもりを引っ張り出すように悪魔を部屋から出す。

 とりあえず目に入ったコンビニの面接へ連れて行くことにした。

 異世界にコンビニがあるのもどうかと思うんだが。ここは魔道技術国ノイズ。大目に見よう。


「悪魔? うちは確かにバイト募集してるけど、悪魔はねえ……」 

「大丈夫、ノイズの新発明で悪魔を支配しているから」


 困った顔をする店長。だが大丈夫だ。あらかじめ用意しておいたスイッチ、研究所のゴミ捨て場で拾ったただのガラクタなのだが。それを押すと。


「ぎゃあああああ! やめてくださいご主人様! 首が取れてしまいます! なんでもいうこと聞くから勘弁を! もう悪い事しませんから! 許してください! 許して! お仕置きはいやアア!!」


 事前に打ち合わせたとおりに、首輪をもって叫ぶアーネス。このガラクタボタンを押したときに痛いふりしろと言っておいたからだ。つかお前意外と演技派だな。


「うううううう! やめて! お止めください! 私は何もしません! あなたに従いますからああああ!」


 肘で小突いて注意する。


「そこまでしなくていいよ。それじゃあ俺ただのやばい人じゃん」

「ご主人はやばい人だろ?」

「否定は出来ない」


 素直に頷く。

 

「ま、まぁ安全だというなら……人を襲ったりしないなら、歓迎するよ」

「じゃあ決まりだな。アーネス」

「フン」


 アーネスが無害だという事を証明できたので、コンビニ店長も同意してくれたようだ。その彼女は少しツンとした表情を浮かべているが。これもいい社会経験だ。俺が言うのもあれだけど。

 こうしてアーネスのバイト生活が始まった。いつもの露出が激しすぎる衣装は風営法に引っかかるそうなので、普通にコンビニの制服にと着替えている。


「いらっしゃいませ! お客様」


 慣れない接客とレジ打ち、アーネスは最初は苦労したようだ。


「ちょっとアーネスさん! 悪魔だからって出来ないとか言われても困るよ? 給料は人間と同じなんだからさ」

「ご、ごめんなさい先輩!」


 しかし性根が真面目だったのか、もくもくと仕事をこなしていった。物覚えも速く、コンビニ業務をすぐに理解していった。

 最初は怖がられていたが、アーネスが無害ということに気付き、このコンビニは悪魔が接客すると言う事で話題になり、ちょっとした人気店舗になっているそうだ。


「アーネスちゃん、今日も可愛いね!」

「ご来店ありがとうございました!」

「アーネス君は働き者だねえ。こっちも助かるよ。自給アップしとくから」

「ありがとうございます店長!」


 こうしてすっかりコンビニの看板娘になったアーネス。


「ご主人様! 見てください! 今度店長にバイトリーダーをまかされる事になったんです!

「ああ、それはよかったね」


 働く喜びに目覚めたアーネス。

 なんでこいつはこんな極端なんだ? ちょっと前までニートだったのに今度は社畜の鑑みたいになってるぞ?


「って違うわ! あやうく流されるところだったわ! なんで悪魔の私が人間相手に客商売しないといけないんだ。よくもこのあたしを騙したな?」


 営業スマイルをニコニコしていたアーネスはふと気付き、怒りをあらわにして制服を地面に叩き付けた。


「ようやく気付いたか。っていうか騙したつもりはなかったんだが。勝手に張り切っただけだろ? にしてもお前の適応力凄いな。もう悪魔なんてやめて誠実に働けよ」

「はぁ? ご主人! いくらご主人でもいっていいことと悪いことが! なんで上級クラスの実力を持つこのアーネス様が! 人間相手にペコペコしてニコニコしなくちゃならないんだよ! くっ! 思い出したら急に腹が立ってきた! コンビニぶっ壊してきていいですか?」


 激怒する表情を浮かべるアーネス。そんな彼女に。


「それはダメだ。だが丁度いい。新しい商売の方法を考えたところだ。お前もコンビニバイトは飽きただろう。少し付き合え」

「あ、あの……ご主人様、来週からじゃ駄目ですかね? 今週はシフトが入ってて……。そ、そのう、悪魔にとって契約は絶対なんで……。すいません」


 もじもじしながら申し訳なさそうに答えるアーネス。さっきまで壊すとか言ってたくせに。

 どこまでも融通が利かないな。悪魔ってのは。


 



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 次の週。

 レイ、アルタリア、そしてアーネスとともにノイズ周辺のモンスター生息地帯と向かう。一応名目上は調査と言う事にしてある。


「あ、あのご主人様? 今日はマリン様は一緒じゃないんですねぇ」


 ビクビクして回りを伺うアーネスに。


「あいつは色々うるさいから置いてきた。お前もそのほうがよかっただろ?」

「ま、まぁ隙あれば退魔魔法を撃ちこもうと狙うマリン様は正直怖いっすが……」


 マリンはアーネスの代わりにコンビニバイトに向かわせた。「悪魔が街の人気者ってどうなんだ? 悪魔に出来てまさか神に選ばれたプリーストが出来ないなんてありえないよなあ?」と軽く煽ったらすぐにコンビニヘと直行してくれた。

 ちょろい奴め。


「でも回復魔法が無いと困るぜ?」

「俺もマリンほどじゃないが回復魔法は使える。マリンはプリーストの癖に前で近接格闘してるだろ? いざというときのために俺も回復できるよう教わっといたんだ」


 そう言って紙装甲のアルタリアを安心させる。本職のプリーストには適わないが無いよりましだ。


「これからすることはモンスターの討伐。昔を思い出すだろ?」

「ノイズでモンスター討伐なんて依頼ありましたっけ?」

「出てない。これは単なる俺の趣味だ」


 ノイズの首都は強力な結界、というかシールドに守られているためモンスターの襲撃などびくともしない。周辺にある農業用の村には魔道ゴーレムが配置されている。万が一ゴーレムが倒されたときには傭兵を雇ったりもするが、普段は危険なモンスターが野放しにされている。

 そんな他国から孤立したノイズの領地を見て、ふといい事を思いついたのだ。

 しばらく森を探索していくと。


「見ろ。モンスター同士で争っている。ちょいと介入してやろうとするか」


 目の前に現れる、マンティコアとグリフォンの対決。どこかで聞いたなこの争い。


「いいか貴様ら!? グリフォンだけを狙え! マンティコアは残しておけ!」

「どうしてだ?」

「俺に考えがある。いいから言う通りにしろ」


 戦闘開始だ。


『炸裂魔法』

『カースド・ライトニング』

「おりゃあああああ!」


 手強いグリフォンも、クルセイダー、アークウィザードの上級職たち、上位悪魔の三人にかかれば敵ではない。というよりもアーネスが張り切っている。久々に悪魔らしく戦えて楽しそうだ。

 軽くグリフォン共を壊滅させ……まぁ俺は何もしてないんだが。サボってたわけじゃないぞ。やばくなったら飛び出そうと思ってたんだけど、そんな事なかっただけだ。

 この結果に満足し、まず計画の第一段階へと進めよう。


「やあ。マンティコアの諸君。今日は話し合いに来た。君たちは単なる野獣のグリフォンと違って、喋る事が出来る。なぜ話が出来るか? それは会話をするためだ? 違うかな?」

「ナンダ? 人間のクセにヨウ? グリふぉんドモを追い払ってクレタコトにはカンシャするがヨウ? 今度ハキサマラのバンだってコトを忘れんじゃねーゾ?」


 今にも襲い掛かろうとするマンティコアに。


「レイ」

『炸裂魔法!』

「グアッ!」


 レイに炸裂魔法を撃ち込ませた。


「話し合いに加わらないなら、そうだな。死んでもらおうか」

「グウウウ……! ニンゲンの分際デ!」


 サソリ状の尻尾でこっちを狙ってくるのを。


「アルタリア」

「ヒャッハー!」


 素早く斬りおとすアルタリア。


「やはりモンスターはモンスターか。話をしないなら、貴様もグリフォンともども仲良く死体へとなるんだな。服従か死か選べ。なあアーネス」

「ふん!」

「グッ! お前はアクマじゃねーか! なんでニンゲンと一緒にイヤガル! わ、ワカッタぜ。話すゼ! 話ソウぜ!」


 モンスターを睨みつけるアーネス。ノイズではすっかり営業スマイルが似合っていた彼女だったが、悪魔の威厳はモンスター相手には保たれているようだ。


「俺は君たちと取り決めをしたくて来たんだ。争う気はない。現にグリフォンのみを倒しただろう?」

「チョット待テよ! まさかもうニンゲンを襲うナとかいうんジャネーヨナ? そんなんヤッテられねえヨ!」 


 早とちりをするマンティコアが叫ぶが。


「そんな事は要求していない。君たちはこれまでどおり好きにしてくれていい。人を襲うのも……それがモンスターの定めだろう。止めはしないよ。守ってもらうのは一つだ。これから俺の仲間には、ちょっかいを出さないでくれたまえ」

「オマエらのナカマだと?」


 首を傾げるマンティコアに。


「これだ。この三本足のカラスのマークが付いた奴らには手を出さないでくれ。それ以外はどうでもいい」


 八咫烏のマークを見せて言う。


「コノまーくが付いた奴らさえ見逃せばイインダヨな?」

「その通りだ。それ以外は好きにするといい。今までのようにな」

「ソレだけナラ問題ネエぜ? アンタの言ウとおりにスルゼ。で、アンタ名前ハ?」


「このお方は偉大なるサトー……んぐ」

「俺のことは……お前らマンティコアたちをまとめるもの、そうだな魔物たちの王『スフィンクス』と呼べ」


 俺の名前を言おうとしたレイの口を塞ぎ、自分のコードネームを告げる。


「また来よう。縄張りを増やしたいときは手伝ってやろう。助け合いが大事だ。人間だろうと……モンスターだろうとな。約束は守れよ。逆らえばお前もグリフォンと同じ目に合うだろう」

「チッ、ワカッタよスフィンクス、コレカラも仲良クいこうジャねえカ!」


 無事マンティコアたちと取り決めを行った後、ノイズへと帰還した。


「うまくいったか」


 次は計画の第二段階だ。自室にアーネスとレイを呼んで話す。アルタリアは……その辺で素振りでもしてろ。


「アーネス、これからお前には仕事を与える。このマスクとフードを持ってアクセルへと向かうのだ」

「なんですかこのだっせえマスク」

「ダセえはないだろ! 一生懸命作ったんだぞ! まぁとにかく、これをもってアクセルの路地裏に向かえ。俺の悪事はバレたが、部下達までは及んでない。チンピラ共はこの仮面を見ればすぐに気づくはずだ。そいつらを集めろ。何のために悪事を黙ってやったと思ってるんだ。その恩を返してもらうときが来た。ククククク」


 邪悪な笑みを浮かべながら、アーネスに次の指示を話す。用意するのは俺がアクセルでマッチポンプをしていたときに使っていたマスクとフードだ。

 

「なるほど、今回の件でマリンを連れて行かなかった理由がわかりましたよ。あの犯罪組織を復活させるんですね?」


 納得した顔で頷くレイ。


「犯罪組織じゃないぞレイ。グレーゾーンなだけだ。黒と灰色には大きな違いがあるんだ」

「その通りですね。偉大なるマサキ様」

「昔なにやったんだよ? 犯罪組織? あんたらやっぱゲスいわ。悪魔に生まれればよかったのに」


 俺とレイのやり取りにちょっと引いてるアーネス。


「いいか。このノイズは魔王城に近く、他の国との交易は難しいと言える。だがマンティコア共と折り合いがついたことで、危険度はかなり減った。さらに悪魔のお前がいればモンスターの襲撃に合う可能性は更に少なくなるだろう。これで利益を俺達がほぼ独占できるかもしれん。八咫烏はこれから隊商の護衛業務を請け負うぞ。アーネス、お前を八咫烏の二代目首領に任命する。ただ働きとは言わん。利益の何割かはお前にくれてやるから安心しろ。では行って来い」

「今度は悪事の片棒を担げって事ですかい。まぁバイトで働くよりは悪魔らしいけどさ」


 コンビニで働かせた事で多少は金の仕組みについて理解できただろう。そのアーネスに次の仕事を教える。


「コンビニバイトよりはいいだろう? 上級悪魔のアーネスさんよ? それとも真面目に働きたいか?」

「いいぜご主人! あんたの言うとおりだ。コンビニも悪くはなかったけどさ、自分が悪魔ってのをたまに忘れちまうからな。アクセルとかいう街でこの私の怖さを思い知らせてやるぜ!」


 詳しい業務を説明した後、アーネスは一人でアクセルへと旅立っていった。


「これでいい。アーネスが八咫烏の新たな首領となり、モンスターの襲撃から安心して荷物を送る事が出来る。これが成功すれば、俺もあんな薄給からはおさらばだ。物事を成す時には、なにかしら金が必要になるからな。多ければ多いほどいい」


 ニヤニヤと今後の計画を考えていると。


「た、ただいま! みなさん」

「おかえりマリン。遅かったじゃないか」


 疲れ果てた様子のマリンが帰ってきた。


「コンビニのバイトはどうだった?」

「くっ、あのレジって奴が曲者ですね! バーコードってのを読み込む? のに苦戦しました! 中々反応してくれませんし! おかげでお客様の列になってしまい。アクシズ教預言者の私としたことが……不覚ですわ」


 悔しがっているマリン。


「アーネスは軽々やってたぞ? ってことは悪魔のアーネスの方がお前より有能って事だな」

「な、なんですって! それは聞き捨てなりません! アクシズ教徒である私が悪魔に後れを取るわけにはいきません! まだ! まだやれます! もう一度チャンスを!」


 少しからかうと、悪魔に負けたという部分が引っかかったようで、必死に食いかかるマリン。


「当分アーネスはここにいないし好きにすれば? その辺は店長と話し合ってくれよ」

「へえ、マサキはあの悪魔を手放したんですね! 正しい判断です! 悪魔なんて臭いのを身近に置くのはアクア様が嘆きます。きっとエンガチョしますわ!」


「いや、アーネスには別の用事を頼んだだけだが?」

「別の用事? なにか怪しいですわね! マサキ? まさかまたアクセルの時のように、よからぬ事を考えているのでは? 今度こそ私が阻止しますわ!」


 まずい、口を滑らせたか。疑うような目線で睨んでくるマリン。


「ふっ、ふん。どうかな? 悪魔には悪魔の仕事があると思っただけさ。コンビニでバイトさせるよりな。それよりもだ、マリン。現時点ではアーネスのほうがコンビニ店員として有能だ。レジで二人並んでいたら……俺だってアーネスを選ぶかもな。だってレジ早いし。待たされるとイラつくし」

「なにを! 言いましたわね! この私だって出来るっていうところを見せてあげますわ! そしてアクア様の素晴らしさをこのノイズにも広めるのです!」


 アーネスのバイト時代を引き合いに出すことで、なんとか誤魔化せたか。悪魔に負けるのがよっぽど嫌みたいだ。今度マリンやプリーストを相手にするときはこれで煽ろう。

 マリンは気付いていないし、アーネスにも新たな就職先を斡旋してやった。あとは待つだけだ。とりあえず今はベッドの下に潜むゴーストをどうするか考えなければだめだな。


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