二部 4話 アルカンレティアに吹く嵐

「この街の奴ら! もう許しはしませんよ! 炸裂魔法!」


 毎回のように『ターンアンデッド』を浴びせられ続けたレイは、ついに我慢の限界になってブチ切れた。街の破壊活動を始めだす。


「レイさん! やめてください! 私の故郷でそんな真似は! そうだ! レイさん、この際アンデッドに間違えられないように、衣装を変えましょう! そうすればこんな事にならないはずですわ」

 

 マリンは必死でレイを食い止めようとしている。

 ヤレヤレ。まぁいいだろ。服を買う金くらい余裕である。

 俺達は服屋へと向かった。

 

「どう見えますマサキ様?」

「村娘のアンデッドかな?」

「これはどうです?」

「スーツのアンデッド」

「次はこれです」

「アンデッドのお嬢様」

「じゃあこっちは?」

「ゴスロリのアンデッド」


 レイが次々と着替えていくのを、冷静になって感想を答えていく。


「真面目にやってください!」

「真面目にやってるよ! 駄目だよコイツ! 髪型と動きで、どう見てもアンデッドか幽霊の類にしか見えないもん! 服を変えてもアンデッドが着替えしてるだけだよ!」


 一向に改善しない状況にマリンが怒るが、だって仕方ないよ。無理だよこれ。なに着ても一緒だよ。

 こうなったら。


「私にいい考えがある」


 俺はレイを着替えさせた。


「あ、あの? マサキ様? いくらマサキ様でも私、怒るときは怒りますよ?」


 『私は人間です』とこの世界の言葉で書かれたTシャツを着せると、レイは少しイラつきを見せた。


「だって他にいい方法ないだろ? これならプリーストも、攻撃を控えるだろ?」


 レイを説得していると。 


「この際髪を切るというのはどうでしょう? この伸びきった前髪さえなければ、可愛らしくなると思いますわ」

「駄目だ」

 

 マリンの提案に、レイではなく俺が拒否した。


「レイはこの髪型が似合っている」

「あ、ありがとうございますマサキ様。やっぱりマサキ様は長髪がお好きなんですね」


 頬を染めるレイ。

 そう、断じて髪を切らせるわけにはいかない。

 レイは見た目が恐ろしいものの、顔立ちだけを見ると普通。いや普通に可愛いかも。実は美少女の域に入るかもしれない。

 もしレイが髪を切ってしまえば、俺の仲間はアンデッドもどきではなく、可愛らしい魔法使いになってしまう可能性がある。

 そうなってしまったら……俺が普段レイにやってる行為。足蹴にしたりほおり投げたりお湯をかけたり縛ったり……まぁほぼ夜中に襲ってくるこのヤンデレに立ち向かうためにしているんだが。これらは相手が化け物じみているから許される行為だ。もしレイが普通の女の子の見た目になってみろ。俺はただの女子を殴るヤベー奴だ。それだけは避けないといけない。

 レイの見た目が怖いから俺は同情されるのであって、もし万が一にでも美少女になってみろ。そのまま祝福を願われたりでもしたら最悪だ。はっきりいって可愛い子に好かれるのはいい、大正義で素晴らしいが、相手がレイとなると話は別だ。こんな重くて壊れた女と付き合えば、破滅するのは目に見えてる。見た目はもうなれたが、内面が危険すぎる。こいつにはこれからも危ない人オーラを出してもらわないと困るんだ。


「じゃあどうするんですか?」


 髪を切らせることを止めさせた俺は、次の考えを述べる。

 

「じゃあもう後は着ぐるみしかないか」

「……Tシャツにします」


 渋々同意するレイ。『私は人間です』のシャツを着たレイに、町の人たちはようやく攻撃をしてこなくなった。


「私この町大嫌いです」


 不機嫌そうに歩く元アンデッドもどき。


「そ、そんな。私の故郷に。みんなあなたの事を誤解していただけですよ。そうだ、レイさんもアクシズ教徒になればいかがです? そうすればこの街の素晴らしさが――」

「アクシズ教もエリス教も大嫌いです。っていうかこの街に着てから、プリースト自体が嫌いになりました」

「ひどい!」


 しゅんとするマリン。

 そのまま街を歩いていると、町の住民がレイの姿を見て驚きの声をあげる。


「あ、あんたまさか!」

「なんですか? まだ何かあるんですか? もしまた『ターンアンデッド』を浴びせてきたら、今度はアンデッドよりも恐ろしい目にあわせてやりますから」


 反ギレ気味で言い返すレイに。


「そ、その瞳は……」

「紅い眼」

「紅い眼だ!」


 レイの瞳を見て口々に告げるアクセルの住民達。


「なんだ!? 紅い眼って何かあるのか? なにかの眷属とか? 呪いの一族とか?」


 恐る恐る尋ねると。


「いや別に。珍しいなって思っただけ」

「うん、それ以上は特にない」

「魔法強そうだなって」

「思わせぶりな事を言うなよ!」


 クソッ。しょうもないことで話しかけるなよ。この街の奴らは。

 気を取り直して歩く。


「そういえばマリン、お前アルタリアには布教しないの?」

「だ、だってアルタリアさんは、ほら貴族の方ですし……。やっぱり遠慮しますわよ」

「普通アクシズ教徒なら、相手が貴族でもお構い無しですよね?」

 レイにつっこまれるマリン。


「……い、いややっぱり私は……気にするっていうか……なんというか」


 言いよどむマリンに。


「冗談だぜマリン。アルタリアをアクシズ教徒にしないのは正解だ。あいつはすでに自由すぎる。これ以上やらかしてもらうと困るわ」

「そうですよ、あのアルタリアが、こんな変な宗教に入ったら、ただの極悪犯罪者になりますよ!」

「変な宗教とは酷いですね。でも自由がモットーのアクシズ教では、アルタリアさんならなにをしてもおかしくないですわね。少し危険ですわ」

「「「ははははは」」」


 一同で笑って歩いていると。


「そういえばそのアルタリアはどこだ!?」

「あれっ? どこに行ったのでしょう?」

「服屋に行ったときにはもういませんでしたよ?」


 いつの間にか姿を消したアルタリア。

 なんだかとてつもなく嫌な予感がするぞ。

 慌ててアクシズ教本部へと向かう。

 その中では……。


「はぁ、はぁ、最高でしたね。あの神父の汚物を見るような視線。はぁはぁ。今思い出しても興奮が収まりません」

「ゼクシス様だけずるいですよ! 私だってもっとあの方に説教されたかったのに!」

「こうしちゃいられません! インスピレーションが沸いて来ました! アクア祭に向けて準備しますよ!」


 アクシズ教徒は一心不乱に机に座って、何かを書いている。


「アクア祭なんてありましたか?」


 そんなアクシズ教徒を見て、マリンが首をかしげると。


「ああそういえばマリンは知らないのでしたね。少し前に遠い国からの旅人がやってきましてね。その国に伝わるお祭りについて教わったんです。その国では様々な妄想を絵や小説に描き、同じ趣味の同士に売るんですよ。たしか名前はKOMIKEと呼んでました」


 どこのどいつだ! こんな事を教えやがったのは。絶対日本の転生者だな。


「今度のテーマは神父×罪人ですね。罪を懺悔するうちに、いつの間にか神父に心を許して、あんなことやこんなことに……。狭い部屋で男二人。何もおきないはずが無く……じゅるり」

「わかってないですよ! 罪人×神父に決まってます! 神父は罪人の話を聞くうちに、自分の心の中にある悪の感情が目覚めて……。そこで葛藤していつの間にか神父は黒く染められるんです!」

「あなたがそんな人だったなんて! 信じられません! 受けと攻めが逆ですよ!」

「ゼクシス様こそ頭がおかしい!」


 カップリング闘争を始める腐ったプリーストたち。正直言って理解したくないことを口走っている。


「やはり女騎士は触手が王道ですな」

「なんだって! オークに襲われて輪姦されるのがいい!」

「はぁ? お前頭大丈夫か? オークのオスなんて絶滅寸前だろ? そんなのリアリティがない!」

「リアルでは出来ないからいいんだよ! 全くわかってないな! オークのオスが女騎士を種付けプレス! これこそ夢のストーリー! 男のロマンだ」

「触手に洗脳されたほうが燃えるだろうが! 女騎士も最初は抵抗してたものの……次第に自我がなくなって……最後は下等な触手の苗床に!」


 男性陣は男性陣で持論をぶつけ合っていた。

 もうやだこいつら。こんな奴らとは絶対に関わりたくない。本当に。

 ふと横を見ると、顔を真っ赤にしてもじもじしているマリン。彼らの書いてる卑猥な絵にやられたようだ。


「……こ、こんなエッチなこと! いけませんわ! 仮にも神聖な教会でこんなものを作るなんて! やめましょう!」

「それはできませんねマリン。前にこのアクア祭を行った際、目覚しい利益が手に入りましてね。もう普通に寄付金を集めるのが馬鹿らしくなるくらいに。あの暗黒神エリス教徒の奴らも、顔を隠しながら買いに来てましたね。ふふふふふ。こんな素晴らしい事やめてなるものですか! 作品は聖画像としてアクシズ教会に保存させていただきますよ」


 マリンの申し出は却下された。


「邪教徒の奴らには何が一番売れたっけ?」

「そりゃ暗黒神エリスの作品だろ? まぁ作品の中でくらい、巨乳にしてやったのが正解だったな。あいつらもなんだかんだで自分のところの女神をあんな目で見てたんだなあ!」

「エリスのDOUJINはバカ売れだったな。今度はもっといっぱい用意してやらないと!」


 妄想を膨らませるアクシズ教徒たち。っていうかいま同人って言わなかったか? どこまで理解しているんだこいつら。


「あ、あの……私とマサキ様の作品は書いてくれませんか?」


 いつの間にかレイがリクエストをしていると。 


「あ、アンデッドと悪魔だけはNGなんで!」

「だからアンデッドじゃないって言ってるだろ!! ぶっ殺しますよ!」


 『私は人間です』Tシャツを着ているレイは言い返していた。


「この変態共に付き合ってる暇はない。おいお前ら、アルタリアを見なかったか? 俺の仲間の」

「アルタリア? あああの怖そうな女戦士だな? あいつの目つきいいよな。あのSっ気のあるところが。俺を踏んでくれないかな? あの人の椅子になりたい」

「妄想はいいから! 行方を知らないか?」


 変態どもの言葉は置いといて、再度たずねる。


「知りませんね。ああそういえばストックが、新たに女性信者を獲得したとか言って自慢してましたね。いつもあれくらい真面目にやってくれれば助かるんですけどねえ」


 ゼクシスが答える。

 まさか、その女性信者って、アルタリアの事じゃないよな?

 そうだとまずい! これは非常にまずい!

 一刻も早くあのナンバートゥーを止めないと!

 この状況に焦っていると。


「ぎゃああああーーーーー!!」


 教会の外で誰かの叫び声がする。ヤバイ。ついに始まったぞ!


「急いで悲鳴の方に向かうぞ! アルタリアかもしれない!」

「わかりました!」

「急ぎましょう!」


 そこには、涙目で逃げ出すエリス教徒たち。そこにはストックとアルタリアの姿が。二人で教会を襲撃しているようだ。


「はっはっは! 見たかこのストック様の実力を! どうだ参ったかこのパッド教徒どもが!」

「本当に暴れていいんだな? 最高だぜ! ひゃははははは!」


 嫌な予感が的中した。最悪の組み合わせだ。エリス教会が破壊されている。


「おいストック! お前まさかアルタリアを改宗させてないよな? だったら今すぐ戻してくれ!」

「そうですよストックさん! アルタリアさんを放して下さい!」


 俺とマリンが説得にかかるが。


「ああ、テメエはマサキとかいう奴じゃねえか! それにマリンと偽アンデッドか! 誰がどの宗派につこうが勝手だろうが!」

「これはお前のためを思って言ってるんだぞ! ストック! その女はじきに手に負えなくなるぞ! その前に大人しく返せ!」

「そうですよ。マサキ様の言うとおりです。その女を甘く見ると、痛い目に合いますよ!」


 ストックはそんな俺たちの言葉に耳を貸さず。


「せっかく俺の仲間を手に入れたんだ。誰も俺の邪魔はさせねえ! 『パッド光線』を食らいやがれ!」

「ぎゃあああ!!」


 光線を見るとすぐさま俺の影に隠れるマリンとレイ。パッド光線の直撃を食らう。

 

「おい! なんでお前ら隠れた! マリンだけじゃなくレイまで! よくも俺を盾にしたな!」

「だって……あの光線を食らうと貧乳になるんですよ? 胸がコンプレックスの方以外は嫌ですわ」

「そうですよ。女の敵です!」


 仕方ないといった顔で反論する女二人。


「なんだと! マリンはともかくレイはすでにない様なもんだろ! 食らったところで変わるもんか!」

「言ってくれましたねマサキ様! 本当に私の胸がないのか確かめましょうか! 大根おろしの刑です!」

「やっぱり無いの自覚してるだろ! おいよせ! その平たい胸を押し付けようとするな! いたっ! 全く柔らかくねえ! 痛い! 骨の感触しかない! 削れる!」


 レイに捕まれじたばたしていると。


「仲間割れをしている間じゃないですよ! 早くアルタリアさんを探さないと!」

「そうだ! マリンの言うとおり! いくぞ! っていうか本当に痛い! お前胸になに仕込んでんだよ! こんな厳しいぱふぱふは聞いた事ない。ご、ゴメン。レイ! 謝るからさ! 悪かったよ!」


 なんとか解放してもらい、アルタリアの捜索を再開する。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「『パッド光線』恐るべし……」


 思わず呟く。あの後アルタリアを探しに走っていると、「おっと危ない!」と八百屋で飛び跳ねるキャベツが俺の顔に直撃した。それから足元で水が噴き出してびしょ濡れになったり、店の看板が倒れてきたり大変だった。その間に犬のウンコらしきものを5回は踏んだ。


「本当に運が下がるんだな。くっそう! あの男許せねえ! 次会ったときは教会の壁飾りにしてやるわ!」


 『クリエイトウォーター』で靴のウンコを洗い流しながら、マリンの『ブレッシング』を受けてステータスを元通りにして復讐を誓った。


「ぎゃあああああ!」

「アクシズ教徒が襲ってきたぞ!」

「あの裏切り者ストックだ! 変な女と一緒に暴れだしたぞ!」


 また叫び声が聞こえる。今度はあっちか、早く行かないと!


「バカシズ教って最高だぜ! まさか堂々とこんなに大暴れできるなんてよ!」

「アクシズ教だぞ小娘。まぁいいぜ。同じ元エリス教徒として、共に大暴れしようじゃねえか!」


 阿鼻叫喚の街の中で、二人の愚か者が楽しそうに立っている。


「倒せ! 暗黒神!」

「ゼクシスの奴をぶっ殺せ!」


 意気投合する二人。しかしここまで大騒ぎを起こしたため、流石に住民達も黙ってはおらず。


「あそこだっ! あそこの裏切り者とヤベー女が! エリス教会を襲撃に来た!」


 ついに警察が動く。これだけ暴れたんだから当然か。警察官の集団が、二人を包囲しようとしている。


「そろそろ撤退するぜ。まぁこれも全部ゼクシスの命令ってことにするか。ハッハッハ! こいつはいい。あいつの困る顔が目に浮かぶぜ」


 戦果に満足したストックが逃げようとすると。


「ああ? ここからが本番だろ! さあかかって来い!」


 アルタリアは警官相手に剣を抜いてやる気満々だ。


「こ、こいつ抵抗する気か!」

「いつものアクシズ教徒じゃないぞ! 応援を呼べ!」


 彼女の反応に驚き、警戒する警官達。


「ちょっと待て! 名前はアルタリアって言ったよな? アクシズ教徒の教義は、『犯罪でなければ何をやったって良い』だ! 警察相手に暴れるのはアウトだろ?」

「ああ? そんな事言ったってよう、そもそも教会を襲撃するのは犯罪じゃねえのか?」

「ま、まぁ確かにそれも犯罪だけどよ……。あくまで軽犯罪だろ? 警官相手にやるのは流石にシャレになんねえよ。いいからここはズラかるぜ」

「どっちも犯罪なら一緒だ! このままやってやるぜ! 一度警察相手に暴れてみたかったんだよなあ!」


 ストックの言葉を無視し、そのまま剣を振り回すバトル女。

 

「あーあ。だから言ったのに」


 さっそくアルタリアをもてあますストック。

 この女を一度暴れさすと、目標がなくなるか拘束しないと止まらないぞ。


『バインド』


 警察官たちが怪我をする前に、アルタリアを拘束しておいた。


「ついに一線を越えたなストック! 公務執行妨害で逮捕する!」

「これまでのように説教だけですむと思うなよ! この裏切り者!」


 激怒した警察官に囲まれていくストック。


「ち、ちがう! これは全部この女が悪い! 俺は止めたんだ! よ、よせ! お願いです! これには訳が!」


 うろたえて言い訳をするストックだが。


「なあアルタリア、これまでの事は全部この男に言われてやったんだろ?」

「邪魔しやがって! せっかく警官と戦うチャンスだったのに!」

「あの男がやれって言ったんだろ?」

「ん? まあそうだけど。バクアの名の元なら何をやっても許されるって聞いてよ」


 拘束したアルタリアと話す。


「つまり俺の仲間は、このバカに騙されてこんな真似をしたんだ。つまり全部ストックが悪い!」


 キリッと警官たちに説明した。


「ち、違う! 待ってくれ! そんなのウソだ! 信じるな! 全てこの女が勝手に!」


 必死で反論するも、普段の行いが災いしたのか、誰からも信用されないストック。


「こ、こうなったら! これでも食らえ! 『パッド光線』」

「ストックの光線に気をつけろ! 当たると危険だぞ!」

「ハッハッハ! じゃあな馬鹿共! この俺様がお前らみたいなへなちょこ集団に捕まると思うか! いずれアクシズ教団を支配するこのストック様によう!」


 形勢不利となるや、『パッド光線』を連射して警官から逃げさるストックだった。


「じゃあ俺達はこの辺で」


 悔しがる警官たちを尻目に立ち去ろうとすると。


「そこの女にも、もっと詳しい話を聞かせてもらおうか。署まで着いて来い!」


 チッ! こっちにも無罪ってわけにはいかないか。


「レイ! やれ!」

『炸裂魔法』

「うわっ! なんだ!!」


 爆発に紛れてダッシュで逃げ出す。


「ちょっとマサキ。何も逃げる事は……」

「アルタリアが何をやったのか見てなかったのか!? 少し目を放した隙にこの街中で大暴れしてたじゃないか! このままだと絶対こっちも責任を取らされる! とっとと逃げるが吉だ!」


 マリンが非難するもそう反論する。

 俺たちもストック同様その場から逃げ去ったのだった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 行く当ても無かった俺達は、結局この変態集団の本拠地、アクシズ大教会に戻ってきてしまった。


「ヤレヤレ、酷い目に合ったぜ! あの女、引き時ってもんをしらねえのか」


 そこには先に逃げたストックもいた。


「お前とんでもねえことをやってくれたな! うちのクルセイダーに色々吹き込みやがって! だから止めたのに! このバカ!」

「なんだとてめえ! お前こそなんて奴を仲間にしてるんだ! もう少し教育しとけよ! なんだあのバーサーカーは!」


 醜く言い争う俺とストック。


「一体何の騒ぎでしょう? 外がうるさいですが?」


 執筆作業を進めていたゼクシスは、建物の外に人が集まっているのに気付いて呟く。


「ついにアクシズ教の奴らが一線を越えたぞ!」

「今こそあいつらを一網打尽にしろ!」

「今回という今回は絶対に許さんぞ!」

 

 やべ。警察を本気にさせたみたいだ。騎士率いる武装した数多の警官たちが、今にもこの教会に突入しようとしている。


「これはいったいなんの騒ぎです? 今アクア祭に向けて忙しいというのに、穏やかじゃありませんねえ」

「き、聞いてくださいゼクシス様! この女が! 勝手にエリス教会を襲撃して! それどころか警官相手にも襲い掛かろうとして! この俺はなんとか止めようとしたんですが!」

「なんだと! お前がうちのアルタリアを唆したんだろうが! 全部お前のせいだ!」

「そういえばこいつ、パッド教会の次はこっちの教会のババアを襲えって言ってたなあ」

「こっちの教会のババアとは、一体誰の事か言ってみろストック」


 アルタリアの言葉を聞き、作業を止めて立ち上がるゼクシス。


「まったくこの愚か者めが! また私を裏切ろうとしたな!」

「すべてはアクシズ教団のためをもって……信じてください! ゼクシス様!」

「この大馬鹿者めが! いつもいつも私の邪魔をしおって! 今はアクア祭の準備で忙しいのだ! 警察と遊んでいる暇は無いのだぞ!」


 必死でDOGEZAをするストック。

 こうしている間にも、外では警官たちが今にも突入しようとしている。


「おいそこの愚か者! アルタリアが書いた入信書はあるか?」

「誰が愚か者だ! お前にそんなことを言われる筋合いはねえ。この俺はアクシズ教団のニューリーダー……じょ、冗談ですよゼクシス様。入信書ならここにあるが」

「貸せ!」


 ストックから紙を取り上げた後、『ティンダー』で燃やした。


「お、お前なんてことを!」

「そんな簡単にアクシズ教徒をやめれると思うなよ!」


 非難ごうごうの信者達に。


「いいかお前ら。これでアルタリアはもうアクシズ教徒じゃない。エリス教徒だ。いや最初からアクシズ教徒になんてなってなかった。エリス教徒であるアルタリアがエリス教会を襲った。つまりこれはあっちの内輪もめという事で。アクシズ教徒は関係ない。これで解決」


「な、なるほど!」

「そうすればアクシズ教は無罪だ!」

「今度はエリス教徒のふりをして人を襲うのはどうだろう? そしてアクシズ教徒になれば助けてやると……これで信者倍増は間違いなし!」


 俺の提案に盛り上がるアクシズ教徒たち。よし、これで元通りだ。


「じゃあ俺はこのことを警察に説明してくる!」


 意気揚々でこの教会を包囲する警官に向かうと。


 ……。

 …………。

 駄目だった。

 流石にこのバカ信者とは違い、警官にはこの理論は通用しなかった。

 そのまま署まで連れて行かれ、アルタリア、ストックと一緒に仲良く留置所にぶち込まれる事になった。

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