二部 2話 さらばアクセル

 俺は旅に出る。

 新しい冒険を求めて。

 このアクセルは初心者用に作られる街だった。

 戦いで傷を負った――ほぼ俺がやったのだが――街の復興は順調だ。

 魔王幹部を倒したこの俺はもう、初心者でもなんともない。

 そろそろ初心者を脱却し、魔王を倒すために次のレベルの街へと。



 必要品を買い揃え、馬車へと乗り込んだ。

 すると驚いたことに、街の住民が総出で、俺たちの出発を出迎えてくれる。


「マサキ! アクセルから出るって本当か!?」

「よっしゃーーー! これで怯えて暮らす生活が終わる」

「二度と帰ってこないでくれ! なんならどっか知らないところでくたばってくれ!」


 街の人々の声援に笑顔で応じる俺。

 当然だろう。なにしろ俺はこの街を救った英雄だ。その英雄が旅立つ。見送りぐらいあって当然だ。


「くったばれマサキ! 頼むから死んでくれマサキ!!」

「二度とこの街の地を踏ませないからな、クソメガネ」

「死ね!」


 彼らの暖かい言葉に対し……。


「!」

 サムズダウンで彼らに答えた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「ふああああ」


 俺たちの旅は順調だ。俺は馬車の中で昼寝をしている。

 ……。

 本当はそれほど平穏でもなかったが。道中、走り回る鳥のようなモンスターの襲撃を受けた。襲撃というより、丁度向こうと馬車のルートが重なったらしいのだが。

 俺はお客様料金で金を払ったんだし、ぶっちゃけ戦うつもりなんてなかったため、その辺は護衛の冒険者に任せて無視していた。

 外では剣や盾、魔法が飛び交う音、そんなことにはお構いなく馬車に揺られ、ゆっくり睡眠をとる。

 もちろんこんなこと、戦い好きのアルタリアと、お人よしのマリンが黙っているわけなく、勝手に飛び出しては冒険者に加勢し、応戦しているそうだ。

 仲間が戦っている中、俺は席が空いたので丁度いいと思って横になっている。外では激戦。まぁ頑張ってくれ護衛の諸君。俺は知らん。


「ひゃはははは! 中々のスピードだ! この私も本気になってやろう! スピードモード!」


 なにがスピードモードだ。脱いだだけじゃねえか。

 アルタリアが次々と鎧を脱ぎだし、「おおっ!」と他の冒険者が歓声を上げる。そこにはインナースーツでピチピチとなったおっぱい戦士。男性の冒険者は思わず釘付けになる。


「おりゃあああああ! 私と勝負だ! 私は風になる! 風になるんだ! お前達! 付いて来い!」


 鳥っぽいモンスターに対抗心を燃やし、靴を脱ぎ裸足で一緒になって走り回るアルタリア。鳥っぽい(略)も怒ってアルタリアに負けじとスピードを上げていく。

 彼女がこれを狙ったのか、いや多分何も考えてなかったのだと思うが、アルタリアにつられた大量のとり(略)が馬車のルートからそれている。

 数を減らした(略)に向かい、護衛たちが攻撃を加える。


「怪我を負った方はいませんか!? 私が回復します!」


 マリンが戦いで軽傷を負った人達に回復魔法をかけていく。


「はぁ、はぁ。まさかあんなに早いモンスターがいたとはな。世界は広いぜ! 世界にはもっともっと色んなモンスターがいるんだな! あいつらギリギリで回避行動を取るんだぜ? 思わず私も参加してきたよ! 勿論一番はこの私だったがな!」


 (略)とかけっこを楽しんだ後、そう自慢して帰ってくるアルタリア。


「私はもっと強いモンスターに会いに行くぜ!」


 どこかの格闘ゲーム主人公のようなセリフをはくアルタリア。


「おかげで助かりました!」

「あなたのような素早い戦士は見たことない。きっと有名な冒険者なんだろう!」

「こっちのアークプリーストも中々の腕前だぞ。傷があっという間に回復していく!」


 何も知らない外の冒険者たちは、アルタリアやマリンの事をべた褒めする。


「いえいえ、このくらいプリーストとして、当然の事ですわ。それよりも護衛の皆さん。まだ怪我をなさっている方はおられませんか?」 

「謙虚なところも素晴らしい。あなた達二人とも、文句なくこの戦いのMVPです」


 持て囃される二人。ま、彼女たちがこの戦いで見事な活躍をしたのは確かだ。褒められて当然の事をしたからな。




 それから夜がやってきた。

 これからが本番だ。俺にとって、真の戦いが始まる。(略)なんて正直どうでもいい。

 隊商が野営をしていると、俺とレイは示したように立ちあがる。


「このままがいい」


 俺はボソッと告げた。


「……このままがいい。マリンが訳のわからないことを言ってるのを、俺がもうあいつは駄目だなって放置する。レイが魔法を使って俺に襲い掛かってくるのを撃退し、徹底的に閉じ込める。アルタリアが暴走をしたら、ぶん殴って黙らせて……」


 レイに話を続ける。


「なにか外道なことを実行しては、マリンに説教される。そしてみんなが気付いてないところで、俺がとんでもないことをやらかし、バレたらみんなで連帯責任。でも懲りずに、誰も知らないところで俺の権力を増していく。何度邪魔をされようが、不死鳥のように何度でも蘇る。俺は諦めずに新しい手段を思いついては、立ち塞がるものを全て破壊するんだ!」


 自分で言ってて今さらなんだが、やっぱりこのパーティーで一番問題を起こしているのは、俺以外の何者でもないな。


「このまま誰とも結ばれずに、美女……クソ美女……いやクソ女たちと誰とも結ばれずに、なんか青春があったなあ。みたいなエロゲーで言えばバッドエンドを渇望する」


 それが俺の望む道だ。

 電波担当のマリン、暴力担当のアルタリア、妖怪担当のレイ、そして悪担当の俺! この黄金の方程式を崩すつもりはない!



「……ふひひっひひひ! 観念して私と結ばれるのですマサキ様! そして私とあなたの二人だけで、マサキ様の野望を実現するのです!」

「断る! 俺は現状維持がいい! 正直今のパーティーは居心地がいいんだ! お前とのルートに入って台無しにされてたまるものか!」


 レイと俺は魔法を使わず、徒手空拳で戦いあった。魔法はお互いにとって切り札だ。それまでは力を温存する。


「オララララララ!」

「ててててててい!」


 レイの夜這いをなんとしても阻止する。決して負けられない戦いを続けていると。


「またやってるのあの人達」

「なんでこう毎晩毎晩争ってるのかね」


 同乗する人たちは、最初こそ止めに来たものの、一向にやめないのであきれた顔で眺めていた。

 俺たちのパーティーは、頼りになる二人の冒険者。そしてなぜか夜中に仲間割れを始める残りの二人という、変な奴らとして旅人の記憶に残ったのだった。


 



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「着きました! アクア様! 私は帰ってきた! ようこそ水の都、アルカンレティアへ!」


 マリンが興奮して立ち上がり、頭を下げて礼をする。

 ここは水の都アルカンレティア。

 魔法技術国ノイズに向かうためには、ここを経由するのが一番近いようだ。

 直接ノイズに行きたかったが、国家間のテレポートは大使や特例を除いて禁じられているそうだ。

 そういわれてみると……ある国で犯罪を犯して、その後テレポートで逃げまくればやりたい放題だ。理にかなっている。

 そしてここはマリンの故郷でもあるらしい。

 さらに言うと、アクセル教の総本山。

 俺はマリン以外のアクセル教徒に出会ったことはないが、噂ではとにかくとんでもない集団なのは伝わってきた。魔王軍が活発なこの世界にも拘わらず、ここは平穏だった。


「曰く。プリーストを数多く抱えるこの街は、魔王軍の者にとって戦い辛い相手だからだ。曰く。この街は、水の女神、アクア様の加護に守られているからだ」

「うるさいぞマリン。 曰くって誰が言ってたんだ」


 勝手にナレーターっぽく喋りだすマリン。


「ようこそいらっしゃいましたアルカンレティアへ!」


 街に入るや否や、青い衣を身にまとった人達が、満面の笑顔で押し寄せてくる。


「観光ですか? 入信ですか? 冒険ですか? 洗礼ですか? ああ、仕事を探しに来たならぜひアクシズ教団へ! 今なら――」


 そこまで言いかけたところで。


「みなさん。お久しぶりです」

「マリン!」

「マリンさん!」


 マリンの姿を見て、出迎えるアクシズ教徒たち。見た目からして多分そうだろう。


「マリン、どうだった、アクセルは?」

「ちゃんとエリス教徒をボコボコにしてきましたか?」


 物騒なアクシズ教徒たち。噂は間違ってなかったようだ。この集団は危険だ。


 

「彼らはどちら様? アクシズ教の入信者ですか?」

「いえ、アクシズ教徒ではないんですが、アクセルで私とパーティーを組ませていただいてる方たちです。少し問題はありますが、みんないい人達……いやいい人達ではないですけど、大切な仲間です」


 いい人……の部分で俺達を見回した後、すぐ訂正して紹介しなおす。まぁ間違ってないよ。いい人ではないな。俺含めて。


「こちらが冒険者のマサキに、クルセイダーのアルタリアさん、そしてこちらが――」

『ターンアンデッド!』


 レイの姿を見るや否や、浄化魔法をかけてくるアクシズ教徒たち。


「みなさん、よく見てください。レイさんは確かに見た目こそ恐ろしいですが、れっきとした人間です」

「それは私に対しての宣戦布告と見なしていいでしょうか?」


 勿論ノーダメージ、だがムカついたのか魔力を高めるレイに。


「みなさん! 私の仲間にちゃんと謝って下さい。この私がアンデッドや悪魔を仲間にするはずがないでしょう? 人を見かけだけで判断してはいけませんよ?」


 マリンが説教し、アクシズ教徒は素直に謝った。


「今回は許してあげましょう」


 レイは魔力を収めた。っていうかレイが俺の事以外で怒るのは珍しいな。まぁいきなり浄化魔法を浴びせられたら誰でもイラつくが。


「マサキ、レイさん、アルタリアさん、私は報告に参りますので、またあとで合流しましょう」

「じゃあな。また」





 マリンやアクシズ教徒たちと別れると、近くで怒号の声が聞こえた。


「何でそんなところに店を出してるんだ! そこの小汚いドワーフ!」

「何でって? うちが契約したからだ! 何か文句があるか!? 貧弱なエルフめ!」


 二人の男、エルフとドワーフが言い合っていた。


「そこに店を立てられると営業妨害なんだよ!」

「んだと!? こっちはきちんと許可を取ってるんだぞ!」


 喧嘩か……。


「そんな場所に店を出せるだなんて聞いてないぞ!」

「ついさっき整備されたんだよ! 悪いが早い者勝ちだ」

「面白そうなことやってんじゃん、おめえらよ!」


 喧嘩が飯より大好きなアルタリアが、さっそく口を挟む。



「こういうときは力だよ! 力で解決するのが男ってもんだろ!」


 はやし立てるウチの脳筋女に。


「その通りよ! お姉さん中々言ってくれるじゃねえか!」

 

 同調するドワーフ。


「まったく野蛮な! これだからドワーフのような田舎ものは。魔法の便利さに比べれば、腕力なんて無意味だ」

「んだと? 魔法なんて卑怯者のすることだぜ」

「そうだそうだ、力こそ正義!」

「それは聞き捨てなりませんね」


 魔法を馬鹿にされて少しムッと来たのか、ウィザードのレイが立ち上がった。


「そこのエルフとドワーフ、悪いことは言わんからそいつらには関わらん方がいいぞ」


 親切心で彼らに忠告すると。


「なんだ君は!? 冴えないメガネの部外者は口を挟まないでくれるかい?」

「種族の威信がかかってるんだ。もやしっ子は下がってな!」

 

 エルフとドワーフは俺を無視し、口げんかを続けた。

 あーあ。

 俺は忠告したからな。

 アルタリアの前でケンカをするとは……命知らずな奴め



「私はこのドワーフに加勢するぜ!」

「では私はこのエルフに」


 二人のクレイジー女はさっそく話を進めていく。


「お前とは決着を付けたかったんだ! レイ!」

「こちらとて同じです、アルタリア、容赦はしませんよ?」


 エルフとドワーフの対立と一緒になり、火花を散らすアルタリアとレイ。

 いやもう彼女らにとってはどうでもいいな。争う理由なんてなんだってよかったんだろう。


「じゃあこの決闘で勝ったほうが、この区画を頂くということで!」

「いいだろう。受けて立ってやる」


 彼女たちの危険さも知らずに、戦う気満々の男達。すぐに決闘の準備にかかる。 


「そこのお嬢さん。アンデッドではないことは魔力でわかりますよ。共に戦いましょう」


 キザッたらしくレイに手をかけるエルフだが。


「汚い。私に触れていいのはマサキ様だけです」


 ゴミのように手を払いのけるレイ。それは結構傷つくぞ。



「へっ! ざまあねえぜ! なあべっぴんさん、こっちは仲良く行こうぜ!」

「うるさい。レイとの戦いは一瞬が命取りだ。話しかけるな」


 狂気の碧眼でレイを睨み、ドワーフに冷たく吐き捨てる。



「じゃあ合図したら、決闘スタートだからね」


 俺が証人の役をしてやるか。

 合図を送り、すぐに安全な場所へと隠れる。


「貰った! アルタリア! 覚悟!」


 レイが魔法を発射するが……。


「フン、惜しかったな」


 アルタリアはドワーフを盾にしてそれを防ぐ。「グフッ」っとその場に崩れるドワーフ。


「これでこっちは二対一。我らが優位だ! 見たか! 哀れなドワーフめ」


 得意がるエルフだったが。


「ちょっと邪魔です」


 チョロチョロ動き回るアルタリアを狙うレイは、エルフを障害物と判断し魔法で吹き飛ばした。「ぎゃあ」と言って飛んでいくエルフ。


「どっちもご愁傷様としか言いようがない」


 彼らの散り様をみてボソッと呟く。

 それから邪魔者を片付けた二人は決闘を続けるのだった。




 ……。

 …………。

 戦いは終わった。

 緻密な精密射撃を撃てるレイの方が優位だと思っていだが、アルタリアはやぶれかぶれに盾を投げつけ、それがレイに直撃した。痛みわけだ。

 そこには二人の女、そしてその巻き添えとなったエルフとドワーフが倒れていた。

 ついでにこの戦いの原因となった区画は、レイの魔法によって跡形もなく吹き飛ばされてしまった。


「次は負けませんよ! 今度はこの街ごと炸裂させてあげますよ!」

「こっちのセリフだ! 全身を刻みつくしてやる!」


 倒れてなおもいがみ合うレイとアルタリアを見て。


「……争いはなにも生まない」

「……ああ、これからは仲良くやっていこう」


 回復魔法を受けて起き上がったエルフとドワーフは互いに握手をする。この惨状を見て争いの虚しさに気付いたのだろう。ここにエルフドワーフ協定が結ばれたのであった……。

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