一部終 39話 デュラハンのベルディア
裁判所を徹底的に破壊していくらかの日がたち、いつも通り屋敷へと引き上げベッドに入っていると。
「マサキ、アンデッドの気配がします! それも強大な!」
一度寝てしまうとどうやってもおきないはずのマリンが、急に飛び起きて叫ぶ。
「アンデッドだと? もうアンデッドはたくさんだ! まだ生き残りでもいたか?」
そういって起き上がると。
「おーい! おーい! マサキ! こっちだー!」
この声は……
「来いよ! こっち来いよ! ほら、こっち来いよ!」
窓から外を見ると……屋敷の側に一人の男が。
あの白かった鎧は漆黒に包まれ、まがまがしいオーラを放つ暗黒の騎士。頭がある場所には何もなく、腕で自分の首を掴んでいる。
デュラハン。
不当な理由で処刑され、怨念によって蘇った凶悪なモンスター。
そのデュラハンと化したベルディアがそこに立っていた。
「や、やぁベルディア。お元気ですか?」
「もう死んだ身だ。元気も何もないだろう」
漆黒の兜から目を光らせ、そっけなく返事をするベルディアだった。
「な、なぁベルディアさん、俺の事を恨んでいますか……?」
仲間たちを起こし、町外れにてベルディアに話しかける。
彼が処刑された理由は、最初こそ冤罪だったものの、決め手になったのは俺が裁判所を破壊したからだった。少し気まずそうに尋ねる。
「こうなったのはお前にも原因があると思うのだが……そもそも俺がアンナ家を守れなかったのが悪いのだ。この裁判結果は今でも許しがたいが……」
「あのクソ調査員ってムカつくよな。あいつが悪いよあいつが」
とにかくあの女に押し付けよう。
「くしくもバラモンドの言うとおりになったか。やつは死ぬ間際に、『貴様もまた、いずれ裏切られる日が来る……』と呪いの言葉を吐いた……。こんなにも早く現実となるとは」
「あいつの本当の最後の言葉は、『そ、そうだ、ペット枠とかどうですか? 大物ならペットくらい飼っていても不思議じゃ』だぞ。関係ないと思うがなあ」
バラモンドのみっとものない死に際を知っている俺は、呪われた騎士をフォローした。
「そういえばこんな技を覚えたぞ。汝に死の宣告を! お前は一週間後に死ぬだろう!!」
ベルディアが何かを見せびらかすように、自慢げに左手の人差し指を突き出し、俺に呪いをかける。
「おい! コラ! やめろ! お前やっぱり俺を恨んでるだろ!」
「クハハハハ、これくらいはさせてもらわねばな。もういい、解除!」
ベルディアは哄笑した後、すぐに俺の呪いを解いた。
「そういえばなんでバラモンドはこれを使わなかったのだ? デュラハンとなればすぐに習得できるスキルのようだが……?」
「うーん……。多分一週間待てなかったんじゃね?」
そんな気がする。あっちのデュラハンはいちいち一週間後に死ぬような呪いをかけるより、その場で殺すのが好きそうなタイプだ。
「で、これからどうするんだ? お前を処刑した国に復讐でもするの?」
少し話した後、ベルディアの今後を尋ねる。
「そうは言ってもな。この国は俺が今まで守ってきた国でもあるのだ。共に戦ってきた仲間もいる。そんなあいつらを襲うのも、なんだか気が引ける。この街の民も、最後までこの俺を信じてくれた。しばらくの間は行動を起こすつもりはない」
この元騎士は、少なくとも当分は敵として現れることはなさそうだ。
「……それにだ」
ベルディアがスッと袋を見せびらかす。
「これだけの贈り物を貰ったのだ。アクセルの住民に手出しをするつもりはない」
ああ、それは。
『お前らあああ! ベルディアが怨念で次のデュラハンになったら! この街を恨んで復讐にくるかもしれん! だからあいつの死体の近くに、女物下着をお供えするんだ! あいつは女性下着が大好きだ! 万が一ということがある! 殺されたくなければ今すぐ供養として持って来い!』
ベルディアが処刑されたあと、町の住民、特に女性に向かって説得し、みんなから下着を巻き上げてベルディアの処刑された場所に集めておいたのだ。彼女たちは抵抗したものの、無念なベルディアの事を思い、渋々ながらも差し出した。
使用済みや新品のものなど、とにかくたくさんの下着を集めてベルディアの死体の隣に山のように集めておいた。
まさか本当にデュラハンとして復活するとは思ってなかったが、万一の保険としてやっててよかった。
「それでだなマサキ、一つだけ気になることがあってな。なぜかこの中に一つ男物のパンツが紛れ込んでいたんだが、どうしてだろう? なにかの間違いか?」
「あ? そんな馬鹿な? どこのどいつだそんなくだらねえ事したのは」
犯人を考えていると。
「それはマサキ様のパンツです。私の家宝の一つですが、あなたに敬意を示し、コレクションから一つ差し上げたのです」
レイが堂々と述べた。
「ぎゃあああああああー!」
「おらああああああああー!」
激怒して俺のパンツを投げ捨てるベルディア、そして俺はそのパンツを引き裂いた。
「お前なにやってるんだ? 女物って言っただろ! しかも俺のかよ! なんで入れた!?」
「マサキ様のパンツはこの世界の宝でしょう? 私なら絶対に欲しいです」
悪びれもなく、というよりこいつは悪気があったわけじゃないんだろう。本気で俺のパンツに価値があると思っているのだ。
「それはお前だけだ! 全部自分の基準で判断すんじゃねえ!」
「何が悲しくてこんな卑劣な男のパンツをゲットせねばならんのだ!」
俺とベルディア、双方に怒られるレイ。
「そういえばさっきコレクションって言ったよな? 他にも持ってんのか!?」
「なんのことですか?」
このゴキブリ女! すっとぼけやがって! っていうかキモい! こいつホントにキモい! 男のパンツなんて集めてどうすんだよ。どこに隠してるんだ!?
「女性下着がそんなに欲しいんですか? いいでしょう。今渡しますよ」
「お前のは呪われそうだから遠慮しておく! いらない!」
仕方ないといった顔で、すぐにでも自分のを脱ぎ始めるレイを引きつった表情で止めるベルディアだった。デュラハンに呪われるっていわれる俺の仲間って一体……。
「最初は深い恨みでこの世界に蘇ったのだが、このパンツの束を見て少し心が和らいだ。この俺の戦いも決して無駄ではなかったのだな。今度は騎士ではなく一人のモンスターとして、この世界を周って見ようと思う」
穏やかな目をして、ベルディアは言った。
うん。
かっこいいふうに見せかけてるけど、お前パンツ持った変質者だからな。という無粋なことはつっこまないでおこう。
――少し旅に出るとする。
そうベルディアが言った。
「だったらさ、バラモンドの代わりに魔王軍に行くってのはどうだ? 向こうもバラモンドの後釜を欲しがるだろ? それで魔王を油断させといてだな、一人のこのこ連れ出したところを抹殺――」
「相変わらずお前はとんでもないことばかり思いつくな。この俺がそんな卑怯な真似をしてたまるか!」
俺が立てた作戦がダメ出しされていると……。
「ベルディア! あんたとは一度やりあってみたかったんだ! どっかいく前にひと勝負しようぜ!」
アルタリアが立ち上がった。
「いいだろう! このじゃじゃ馬娘め! 来るがいい!」
二人の戦士。一人は元騎士でもう一人は騎士になれなかった女が決闘を始めた。
「あんまり無茶すんなよー」
ベルディアとアルタリアの剣が重なり合い――
「噂どおり、防御がなってないな」
「はぁ、はぁ、やるじゃねえかベルディア。私の負けだぜ。……にしてもお前こんなに強かったのか? バラモンドより強いんじゃねえのか?」
倒れるアルタリア。ベルディアはこのバトルバカのスピードにも完全に対応していた。
「どうやらデュラハンとなったことで力が底上げされたようだ。生前よりも体がよく動く。今なら軍勢と戦っても負ける気がしないな」
あっという間にアルタリアを倒したベルディアが、自分の実力を確かめながら告げた。
「ははっ! 今度あったら、あんたを超えるスピードで翻弄してやるぜ! 私はもっともっと強くなる!」
敗北したとはいえ、楽しそうに返事をするアルタリアだった。
「あなたにも、きっとアクア様のご加護があるでしょう。私には分かります。きっとあなたを浄化するのはただのプリーストではありません。その境遇を哀れんだアクア様が自ら舞い降りて、優しい微笑みのなかであなたは天へと昇るでしょう」
「それは……嫌だなあ」
あの女神に浄化されるのは嫌なのか、まぁあの女神を拝んでいるやつらはろくな奴がいないからだろう。彼の反応も仕方がない。嫌そうな顔でマリンに答えた。
「あばよベルディア。もし俺の作戦が気にいったら連絡してくれよ!」
「じゃあな! 縁があればまた会おう!」
ベルディアは馬に乗って……どこで仕入れたのかは分からない彼と同じ首のない馬を走らせ……デュラハンになったらセットでもらえるのか? とにかく首のない馬と共にこの街から出発した。
こうして、俺達四人はベルディアの第二の出発を見送ったのだった……。
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