一部 28話 ダンジョン始めました
キールを無事撃退した俺は、新しい商売を始めることにした。新しく手に入れた家を拠点としてアイテムを売るつもりだ。
『サトー商会』と名づけた。佐藤は伝説の勇者の名前らしいし、なにかと縁起がいいだろう。
主な業務内容はキールのダンジョンに挑戦する冒険者のサポートだ。彼らに使えそうなアイテムを提供するという、非常に単純な商売だ。
元々俺が譲り受けた建物は、キール攻略のために建てられた避難所だ。立地条件は完璧にいい。ダンジョンマスターがいなくなった今、残ったお宝を探しに来る冒険者がこれからどんどん増えるだろう。
そんな事を考えていると、さっそくカモ……じゃなくてお客さんがやってきた。アクセルの冒険者パーティーだ。腕前はまぁまぁと言ったところか。彼らはキールのダンジョンへ入ろうとするが、目の前に立てられた看板を見て立ち止まり、首を傾げる。
―――入場料1000エリス
「なんだよ入場料って?」
「払った方がお得だと思うんだがなあ? さらに1000エリス追加で簡単なマップも付いてくるぞ?」
戸惑う冒険者に軽い説明をする。
「払うわけねーだろ! このダンジョンはいつからテメーのもんになったんだ!? お金を払わないと入れないつもりか?」
「別に出入りは自由だが? だが俺たちサトー商会にお金を払うと色々と特典が付くぞ? たった1000エリスで一日フリーパスをあげるのになあ?」
そう彼らに忠告するが。
「何が悲しくてお前に金ださないといけないんだよ」
「付き合ってられるか。そんな奴ほっといてとっととダンジョン行こうぜ」
そう言って俺を無視してダンジョンへ挑戦する冒険者達。
「あーあ、残念だなあ。こっちは親切で言ってるのに」
ダンジョンを降りていく冒険者を見送って呟いた。まぁいい。ここからが俺の『サトー商会』の腕の見せ所だ。
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冒険者達はてこずっていた。
「くそっ! もう追いついて来やがった! どうなってやがる! 本当にキールはいなくなったのかよ! まだまだモンスターがうじゃうじゃしてるじゃねえか!」
ミノタウロスに追われて必死で逃げ惑っている。
「軽い気持ちで来るんじゃなかった! キールを倒したといえここは高難度のダンジョンだったんだ! モンスターはそのままほったらかしになってる! こんなことならポーションをもっと持ってくれば……」
彼らは自分達の準備不足を嘆いている。
「あっちに明かりが見えるぞ!」
「本当だ。でもなんでこんな所に?」
暗闇のダンジョンに相応しくない、光のついた部屋をみて叫ぶ。
「これは絶対罠だよ!」
「罠だろうが、もう他に逃げ場はないんだ! 一か八か! 賭けてみるしかない!」
モンスターに追い詰められ絶体絶命の冒険者は、神に祈るように部屋の中に飛び込んだ。
「へいらっしゃい! サトー商会、ダンジョン出張所へようこそ」
……………………。
「「「「えっ」」」」
「なんでテメーがこんな所にいるんだ! マサキ!?」
「なんでって? 俺はキールを倒したんだ。そしてダンジョンもそれなりに調査した。そこで君たち他の冒険者の手助けをしたくなってね」
冒険者の質問に答えるが。
「そうじゃねえ! てめえ、どうやってここに来た!?」
「ふっふっふ、それは企業秘密だよ。飯の種を教える商人がいると思うか?」
笑って適当にはぐらかす。
「そんなことより! 早くモンスターから逃げないと」
「この部屋には結界を張っているから気にしなくていいぞ?」
怯える女性冒険者にそう告げ、安心させる。ダンジョン探索に必要といわれる、結界を張る魔道具を設置している。
「品揃えは揃えているぞ? キールポーションが1万エリス。キールマジックポーションが5万エリスだ。これを買えばまだまだダンジョン探索を続けられるぞ?」
「「高っ!」」
商品の値段を見て思わず声をあげる冒険者達。
「なにがキールポーションだ! 名前にキールってつけただけじゃねえか!」
「しかもこのポーション! 地上で100エリスくらいで売ってる粗悪品じゃん! ぼったくりもいい所よ!」
文句を言う物分りの悪いお客様に。
「君たち、少しは考えてくれよ。ポーションをこの地下に持ち込むのにどれだけ苦労をしたか。輸送にもお金がかかるんだぞ? ここの結界も結構高いんだぞ?」
そういう俺の服は傷どころか汚れ一つなかった。相変わらず疑いの目を向けてくる。
「ああ残念だよ。もし入り口で入場料を払ってくれたなら、会員価格で激安で提供できたのになあ。だからあれほど入場料を払えといったのに……」
ヤレヤレといった顔で呟いた。
「クソッ! この男! どうせダンジョンの中の宝も全部とりつくしたんだろ?」
「俺はマッピングするのが精一杯で、宝はそのままにしておいたから安心しろ」
「信じられるわけないだろ? 絶対嘘だ!」
「本当なのに」
そのままというのは嘘だが。宝はバラバラに配置しなおした。だが取っていないというのは本当だ
「もういい、帰るぞ! バカらしい!」
付き合いきれないといった顔で部屋を出て行こうとするカモだが。
「でもどうやって? 周りはモンスターに包囲されてるのよ?」
「彼女の言うとおりだ。この部屋は結界があるから入っては来れないけどな。一歩先はまた危険なダンジョンだぞ?」
静かになる冒険者達。
「いいからそれをよこせ!」
「おっと、強盗かな? 俺はギルドの許可をとって、合法的な商売をやっているのだ。そんなことをすれば警察に被害届を出すぞ?」
実力行使に出ようとした冒険者に、国家権力をチラつかせて威嚇する。
「悪いがそんな大金は持ってないんだ! マサキ、俺達が全滅するのを黙って見てるだけか? 人間としてどうなんだ?」
「安心しろ。そういうお客様にはローン払いにも対応している。まぁ多少利子が付くけど、それは仕方ないよな?」
早速次のプランを説明する。俺はこう見えて優しいしどんな状況も想定しているのだ。
「ぐっ! この男め……。どこまでも腐ってやがる!」
苦虫を噛み潰したような顔で俺を睨んでくる冒険者だった。
「さて、商談を続けましょう。テレポートのスクロールは一個40万になります。あれ? もしかして所持金がない? そりゃあ残念だなあ。おっお前いい武器つけてんじゃねえか。これも大体同じくらいの値段だな。それと交換でいいぞ?」
「ふざけんな! これは魔法がかけられた高級のダガーなんだ! これを手に入れるのにどれだけ苦労をしたか!」
盗賊の冒険者が怒るが。
「じゃあ好きに帰ればいい。ここから地上まで。満身創痍の君たちがアイテムなしで無事帰れる確立は……とても低いと思うが、がんばってくれ」
そう告げると、冒険者は泣く泣くダガーを差し出した。
「本当にいいダガーだな。そうだ、今度このダンジョンの宝箱の中に入れといてやるよ。またの挑戦お待ちしています!」
「死ね!」
「この人間の屑!」
彼らからは散々罵倒を受けたが、俺の懐はとても暖まったので怒りなど全く沸いてこない。むしろ逆に自然と笑顔が零れ落ちる。
ぼったくり――もといダンジョン価格で安く仕入れたアイテムを売りさばくことでそこそこ儲かってきた。ちなみにダンジョンには関係者用の出入り口を作っておいたので、俺たちはモンスターの脅威に曝されることなく、自由に出入りできる。
こうして挑戦者の第一陣は、ただただ俺から金を奪われるだけで終わった。
……。
…………。
こうして片っ端から冒険者から大金を巻き上げ、かなりの儲けが出た。これでみんな入場料を払ってくれるはずだ。しかし次の問題に直面した。
出だしこそ順調だったものの、悪評が広まりすぎて挑戦者がいなくなった。みんなこの俺がダンジョンの宝を撮り尽くしたと勘違いしているみたいだ。このダンジョンに挑むことが有益だと、そろそろ皆に目に見える形でわからせる必要があるな。何事も飴と鞭が大切だ。
「おっ、マサキじゃないか! なにやってんだ?」
「ラビッシュか。久しぶりだな」
暇になって欠伸をしていると、自称ワルのラビッシュが話しかけてきた。ふっふっふ、丁度いいときに来たな。
「聞いたよ? キールを追い払ったんだって? あのギルドを悩ませてきた大魔法使いを追っ払うなんて、一体どうやったんだ?」
「まぁちょっとね……」
さすがにあの方法は自分でもクソだと自覚しているため、詳しい説明をするのはやめといた。
「私、俺もその戦いに参加したかったんだけどさ、周りに止められてな! 領主の娘……じゃなかった大悪党の私がやることじゃないってさ」
そりゃそうだ。
「もうキールの脅威は去った。去ったんだがあのダンジョンにはまだまだ宝が埋まったままになってると思うんだ。だから俺は監視もかねてここで店を始めたんだよ」
話を切り替え、俺は自分の店を紹介した。
「またなにか面白そうなことを始めたようだな。ダンジョン入場料ってなんだ?」
「まぁな。俺もこの街の冒険者たちのために何かしてみたくなってな。少し手間賃はいただくが、ウィンウィンの関係を築こうと思っているのさ。少しの金を貰うことで冒険者を手助けするサービスをやってるんだ」
こうして俺の始めた新しい商売について、軽く説明をする。
「ラビッシュ様、騙されてはいけません! この男はまたろくでもない事をたくらんでいるに違いありません!」
「そもそもダンジョンに入るのに金が要るなんて事がおかしいんですよ!」
お付きの二人がラビッシュを説得しようとするが。
「ラビッシュは大事な悪友だからな。特別にマップ代はまけといてやろう。三人だから3000エリスでいいぞ?」
「おおいいのか? 気が利くなあ。ありがとよマサキ」
気前よく3000エリスを払うラビッシュ。
「じゃあこのパスを付けておいてくれよ。一人一つずつ無くさないようにな」
『サトー商会』と書かれた首飾りを人数分ラビッシュに渡した。ついでに特製のマップもつけてやる。そこにはモンスターが近寄らない場所を記している。
「じゃあいくぞお前達! ダンジョン攻略なんて私初めてだよ!」
ウキウキと張り切るラビッシュ。
「いってらっしゃい!」
そんな彼女を笑顔で見送った。
「へいらっしゃい! サトー商会、ダンジョン出張所へようこそ! おおラビッシュ、やっと来たか。お前ならここまで来れると思っていたよ」
俺は地下の一室でラビッシュを出迎える。ラビッシュは色々と言動が痛い子だが、実力は中々の腕前だ。そして彼女のボディガードは勿論よりすぐりの精鋭。弱体化させたダンジョンなど軽く突破できるとわかっていた。
「キールポーションは一個1万のところを、会員割引で500エリスだ。キールマジックポーションは5万のところを1000エリスでいいぞ?」
早速商売を始める。
「割引率おかしくないか?」
「そもそもどうやってここに来たんだ?」
付き人のどうでもいい質問はスルーする。
「丁度マジックポーションが切れ掛かっててさ、買うよ!」
会員価格で品物を買うラビッシュ。
「お買い上げありがとう! じゃあこの先も頑張ってくれ!」
「おう!」
こうしてラビッシュたちはダンジョン攻略を進めていった。
「見てくれ! こんな宝を見つけたんだ!」
地上へと帰還したラビッシュはみんなの前で自慢げに、高級そうな杖、そして古錆びた剣の二つを見せびらかした。
「おお! この杖はかなりの業物だぞ? 魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色艶……。これを作ったのは一流の魔道具使いに違いないな」
「それに比べこっちの錆びたボロい剣はなんだ? 鍛えなおせば使えるだろうが……ってその紋章は!? まさかあの伝説の古代の騎士、ナイアックス卿の紋章!! 確かこの騎士団の武器は100個くらいしか現存してないという!?」
ラビッシュの持ち帰った宝は、どうやらかなりの貴重品だったようだ。
「なあラビッシュさん、一体これをどこで見つけたんだ?」
「そうだな。杖の方は宝箱の中に、剣は転がっていたのを拾ってきた。どっちもキールのダンジョンの中にあったぞ?」
みんなから尊敬の眼差しで質問を受け、まんざらでもない顔で答えるラビッシュ。人々はラビッシュの持ち帰った宝を見て興奮している。
「本当にまだ宝があったのか!?」
「くっそう! なんでラビッシュが! あいつは別に金に困ってない癖に……」
ラビッシュの持ち帰った宝を見て羨ましがる冒険者達。
「そうだ、今日手に入れたこの二つの宝は、お前達にあげるよ。いつも私を支えてくれる君たち二人に! 感謝の気持ちも込めてね」
ラビッシュは自分に仕えている二人の従者に、それぞれ武器を笑顔で渡した。
「ら……ラビッシュ様? こんな貴重な宝はあなたの家で管理した方が……」
「そ、そうですよ! 私達ごときにはこんなの身に余りますよ」
ラビッシュの二人の従者、魔法使い系と剣士系の人達は遠慮するが。
「これは武器として作られたんだよ? ただ飾られているだけじゃあ腐っちゃうよ」
そう言ってラビッシュは見つけた宝を二人の従者に渡した。
「あ、ありがとうございます! 一生大事にします!! 家宝にいたします!」
「この先も一生あなたに仕えます! ラビッシュ様万歳! アンナ家に栄光あれ!」
涙を流して喜ぶ二人。素晴らしい主従関係だ。でももうこいつらも正体隠す気なさそうだな。
「おい、やっぱり宝があるんじゃねえか!」
「誰だよ!? マサキが全部奪ったとかデマ流した奴は!」
ラビッシュの持ち帰った宝を見て、冒険者の中でざわめきが起きた。
……。
…………。
ゴールドラッシュが始まった。
ラビッシュが宝を手に入れたことが冒険者に広まると、キールのダンジョンは大盛況を見せた。
「入場料ってなんだよ!? なんでこんなの払わないと……」
「払った方がいいぞ! そうじゃなきゃ後でマサキにあとでボッたくられる!」
初期に挑戦した冒険者の成り行きが広まったようで、みんな渋々ながらも入場料を払ってくれる。これだけでもかなりの儲けだ。
かなりの人数がキールのダンジョンに入っていった。
「すいませーん、ダンジョン攻略したいんですが?」
「いやすいません、今ダンジョンは満員でして。一時間待ちとなっております」
予想以上に冒険者がつめかけたため、ダンジョンには行列が出来た。そもそもこのダンジョンは浅いからそんなに人は入れない。俺のアイテムの仕入れも間に合わなくなり、後から来た冒険者にそう継げた。
「なんだと? ダンジョンに順番もクソもないだろ? 早い者勝ちだろ?」
「人が多すぎてさあ。こんなに入ると間違えて冒険者同士で殺しあうかもしれない。安全のためだ。わかってくれよ」
出遅れた人達に説明すると。
「そうだぞ! 俺達は30分前から並んでいるんだ! 入場料を払ってな! 割り込みは許さんぞ!」
「そうだそうだ!」
すでに列を作っている人に怒られていた。
「レイ! 商品が切れそうだ! その辺の商店からポーションを全て買って来い! マリンとアルタリア、どっかの馬鹿なパーティーがSOS信号を出してる! そいつらを回収してくれ! 俺はもう一回下に降りて品物を運びにいく!」
商売は思った以上に大ヒットし、俺達は嬉しい悲鳴をあげた。このダンジョンでの店での成功で、俺はかなりの財を手に入れることが出来たのだった。
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