一部 27話 おやすみキール

 キールの撃破クエスト成功! 追い払っただけなので賞金は半分だったが、それでも大金が俺達の元へ流れ込んできた。


「やったぜ!!」


 ギルドの酒場で祝勝パーティが開かれた。ちなみに珍しく、俺の仲間では一番の常識人だったマリンがロープでつるされていた。今回この街に一番の被害を与えた奴だから仕方ない。



「オラーー! 飲もうぜ! 酒だ! 酒もってこい! 行くぜ!」


 まだ乾杯の合図もしてないのに、アルタリアが大声で叫び酒を要求する。


「はーっはっはっは! 仕事終わりの酒は最高だぜ! ひゃー! ……くかー」


 ジョッキに入れた酒を一気飲みしたかと思えば、三秒も立たないうちにその場に崩れこみ、寝た。なんて弱いんだ。防御力だけじゃなくアルコールにも弱いらしい。このバカはこのまま寝かせておくことにしよう。



 この作戦の発案者でもある俺が乾杯の合図を取ることになった。


「ここに集まってきた諸君に言いたいことがある! 今回キールを無事追い払ったのは、ひとえに俺の作戦が神がかっていたからなのだが、まぁそれはわかってる。だがその作戦の成功は、ここにいる君たち全員の協力があってこそだ」


 この戦いに参加した全ての冒険者、そして工事関係者の前で皆をねぎらい、スピーチする。


「だから今回の賞金はみんなで分けてくれ! 俺はいらない」

「「え!?」」


 本来ならここで大絶賛をして俺を褒める所なのだが、なぜか冒険者の皆は会話をやめピタリと静かになった。なんでみんな苦虫を潰したような顔でこっちを見るんだ? 普通に素晴らしい提案だったと思うんだがなあ?

 とりあえず話を続ける。


「……賞金の代わりといってはなんだが、欲しい物がある。キールのダンジョンの横に立っていた建物だ。あそこを俺の拠点にしたい。これはキールが帰ってこないよう見張りの意味もある」


 演説を終えると。


「な、なるほど……それなら納得だぜ」

「マサキが賞金をくれるとか、絶対裏があるに違いないからな。怖くて受け取れねえよ?」


 ホッとした顔で賑わいを取り戻す冒険者たち。

 俺の事をなんだと思っていやがる。まるで極悪非道の腐れ外道のような扱いはなんだろう? 結構傷つくぞ。今まで流石に少し? いやかなり、やりすぎたか?


 

「あの建物はキール対策に作られたようなもんだし、くれてやってもいいんじゃねえか?」

「家を買うってのはもっと大金が要るんだが、もう使わない場所を再利用するならいいんじゃねえのか?」


 多少胡散臭いところもあったが、俺は間違いなくこの街を悩ませ続けてきた、キールを撃退した英雄だ。他の冒険者達の印象も少しはよくなったようだ。

 さらにこれで万が一、キールがまだいるとバレた時、賞金を返せといわれても無視できる。俺は一銭も貰ってないからな。その時は冒険者からがんばって取り立ててくれたまえ、ギルドの諸君。



「本来ならあの建物はすぐ解体する予定でしたが、いいでしょう。このたびの働きに免じて、サトー・マサキさん、あの家の所有権をあなたに差し上げます。解体費用も浮きますしね」


 ギルドの職員も頷き、家の鍵を持ってきてくれた。よし、これでただで家が手に入る。

 ちなみにトーチカや水攻めにかかった工事費用は領主に請求しておいた。キールの排除はアクセルの発展に欠かせないものだ。開発費用の一環として堂々と地方予算から引かせてもらった。税金はみんなのために使わないとな。


「そういえばあの部屋は、捕獲したモンスターを入れる地下牢があるのですが、封鎖して置いてくださいね?」

「それを無くすなんてとんでもない! そこの鍵もくれ」


 真顔で即答した。


「少なくとも二つは必要だ。アンデッドとバーサーカーを閉じ込めるための場所が」


 俺の背後からずっと離れないメンヘラと、酒で爆睡しているバカを見て頷く。


「一軒屋暮らしのお祝いに、今度私が喜びの歌を披露しますね?」


 訂正、牢屋は三つ必要だな。吊るされたマリンを見て呟いた。



 今回始めてわかったことなのだが、マリンがここまで音痴……いやアレは音痴ですむレベルなのか? こいつが歌ったせいで大量の負傷者が担架で運ばれていった。後に目を覚ましたといえ意識不明の重体だった人もいるらしい。ベルディアにいたっては未だに寝込んでいる。アンデッドのキールにも効いてたし、この無差別兵器は一体なんなんだ?


「なあマリン。お前はどうしてあんな事をしたんだ?」


 俺は今日一番の戦犯に情状酌量の余地を尋ねることにした。


「!? なんのことですか? 私はただキールさんが安心してここを立ち去れるよう、手向けの歌を捧げただけですが?」

「お前自分の歌がヤバイという自覚はなかったのか?」


 頭を抱えてマリンに聞き返す。


「ヤバイですって? なにがでしょうか? そういえば故郷では小さいころ、アクア様の賛美歌を歌う慣わしがあったのですが、私の時に急に廃止になったのです。それと関係あるんですかね?」


 うん、それは100%お前のせいだろ。お前が歌うとその場が阿鼻叫喚の地獄に早代わりしたから廃止されたんだろう。目に浮かぶようだ。歴史のある風習を破壊するとは恐ろしい子だ。


「マリン、お前の歌は兵器……いや狂気だ。もう二度と歌わないでくれ。おそらくどんな魔法よりも恐ろしい。だからとにかく封印だ。頼むぞ」

「なんでですか? アクア様への賛美歌は、この世をさまよう悪霊や悪魔達を追い払う効果があると思うんですが?」


 納得のいかない顔をするマリンに。


「悪魔どころじゃない! 人間まで退散させる勢いだったぞ! 頼むから二度と使うな! わかったな! これはパーティーリーダーとしての命令だ!!」

「わ、わかりました。でも新しい歌詞が思いついたときはどうすれば?」

「どうしてもというなら周囲に誰もいないか確認してからだ。死人がでてからは遅いんだぞ? 俺は仲間を殺人者にしたくない」


 歩く大量破壊兵器にきつく忠告しておいた。




「そういえば思い出したんだがよ、キールの奴、マサキの事を勇者の末裔とか言ってなかったか?」

「ああ、俺も聞いたぞ? どういう意味だ?」


 キールとの最後の戦いであったことを思い出して、口々に


「キールは追い詰められて頭がおかしくなったんだろう? 自分が倒した相手を勇者だと思い込んで平常を保ってたのさ」


 流石の俺も、ここで俺は王家の末裔だとか名乗って無駄な注目を集めたくはなかった。そこまでの自己顕示欲はない。


「それにだぜ? 勇者の末裔が俺みたいな卑怯なことするかよ! 俺の祖先の作った国とか嫌すぎだろ?」


 俺がそう尋ねると。


「それもそうだ! もしマサキの祖先だったら、今頃王家どころか魔王になってるわ!」

「いや魔王よりも絶対怖い国になってるに違いない! マサキの国とか想像しただけで寒気がするぜ!」

「下手すりゃ魔王も人間も手を組んでマサキの国と敵対しそう」


 これで疑いは晴れた。といえども散々な言われようだ。俺ってそんなにヤバイ奴なの? 過程で色々あったとはいえ上手く収まったのだからめでたしめでたしだと思うんだがなあ。





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「待っていたぞ、勇者の末裔よ」

「遅れたかな? 冒険者たちが眠るのを待っていてね」


 冒険者達のうちあげが終わった後、キールとあらかじめ決めていた集合地点で合流した。場所は共同墓地。ゾンビメーカーが沸くことで有名な場所だ。ここなら仮にリッチーが見つかってもゾンビメーカーだと誤認されるだろう。

 マリンとレイを引きつれ、キールを含め四人で歩き出す。

 アルタリアは寝てたし、起こすとめんどくさそうなのでそのまま放置してきた。


「気にしなくていい。この墓場で迷える魂たちと会話しててね。彼らを天に送っていた所だよ。それにしてもアンデッドの私がプリーストの真似事とはシュールだなあ。いい時間つぶしになったよ」


 どうやら彼はこの共同墓地で霊を浄化していたらしい。

 やっぱりいい魔法使いだ。

 っていうかよすぎだ。王国も惜しい人材を無くしたものだ。いらない妾の一人くらいくれてやればいいのに。心の狭い奴だ。

「本来ならこういう仕事はプリーストの役目だと思うんだが?」

「そうしたいのは山々なんですが……。私達共同墓地を出禁になってまして……」


 キールがマリンの方をチラチラ気にして言うと、マリンはばつが悪そうに答えた。


「プリーストが墓地に近づけないなんて、そんな事があったりするのか?」


 驚くキールに対し、マリンとレイが俺のほうに無言で目線を集中してくる。やめてくれないかなあ。俺そんな酷いこと言ったかな? すっと目を反らす。



「お前本当に最低だな!」


 共同墓地を出禁になったあらまし、ゾンビメーカー撲滅計画をマリンから聞いたキールに、俺はしこたま怒られたのだった。





 気を取り直して再度ダンジョンへと向かった。


「ではここからが本当のダンジョン攻略だ。ダンジョンマスター・キールよ。これから君のダンジョンを無力化……いや、完全に攻略する必要はないな。駆け出しの街アクセルに相応しいダンジョンへとリフォームするとしよう」


 未だに軽蔑の目で睨んでくるキール。頼むからその目はやめてくれないかなあ? 俺は俺なりに町のために何かできないか考えただけなんだが。


「攻略といっても、お前達が散々水を流し込んだせいでダンジョンはほぼ半壊状態なのだが……?」


 水浸しになったダンジョンを共に歩いていく。たまに生き残ったモンスターが飛び出してくるが、キールの姿を見ると頭をたれる。


「だーかーらー! だからさ、このレベルのモンスターが序盤にいると無理ゲーなんだよ!」

「は、はぁ……」


 大人しくなったモンスターを指差してキールに文句を言う。


「敵が密集しすぎなんだよ! もっとバラバラに配置してくれよ!」

「ま、まぁもうお嬢様を守る必要はないし、別にいいが……」


 俺の言うとおりにダンジョンを作り変えてくれるキール。さすがはリッチーだ。


「俺はダンジョンだからって、単に強いモンスターを設置すればいいって考えには反対だ。もっと知恵と工夫に満ちていないと! それでいて何度かやっていくうちにコツがわかっていく。そういった初心者も楽しめるようなものが理想だ。ただただ難しいだけのダンジョンは言語道断だ! 攻略サイトか裏技につい頼りたくなる」


 俺はダンジョンについて熱くキールに語った。


「おいそのドアはあそこのスイッチを矢で当てると開くように出来ないか? ヒントとしてここに弓矢のマークを書いとくか」

「この部屋は逆にモンスターだらけにしておこう。全て倒さないと次の扉は開かないぞ?」

「このモンスターは手強いが、弱点となるものをこの辺にさりげなく設置しておこう。これなら少し頭を使えばきちんとクリアできるはずだ」


 俺は自分なりのダンジョン論を語り、キールへ細かく注文を出していった。


「わかったわかった! やればいいんだろ? やれば!?」


 うんざりした顔をしながらも、きっちり仕事をこなすキール。うん、彼は中々できる男だ。リッチーにしておくのが惜しいな。パーティーに入れたいくらいだ。



 こうして無傷でダンジョンを進んでいくと。


「かなりのお宝を見つけました! マサキ様!」


 レイが今までの道で見つけた金銀財宝を見せびらかしてきた。


「なるほど、これはかなりの価値がありそうだ。鑑定スキルがない俺でもわかる」


 このまま売れば大金になる、そうやって金持ちになるのも悪くはない。このまま売り払えばギルドに目を付けられそうだが、幸い足のつかない闇ルートは確保してある。確保しているのだが……俺はそろそろ真っ当な方法で手に入れた金が欲しかった。隠し財産はわりとたまってる。


「よし、この宝を小分けにして、ダンジョンの中に設置しなおすぞ!」

「「えっ?」」


 マリンだけレイまで驚きの声をあげた。


「マサキ? どうしたんですか? 何か悪いものでも食べたのでしょうか?」

「そうですよマサキ様。マリンの言うとおりです! 宝を持って帰らないなんていつもの強欲なマサキ様らしくないですよ?」


 心配して俺の顔を覗き込む二人。失礼な奴だ。


「この大量の宝をな、ギルドに持ってったら出所を聞かれるだろ? キールに貰ったとでも言えと? キールがまだ残ってるとばれたら今までの苦労が台無しだ。口惜しいが他の冒険者にくれてやろう。それにいいことを思いついたからな」



 二人に説明した後、小さな宝箱の中に一つ一つ財宝を詰め直し手行った。



「なぁキール、こちら側のお宝はこの部屋のボスを倒したら出るように細工出来ないか?」

「いやまぁ出来るけど……?」

「じゃあそれで。あとは適当に隠しといてくれ」


 キール配下のモンスターに宝箱を運ばせていった。




「これは……神器とか言う奴か? 確かこの世界に飛ばされるときに、あの女神が特典として渡して配ってたものかな?」


 宝の中に、変わった形の武器を発見して呟いた。見た目は滅茶苦茶中二っぽいのだが、錆もせずに飾りまで綺麗に輝いている。


「それは変わった名前の者が持っていた装備だな。彼らを追い返すのは苦労したものだ。その辺の騎士団より手強いやつもいたなあ」


 俺はその武器を手に取り、軽くその辺の物を斬り付けて見る。が、ガキンっと弾かれてしまった。


「おかしいな。以前、その武器の持ち主は一振りで旋風を巻き起こしたものだが」


 キールは不思議そうに言った。


「選ばれたもの以外に使えないようにセーフティがかかっているのかも。普通の冒険者がこの武器を見つけても、この程度の威力ではがっかりするだろう。これは回収しておくか」


 見た目はすごく伝説とかレアとかそういったものを感じさせるデザインなのだが、威力は並みの武器とさほど変わらない。こんなつまらないものを宝にするのはクソゲーだ。そして俺はクソゲーは嫌い。つい壊したくなる。

 その後、他にも数個の神器を見つけ回収しておいた。それ以外にも危険レベルが高そうなアイテムも個人的に持ち帰る事にしよう。




 こうしてキールと共にダンジョンをリニューアルし終えていく。

 それからついにようやく最奥地にたどり着き、お嬢様が眠る墓地へと到着した。


「あとはこの場所が見つからないように、回転扉でもなんでも使って見えないようにすれば完成だな」


 キールと共にお嬢様の寝室に向かう。その小さなベッドの上には一人の女性らしき死体が乗せてあった。


「ちなみにその攫ったお嬢様というのがそこにいる方だよ。どうだね美しい――」

「どうでもいい。それより早く隠し扉を作れ」


 キールがのろけ話を始めようとしたので即打ち切った。


「ひどっ!」


 思わず声を出すマリン。しょんぼりするキール。もうここには用は無い。これでやっと本当の意味で、このダンジョンをクリアできたのだ。


「この部屋にもまだ財宝が残っているな。まぁここの宝は、あんたが本当に浄化されるときに渡してやれ」


 辺りを見回したが、流石にここのものは手を加えずにそのままにしておいた。

 令嬢の自慢をスルーされて悲しがるキールに、マリンが手を置いて慰める。

 そして優しげな表情でキールに告げた。


「私が予言しましょう! いい魔法使いキールよ! あなたの罪は許されますとも! 私には見えます! いつかあなたの元にアクシズ教徒のプリースト……。いえ! アクア様本人が駆けつけ、あなたに救いの手を差し伸べるでしょう! そしてあなたの望みを叶えてくれるでしょうとも!」

「あなたの物語の真実は、責任を持ってこの愛の戦士レイがみんなに教えます! キールがいかに優れ、そして慈悲に溢れた魔法使いだったのか、誤解を解いて回りますね!」


 レイもキールに約束する。


「ありがとう、心優しきプリーストよ。それと愛に生きる乙女よ。そういわれると少し救われた気がする。私もそうなることを望んでいるよ。君たちのおかげでようやく長い戦いが終わった。ではその時が来るまで眠るとしよう」


 キールがマリンとレイにお礼を言った。ってアレ? 二人だけ? 一人この戦いに終止符を打った、偉大な冒険者の名前を忘れてないか?



「それではお休み」


 隠し扉を閉めて、キールに最後との最後の別れを済ました。

 ダンジョンに静寂が訪れる。


「……帰るぞ」


 二人の仲間と共に、俺はダンジョンから撤退する。ダンジョンの内部は把握したため、脱出するのは非常に容易だった。


 

「これでめでたしめでたしだな。」


 少し笑いながらマリンに言う。


「過程にすごく問題があるような気がしましたが……」

「なに言ってんだ? 結果よければ全てよしだろ? 俺はキールと王国の長い戦いを終わらせたんだ。まさに英雄つっても相応しい人物になってきたな!」 


 自慢げに言い返した。


「マサキ様らしい解決法でしたね」

「褒め言葉と受け取っておこう」 


 レイに答え、新しい家となった元キール対策本部へと向かった。

 もうすぐ夜明けが見えてくる。

 朝焼けに照らされながら我が家へと帰った。


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