一部 18話 アウトローズ

 お付きの人達との話は付いた。

 あとは望みどおりラビッシュに不良冒険者としての会話をしてやればいい。

 まずは目を泳がせながら、必死でアルタリアから顔をそむけている彼女を助けてやらねば。


「アルタリア、お前は何か勘違いをしてるぞ。彼女はラビッシュ、この町の有名な裏番さ。一応貴族の端くれであるお前なら、顔くらい見ててもおかしくないさ」


 いまだラビッシュの顔をじろじろ見つめているアルタリアに、適当に説明した。


「そんな奴いたっけなあ? まいっか。マサキがそう言うならそうだったのかも。私はアルタリア。よろしくな!」


 すぐ納得するアルタリア。彼女が馬鹿でよかった。裏番ってなんだよとかそういうつっこみがなくて助かる。チョロい。


「私は貴族の間ではちょっとした有名人なんだ! もしむかつく奴がいたら私に言えよ? ぶっ飛ばしてやっからさ!」

「え、ええ……アレクセイさん。あなたの事は噂でよく知ってます。困ったときはよろしくお願いします」


 キャラ付けを忘れて敬語になってるラビッシュ。相手が同じ貴族だからだろうか? 素が出てしまっている。


「まかせとけ! 相手がなんだろうが関係ねえぜ!」


 まるで舎弟と接するように自慢げに答えるアルタリア。

 多分だが、っていうか絶対ラビッシュの方が家柄の格は上だと思う。

 もしもこの先世話になるならこっちの方だろう。


「まあそれでな、ラビッシュさん。君は、いやこの町の皆は俺の事を要注意人物扱いしてるが、本当はごく普通の冒険者だぞ? 噂ってのは勝手に大きくなるものだよ」


 とりあえず話を適当に続けて満足してもらおう。


「よく言うぜ。マサキってなあ、ここ最近よお! 毎日警察のお世話になってんだぜ? やっべーだろ?」

「人聞きの悪いことを言うなよ。ちょっと警官を脅して留置所に入れてもらってるだけさ」 


 アルタリアが誤解を招くような事を言い出す――いや誤解じゃなくて事実なんだが。


「ぶっ! お前なんてことをやってるんだ! 違う違う……えーとえーと。さすがこの町で私の次に有名な悪党なだけあるな! さすがだぜマサキ!」


 最初は俺に憤ってたが、慌てて悪党設定に戻して褒めるラビッシュ。この女もいちいちめんどくさいな。っていうか俺の近くに集まる女全員めんどくさい。


「アレは仕方ないだろ! どこへ行ってもあの悪霊が追いかけて来るんだ! どんなに閉じ込めても突破される! だから発想の転換だ! 俺が牢屋にいればいい! そうすればさすがの奴も追って来れない! ようやく安眠の地を見つけたんだ! そのためなら多少の罰金なんか安いものさ」


 俺は留置所に入れられている理由をなんとか説明する。そう、俺のパーティーのヤンデレメンヘラ女、レイから逃げるためだ。あのゴキブリ女はどこへ逃げようと僅かな隙間さえあれば入ってくる。

 しかしそんな彼女も法を破る真似は躊躇ったようだ。窓の外から恨めしそうに睨んでくるのは怖いが、それ以上は何も出来ない。


「悪霊におわれてるんですか……いや追われてるのか? だったらプリーストに除霊を頼めば?」

「あのゴキブリアンデッドはプリーストじゃあ倒せないんだ。残念ながらな……。まぁいい。ムショの中が一番安全さ。それに今では警察に顔見せるだけで黙って案内してくれるほどになったぞ! もうお得意様だよ」


 最初は殴りかかなければ公務執行妨害で捕まらなかったが、最近はもう顔パスで中に入れてくれるようになった。警察の方もすっかり俺の事情を理解してくれている。申し訳程度に舌打ちするだけで十分だ。


「悪霊から逃げるためとはいえ……毎日警察の世話になるのも気にしないとは。よし! 私ももっと悪いことをやって一回くらい捕まるぞ!」

「おやめください! そんな事態になれば困るのは警察の方です!」

「ラビッシュ様! こいつは悪党というより人間として大事なものが抜け落ちてます! 真似してはいけません!」


 ラビッシュは俺に対抗心を燃やし、自らも警察に捕まることを望むが、お付きの方々に必死で止められている。


「おいマサキ! ラビッシュ様に余計なことを吹き込むな!」  


 激怒するラビッシュの付き人たち。全く、世話のかかるお嬢様だ。

 少し軌道修正してやるか。


「そうだラビッシュ、俺が警察に厄介になってるのは悪霊に追われているという理由があるからだ。好きでやってるわけじゃない。そもそも簡単にお縄にかかる奴なんて悪党としては下っ端さ。本物の悪党って言うのはそうだな。もっと言動が飛びぬけてないとな。アルタリアを見るといい。彼女からは悪党の振る舞いを学べるぞ」


 いまいちお嬢様気質が抜けないラビッシュに、アルタリアをお勧めしてみた。


「アレクセイさんですか……」

「アレクセイなんてやめな! オヤジに名乗るなって言われてるんだ! アルタリアでいいぜ。ってかよおマサキ? 私のどこが悪党なんだ? ビビられてるのは知ってるがよお。ただモンスターを倒してるだけじゃねえか!? 嫉妬だろ?」


 自覚がないアルタリアは不思議そうに聞き返してくる。モンスターを倒すだけだったらそこまで嫌われねえよ。この馬鹿女め。


「よし、じゃあ2人に問題だ。目の前に閉じたドアがあります。どうしますか?」


 アルタリアへの反論は置いといて、問題形式で答えを見つけることにした。


「ええっと……。まずドアを開けて、入ったらちゃんと閉めます。鍵がかかってたら関係者を探しに行きます」


 至極全うの事をいうラビッシュに対し。


「目の前のドアが閉じてるだと? ぶっ壊すしかねえだろ! 他に何もねえよ!!」


 ドア破壊魔が言い切った。

 さすがは本物の悪冒険者アルタリアだ。俺の望みどおりの答えを言ってくれる。


「わかったかなラビッシュ。真のワルはドアが閉じてようが関係ない。ぶち壊して進むんだ」

「で、でもそんな事をしたら家の人に迷惑では?」

「ではアルタリアさん、どう思いますか?」


 ラビッシュの質問をアルタリアにパスする。


「ドアが閉まってるのが悪いんだよ! この私の前でよお! しまってるとかいい度胸じゃねえか! ぶっ壊す以外あるか!? ああ?」

「だそうだ」


 アルタリアの答えに満足しラビッシュに告げた。


「うっ……そうか! これからはドアを破壊して入ってくればいいのか! わかった! そうすればよりワルの冒険者として有名になれるんだな!」


 納得するラビッシュ。


「では次の問題です。パーティーメンバーと意見が合いませんでした。どうすればいいでしょうか?」


 次の質問に入った。


「それはだな! みんなの意見を聞いて、どちらが正しいかしっかり検討して――」

「決闘だ! 決闘しかない! 勝ったほうの意見に従う! 強いものが正義! それしかない!」


 ラビッシュが答え終わる前にアルタリアが大声でかぶせてきた。


「アレクセイ家に10点! そうだ。真の大悪党は自分の意見を曲げたりしない。反抗するものは力で押さえつける。それでこそみなから恐れられる冒険者になるんだ」


 うんうんと頷きながらアルタリアを褒める。


「で、でももし自分の考えが間違ってたら?」

「そんときはそんときよ! そんときにもう一回考えればいいだろ? 人生運まかせだぜ! ハッハッハッハ!」


 笑いながら言い切るアルタリア。こいつはケンカっぱやいし言うこと聞かないから反論するだけ無駄だ。俺はお願いという方向にして騙し騙し従わせている。

 それはまぁ置いといて。


「悪党に限らず、大物にはしっかりとした自分の意見を持つことが重要だ。間違う時もあるが、それを恐れていては何も出来ない。時には仲間の反対を押し切ってでも動かないとならないときはある。違うかな?」

「……確かに。私も冒険者になった時に父や屋敷のみなから猛反対されたけどなったものな! そうだな! 時にはわがままも必要だな!」


 自分で屋敷とか言っちゃったぞこいつ。本当に正体隠す気あんのか? まぁいいんだけどね。とりあえず納得してくれたようだ。


「じゃあ最後の質問です。目の前でケンカが起きています。どうしますか?」

「勿論仲裁に……」

「皆殺しだあああああ!!! どっちも両成敗だ! まとめてかかってきやがれ!! ぶちのめしてやるわ!!」


 興奮したアルタリアが机に腕を叩きつけて叫んだ。バキっと大音を立てて机が破壊される。このパワーバカはもう駄目だ。知ってたけど。


「まぁとにかくそういうことだ。このアルタリアがいかにヤベー奴なのかはわかっただろう? ラビッシュ、君も彼女を見習えば本物の悪党になれるぞ?」


 壊れた机を眺めながら言った。


「うう……なんて酷いやつなんだ…………。でもわかったぞ! これから私がどうすればいいか! まず扉は破壊して! 文句を言う奴は決闘を申し込んで! 目の前でケンカがあれば2人とも倒せばいいんだな! マサキ、協力ありがとう! 色々参考になったよ! とりあえずこのギルドのドアを壊すことから始めてみるよ!」

 ラビッシュは満足そうに碧眼の目を輝かせながら、ギルドのドアへと向かった。そして剣を抜き、おそるおそるペシペシ叩いている。


「うん、これでめでたしめでたしだな」


 俺は彼女を『説得』出来たことに満足していると。


「おいマサキ、面かせや」

「うちのお嬢様になに吹き込んでるんだ」


 ラビッシュの付き人たちに肩をつかまれた。


「ま、待てよ! お前達があの世間知らずのお嬢様と話せって言ったんじゃねえか! 何が不満だ! おい放せえ!」


 その後捕まって路地裏に連れて行かれた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「で、出ましたよ! 本当に出ました! これでマサキ様と温浴ですね! クヘヘヘ!」

「だから私の予言は正しいといったでしょう!? アクア様! いつでもアクセルにおいでなさってください! このアクシズ教プリーストのマリンめが、温泉をご用意しております!」


 ――追伸

 マリンとレイは無事温泉を掘り当てたらしいです。


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