一部 19話 悪の目覚め

「おのれえええええええええええ!!」


 やっと謹慎期間が終わった俺は、早速クエストに向かうが。


「許さんぞ! この町の冒険者め! この代償は高くつくぞ」


 粉々に破壊された俺たちの狩り場を見て叫んだ。


「これはひどいですね。魔法を使用した後もあります」


 自慢の岩のアーチは崩され、周りを囲んでいた岩も全て粉々にされていた。マリンが現場を観察して残念がる。


「許しません! マサキ様の! いや私たちの場所を壊す奴はこの私の炸裂魔法の刑です! 容疑者はこの町全員です!」

「どこのどいつかわからねえが! 片っ端からぶっ殺してやるぜ! やろうぜマサキ!」


 同じく怒りに満ちているしているレイとアルタリア。今にも冒険者に襲い掛かりそうだ。

 そんな彼女たちを見て、俺は少し冷静さを取り戻して言った。


「フッフッフッフ、ククク。やってくれたな。この徹底した破壊の後からして、やったのはそれなりの腕の冒険者のようだ。それも一人や二人じゃないな。複数人で計画的にやったみたいだ」


 破壊された自慢の狩場を見て呟いた。


「まぁいい。済んだことは仕方がない。『オペレーションα』は封印だ。最初の、『フォーメーションΔ』でクエストを受けるとするか」


 もうあの戦法は使えない。オペレーションα――四人でモンスターを追い込んで効率的に倒す方法は。これからは地道にやっていくしかないだろう。


「マサキ様! いいんですか!? こんな真似をされて黙っておくんですか!?」

「泣き寝入りなんてマサキらしくないぜ?」


 レイとアルタリアが反論する。


「……悔しいです」


 マリンですらそう言っている。


「元々は俺達がモンスターを狩りすぎたのが原因だ。恨みを買ってしまったのが悪い。これからは他の冒険者に目を付けられないようにほどほどにやっていこう。今やり返しても悪者になるのはこっちだ」


 そう仲間達を説得する。

 だが。


「だが! この代償は高くつくぞ! この町のクズザコ冒険者どもめ! 覚えておけ! 必ず復讐してやる! 必ずだ! 誰にケンカを売ったのか思い知らせてやる! そうだ、別の方法でな! フン」


 この町の奴らへの復讐を心に誓いながらも、討伐クエストへと向かった。




「さあ追いかけて来い!!」


 アルタリアがデコイスキルでモンスターを誘き寄せている。


「ここからは私が!」


 マリンがそれを引き受け。


「食らえ! 炸裂魔法!」


 レイの魔法で足が止まったモンスターを吹き飛ばす。レイの炸裂魔法は精度が上がっている。仲間と至近距離で放っているにもかかわらず、モンスターだけを見事に撃破していく。


「死に底ないめ」


 俺はボウガンで少し離れた場所からまだ息のあるモンスターを狙って撃つ。

 この世界には狙撃スキルというものがある。

 もちろん俺もそれを習得しているのだが、命中率の高さは幸運の高さに左右されるらしい。運が強ければ弓を使ったことがない人間でも遠距離からそこそこ命中することが出来るそうだ。

 しかし俺の幸運は並だ。だから命中率が安定するボウガンを使っている。連射出来ないがこの際仕方がない。


「よし、いったん休憩だ! 昼にしよう。アルタリア、戻って来い」


 モンスターを引き寄せる役目のアルタリアを戻らせた。


「オラア! いいぜ。久々に暴れれてスカッとしたぜ!」


 アルタリアが死に掛けのモンスターの頭に剣を振り下ろし、帰ってきた。


「よく言うよ。毎日勝手に暴れまわってたくせに」


 そんなバーサーカーにつっこんだ。


「アレは違うって! やったのはダグネスだって! あとラビッシュ!」


 謹慎期間中も、知り合いの名前を騙って暴れまわっていたアルタリア。結局誰一人騙せずすぐ捕まってたが。


「それにしても、『フォーメーションΔ』のほうも中々形になってきたな。昔はアルタリアが深追いしすぎたり、マリンが自分の防御力を過信したり、レイの魔法が味方にあたりそうになったりと大変だったが、今では3人それぞれ自分の役割を果たしている」

 岩のアーチを使ってモンスターを一まとめに片付ける『オペレーションα』には遠く及ばないが、そこそこの成果を上げていることに感心した。


「こんだけ長く一緒のパーティーにいたのはお前達くらいだからな! そりゃ慣れるぜ」

「私の役割はモンスターを食い止め、そして弱った仲間を回復させることです」

「マサキ様の作戦通りに従えば何も問題はないのです」


 3人は自慢げにそれぞれ答えた。


「俺もちょくちょくフォローに向かってるが、その内俺無しでも回りそうだな。今回も殆どやることなかったし。おかげで経験値があまり入らないよ」


 散らばったモンスターの死骸のなかで、俺の倒したモンスターはほんの数匹しかいない。


「申し訳ないですマサキ様! すぐに弱らせたモンスターを用意します!」

「いいんだレイ。自分の策が上手くいったことで満足だがら気にはしてないぞ」


 気を使うレイにうなずいて言った。


「それにしても……やっぱり無用心だな」


 そんなことより、目の前に転がっているモンスターの死骸の方が気になった。


「なにがです? マサキ様?」

「倒したモンスターをそのまま放置していることさ。俺達は確かにこいつらを撃破した。冒険者カードにそれは表示されている。だが奴らの価値は経験値だけじゃないだろう。その死骸をギルドが買い取り、それも報酬になる。もし死骸がなくなってたらどうするんだ? クエストの料金だけしか受け取れないじゃないか?」


 俺がネトゲをやっていた頃には、誰かがレアモンスターを倒している現場にハイエナのように忍び寄り、素材をパクった後オフラインに逃げるという行為をする奴がいた。もちろん俺もやってた。この世界では無限に入るアイテムボックスはない。死体を運びながらクエストを続けることは出来ない。すなわちギルドの買取が来るまでやりたい放題だ。


「そんなことをする人なんていませんよ。もしバレたら大変な目に合いますからね」


 マリンが正論を言った。だがそれは逆に、バレさえしなければ問題ないということだ。


「それもそうだな。忘れてくれ。じゃあ午後も張り切っていこうか!」


 昼休憩を済ませ、次のクエストへ向かうことにする。


「思ったより早く、あの蛆虫どもへの復讐が出来そうだ」


 仲間たちと次のモンスター討伐に備えながらも、俺は小声でほくそ笑んだ。



 ――夕方。

 俺は用事があると仲間につげ、一人で目的の場所へと向かった。


「相変わらずドアを閉めきりやがって! てい! 出て来い!」


 向かった先はアルタリアの実家、アレクセイのオンボロ屋敷だった。


「俺だ! 旦那! アルタリアの仲間のサトー・マサキだ! 話がある! 出てきてくれ!」


 ドアを破壊して強引に進入し、叫ぶ。


「な……なんだ! お前か? 何の用だ!? 娘の返品ならお断りだぞ?」


 おそるおそる奥から出てくるアルタリアの父親。


「違うぞ! 今回は話し合いに来た! アルタリアは関係ない! ビジネスの話だ!」


 アレクセイの旦那に告げる。


「ビジネスだと? 前も言ったと思うが、このワシは潰れる寸前の貧乏貴族だ! 金なんてないぞ?」


 言い返す旦那に。


「旦那から貰いに来たわけじゃない。そうだ旦那、あんたは腐っても貴族だろう? これを買い取ってくれる商人のツテはないか?」


 そういって俺が差し出したのは、今日倒した一撃熊の掌だった。


「……一体何を持ってきたかと思えば。一撃熊の掌だと? それならギルドに買い取ってもらえばよかろう?」


「ギルドじゃあ駄目だ。ギルド以外での取引先が欲しいんだ」


 この取引はギルドに知られる訳にはいかない。別の商売ルートが必要だ。


「無いことはないが……。ギルドに行くのが一番高値で買い取ってくれるぞ? なにしろ冒険初心者の育成のために国から補助金が出ておるからな。それでは不満か?」


「多少安く買い叩かれてもいい。重要なのはギルドに気付かれないことだ。そうだな、盗品を取り扱っていることもある、ちょっと裏社会で名の知れてるところがいいな。旦那、紹介してくれるか?」


 金額は問題ではない。ギルドで捌くのが一番安全で金になるのは百も承知だ。だがそれでは駄目なんだ。 

「お主は一体何を企んでおるんだ? まさか違法なブツを仕入れたとか?」

「違う! 俺もそこまでやる気は無いよ。とりあえずはこの熊の掌だ。言っておくが扱う商品はいたって普通のものだ。もちろんこの先も。違法なものなどない! ただギルドに知られると……税金とかうざいだろ? 金の流れが筒抜けだろ? それを防ぎたい。なに、ちょっとした小遣い稼ぎさ」


 旦那に違法性は無いと強調して説明する。


「それをやったところで、ワシになんの得があるのだ?」

「その質問を待っていたぞ! 旦那! 俺のこの先の小遣い稼ぎのうち、何割かを旦那にやる。悪い話じゃないだろう? ただツテを教えてくれるだけで金が入るんだ。前言ってただろ? 借金があるって。金に困ってるんだろ? 俺と旦那、双方が得をする取引だ。俺はギルドにバレない金が欲しい、旦那は借金を返せる! 特しかないじゃないか!」


 俺は必死にアレクセイの旦那に利益を強調する。


「なるほど。本当に違法なものじゃないんだな? 今のアレクセイ家でそんなことがばれたら、簡単に取り潰される。それならば紹介してやるぞ」

「ああもちろんだ。物自体は普通の品だ。それは安心してくれ。では交渉成立だな。まずは試しにこの一撃熊の掌を売りさばいて見てくれ。頼むぞ」


 アレクセイ家の旦那を仲間に引き入れことに成功した。だがまだ困難はこれからだ。俺の事業は始まったばかりに過ぎない。

 その後俺の持ってきた一撃熊の掌は、相場の7割の値段で売れたのを確認した。


「おのれあいつらめ! 足元を見おって!」

「気にするな旦那。これからも色々持ってくる。一つ一つは安くても量があれば大金になる。まあ待っていてくれ」

  激怒する旦那を抑え、計画の第一段階が上手くいったことで俺は満足し、町へと帰ることにした。




 今日も3人の連携は冴えている。次々とモンスターを打ち破っていく。おかげで俺はやるこがなくて暇だ。そう、暇が出来た。


「お前達ご苦労。もう俺がいなくても大丈夫だな。というわけで少し町へ戻ってくる」


 そういって3人と別行動をすると。


「マサキ様! そんなことはありません! 私達はあなたがいないと駄目です! そんなこといわないで下さい!」


 レイが悲しそうな顔でくっ付いて来る。


「今回もマサキの援護が無ければやられていましたし」

「そうだぜマサキ、この連携はそもそもお前が考えたんだろ? お前がいないと意味ねえだろ?」


 レイだけでなくマリン、アルタリアまでが俺の事を気遣ってフォローしている。マリンの言葉は嘘だ。俺が援護しなくても彼女はモンスターの接近に気付いていた。

 彼女たちの連携はもう俺の手を離れている。それが事実だ。それに対し悔しくも無い。むしろ自分の考えが上手くいったので誇らしいくらいだ。


「お前達、何か勘違いをしているようだが、俺は全然気にしてないぞ。こうなることはむしろいい事だ。まぁたまに、ほんとたまに危ないときがあるから、俺も手を貸すがな。あと今から町に戻るのは理由があるんだ。俺達の狩場を破壊した犯人を突き止めようと思ってな。むしろ暇が出来て嬉しいんだぜ、俺は。捜査の時間が出来たからな」


 彼女たちに笑いながら説明した。


「そういうことでしたか。じゃああの犯人を見つけてください!」

「なるほど、ではクエストのほうは私たちに任せてくださいな」

「なんだ、てっきりマサキは自分の役目が無くてすねてると思ったぜ」


 3人はそんな俺の言葉に納得してくれたようだ。手を振って町へと戻る。

 だが嘘だ。狩場を破壊した犯人を捜すなんて嘘だ。町に行く本当の目的はそれじゃない。俺の計画を第二段階に進めるためだ。


「さぁ、次の駒を捜さないとな」


 俺はアクセルの町へと戻り、周辺を見渡した。

 冒険者といっても、現実には日雇いの労働者のようなものだ。現実世界で言えば底辺の仕事だろう。まともな冒険者もいれば、どうしようもないクズもいる。むしろ昼間っから飲んだくれているようなクズはその辺に溢れている。

 俺はそんな彼らを観察する。そして見極める。この先の計画に使えそうな、それなりの体力を持ち、そして金に従順な。なによりも重要なのは、人生を諦めて悪いことをしても良心がまったく痛まないような終わってる輩だ。

 俺の貰った魔道具の眼鏡、『バニルアイ』を使ってそいつらを見極めていく。


「あいつと、あいつと、あいつは使えるな」


 眼鏡のスイッチを入れて目星を付けていった。クズの中のクズを心の中で選抜していく。そうしているうちに、日が暮れてきた。


「そろそろ戻るか」


 再度町を出発し、仲間たちの下へと戻った。


「マサキ様! どうでしたか? 犯人は見つかりましたか?」

「うーん、やっぱり駄目だったよ。特定は難しいな。それよりお前達、今日も頑張ったみたいだな。よくやったよ」


 どうやら今日も大量のモンスターを仕留めた様だ。レイの頭をなでて褒める。




 ――そろそろ計画を第二段階へと進めよう。

 俺は全身を黒いローブで包み、顔がばれないようにマスクをし、最近目星をつけていたクズの中のクズ共を集め声をかけた。


「なんだてめえ! 俺たちに何の用だ! ぶっ殺すぜ?」

「変な仮面付けやがって! ぶち殺してやる」

「なにもんだてめえ! そのボロローブを這いでやる! 姿を見せろ!」


 今にも殴りかかってきそうな冒険者達のクズ共。いいぞ。素晴らしい。俺はこんなクズを求めていた。


『君たちに用があってきたのだ。悪い話ではない。儲け話だ。私の仕事を手伝って欲しい』


 マスク越しに声を上手く変えながら、クズ共に話しかける。


「んだとこらああ! 嘘付け! いいから有り金全部よこしな!」

「まずは顔を見せてみろ! ああん?」


 血気盛んな荒れくれのクズ共。そんな彼らに俺があまり動揺しないのは、毎日アルタリアという暴れん坊を連れているからだろうか。あいつを上手く制御するのは大変だったが、今度も同じ要領でいけばいい。


『信頼してもらえないのも無理はない。だが私に付いてくれば、多くの金を手にすることができる』


 正体がばれない様になんとか説得しようとするが。


「うるせえ! ぶっ殺してやる! こっちはアルタリアのせいでまともに暴れることも出来ねえでイライラしてんだ!」

「あいつは揉め事を見ると決闘を仕掛けてくるからな! やり辛いったらありゃしない!」

「こんな人目の少ないところに呼び出したお前が悪いんだ。何者かはしらねえがくたばって貰うぜ」


 全く言うことを聞いてくれないチンピラたち。まぁいい。それも想定済みだ。

 だが以外なこともあった。アルタリアの暴走がこんな所で役に立っているとは。あいつが無差別に暴れまわるのも悪いことばかりではなかったらしい。無意識に治安維持の役目をしているとは。

 それは置いといて。この目の前の輩をバインドで拘束してやってもいいのだが、それでは意味がない。最初は平和的に行かねば。


『ここに金がある。これは前金だ。君たちで分けてくれ』


 俺は懐からエリス金貨の入った袋を取り出した。


「ああ!? っておい! この中結構入ってるぜ?」

「本当だ! おいよこせ! 俺のもんだ!」 

「おいそこのフード! 一体なにもんだ!?」


 金を見せるとすぐに飛びついてくる。そういう奴らを集めたのだから当然か。


『これはくれてやろう。言っただろう? 前金だと。だが私に従えば、もっと多くの金を出してやろう。どうだ? やるか? やらないか?』


 金貨袋を見せびらかしながら再度尋ねる。


「てめえを殺して金だけ奪うってのはどうだ?」

『それも一つの道だ。だがそうすればお前達が得るのはこの金貨袋だけだ。もし手伝ってくれるなら、さらに報酬を与えよう。そのチャンスを逃すことになる』


 そんな輩に冷静に答えた。


「いいだろう。なにをするかしらねえが手伝ってやる! だが話を聞いてからだ。刑務所に入るような真似はごめんだぜ?」


 さすがにこんないい話には裏があると悟ったのか、警戒心の強いチンピラが聞いてきた。


『わかっている。この先やってもらう事は法を破っていない。今のところはな。安心するがいい。それに安全だ。保障しよう。契約成立ということでいいんだな? ではこの金を受け取れ。仲良く分けるがいい』


 チンピラ冒険者に金貨袋を手渡した。


「ところで、あんた、顔を隠しているが、名前はなんというんだ?」


『我らのこれからの活動は、死肉をあさることになる。そう、まるで烏のように。……私の事は八咫烏と呼ぶがいい。よし、ついてこい!』


 フードを被ったまま、町の荒れくれ共を引き連れて町の外に出た。



「おいお前! まさか俺達にモンスターを倒せとか言うんじゃないだろうな! それで稼げるならとっくにやってる! わかってんのか!?」

『勿論だとも。君たちにそんな危ない真似はさせない。ただ見るがいい。町の外には、他の冒険者が倒したモンスターの死骸が散らばっている。それを集めてもらいたい』


 文句を言うチンピラに命令する。


「ああ? モンスターの処理はギルドの役目だろ? なんで俺達がこんなことをしなければいけねえんだよ!」


 早速不満を漏らす彼らに。


『そうだ。本来ならな。モンスターの死骸を引き取るのはギルドの役割だ。それを買い取り、売りさばくのも。そこで私達は、そんなギルドのお手伝いをしてやろうというわけだ。ではこれから仕事を説明する。よく見ておけ』


 俺は懐からナイフを取り出し、モンスターの死骸に手をつける。そして剥ぎ取っていく。


『いいか、爪や牙、目玉や角はそこそこ高く売れる。肝もいいな。それを剥ぎ取ってもらう。安定して儲かるのは毛皮だが、それは時間がかかるから手をつけなくていい。とにかくこうやってモンスターの体で金になりそうな部分を削り取るのだ』


 俺はこれからの仕事を実演で説明しながら言った。


「はぁ? でもよお、モンスターの買取はギルドがやってるんだろ? こんなことしてギルドがありがたがってくれるとでも? 俺達はなんだ? ボランティアか? こんなことで金が出るわけねえだろ!」


 不満をたれるチンピラ冒険者。 


『その通りだ。君の言うとおり。このままギルドに持っていけばただのボランティアだ。だがギルド以外に持っていけばどうなる?』

「ギルド以外にだと?」


 俺の質問に首を傾げるチンピラ。


「まさか! あんた他人の倒したモンスターの素材だけ売りさばくつもりか?」

『勘のいい奴もいるじゃないか。そうだ。私にはギルドとは違うツテがある。そこでここで剥ぎ取った素材を売りさばく。どうだ? ここに散らばるモンスターの死骸は、私たちにとって宝の山だろ? ギルドは愚かにも、倒したモンスターを奪ってはいけないと法に定めていない。ではみなも手伝ってくれ』


 ここで俺の計画を彼ら全員に理解させた。他人の倒したモンスターを横取りするのはいいが、それには人手がいるのだ。ゲームのように無限ポケットがあればいのだが、あいにくこの世界にはそんなものはない。だから代わりに冒険者のクズたちを動員し働かせる。


「へっへっへ、あんた、中々のワルじゃねえか。気に入ったぜ」

「まさかこんな方法で金儲けできるなんてな。疑って悪かったよ」


 もくもくと作業をこなしていく配下たち。


「よし、もういい! 作業を中断し、一度撤退するぞ!」


 生き生きと仕事をこなす彼らにストップをかけた。


「なんでだ!? まだ途中じゃねえか! もっといっぱい奪い取ろうぜ?」


 首を傾げる部下達に。


『そろそろギルドから回収屋が来る。私はギルドの死骸回収がどの順番で来るかここ最近調べていた。奴らが来る前に撤退しなければならん。もうすぐここに来る時間だ。では次の場所に行くぞ!』

「そ、そこまで調べてんのか……。あんた凄いな」

「ボス! あんたは俺達のボスだ!」


 部下達の信頼を得た俺は、こうやって次々と死骸の横取り行為を繰り返した。



『よし、今回手にした素材はこのボロ屋敷の中にほおり込んでくれ』


 素材を集めたチンピラたちを、アレクセイの屋敷に案内する。


「なんだここ? 本当に人住んでいるのか? ただの廃墟じゃねえか?」

『廃墟だからこそ、誰も気にしないというわけだ。では一時解散。今回の報酬は出来高次第だ。後で渡そう。また招集をかける』


 疑問を浮かべるチンピラにそう別れを告げた。まぁ前金は十分すぎるほど渡したので、文句は無いはずだ。


「じゃあな! ちゃんと払えよ!」

「もし呼ばなかったら全部ばらしてやるからな!」

『前金は渡したはずだ。だが勿論払うとも。わかっていると思うが、このことは誰にも言うなよ? また会おう!』


 チンピラ達が帰っていくのを見届けた後、屋敷の中に入った。


「アレクセイの旦那! 俺だ! サトーだ! 出て来い! どうだ? この量はたいしたものだろう? これなら高く売れるぞ?」


 俺は仮面とフードを取り、部屋の奥で隠れているアレクセイの旦那を呼び出す。。


「なんだ! お前か! いや確かに凄い、凄い量だが……あの輩はなんだ? それにこれはどこから持ってきた?」


 俺の声を聞いておどおどと姿を見せるおっさん。


「あいつらは町で暇をしてたゴロツキさ。金を渡せばなんでもするクズ共だ。どこから持ってきただって? 細かいことは気にするな。旦那はただ商品を売ればいいんだよ。さああの商会を呼び出してくれ。これからも色々持ってくるからよろしく頼むぜ。ちゃんと手数料と場所代は払う。安心してくれ」


 旦那の質問に答えながら、新しい事業が成功することを確信した。準備は終わった。ギルドの知らない商売ルートに、死骸を持ってくる運び人。そして取引の場所はこのアレクセイ邸。一見廃墟にしか見えないのが好都合だ。

 復讐の時間だ。この俺、かつて7つの世界から追放された伝説のチーター、サトー・マサキ様の逆鱗に触れればどうなるか。町の奴らの心にしっかりと刻み付けてやる。

 さぁ悪のゲームの始まりだ。

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