一部 16話 ベルディアとの友情
今日もオペレーションαは大成功だった。多くの討伐クエストをまとめて受注し一気にモンスターを片付ける。四人のチームワークを駆使すればその辺の弱い魔物なんてチョロいものだ。
今回はレイやマリンの魔力がもう付きかけそうな為、早めに切り上げることにした。
「大量のモンスターを経験値にしてやったな。このまま順調に行けばこの近場のは全部駆逐できるんじゃないかな?」
俺は成果に満足し、気分上場で帰路についていると。
「ふと思ったんですが、マサキ様って男友達とかいないんですか? 同性の友達がいない男の人って、性格に難があると聞いたことがあります。彼女として心配になりますよ」
「ああ?」
急にそんな事を言われ、レイの疑問に思わずイラっとくる。っていうか性格とかお前には言われたくねえ! 鏡見ろ鏡!
「そういわれてみれば……私達以外とつるんでるの見たことないですね」
マリンまで俺にそんな言葉を投げかけてくる。
「それに私、マサキ様との結婚式は盛大にやりたいんです。身内だけの静かな挙式なんて嫌ですよ! 私たちの幸せな姿を町……いや国全体に見せ付けてやるんです!」
レイとの結婚式、いやそもそもヤンデレとの結婚なんて死んでもごめんだが、それはともかく。
「言ってくれたな! よくもそんな言葉が言えたもんだ! 誰のせいだと思ってる!? お前たち問題児三人とつるんでいるせいで俺まで腫れ物扱いだぞ! 俺に友達がいないのは間違いなくお前たちのせいだ! それを!」
日頃から文字通りギルド内で恐れられている三人の女たち。彼女たちとパーティーを組んでいる俺もセットでのけものフレンズ扱いされているのだ。
「でもマサキはそれを利用してカツアゲしてましたよね。あのせいであなた自身の印象も悪化したと思いますよ」
「ぐっ」
マリンに痛いところをつかれる。
かって俺は上級職の美少女に囲まれた最弱職冒険者パーティーの噂を流し――それを馬鹿にして悪口を言ってきたやつに目をつけては――「代わりたければ代わってやるよ!」とマリン、レイ、アルタリアを見せつけた。
そこで向こうが謝罪してきたら慰謝料を請求する。結果なぜか所持金が増えるという不思議な事があった。
…………。確かに俺にも悪いところはあったかも。
いや悪いな。アレは悪そのものだったかな?
「ちなみに私は普段エリス教会に泊めてもらっているので、そこで他のプリーストや運ばれてきた怪我人たちと交流があります」
「それはおかしいですね。アクシズ教徒とエリス教徒は犬猿の仲と聞きます。エリス教会に石を投げつけるのがアクシズ教徒の日常だと聞きましたが……」
自慢げに語るマリンにレイが不思議がる。
「オホホ……ではなくプークスクス! プークスクス! 確かに! 普通のアクシズ教徒であれば、エリス教徒を貶めて、その信者を掻っ攫うのが正しい活動でしょう! ですがこの預言者である私マリンは! いずれアクア様が降臨なされるであろう、このアクセルの町をなるべく快適にするという天命があるのです! 布教が目的ではありません! ですからこの町のエリス教徒と対立するつもりはありませんよ!」
そう説明するマリンだった。いや、マリンの同僚は石を投げつけたりするのかよ。そこは否定しないのか。
アクシズ教徒って本当になんなの? 魔王よりこのカルトを倒した方が世のためなんじゃないか?
俺はマリンを見て少し不安になってくる。マリンは他の二人に比べて確かに常識人だが、たまに理解できないことを言い出すときがある。とくにあの女神が絡むとろくなことを言わない。そのときのマリンを魔道具の眼鏡で覗くと、真っ赤に警告の文字が出る。やっぱり三人とも危険人物なのは変わりない。
そんな事を考えていると今度は。
「実はマサキってぼっちとか? まぁ安心しろよ! 私らが付いてるからよ! 寂しかったらいつでも相手してやるぜ?」
そう言って俺の頭を撫でようとしてくるアルタリア。身長は彼女の方が高いので見下ろされる形になるのだが。
「同情するな! そもそもアルタリアなんか友達とか絶対いねーだろ! 学校中退の癖に!」
頭の上に乗せられる手をかわして言い返す。
「はあ? 私にはダグネスがいるじゃねえか。 だからセーフだ」
「ぐっ!」
くっそう。確かに! 名門貴族の友人がいるってのは羨ましい! 言い返せない! 俺だって欲しいよ! 貴族のコネとかめっちゃ欲しい! 大きな権力をバックに色々好き勝手やりたい!
アルタリアもダクティネス家の力を使えばもっと上にいけるはず……。いや違うか。ダクティネス家のおかげで一族が取り潰しになるのをかろうじて許されてるのか。この女はすでにコネを使ってやっと冒険者に留まっていられるのか……。
もし俺にダクティネス家のコネがあれば……もっと色々出来たはずなのに! 例えば貴族達の集まる食事回に参加できたり、名家の名の下に地方の賊を懲らしめたり、少し変な性癖を持つ貴族の娘をロープで縛ったりと。
ひょっすれば王家の姫に、有力な次の勇者候補として顔を覚えられることもあったかもしれない。
それをなんてもったい使い方をしてるんだこの女は。
「ちなみに私はですね……」
「聞いてない。喋らなくていい」
レイが何か言いたそうだったが無視した。
「私は勿論同性の友達なんていません! だってもしいたら絶対に私の運命の人であるマサキ様に惚れてしまうかもしれないじゃないですか。マサキ様は老若男女どころかモンスターをも惑わすスーパーイケメンですからね。女性なら誰しも振り向かざるを得ないでしょう! でも残念ですが、マサキ様は私のモノなんです! 周囲から羨望と嫉妬の目で見られるこの私。最高の気分です。そしてその嫉みがこの私をより強くする。ああそういえば友達の話でした。女友達なんていたら絶対マサキ様と会わせられませんね。でもそれでも私の愛しい人から流れるカリスマオーラに惹かれてどうしてもその子はマサキ様を見に行くんです。そしてインキュバス並の魅力があるマサキ様に一目ぼれするのは間違いなし。そして私からマサキ様を奪おうとします。あの泥棒猫め! 許せませんね! もう目をくりぬくか殺すしかないじゃないですか! 絶対に許せない! 私からマサキ様を奪う奴は絶対に許せない! どんなに仲のいい友達だろうと私は殺ります! そこだけは引きません!」
「喋るなと言っただろ! お前の妄想には付き合ってられるか! っていうかまた俺の設定がブレてるじゃねえか! お前の瞳に映るマサキ様って一体どんなスーパーマンなんだよ! あと妄想でキレるのはやめてくれ。マジで怖いし困るから」
いきなり長々と語り始めて、その上妄想で作った女友達に対してマジギレしているレイにドン引きする。
「はぁ、はぁ。だから女友達なんて嫌い! 大嫌いです! そんなの必要ないんです! 敵なんです!」
「わかった。お前に友達なんていないのわかってるから。わかってるから頼む落ち着いてくれ。現実に戻って来い」
まだ興奮しているレイを落ち着かせる。
「とまぁ私には女友達は必要ないんですよ」
「わかってる。わかってたよ」
妄想トリップを止めたレイはいつもの調子に戻った。
「まぁマサキ様に女友達が出来たら全身全霊をかけて潰してみせますが、男ならその限りはないです。マサキ様と運命の糸で結ばれてる私はいいのですが、マリンやアルタリアは嫁の貰い手がいなさそうですからね。紹介して貰えばいいじゃないですか」
「なんだとレイ! 言いやがったな! 私だって男の一人や二人! 軽くぶっ飛ばしてやるわ!」
レイに煽られて言い返すアルタリア。……いやなんでぶっ飛ばすんだよ。いつから戦いの話になった?
「私は女神アクア様に使える聖職者の身です。ですから恋愛なんて二の次ですわ。そう! 全てはアクア様のために!」
一方マリンは恋など眼中にないと言った様子だ。
「フッ。そんな強がりを。まぁ安心してください。マサキ様との結婚式にはあなた達二人も招待してあげますよ。曲がりなりにも同じパーティーを組んだ仲間ですからね。それくらいの情けはあります」
鼻で笑いながらレイは二人に上から目線で告げた。
「そもそもマサキに友達なんかできるわけねえだろ! だってこいつ普通に外道だし!」
「アルタリアさんの言うとおりです。だってマサキはいつも悪いことばかり企んでいますから。まともな人は近寄らないと思います。いたとしても同じような不逞な輩でしょうね」
彼女たちは話しているうちに、なぜかディスる矛先が俺のほうに向かった。っていうかブーメランだぞ。お前らもその不逞な輩に入ってるからな。
「それもそうですね。でももしマサキ様に友達が出来なくても私は付いていきますよ。だって運命の人ですから」
レイまで! さっきまで俺の事を老若男女から好かれるとか言っておきながら……。いやあれは本当に俺の事なのか? あくまでレイの妄想の中の俺だから違うのかもしれない。
「ぐううう! 待ってろお前ら! 見せてやる! すぐにこの俺が最高の、まともな友達を作って紹介してやる! 吠え面かくなよ!」
そう三人に捨て台詞をはいて俺は町の中へ走り去った。
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「とはいったものの……同性の友達かあ。どうせならこっちにも利益になる人間がいいよな」
誰かいないか。貴族じゃなくてもいい。それなりにこの街で顔が利く、俺達がまた何かしでかしたとき後ろ盾になってくれそうな奴がいれば。
「そんな都合のいい人間がいるわけねえよな……」
そもそもあの3人と一緒のパーティーに居る時点で、この俺も冒険者としてはぐれものだ。今まで誰にも制御できなかった街の問題児達をなぜかまとめているため恐れられている。っていうか押し付けられたんだけど。
そのせいでみんなこの俺にもあまり関わりたがらない。まぁマリンの言うとおり、それを利用してカツアゲしてた自分の方にも問題はあると思うけれどもね。
だがあの三馬鹿にああ言い切った以上、なんとしてもまともな友人を紹介しなければならない! あの馬鹿どもに舐められてたまるか! もうこの際普通の冒険者でもいい。誰か居ないか。
「ん?」
「隊長! お疲れ様です!」
「ああ、では俺はこれから休憩に向かう。お前達、決してモンスターを中に入れるなよ。怪しいものがいないか目を光らせておけ!」
友達候補を探しに街をブラブラしていると、いかつい鎧を着た騎士たちに遭遇した。アクセルを守る騎士の番人たちだ。その中の一人が俺の姿に気付く。
「……! き、貴様はたしか!」
全身鋼鉄のアーマーに身を包んだ男に声をかけられた。
「あ、どうも」
こいつは確かダグネス嬢の護衛の騎士で、リーダー格だった男だ。たしか名前は……。
「俺の名はベルディア。この前はよくもダクティネス卿にあのような真似をしたな! もし天下のダクティネス家の者が俺の護衛中に死傷したとなれば! 俺達騎士団もまとめて処刑されてもおかしくないんだぞ!」
そうだベルディアだった。そういえばあの時は本気でヤバイと思ったな。まずアルタリアが名家の貴族にタメ口で話しかけたときは本気でビビッたし、いきなり決闘を申し込んだときも生きた心地がしなかった。アルタリアがダグネス嬢を木刀でぶっ叩いたときは死を覚悟したぞ。
ダグネス嬢が思いのほか頑丈で助かったが。
「これはどうもベルディアさん、私の名前はサトー・マサキと言います。あの時はうちの連れが迷惑をおかけしました。俺もまさかアルタリアがあんなことを仕出かすなんて想定外だったので」
俺は敬語でこの前のことを謝罪する。ここで言い返したりはしない。無益な争いを起こすのは愚か者がやることだ。
「次は無いぞ! ダクティネス卿とお前のところの狂戦士が知り合いだったからよかったものの! 今度またあんな真似をしたらその場で斬り捨ててやるからな! わかったなこの人でなしが!」
「すいませんでした。今後は『バインド』でちゃんと拘束しとくんで。アルタリアは動けないように閉じ込めておきますんで!」
俺はペコペコと謝りながらふと考えてみる。この目の前にいる騎士の男、ベルディアはこの街アクセルの護衛隊長的な存在のようだ。平たく言うとここで一番偉くて強い人だ。もし彼と仲良くなればこの街での生活が楽になることは間違いなし。
だがどうすればいいだろう。相手の俺に対する印象は前回の決闘事件のせいで最悪だ。なにか突破口はないものか。
そうだ、久しぶりにこのチートアイテムを使ってみよう。
見通す眼鏡――通称バニルアイ。コレを使えば人の本性が浮き彫りになる。完全ではなくあくまで断片的なものだが。もし弱みでも握れればこっちのものだ。
早速スイッチを入れ、ベルディアをスキャンした。
「……面白い!」
そこに出てきた言葉に満足し、俺はニヤリと笑う。これなら俺に
「なんだ! ジロジロと睨みやがって! なにか文句があるのか!」
「いえいえベルディアさん。なんでもありません。そうですね、ここはこの前のお詫びになにか奢ります。いい店知ってるんですよ。ぜひ案内しましょう」
手でゴマスリをしながら、少し強引に騎士隊長を連れ出した。
ベルディアを案内したのはとあるオープンカフェだった。
「貴様! 仮にも騎士の身であるこの俺を! こんな粗末な店に連れてきやがって!」
彼の言うとおり、ベルディアを連れてきた所はお世辞にも立派とはいえないカフェだった。ここのコーヒーが特別おいしいとかそういうわけもなく、よくある普通のカフェだった。雰囲気も普通! マジで普通!
「ベルディアさん、この店は値段もお手ごろで、まあ味もそれなりですね。特に名物料理とかは無いです。可もなく不可もなくといった感じでしょうかね」
この店について紹介していると。
「くだらない! 俺は帰らせてもらう!」
「ちょっと待ってください。ここからが本番ですよ。この店はきっとあなたも気に入ると思いますからね」
ニヤリと笑みを浮かべ、帰ろうとするベルディアを引き止める。そう、俺の狙いはこの普通のカフェの食べ物なんかじゃない。注目したのはその立地だ。地の利を得たものが優位になる。
「ほら見てください。この店からは街の様子がよく見えるんですよ」
「それがどうした?」
うんざりしたような声で帰ろうとするベルディア。表情はわからない。だってずっとマスクを被りっぱなしだからだ。室内でくらい脱げばいいのに。
まぁでもいい。ぶっちゃけこのカフェでの食事なんてどうでもいいんだ。
「この店の前ではたまに強風が吹くんです。ほら見てください。女性の冒険者のスカートが……めくりあがってますね。フフフ」
「…………おお」
丁度いいタイミングで突風が吹いた。そうだ、これを待っていたんだ。
「きゃあ!」
魔法使いらしき女性が悲鳴をあげ、スカートを押さえる。だが手遅れだ。俺達二人はすでにパンツの柄を確認した後だった。
「クマさんでしたね」
「ああ、あの魔法使い。見た目はあんな不良っぽい格好をしていながら、内面は中々可愛らしい少女趣味のようだな」
二人でニヤニヤしながらパンツについて談笑していると。
「……あっ! 貴様! 仮にも騎士である! この街の護衛隊長でもあるこのベルディアに! なんて卑猥なものを見せるんだ!」
ベルディアはハッと気付いて、またさっきのように俺に抗議する。だがその声に前ほどの勢いが無いのはバレバレだ。
俺が魔道具を使い、ベルディアについてわかったのは『むっつり』だということだ。態度こそまっとうな騎士のふりをしているが、その奥にスケベ心が隠れていることはお見通しだ。
ではその秘めたエロ心、この俺に存分に利用させてもらうとするか。
「ふっベルディアさん。まぁまぁ硬い事言わずに。食事を楽しみましょうよ」
俺は笑いながら注文した飯を口に入れる。うん普通だ。特別旨くもまずくも無い。やっぱり値段相応だな。
「ちょっと待て! この変態冒険者め! 騎士であるこの俺に! そんなものが興味あるわけないだろ! 女の! パンツなんぞに! この俺が!? パンツにな! 女のパンツに!」
「おや、また新しい風が吹いたな」
ベルディアの抗議を無視し、次の強風が吹いたのを指摘した。
「おおっ!!」
このむっつり騎士はすぐさま街のほうを振り向き、そしてじっくりと確認する。
「きゃあっ!」
慌ててスカートを押さえる女冒険者(二人目)。
「ほう。今度はロリ系か」
「しましまとは中々わかっているじゃないか。ロリキャラは縞々と昔から決まっているからな」
スカートの中を凝視するベルディア。マスクをしているのだがそれでもわかるくらいギラギラとした視線を注ぎ込んでいる。ロリキャラの縞々パンツにご満悦の騎士隊長。勿論この俺も。
「いやあいいもの見れたな。ロリのしまぱんといったらまさしく黄金の組み合わせじゃねえか」
「ああ、ロリと縞々、直球勝負も悪くない。少し背伸びしたくて黒いパンツを選んだりするロリっこも、またそれはそれで趣があるがな」
また二人でのパンツ談義が始まった。俺達は今や男同士のホットな話題に夢中になっている。
「はっ! きっさまああ!! まさかこの俺を! こんなことで懐柔しようとでも! 騎士がそんな手に乗るかああああ!」
またハッと気付き、大声で反論してくるベルディアに。
「一体何を言っているんだベルディアさん。静かにしてください。俺達はただ食事をしているだけじゃないか。ここはカフェなんだ。少し外の風景をながめているだけだ。そうだろう?」
「…………ゴクリ。そうだな。ただの食事だな。この騎士である俺も、たまには庶民の通う喫茶店で食事をするのも別におかしくは無いよな。よし、俺も飲み物を貰おうかな。店主! コーヒーを一つ!」
ベルディアが俺の策略に屈した……いや言い替えよう。自分の欲望に素直になった瞬間だった。
正直なのはいいことだ。とてもいい事だ。
「今度は青だな。シンプルな造詣だがまたそれがいい」
「くまさん、しましま、青か。色取り取りで素晴らしい。おっと、勿論深い意味はない。それにしてもサトー君。君とはいい友達になりそうだ。最初は君の事を疑ってしまってすまなかったな。君は素晴らしい人間だ」
「サトー君だなんて、マサキと呼び捨てにしてくれて構いませんぜ、ベルディアさん」
俺はお冷を飲みながらむっつり騎士に言った。
「こちらこそ、ベルディアと呼んでくれて構わない。君のような話のわかる冒険者と知り合えて光栄だ。クハハハハハ」
男の欲望を下敷きにし、今ここに二人の熱きフレンドシップが完成したのだった。
「フリフリなのもいいよね。なんか可愛い。小動物っぽいし」
「大人な下着もいい、あれはいいものだ。もしかして勝負パンツだったりするのかな? それを関係ない俺達が見るというのも、なんか興奮するな」
パンツ……男のロマン。深夜アニメではパンツの輝きが人気を引き出すといっても過言ではない。まさしく宝具だ。その宝具について熱く語り合う俺達。
……レイによって毎晩のように繰り広げられる逆レイプ夜這いのせいで、最近俺は軽く女性不信になりかけだったが、どうやら大丈夫のようだ。普通の可愛い女相手ならちゃんと興奮する。普段ずっと狂った女に囲まれていたから多少混乱していただけみたいだ。
「よし! 俺は大丈夫だ! まだ戦える!」
「何のことだ?」
「いやすまん、こっちの話だ」
首を振って言った。
このカフェ以外にも、俺はベルディアをいろいろな場所に案内した。
「ここは人目が少ない。ヤバイ薬を取引しているとかいう情報がある。子供の誘拐にも持って来いの場所だ」
「なるほど、それは街を守る騎士として見過ごすわけには行かんな」
ここはアクセルの路地裏。ひっそりとして人通りが少ない。
「というのは表向きの理由だ。あそこにはほら、ちょっとした階段がある。女性冒険者がたまに通るんだが……。この場所から見るとだな、ホラ丸見えだ」
「おおっ!」
俺達は犯罪取引の捜査、という名目でまたしてもスカートの下を除いていた。
「この草原では弱いモンスターがよく発生してだな。冒険者の狩り場になっている。だが危険なのはモンスターだけじゃない。たまに吹く猛烈な風にも気をつけねばならないな」
「おお! おおっ!」
何も無いただっ広い草原の事も紹介する。丁度冒険者が戦闘の真っ最中だ。強風でパーティーメンバーの女性のスカートがめくれているのだが、彼女は戦いに夢中で全く気付いていない。
「アレは騎士隊長のベルディアじゃないか? なんでまたこんな何も無い所に?」
俺たちに気付いた冒険者の一人が聞いてくるが。
「ええっと、それはだな……」
「貴様ら! 騎士ベルディア様に向かってなんて口の利き方だ! ベルディア様はな! お前達冒険者の活躍する様子を見たくて、休暇中だというのにわざわざ見物に来たのだ! いざこの街が魔王軍に襲われたとき、冒険者も騎士も一致団結して戦わないといけない! どの冒険者を頼れば最大の効果を及ぼすことが出来るか、ベルディア様はそういった戦術も考えておるのだ! わかったか!」
言いよどむベルディアの代わりに、俺がベラベラとあらかじめ用意しておいた答えを述べた。勿論全部でたらめだが。
「あ、そうでしたか。見回りの仕事お疲れ様です」
俺の演説を聞き、大人しく引き下がる冒険者の男。
「なああのベルディアと一緒にいるあいつ、あの問題四天王のマサキじゃねえか。なんであいつがベルディアと一緒にいるんだ?」
「知るかよ。でもあいつには関わらない方がいいぜ。前に友達が軽い調子で話しかけたら、例の三人の女をけしかけられて金品を奪われたとか」
ヒソヒソと俺の悪口を言っている冒険者。いや待てさっきこいつなんて言った? 問題四天王? って完全に俺も問題児扱いかよ。ちょっとそれは聞き逃せないな。
「助かったぞマサキ。これで俺がこの風がふりつける場所にいても何の不思議も無い。それにしてもお前はよくそんな言葉が出てくるな」
「カフェでちょっと考えておいたのさ。俺はただでさえ最弱クラスの冒険者なんだ。これくらい口が回らないと生きていけないぞ。騎士の様に堂々と戦えばあっという間にあの世行きさ」
少し自慢げに説明した。
「そういえばあの冒険者、お前の事を問題児とか金品を奪われたとか言ってなかったか?」
「フッ! 気にするな! 今このアクセルの街でモンスター駆除率ナンバーワンなのが俺のパーティーだ。新入りに先を越されてやっかみを受けているんだよ。まぁ優秀な冒険者である俺にはよくあることだ。言わせてやればいい」
そう適当に誤魔化した。別にカツアゲしたわけじゃない。慰謝料として向こうから差し出されたんだ。カツアゲと慰謝料、この二つは全く別物だ。とはいえあまりベルディアに詳細を聞かれたくないのでただの嫉みと言うことにしておいた。
「今日は素晴らしい一日だった、マサキ。何時間でも話していたいよ。また色々と秘密の覗きスポットを教え……ではなく街での違法な取引現場があったらすぐに教えてくれ!」
「まかせろ! またいくつか街中で候補を探しておく。ベルディア! これからよろしくな!」
俺とベルディアは、男なら必ず熱中間違いなしの話題、女子のPANTSUの事ですっかり打ち解けた。パンツが嫌いな男などいない!
「イヤッホーゥ! サンキューブラザー!」
「イエーイ! 新しい友に乾杯!」
ハイテンションで友情のハイタッチをする。
「あれ、マサキじゃないですか」
そんなイケイケの俺たちの前に現れたのは、いつもの仲間たち、マリン、レイ、アルタリアの3人だった。
「いいところに来たな。丁度お前達に紹介したかったところだ。俺の親友、ベルディアさ」
俺は女達に新しい友達を見せびらかした。
「貴様ら、この前の事は我が友マサキに免じて特別に許してやろう」
ベルディアももう怒っておらず、にこやかに――マスクしてるからわからないが多分――挨拶をした。
「んだと! 許してやる? 私はなんも悪いことしてねえぞ! ダグネスと私は友達だから決闘くらい普通だ! 外野のお前にどうこう言われる筋合いは……」
アルタリアがせっかく穏便に済みそうなのにまた厄介ごとを起こそうとしてくるので。
「ねえちょっとアルタリア、こっちこっち。おっちにお前に見せたいものが」
「ああなんだよ? グハッ!」
アルタリアの注意を引いた後、一瞬の隙を付いて腹を肘討ちした。一撃で倒れるアルタリア。
「やはり防御は紙だな。俺ごときにダウンさせられるとは。フン」
手をパンパンと叩き、倒れたアルタリアを見下ろしながら。
「うちの連れが失礼したなベルディア。次からはきちんと言い聞かせておく」
そう笑顔でベルディアに告げた。
「オイマサキ……不意打ちとは……卑怯じゃねえか?」
うつ伏せに倒れたアルタリアが
「戦場では卑怯なんて言葉は無い! お前もよく知ってるはずだ! そして俺の友情の邪魔をする奴は許さん。わかったか! てい!」
「ぐふっ。たしかに……お前の言うとおりだ」
まだ何か言おうとするバトルバカに踏みつけてとどめをさした。
「な、なあマサキ、さすがにそれは酷くないのか?」
「どんな時も隙を見せないのが戦士だ。こいつも納得済みだ。それにこれくらいやっとか無いと安心できないからな。なにせあの名家ダクティネス家に喧嘩を売るような女だぞ」
仲間の女クルセイダーを足蹴にする俺を見て、少し引いているベルディアに説明する。
「あ、ああそうだったな。お前の方から止めてくれると助かる」
アルタリアのこの前の所業を思い出し、納得してくれたようだ。
「私はアークプリーストのマリンと申します。オホホ……ではなくプークスクス!」
「私はレイ。マサキ様の運命の人です」
他の二人が俺の友人に自己紹介をすると。
「アクシズ教徒に……そいつはアンデッドじゃないのか? さっきの狂戦士といい、よくこんなメンバーと冒険する気になったな」
「見ての通り俺の仲間は危険な奴らばかりだ。ギルドのはみ出し者たちよ。だが『勇将の下に弱卒無し』という言葉がある。この俺はあえてそんな頭のおかしい彼女たちを拾い、そして大きな結果を見せ付けることで決して役立たずではないことを証明しているのさ!」
「マサキ、お前って奴は、なんていい奴なんだ。冒険者の……いや全て戦士の鏡だ」
感動する我が友ベルディア。
「マサキったらあんな事言っていますわ」
「前はいやいや押し付けられたとか言ってましたよね。まぁマサキ様が嘘つきなのは知ってるからいいんですけどね」
アホ二人がヒソヒソと呟いているが無視することにする。
「ほう! マサキ! お前には感動させられたぞ! パンツ……じゃなかったあのこと以外にも、冒険者としても優秀な男なんだな。そうだ、今度お前を騎士に推薦してやろう!」
「気持ちは嬉しい、嬉しいがベルディア。俺は今の冒険者家業が気に入っているんだ。それにまだこの街に着て浅いんだ。騎士の仕事についていけるとは思えないよ。気持ちだけ受け取っておくよ」
ベルディアの申し出に遠慮して断る。冗談じゃない。騎士のようなガチガチのところに入れられてたまるか! この俺の奇想天外な権謀術数など絶対受け入れてもらえないだろう。そんなつまらん所じゃ実力を発揮できない。そんなむさ苦しいところに入れられたら一日でバックれそうだ。
「そ、そうか。だがもし困ったことがあればいつでも俺を訪ねるといい。では我が友マサキよ! さらばだ!」
ベルディアは街に外に止めていた馬に乗り、そのまま自分の家へ帰っていった。
「どうだお前達! みたか! これがこのマサキ様の実力だぞ! 素晴らしい友人だろ? この俺にかかればこの街一番の使い手だろうが友達に出来る! あいつと付き合っていて損は無い。なにしろ騎士様だからな! どうだ!」
ベルディアが去って行った後、仲間たちに自慢した。
「一体どういった手を使ったかは知りませんが、素直に凄いと褒めてあげましょう。ですがどうせまた適当な嘘を並べ立てたんでしょう? 嘘で成り立った友情はすぐ崩れますよ?」
マリンが至極真っ当なことを言ってくるが。
「フン。女には男の友情なんてわからないさ。あいつと俺は熱い友情で結ばれている。男同士にしかない絆があるのさ」
パンツという名の絆だが。エロはどの時代でも大正義だ!
「ねぇ、マサキ様。男同士の友情も結構なんですが、なんだかちょっと仲良くなりすぎじゃないですか? もしかしてそっちの気があったり? やめて下さいよ男同士なんて?」
「てめえ! どの口が言う! お前が男友達を作れって言ったんだから作ったのに! いざ出来たらなんだその言い分は! 俺がどれだけ一生懸命考えて信頼関係を結んだか! このメンヘラいい加減にしろよ!」
さすがに怒ってレイの胸倉を掴んだ。
「ヒヒヒヒヒ。怒った顔も素敵ですマサキ様。あまり男友達にうつつをぬかして、私を蔑ろにしたら許しませんよ? 私が言いたいのはそれだけです。キヒヒヒヒ」
「フン。まあいい」
掴まれて怒るどころか、嬉しそうに不気味な声で笑い出すレイを、そっと下ろしてやった。
「そういえば、アルタリアさんは回復させなくていいんですか?」
「あっ」
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