一部 13話 アレクセイ・バーネス・アルタリア
今日はクエストを受けることはやめて、アルタリアの父親が住んでいるという屋敷に向かうことにした。ダグネス嬢曰くアルタリアは貴族らしい。それをこの目で確かめたかった。
「未だに信じられないな。このアルタリアが貴族だなんて。あぶなっ」
剣をブンブン振り回しながら歩く、攻撃特化型クルセイダーを見ながら呟く。
「本当だって! でもあんま自分が貴族だって思ったことねえな。でもそういえば私も実家に帰るの久しぶりだぜ。数年は顔出してねえし。オヤジいきてんのかなあ?」
本当にこいつの家は大丈夫か?
「ところでマサキ、どうして今アルタリアさんの実家に行くんです?」
「このバトルバカを育てた親の顔が見たくてな。あと世話料も請求したい!」
俺がマリンに理由を言った。
「おいおいマサキ、前も言っただろ? うちは貧乏だって! そんな金ねえぞ?」
笑いながらそれに答えるアルタリア。
「それに腐っても一応貴族なんだろ? なにかしらのコネを持ってるかも知れないじゃん。利用できるものは全て利用するのが俺のモットーだ。金、地位、名誉。どれでも手に入れれば力になる。力を持つものが優位になる」
俺は野心むき出しで質問に答えた。
「さすがはマサキ様! 発想は非常にゲスいですがそんなあなたも素敵ですよ! マサキ様の行動は全て許されるのです! マサキ様こそ正義!」
そんな俺を褒め称えるレイ。俺のやること全肯定とは。そこまで忠誠心があると逆に怖いな。命令一つで貴族でも何でも殺しそうだなこいつ。そんな危ない橋を渡るつもりはないけど。
「だったらレイ。夜中に襲ってくるのはやめてくれないかな?」
「それは出来ません!」
なんでだよ。やめてくれよ。それさえやめてくれれば最高の仲間なのに。
「おいついたぞ! あそこに見えるのが私の実家だ! アレクセイ家の屋敷さ!」
そうこう話をして歩いていると、急にアルタリアが叫んで指をさす。
「え? アレ? アレがお前の実家なのか?」
俺はアルタリアの屋敷を見て絶句した。
「なんですか? ただの廃墟じゃないですか」
レイの言うとおりだ。目の前にあるのは、確かにそれなりの大きさを誇る貴族らしい屋敷なのだが、庭は雑草でボーボー。窓には木を打ち付けられて開かないようになっており、壁には蔦だらけで全面緑色だ。ドアも厳重に封鎖されていた。
「なあアルタリア、ひょっとしてお前のお父さん・・・・・・少し見ないうちに死んじゃったんじゃないのか? それか引っ越したか」
「どう見ても人が住んでいるようには見えませんね」
俺とマリンが尋ねる。
「ああ? うちは昔からこんなだぞ? 多分オヤジも生きてるよ! ちょっと待ってろ、今扉を開けるから!」
首を振り、そして剣を構え、封鎖されたドアに特攻するアルタリア。
「オヤジーー!! 帰ったぞ! 開けろおおおおお!!」
開けろと叫びながらやってることは物理的にドアを破壊しようとしている。
「ちょっと待て! 本当にお前の家なのか? ただの強盗にしか見えないぞ?」
「うちではこれが正しい入り方なんだよ! いいからお前らは待ってな。すぐぶっ壊して入れてやるから!」
俺の制止を聞かずひたすらドアを破壊するアルタリア。そういえばこいつと始めて出会った時もギルドのドアを破壊してたっけ。
「よし、もう開いたぞ! みんなアレクセイ家にようこそ!」
アルタリアはぶっ壊したドアを蹴飛ばして屋敷の中に入る。そして俺達にも来るように手を振る。
「いいのかこれ? 普通に不法侵入だろ?」
「でもここで帰っても・・・・・・ドア壊したままでいいんですかね?」
「確かに。それにアルタリアをこのまま放置する方が怒られそうだ。とりあえず連れ戻しに行くぞ!」
俺達はアルタリアを追いかけてボロ屋敷の中に入っていく。
「出て来いやああ! オヤジイイイイ!! いるんだろおおおおおお!!」
剣を振り回して大声で叫ぶアルタリア。エントランスにあったものを片っ端から破壊している。
「おいちょっと待て、落ち着けよ。本当に自分の家なのか? っていうか自分の家にやる行動じゃないだろ?」
冷静につっこみを入れるが。
「ああ? オヤジはなあ! いつも居留守を使うんだよ! これくらい騒がないと出てこねえんだ! いいから私の家の事は任せろ! オラア出て来いコラアアアアア!!」
破壊活動を続けるアルタリア。
なんなんだ? この世界の貴族は実家を荒らしまわるのがデフォルトなのか? いやマリンやレイもドン引きしている。このアルタリアがおかしいだけだろう。
「なあちょっと待ってくれよ。俺はお前の家に行きたかっただけで、暴れろなんて頼んでないぞ?」
「マサキ! だからこうでもしないとオヤジは出てこないんだって! いつも奥で隠れて居留守ばっか使うんだから! もう少し暴れさせてくれ! そしたらわかるからよ!」
アルタリアは俺の言葉を聞かずにその辺の置物を破壊しようとする。
「だ・・・・・・誰だ? 強盗か? うちには何もないぞ? 出て行け!」
アルタリアが何かのガラクタをバラバラのガラクタに変えようとしていると、奥から小さな声が聞こえた。
「ほらな? いただろ?」
ドヤ顔で俺を見るアルタリア。いや確かにいたけども。お前の行為は普通に犯罪だぞ? 廃墟みたいとはいえ人のうちに入って大暴れとか。カチコミか?
「うちには何もない! その辺のガラクタが欲しけりゃ好きに持っていけ! 二束三文で売ればいい!」
奥から男の声が叫ぶ。
「私だよオヤジ! アルタリアだ! 帰ってきたぜ! 出てきてくれよ!」
どうやらその声の主アルタリアの父親らしい。らしいのだが。
「なんだと! うちに娘はいない! いないから帰れ! 何が目的だ! 頼む帰ってくれ」
声の主は娘などいないと言い張った。
「全くオヤジはいつもそうだ! なにビビってんだよ! なんもしねえよ! ちょっと仲間を紹介に来ただけさ!」
「な・・・・・・仲間だと? アルタリアに!? そんな馬鹿なことがあるか! いるわけ無いだろ? あ・・・・・・さてはまさか! アルタリアが何かやらかしたのか!? 警察だな! 頼む! ワシだけは許してくれ! 娘とは関係ないんだ! とっくに縁を切ってるんだ!」
アルタリアの父親はそんなことを言い出した。縁を切ったと言うことはやっぱり父親のようだ。にしても凄い親子関係だな。娘はいないとか縁は切ったとか。アルタリアは実の父親からも相当恐れられてるようだ。
「警察じゃない!? じゃあなんだ? まさか借金取り? 頼む待ってくれ! うちには自由に使えるお金は無いんだ! ドネリー家のお方よ!」
なんだこのおっさんは。借金までしてるのか。アルタリアの父だけあってやっぱ駄目だな。
「あのー? 俺達は普通にお宅のアルタリアさんの仲間で。パーティを組ませてもらって。警察とか借金取りとかじゃ無いんだけど? ちょっと挨拶しに着ただけなんでお構いなく」
とりあえず俺もアルタリアに助け舟を出すが。
「馬鹿め! 嘘をつくならもう少しマシな嘘を付くんだな! ワシの娘アルタリアとパーティが組める人間なんて存在するものか! いたとしても一日で裸足で逃げ出すのがオチだ! 警察か借金取りだろ? それ以外ならその辺の農民だな!? 税についてアレクセイ家に来るのはお門違いだ! なぜならワシの領主としての権限はとっくの前に失効しておる! あるのはこの屋敷だけだ! アンナ家にでも頼むんだな!」
「言い切ったよこのおっさん。自分の娘の事を欠片も信じてないな」
「オイオヤジイイイイ!! ぶっちゃけ今回は何もやってないから! パーティの仲間が貴族の証を見たいっていったから連れてきただけだ! 本当だって! 誰も傷つけてねえ! 他の貴族にケンカ売ったり! 貴重品をぶっ壊したりなんかしてない! だから! いいから出て来いやああああ!!」
「お前も過去になにやってんだよ」
アルタリアには前科があるようだ。ならこの反応は当然かも知れない。
それにしても領主の権限はなにも持ってないのかよ。貧乏貴族にもほどがあるぞ。アレクセイ家から得るのは難しいようだ。
「出て来いいいい!!」
「金なら無いぞ!」
「あのー・・・・・・」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一時間ほどこの様なやり取りを続け、こっちが何も要求しないことを一生懸命伝え続けた結果、警戒心の強い親父さんはようやく姿を見せた。
「まさか・・・・・・ありえんことが起きた。我が娘の仲間なんて・・・・・・。ダスティネス家の令嬢以来だ」
信じられないものを見る目で俺達をガン見してくる。アルタリアの親父さんの容姿は、ちょび髭を生やしいかにも悪人の顔つきだったが、極貧生活のためかガリガリだった。
「オヤジ! 酷いぜ! 私だって仲間くらい作れるさ! いつまでも一人じゃないさ!」
「それで一日以上持ったことは無いだろう!」
「馬鹿にするなよオヤジ! 最高二日だぞ! 今回マサキたちがその記録を超えたんだがな!」
どっちでもいい。
そりゃ自殺願望でもない限りアルタリアと組みたいなんて思わないだろう。俺はあの町の連中から押し付けられた形なんだが。そうじゃなかったらとっくに解消してる。
「――で、お主たち。本当にワシから何か奪いに来たわけじゃいんだよな?」
「いやぁあはは。正直に言いますよ。本当はアルタリアの世話料でも貰おうと思ったんだけど・・・・・・。この家の有様を見たのでもういいです。マジで金無いのがわかりましたから」
笑ってアレクセイ家の旦那に告げた。
「世話料ってなんだよマサキ! 私達はみんな対等な仲間じゃねえか。ああ、紹介するぜオヤジ。このメガネがマサキだ。まだ最弱職の冒険者なんだが私が助けてやってるんだぜ?」
「あ? おっと」
助けてやってるという言葉に、思わずイラッときて声が出てしまったがすぐに口を閉じた。
アレクセイの旦那は俺の方を一瞥し、ジロジロと観察した後。
「どうだお主、うちのアルタリアを貰ってくれんか? 性格はちょっと難があるが、見た目だけは美人なほうに入るだろう。もうこの際相手が平民だろうが奴隷だろうが構わん。ワシはそういうの諦めた。誰でもいいからアルタリアを連れ出して欲しいのだが」
「断固拒否します」
親父さんの申し出に即答した。
「ふざけないで下さい! 貴方が貴族でも言っていいことと悪いことがあるでしょう! マサキ様は私の伴侶になるお方なんです! アルタリアなんかに渡しませんよ!」
レイはアレクセイの旦那の言葉にブチ切れする。
「冗談だ。冗談に決まってるだろレイ。落ち着くんだ」
「シャー!」
威嚇するレイを落ち着かせる。
「このおっかないのが魔術師のレイだぜ」
構わず紹介を続けるアルタリア。親父さんのほうはレイの幽霊じみた見た目に怯えていた。
「ヒッ! こいつ・・・・・・本当に人間なのか? アンデッドじゃないのか?」
伸ばしきった髪から覗く赤い瞳、妖怪じみた姿の女を見て後ずさりする親父さん。
「アンデッドならよかったんですけどね。退治できるから。残念ながら人間です」
やれやれといった表情で言った。
「で、最後にプリーストのマリンだ。この四人でパーティを組んでるんだ」
「どうも、いつもアルタリアさんにはお世話になってます」
俺達の仲間で唯一、丁寧に挨拶をするマリン。さすがうちの良心。ただし女神の話の時以外に限る。
「・・・・・・ほう。・・・・・・ほう! これはこれは、アルタリア、お前の仲間にもこんな美しい女性が・・・・・・。いや待てなんだその青い髪とその格好は・・・・・・! まさかアクシズ教徒だなテメー!」
「はい、アクシズ教徒のアークプリースト、マリンと申します」
親父さんは最初こそジロジロとマリンにエロい視線を送っていたが、その目線が胸~下半身にいくにつれ、あの女神そっくりの格好をしていることに気付いて急に冷めた顔になった。
「よりにもよってアクシズ教徒とは! 危うく騙されるところだったわ! 美人局か!? いいか? ワシは新聞も石鹸も取らないからな! そんな金は無い! 今すぐうせろ! 消火器魔法セットもいらん! わかったかアクシズ教の手先め!」
アクシズ教徒とわかると態度を一変するアレクセイの旦那。アクシズ教徒って俺を送り出したあの女神を崇める集団だったよな。そういえばアクセルでもこんな感じだったっけ。つかなんでこんなに嫌われてるんだ?
「・・・・・・ふう。アルタリア、友人は選んだ方がいいぞ? そうあのダスティネス嬢のような! ああいう人と仲良くなれ! アンデッドやアクシズ教徒なんかと関わっても碌な目に合わんぞ?」
失望した、といった風に娘に説教をする親父さん。その態度に。
「誰がアンデッドですか! 私は貴族でも容赦はしませんよ! 修正してください!」
「私の事はともかく、アクア様の作ったアクシズ教を侮辱することは許しません!」
レイとマリンが怒って言い返す。
「オヤジ! なにをいう? お化けだろうがアクシズ教徒だろうが関係ない! この四人は今までの中で最高のパーティだぜ!? バカにすんなよ!」
アルタリアも父親に向けて反論した。
「そもそもさぁ、こっちはアルタリア引き取ってんですよ? あんたの娘も相当な地雷だということを忘れてませんか!? 自分の娘の事を棚に上げてねえ」
さらに俺も追い討ちをかけた。
「・・・・・・そうですよね。みなすまなかった。娘に仲間ができただけでもありがたいことだった。これからも我が娘をよろしくお願いしたい。頼むから警察沙汰にはならないでくれ。ワシはそれだけで十分だ」
娘の事を指摘され、すぐにアレクセイの旦那は謝った。自分の娘がヤベー奴なのは自覚しているからだろう。
「わかればいいのです! わかれば!」
レイは威嚇体勢をやめて納得した。
「これからもよろしくお願いします。この先の私達、そしてあなたにもアクア様のご加護がありますように」
「「それはいらない」」
マリンの加護に、俺と親父さんはハモって言い返した。
「まあ紹介もすんだ所だし! メシにしようぜメシ! 久々の里帰りで疲れたぜ! オヤジ! 食料出せ! 食料!」
アルタリアがボロボロで埃被ったテーブルを引っ張り出し、食事を要求するが。
「超貧乏のうちにそんなものあるわけ無いだろ! アレクセイ家でまともな食事にありつけると思うな! 外で何か食べて来い!」
親父さんは娘に言い返した。この家の台所事情はかなり切迫しているようだ。
「嘘付けオヤジ! 食いもん隠してんの知ってんだぞ! いいから出せよ! あの部屋が怪しい!」
「アレは非常食なんだよ! もし配給が止まったらアレでしのぐのだ! だからやめてくれ! 外で食ってきてくれ!」
必死で言い争うアレクセイ親子。駄目だなこいつらは。っていうかこの家。いつ滅んでもおかしくない。
「もういいよアルタリア。外で食べようぜ。非常食に手を出すのは気が引けるしさあ」
家捜しをしようとするアルタリアを止めると。
「駄目だぜマサキ! せっかく私の家に来たんだ! 家主に恥をかかせる気か?」
「なにが恥だ! お前のせいでワシがどれだけ苦労したか! 散々恥をかかされてもう失うものなど残っておらんわ! そもそも騎士学校での事件の時に! ダスティネス家が庇ってくれなければとっくに取り潰しだったのだぞ?」
「あれは向こうがケンカ売ってきたんだ! 決闘でボコって何が悪い!」
親子で口げんかが始まった。
「よりにもよって貴族と揉めおって! しかもワシのとこと違ってそれなりの名家に! 相手を選べ!」
「決闘は合法だぞ! 何も悪いことはしていない! 弱いくせに吠える馬鹿は殺されても文句はねえ!」
この親父さん、昔からじゃじゃ馬娘に苦労させられているようだ。どんな育て方をしたんだ? 完全に自業自得だが。
「おおそうだアルタリア! 昔と同じやり方で行こうではないか! お前が付近のモンスターを狩って食料を手にする! それをワシが調理する! それならいいぞ! 非常食は減らんしな。アレクセイ流のおもてなしを見せてやろう!」
「はぁ!? ・・・・・・ん、いや、それは悪くないな。いいぜオヤジ! それで行こう! マサキ! これからモンスターを狩りにいこうぜ! ガキの頃からそうやって生きてきたからな! どこに上手い奴がいるかわかってる! 懐かしいぜ!」
親父さんの言葉に同意するアルタリア。
「え? モンスター退治に行くの? 今日は休みだったのに。ええー」
飯くって帰るだけの予定だったのにどうしてこうなるんだ?
「いいじゃないですか! アルタリアの父に! 私たちの実力を見せてやるいい機会です!」
「貧しきものを救うのもプリーストの使命です」
ノリノリのレイとマリン。
「よっしゃー! 話は決まりだ!」
張り切って出かけるアルタリア。俺の意見は無視かい。
「まぁいいけど適当にやるぞ。いつもみたいに大物なんかに拘るなよ? あくまで食べる分だけだ。ここで活躍しても金にならない。そんなタダ働きはごめんだからな」
仕方なく三人に言われるままモンスターハントに向かうことになった。
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