一部 12話 ダスティネスVSアレクセイ

  さすがに真剣は無しということで、互いに訓練用の木刀を使った試合を行うことになった。先に一本を食らったほうが負けというルールだ。


「冒険者として! どれほど成長したか楽しみだ!」

「お前こそ! 生ぬるい騎士暮らしで腕が鈍ってないだろうなあ!」


 一定の距離を取り、互いに叫びあう二人。 



「ダスティネス卿? なにをなさっているんです? 今日の目的はただの街の視察でしょうが。私闘だなんてご勘弁を! あなたの体に傷でも付いたら、我ら騎士団の面目が立たないですよ!」

「アルタリアと久々に出会ったんだ。こうなることはわかっていた。あいつの攻撃で倒れるようでは魔王に適わない。私もそれまでの人間だと言うことだ。王を、そして民を盾として守るのがダスティネス家の役目だ」


 ダグネス嬢は騎士隊長の心配を振り切る。可愛そうに。向こうの隊長も気の毒だな。


「おいアルタリア! お前戦い好きにもほどがあるだろ! っていうかあの貴族に傷でも付けてみろ! 俺達全員処刑されるかもしれないんだぞ!」

「ああ? 手を抜いたらダグネスに失礼だろうが! 私はいつもどおり全力で行くぜ! なあに殺しはしねえから安心しろよ!」


 俺もアルタリアを止めようとするが……無理だ。今のこいつの目は戦いに燃えている。あの碧眼が獲物を捕らえるように鋭く尖っている。この状態のアルタリアを止めるのは多分不可能だな。

 一方ダグネス嬢のほうも張り切っている。木刀と盾をがっちりと構え、同じ碧眼でアルタリアを見つめ返す。

 まともそうに見えたが彼女も同じ戦闘狂なのか? それともアルタリアと関わっているうちにおかしくなったのか? どちらにしても危ない状況だ。アルタリアの一撃は初心者殺しをも真っ二つにする。木刀とはいえまともに食らえばよくて重傷、悪ければ即死だ。こんな危ない橋を渡りたくない。


 

「ふ……二人とも! あなた達は共にこの国には欠かせない、優秀な戦士だ。それがこんな所でぶつかり合うなんて、人材の大きなの損失じゃないかな!?」


 俺がおそるおそる近づいて告げると……。


「殺しはしないっていっただろマサキ。殺しはな!」


 アルタリアはニヤリと笑い、だが目線はずっとダグネス嬢を捕らえながら、そう答える。


「この戦いは止められない。誰にも。ではマサキ殿、貴方が離れたときが試合開始の合図とするか」


 ダグネス嬢がとんでもないことを言い出した。えっちょっと待て! この俺が離れたら試合始まっちゃうの? えっ? ここで貴族が死にでもしたら俺どうなるの? なんて役割を押し付けるんだこのクソ貴族は!


「それはいいな。マサキ、とっととどけ! これはただの軽い試合さ。殺し合いじゃない。わかったら離れな!」


 そういうアルタリアの表情は、言葉と違い明らかにガチ殺し屋の目だった。ここまで殺気に満ちた彼女を見たのはこれが初めてだ。ていうかその目をなんで友達の貴族に向けるんだよ。


「えっちょっとマジやめ……怖いんですけど」


 俺がビビッていると。


「マサキ殿。離れないならば強引に突き飛ばすことになるぞ! それとも、戦いに巻き込まれたいか?」


 今度はダグネス嬢の方が俺を脅してくる。あっちもガチだ。どんな関係だよこの二人は!


「ヒイッ! 俺は何も知らないからな! じゃっ!」


 ダッシュで俺は二人から遠ざかった。



「始まりだ!」


 アルタリアは最初から盾を装備していなかった。片手で木剣を構え、上から振りかぶろうとする。

 ダグネス嬢のほうは騎士のお手本のように剣と盾をきっちりと構え、どんな攻撃にも対処しようとしている。


「……」

「……」


 俺は戦いが始まるや否や、すぐさまアルタリアが飛び掛ると思っていたのだが違った。剣についてはよくわからない俺でも、ダグネス嬢は完璧に防御体勢に入っているのがわかる。これでは下手に攻撃をしても防がれてしまう。アルタリアもそれがわかって動かないのだろう

 攻撃に全てを集中するアルタリア。防御でそれを迎え撃つダグネス嬢。彼女たちの構えが、彼女たちの生き方を現しているようにも見える。

 空気が張り詰めていく。

 俺はもちろん、マリンや、護衛の騎士たちも二人の戦いを見守っていた。


「……」


 アルタリアは無言で構えを変えた。木剣を片手ではなく両手で握り、腕を下ろして顔の前に刃を持ってくる。


「……!」


 それを見てダグネス嬢は、少し驚いた顔をしつつも防御を崩さなかった。


「ハアッ!」


 アルタリアがついに動いた。肩目掛けて斬りかかる。それを盾で防御するダグネス嬢。だが彼女の攻撃はやまない。次々と盾に斬りかかり強引に崩そうとする。

 それでもダグネス嬢はビクともしない。あの強い剣撃を食らいながらも一歩も怯まない。危険モンスターをも一撃で仕留めるアルタリアの攻撃を受けているのにだ。アルタリアの殺しはしないというのも本当だったのかも知れない。ダグネス嬢はかなりの防御力を持っているようだ。これなら簡単に死ぬことはないかも。


「くう……」


 ダグネス嬢は呻き声を漏らした。防戦一方でさすがに腕が痺れてきたのだろうか。そこにすかさず追撃を加えようとするアルタリア。反撃しようとダグネス嬢は――



 ボキャっという音がした。何が起きたのかわからなかった。それは一瞬だった。気付けばアルタリアの木刀がダグネス嬢の頭に振り下ろされ、何かが潰れたような音がする。

 バタっとダグネス嬢が倒れた。


「私の勝ちだな! どうだダグネス! 見たか!! カウンター狙いを潰してやったぜ!」


 ガッツポーズを上げ叫ぶアルタリア。彼女の勝利だ。いやもうそんなのどうでもいい。ヤバイ! これはヤバイぞ!


「その不届き者を捕らえろ! ダスティネス卿を殺害した罪で処刑だ! 仲間も! 一族も全部だ!」


 騎士隊長が号令を上げる。すぐにアルタリアを取り囲む騎士たち。ついでに俺たちの方まで向かってくる。


「おいおいこれは試合だぜ? 殺したなんて人聞きの悪いこと言うなって!」


 悪びれることもなく言い返すアルタリアだが。



「逃げるぞ! おい逃げる! レイ! 今こそお前の出番だ! 『テレポート』ってあったろ! 今すぐそれでどっかに逃げるんだ!」


 俺は袋の中のレイを引っ張り出し、轡を解いて叫ぶ。


「先ほどまであんな酷い扱いをしていたのに。虫のいい男ですねマサキ様。でもそんな意地悪でド外道なあなたも嫌いじゃ無いかも知れません」

「今はそんな話をしている暇は無い! 今すぐこの場から消えるぞ! レイ! 魔法の準備を!」


 騎士たちが俺とレイとマリンの三人を取り囲んでいた。


「ああごめんなさいマサキ様。実はですね、《テレポート》は覚えてないんです。次までに準備しておきますので許してください!」

「なんだって! 覚えてない! くっそうこのままじゃあ! マジで殺されるぞ! 次なんてあるのかよ!」

「こいつらを今すぐ捕らえろ! そして処刑するのだ!」


 怒り心頭な騎士の隊長。まあ当然の反応なんだが、勘弁して欲しい。俺は止めようとしてたのに! もう! 


「《テレポート》は使えませんが、炸裂魔法で騎士たちを粉砕することは出来ますよ? 私の愛しいマサキ様に手を出すなら、相手が魔王だろうと騎士だろうと容赦はしません!」


 魔力を高ぶらせながら騎士へと殺意を向けるレイ。ヤバイ。これは非常にまずいぞ。このままいくと冒険者からテロリストにジョブチェンジしそうだ。


「これ以上罪を重ねる気か! 大人しく降伏しろ!」


 叫ぶ騎士たちだが、レイは意にも返さず呪文を唱え始める。


「自首しましょうマサキ! これは訓練中の事故です! 話せばわかって貰えるはず……」

「なわけねえだろマリン! 周りを見ろ! 話し合いが通用する状況じゃあない!」


 じりじりと剣を抜き俺達を包囲を狭めている騎士団。レイが杖を光らせて牽制しているのだが……。どうだろう? 俺はこの先生き延びることが出来るのか?




「お前たち! なにを騒いでいる! 全員武器を下ろせ!」


 そんな緊迫した状況の中、一人の女性の声が響き渡った。


「ダスティネス卿! ご無事でしたか!?」

「少し頭をうっただけだ。大した怪我じゃない!」


 ダグネス嬢は起き上がり、頭から血を流しながらも元気に答えた。


「早とちりしやがって! 本気でダグネスを殺すなら最低あと10回は斬りつけなきゃ無理だぜ!」


 アルタリアが木剣を投げ捨てて言った。よく見るとかち割れたのはダグネス嬢の頭ではなく木剣の方だった。ポキリとへし折れている。


「こいつ!」


 激怒した騎士の一人がアルタリアに迫るが。


「武器を下ろしてくれ。これは単なる訓練だ。堂々とした試合だ! 彼女に非はない!」

「ですが……」

「下がるんだ! これは命令だ!」


 彼女の言葉に、しぶしぶ剣をしまう騎士たち。アルタリアようやく自由になった。



「アルタリア、成長したな。いつも砂をかけたり盾を投げつけてくるお前が、正面から堂々と来るとは思わなかったぞ。驚いて意表を付かれたぞ」


「たまには真っ向勝負もいいだろ。だが次はわからないけどなあ。ま、これで40勝39敗だ! 今んとこは私の勝ちだ!」


 目を白黒させてうろたえる俺達アンド騎士団を尻目に、二人のクルセイダーは互いの健闘を褒めあい、がっちりと握手を交わした。


「お怪我を治しますよ」

「ありがとう。だが本当に大した傷ではないんだ」


 マリンが回復魔法でダグネス嬢を癒す。本当に軽傷だったらしく、すぐに終わった。

 それにしても……この貴族の娘はなんなんだ? 硬いとかいうレベルじゃないぞ。アルタリアの攻撃――初心者殺しをも葬り去る必殺の一撃――を木刀とはいえこの程度のダメージで済ませるなんて……。

 もし戦闘になれば彼女を撃破するのは骨が折れそうだ。


「にしても相変わらずアレだよお前! もっと積極的に攻めたらどうなんだ? いっつもいっつもカウンター狙いばっかだぜ。それじゃあいつになっても敵をぶっ殺せないじゃねーか!」

「なにを言う! クルセイダーの役目は仲間に代わって盾になることだ! 攻撃は仲間に任せ、防衛に徹することこそ前衛職というものだ!」


 アルタリアとダグネス嬢が言い争っている。ダグネス嬢が正しいな。クルセイダーってそういうもんだろ? アルタリアはバーサーカーにでもジョブチェンジしたほうがしっくり来る。

 しかしアルタリアの言葉にも一理あった。決闘の際、ダグネス嬢からは積極的に攻撃を仕掛けてくる気配がまるでなかった。いくらタンクとはいえカウンター一本狙いというのは戦闘の幅が狭まってしまう。


「攻撃こそ最強だよ!」

「防御がクルセイダーの勤めだ!」


 この二人が合体すれば最強の戦士になるのになあ。圧倒的攻撃力と目にも止まらぬスピードを持つアルタリアに、あの一撃を軽傷で済ませるダグネス嬢。二人が合わされば……そんなうまくはいかないか。どっかにポ●ラかフュージョンでも出来ればね。夢が広がりそうだな。

 見た目も……アルタリアは見た目だけなら! 凄く美人だ! 言動が狂いすぎてて凄くマイナスだが! ダグネス嬢は勿論のことトップクラスの美少女だし! 合体しても見た目偏差値があがることはあっても下がりはしないだろう。


「問題は性格だな……」


 そんな妄想をしながらボソっと呟いた。




「では改めて、アルタリアをよろしくマサキ殿。彼女は昔から色々とほおっておけないんだ。少し目を放した隙にいつもいつもとんでもないことをやらかしてな。私もなんど危険な目にさらされたか……」

「ああ、それはなんとなく……わかります」


 ダグネス嬢が少し困った顔をしながら言う。その気持ちはすごくわかる。今日だけでも生きた心地がしなかったからだ。


「でもダグネス嬢? どうしてアルタリアと仲良くなったんです? あなたとアルタリアでは、性格も戦い方も価値観も違いすぎると思うんですけど?」


 対照的な二人の貴族を見ながら尋ねてみた。



「私は貴族のお嬢様として政略結婚の道具にされたりするよりも! 父と同じように戦場で名をはせる立派な騎士なりたくてね。貴族には大きな特権があるが、同時に国民を守る義務もある! そうだろう? それに守るべき民とも平等な立場で関わりたかった。そこで平民や貴族関係なく入れる一般の騎士養成の学校へと入ったんだ」


 いい人だ。ダグネスさんいい人だ。一生楽に暮らせるのにあえて苦難の道を選ぶとは。俺なら絶対にそんなことしないね。

 きっと彼女の家は裕福なだけでなく、精神的にも真面目で誠実な真の尊い者たちなんだろう。さすが王家の信頼も厚い大貴族だ。アルタリアの即死級の攻撃を受けてもほぼノーダメージなことといえ、単なるお飾り美人ではない。



「とはいってもな・・・・・・みんな私がダスティネス家の者だとわかるとな。やはり遠慮というか・・・・・・距離があってな。中々私に話しかけてくれる級友がいなくてな。いや彼らに悪気があったわけじゃないんだ。だがどうしても出自の件で壁があったのだ・・・・・・」


 少し困った顔で過去の話を続けるダグネス嬢。


「ああ思い出したぜ! お前いっつも一人だったよな! ボッチだったなあ! メシもいつも一人で食ってた! あっはは!」


 アルタリアもダグネス嬢の過去を思い出して笑い出した。


「やはりこの女は殺します」

「いやいいんだ。彼女の言うことは事実だ。私は友達も無く、孤立していた」

 怒る騎士隊長を止めるダグネス嬢。アルタリア・・・・・・頼むから黙っててくれないかなぁ。今からでも遅くない。《バインド》で拘束するか?

「いや話はここからなんだ。そんな孤立している私にだな、アルタリアは気兼ねなく話しかけてきてくれたんだ。ダスティネス家の者だと知っても全く気にも留めない。初めて対等な友人ができたんだ」


 ダグネス嬢はアルタリアとの最初の出会いを教えてくれた。


「へぇ、見直したよ。お前もたまには人様の役に立つんだな」


 俺は狂犬アルタリアの肩を叩いた。


「私は相手が魔王だろうが王族だろうがビビらねえからな!」


 そこまでされては困る。


「アルタリアと話しているとな。だんだん遠慮がちだった他の同級生も私に話しかけてくれるようになってだな。実りある学園生活を送れたんだ。貴族や平民と共に、これからの騎士の道について語り合ったものだ」


 輝かしい過去を懐かしがる金髪の貴族令嬢。彼女にそんな過去が。そしてアルタリアと出会ったのか。

 ん? ちょっと待てよ? じゃあアルタリアは?


「アレ? 話をまとめるとだな、アルタリアも同じ騎士学校に通ってたんだろ? なんでお前は騎士にならなかったんだ?」


 ダグネス嬢の話を聞きアルタリアに聞いた。


「さぁ? なんでだっけ?」

「なれるわけ無いだろう! お前は初めは少し変わっただけの奴かと思ってたが・・・・・・。毎日のように決闘騒ぎは起こすわ! 座学では寝てるわ! 学校の器物損壊を繰り替えすわ! その度になぜか私が一緒に謝ってたぞ? 挙句の果てに決闘相手、止めに来た生徒、先生に見学者全員に襲い掛かって退学になったじゃないか! 私がフォローするのにも限度があるぞ! あんなの庇いきれるか!」


 首を傾げるアルタリアに、ダグネス嬢は猛烈に批判する。


「ああ? そんなことしたっけ? いちいち戦った相手なんて覚えてねえよなあ?」


 頭をポリポリかきながら応える狂犬女。

「はぁー。お前本当に昔から酷いな。もう本当に駄目だわ」


 つまりダグネス嬢は騎士学校でアルタリアちゃん係をやらされてしまったのか。今俺も同じ立場だからどんなに大変だったか理解できる。っていうか友人というよりは保護者だな。



「昔話はこれくらいにして、サトー・マサキ殿」

「はい」

「私の友、アレクセイ・バーネス・アルタリアの事を本当に頼むぞ。彼女は悪気は無いんだが・・・・・・。いやその悪気が無いところが一番たちが悪いんだが・・・・・・。犯罪者にだけはしないようにしてくれ」


 そう言ってダグネス嬢が手をさしのばす。それを。


「ああ。このサトー・マサキの目の黒いうちはそんなことはさせませんよ!」


 俺も貴族に握手をして約束をした。

 と同時に心で何かを考える。

 ほう、アルタリアめ。貴族だったとは。まぁ彼女自身の家は使えないかも知れないが・・・・・・。目の前にいるダスティネス家は正真正銘本物の大貴族だ。彼女の印象をよくしていれば・・・・・・この俺のこの先の仕事が大いにプラスになることは間違いなしだ。アルタリアを通して貴族のコネを使えるかもしれない。

 俺の中でアルタリアの価値がぐんと上がった。



「貴族といえども・・・・・・マサキ様に手を出す輩は――」

「『バインド!』アンドドロップキック!」


 ダグネス嬢との握手に嫉妬して殺意を燃やすレイ。

 が何かやらかす前にバインドで拘束したあと蹴り飛ばした。


「なにをしているんだ?」

「気にしないで下さい。ちょっとした挨拶みたいなもんなんで。マリン! 抑えててくれ!」


 俺の行動に疑問を持つダグネス嬢を適当に誤魔化す。

 チッ危ない危ない。レイを袋の中に際封印するのを忘れていた。フーフー威嚇しているレイをマリンに宥めさせている。


「君の仲間はアルタリア以外にも個性的な人間が多いんだな。では私は帰るとする。この先もし彼女が外道に落ちたときは、この私が友として引導を渡してやる! そうはならないことを……望むよ。ではまた会おうアルタリア。次の試合では私が勝つ!」

「望むところだ! 返り討ちにしてくれるぜダグネスちゃんよお!」

「ああ?」

「いいんだ。彼女に悪気は無い。あれが素なんだ」


 騎士がアルタリアの煽りにキレかけるがダグネス嬢が止める。何度目だこのやり取りは。




 こうしてダスティネス卿は騎士たちを引き連れて帰っていった。


「まさかアルタリアさんが貴族だったなんて思いもしませんでした! びっくりです! それにあの大貴族ダスティネス家の友人とは、さらにびっくりですわ!」


 静かになったあと、マリンが改めてその事実に驚愕する。


「ああ、俺も驚いた。あの騎士たちの対応を見るに、お前の言うとおりダスティネス家とかいうのは相当の名門らしいな。にしてもヒヤヒヤさせやがって! アルタリア! そしてレイ! お前達はいい加減にしてくれないかなあ?」



 とりあえず名門貴族にいきなり喧嘩を売ったバーサーカーと、その彼女と握手しただけで殺意を向けて飛びかかろうとしたゴーストに向けて文句を言う。


「いいじゃねえか! 結果上手く収まったんだから!」


 悪びれもせずいうアルタリア。


「まぁお前はいいだろう。まさか大貴族に知り合いがいたとはね。騎士達には睨まれたものの得たものも大きい」


 アルタリアは許すことにした。そしてダスティネス家をどう利用すれば俺が楽できるか考える。


「私は間違ってませんよ! 貴族でもなんでも私のマサキ様に手を出すものは許せません!」

「握手しただけだろ? いちいち目くじらを立てるな! 俺の野望の邪魔だ!」

「野望ですか。マサキ様が勇者になることはいいです! ですが王族と結婚は許しません! 魔王になってもいいです! でもハーレムは許しません!」

「そんなのなれるわけ無いだろ! そこまで考えてねえよ! 勝手に妄想でキレるなマジ困るから!」


 レイと言い争う。

 そして思い出す

 そうだ。野望なんかより、このメンヘラをどう制御するかのほうが重要だ。毎晩襲ってこられるため夜も眠れない。


「なんとかしないとなあ」


 そうボソッと呟いて、また今晩はどうやってレイの夜這いを食い止めるか考えることにした。


 

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