4日目「必需品」
休日の朝にしては珍しく、目覚ましを少し早めにセットして起きた。
昨日外に出たときに買った菓子パンを食べながら準備を済ませ、これまた休日には珍しく外に出る為に顔を作っていく。
そういえば莉緒ちゃんはメイクなんかしていなかったな。珍しい程に完成した顔だった。そんな人間が死ぬなんて勿体ない。なんて上の空で女子高生の顔面に嫉妬しながら、肌に色を載せていく。
生活力が無くてもメイクは出来る。周囲からの評価は基本的に顔から。言い換えれば顔を作らなければ生きていけない社会。だからこれは必須スキル。全く面倒な世の中。
「よし」
着替えも済ませ、適当に荷物をポシェットに詰め、声を出す。
「おまたせ」
「麻里さん計画性無さすぎですよ。あと五分でバス来ちゃいます」
「大丈夫、急いで階段下りれば間に合う」
「いつもこんなギリギリで家出てるんですね……」
慌てて靴を履き、彼女と共に部屋を出る。昨日とは打って変わって空は青い。昨日できた水溜まりが陽を反射してキラキラと輝いている。
部屋の鍵を閉め、廊下を歩き出す頃には薄らと汗が滲み始め、高い気温と湿度にうんざりする。
夏はどんな天気でも不快だから嫌いだ。
「麻里さん。早く」
階段を降り始める彼女が私に手を振る。
そんな彼女の後を追うように、私は廊下を走った。
「今日行くところって大きいんですか?」
「まぁそこそこかな」
空調の効いたバスの中にはちらほらと乗客がいる程度。お昼前の丁度人が少ない時間帯に当たったらしい。
「人多そうですね」
「人込み苦手?」
「得意ではないですね」
「まぁ、私もなんだけど」
バスで駅まで行って、そこから電車で二駅の場所にある大きな商業複合施設。普通の人の感覚はわからないが、出不精の私にとっては少し遠めの買い物。帰りの電車の中で荷物を抱えるのは恥ずかしいけれど、自家用車を持っていないので仕方がない。普段は自転車とバスがあれば生活できてしまうが、こういう瞬間には車が欲しいと思わないこともない。
「それより、知り合いとかに会いそうで怖くないですか?」
「……考えてなかった」
「私はまぁ友達もそんなにいないのでいいんですけど、麻里さんは学校中に知られてますし」
「理由は知らないけど莉緒ちゃんも学校で有名なんじゃなかったの?」
「まぁ、私の知名度は悪名みたいなものなので」
自嘲気味に笑う彼女を横目に、もう一度彼女が学校で有名な理由を考えてみる。
悪名か。なんだろう。不登校の美少女みたいな感じだろうか。悪い人って高校生には格好良く見えちゃうものだし。
「それより麻里さんですよ。もし生徒に会っちゃったらどうするんですか? 私といるのを見られたら流石にやばくないですか」
「高校生の情報網は早いもんね」
「じゃあ、とりあえず別行動しましょうか。時間を決めて落ち合えば大丈夫だと思いますし」
「了解。二人で買い物に来てるのに少し物足りないけどね」
バスの車窓から外を眺めるようにして会話していると、莉緒ちゃんに肩を突かれる。
振り返るとすぐ近くに彼女の顔があって、小さく驚く。
彼女はあの日出会った時と全く同じ格好をしている。簡素なシャツにホットパンツ。涼しげな靴。そして頭にはニット帽。
ただのファッションかと思って言及はしなかったが、やはりこうして見ると夏には不釣り合いに思えて目立つ。夏にニットを被るのが流行っているのだろうか。流行に疎いせいで、それに意味があるのかさえも分からない。
一昨日洗濯したときには帽子は見落としていたから、一緒に洗ってあげればよかったななんて思う。
「別行動だったら連絡手段必要じゃないですか?」
「あ、そうだね。ラインでいい?」
私は携帯を取り出しいつもの緑の画面を開く。数人の友人と親族と職場の人間しか登録されていないここに現役の女子高生が登録されると思うとびっくりだ。
コードを表示して彼女に渡そうとすると、彼女は気まずそうな顔をする。
「ええと、もしよければ電話番号教えてもらっていいですか……?」
「もしかしてラインやってない?」
「はい。恥ずかしながら」
「友達とかと連絡したりしないの? 女子高生ってライン必須だと思ってた」
「女子高生は、必須だと思いますよ。でも私は不登校気味なので、そんな親しい友達いないんですよ。学校で話せる人はいても学校以外で連絡を取るほどじゃないです」
彼女と話していて勝手に、この子は友達も多いんだろうななんて感じていた。話も上手かったしこっちの考えを読み取ってくれるしで、コミュニケーション能力が高いと思っていたから、友達がいない宣言が飛んでくるとは思わなかった。
驚きが半分。同情が半分。申し訳なさそうな顔を浮かべる彼女に番号を教えないという選択は選べず、私は彼女の携帯を受け取り、自分の番号を打ち込む。
「ありがとうございます。この携帯に登録されてる人、これで四人目です」
感情の読めない笑顔を向けられて私も戸惑う。普段携帯を使わないお年寄りでももう少し登録されているんじゃないか。四人。私と両親と、あと誰だろう。姉妹でもいるのだろうか。
彼女を盗み見ると私の番号を登録している途中で、そんな彼女に振る話題が見つからず咄嗟にニット帽について尋ねた。
「そういえば、その帽子さ」
私が口を開いた瞬間、彼女は肩を跳ねさせるように驚き、ゆっくりとこっちを見る。
「この帽子が、なんです?」
その声は雑談にはそぐわない緊張の音が混じっていた。
「いや、夏にニット帽って珍しいなって。流行ってるの?」
「あ、あぁ。そんな話ですか」
「ん?」
「いや、何でもないです。流行ってるんですかね。一応サマーニットってジャンルはあるんですけど、そんなに見ないですよね」
「暑くないの? 見るからに暑そうだなって」
「暑いですよ~。しかもこれ、多分そのサマーニットじゃないので普通に暑いです」
「じゃあ被らなくても」
「まぁ、好きってのはあるんですけどね。おしゃれは我慢とか言いますし。ただそれとは別にちょっとしたお守りみたいな感じにもなってて」
「お守り?」
「私、外出るの苦手なんですよ。だから鎧っていうか」
「メイクするみたいな感じ?」
「そうですそうです。暑いのがデメリットですけど、今更癖も治らなくて。まぁ気に入ってるんでいいんですけどね。可愛いし」
体に染み付いた習慣は中々消えない。私だって朝はラムネがないと本当に起きられないくらいだし。だからそこまで膨らませる話でもないのかもしれない。
人込みの中で見つけやすいし、悪いことではない。トレードマークとしても可愛い。
バスが一時停止の後また走り出し、次の停留所が表示される。莉緒ちゃんが近くにあったボタンを押し、車内に軽い音が流れるのを聞いて次が目的の駅なことを知った。
商業施設に着き、一旦屋根の下に入る。
想像していた物より大きかったのか、莉緒ちゃんは施設を見上げながら息を吐く。
「結構大きいですね……」
食料品日用品から家具家電、本屋に玩具屋。隣には映画館までついているそこそこ大きな場所。とりあえずここに来れば一人暮らしに必要な物は揃うだろう。なにせ数年前私もここで色々と買いそろえた記憶がある。
世間は夏休み。予想通り施設の内外には多くの客で溢れていて、莉緒ちゃんの血の気が引いていくのが分かる。
「人込み大丈夫? 外苦手って言ってたけど。やっぱり一緒に回ろうか?」
「いや、何とかやります」
「本当? 私はマスクでもつければバレないと思うし、無理はしなくていいんだよ?」
「いや大丈夫です。麻里さんも買い物あると思いますし、二手に分かれた方が早いですもん。心配かけちゃってごめんなさい。とりあえず必要なもの一通り買ってきちゃいますね」
「こっちは気にしなくていいから。私は私で適当に回ってるし」
「すいません。私の為に。麻里さんも人込み苦手って言ってましたよね」
「いいのいいの。実は私もここに来るの久しぶりなんだよね。丁度買いたいものもあるし」
仕事以外でまともに外に出ていなかったから、買わなきゃいけないものが沢山ある。とりあえずネットより安そうな物を探して、適当に買っていこう。
「集まるの何時にしましょう」
「どうしようね。お腹減ってたりする?」
「そんなにです」
「じゃあお昼は後でいいか」
「そうですね」
「とりあえず三時間後にフードコートに集合でいい?」
「了解です」
じゃ、と手を振って小走りで店内へ走っていく彼女を見送っていると、少し離れたところで何かを思い出したようにこちらを振り向く。なんだろうと彼女を見ているとおもむろに携帯を取り出し、しばらくして私の携帯が震える。
『もしもし、麻里さーん』
「なに? 態々電話しなくてもいいじゃん。目の前にいるんだし」
『いや、電話番号間違ってないかなって。間違ってたら合流できないかもですし』
「じゃあこれで大丈夫?」
『はい!』
明るい声が耳元で響き、彼女は遠くでまた私に背中を向ける。
私もとりあえず店内に入る。空調が良く効いていて、浮かんだ汗が一気に冷えていく。私はとりあえずエスカレーターに乗り、携帯にメモした買い物リストを開いた。
そういえば、彼女が私の家に転がり込んでから初めての一人の時間だ。数日前まで一人で行動するのが当たり前だったのに、会話する相手がいないことに手持無沙汰になってしまう。
向こうは高校生。買い物くらい一人でするのが当たり前かもしれないが、秘かに心配してしまう。考えてみれば日用品から服まで買うのだから別行動にして正解だった。私だったら知らない大人に隣を歩かれながら下着を買いたくない。
「まずは本屋でも行こうかな」
彼女が家にいる生活で本を読む時間が取れるかは分からないけど。
「お待たせしました!」
集合時間から待つこと十五分。彼女からの着信に応答し場所を伝えてからまた数分。ちょっとの遅刻と共に息を荒げながら私の目の前に現れた莉緒ちゃんは、両手に一杯の袋を持ち、もう人込みは懲り懲りだと顔で訴えていた。
「お疲れさま」
「ごめんなさい。遅れました!」
「大丈夫大丈夫。もしかして走ってきたの?」
「はい。さすがに三十分オーバーはまずいと思いまして」
「そんなに気を使わなくていいのに。……とりあえず座ったら?」
肩で息をする彼女に向かいの椅子に進めると、重りを外すように両手の荷物を地べたに置き、崩れるように椅子に座り込んだ。
「つかれました~」
「大丈夫?」
「正直だめです……」
あーとかうーとか、あまり聞かない唸り声を上げながら、いつになく疲れた表情で机に突っ伏す。
「やっぱり人混み、辛かった?」
「それもそうですけど、この量の荷物を持っている人間に対しての、周りの目が怖かったです」
「あぁ……」
両腕を枕にするようにして顔を机にくっつける彼女の声はくぐもって聞こえる。
私からは顔が見えないのでニット帽が喋っているような。まぁ、この季節にニット帽ってだけでも注目を集めそうだし。この量の袋を持っていたら、そうなるだろう。パッと数えると袋は六つ。安めの洋服チェーン店の袋が二つ。ドラッグストアの袋が一つ。あとは雑貨の入った袋が二つに、ホームセンターの袋が一つ。
「よくこの短時間でそれだけ回れたね……」
「私、買いものは早い方なんですよ。特に服とか、そこまで悩まないので」
「色々見なくてよかったの?」
「いいんですよ。服なんて、ただの布です。何を着たってそんなに変わりません」
「そんなこと言う女子高生、見たことないよ……」
「とりあえずテンプレで平均点を取っていればいいんです。ほら、私、顔はいいですし」
「自分で言うんだ」
「謙遜する方がムカつきません?」
「それはそうかも」
「私に近寄ってくる人なんて、大抵顔しか見てないんで。服はおまけみたいなもんです」
「そんなことは無いと思うよ~?」
私の目の前のニット帽は一切顔を上げないまま捻くれた言葉を吐き続ける。言われてみればニット帽に加えてその顔も十分に注目を引くポイントか。
「美人には美人の苦労がって言うもんね」
私には分からないけど、と皮肉を込めて投げかけると、ニット帽はひょいと顔を上げてキョトンとした顔でこちらを見る。
「麻里さんは十分美人だと思いますよ?」
「なっ……」
「麻里さんこそ謙遜するタイプじゃないですか。周囲にやっかまれますよ?」
「私、美人なんて言われたことないよ?」
「絶対裏で言われてますって。麻里さんがそれに興味ないだけじゃないですか?」
「そんなことないって」
「なんとなくわかります。麻里さん鈍感ですもんね。男の人が近寄ってきても恋愛対象として見なさそう。そもそも他人に全く興味なさそうですし。それでなんとなく仲良くなったら、麻里さんの生活力の無さがバレて皆そっと離れていくんです。そんな感じじゃないですか?」
「……いや、それは流石に。でも、他人に興味がないってのは本当かも」
「ですよね。絶対人の顔とか覚えなさそうですもん」
年甲斐にもなく恋バナのようなものをしてしまい、大学時代を思い出す。昔はもっと周りに合わせて恋愛のようなものをしていたっけ。長く続いた試しもないし、今では私に向いていないのだと割り切ってしまった。周囲が仕事仕事で恋愛の空気が無いのも影響しているのかも。
それにしても、他人から褒められるのは久しぶりで、内心とても嬉しい。興味の無いふりをしながらも、さらっと言われた美人という言葉を反芻してにやけてしまいそうだった。
だから無理やり話題を逸らしてみたり。
「服以外は何買ったの?」
雑貨の入った袋を指差しながら聞いてみると、莉緒ちゃんは思い出すように指を折り数えながら次々と暗唱していく。
「えっと……。消耗品全般と、携帯の充電器と、タオルと……」
「そのでっかいホームセンターの袋は?」
「これですか? これは秘密です」
「隠したって帰ったらどうせ私の目に入るじゃん」
「それでも秘密なんです」
頑なに拒むもんだから私はすぐに諦める。莉緒ちゃんは雑貨の入った買い物袋を手に取って中身をかき混ぜながら、買ったものを紹介していく。
「あーとーはー……。あ、食器も買いました。茶碗とか箸とか」
そういえばと彼女は買い物袋の中から茶色い箱を取り出す。
「何?」
「いや、麻里さんにプレゼントをと思って」
「プレゼント?」
莉緒ちゃんはその箱を開け、中から白い紙で包まれた物を取り出すと、丁寧に紙を開いていく。
「ご飯の茶碗です。料理するっ約束しましたけど、麻里さん茶碗を持っているかすら怪しかったのでプレゼントです。気に入るといいんですけど」
ちなみに私のと色違いですと、もう一つの箱を取り出して笑う。
「ありがと……。びっくりした。でも流石に茶碗は持ってる」
「持ってたんですか。じゃあいりません?」
「いや、貰うよ。折角貰ったものだし。嬉しい」
浅めの茶碗は白と水色のグラデーションになっていて、まるで夏の空の様な色だった。
プレゼントを貰うのなんて何年ぶりだろう。そしてプレゼントを渡すのも何年ぶりだろう。
「実はさ。丁度私も莉緒ちゃんに渡したい物があって。いや、要らなかったから受け取らなくてもいいんだけど」
私も自分の買い物袋から彼女への贈り物を取り出す。相手が気に入ってくれるかを考えるなんてそれこそ久しく感じて無かった感覚だ。
「丁度夏もの見てたらサマーニットってあってさ。今莉緒ちゃんが被ってるやつより涼しそうだし、いつも被るなら複数個あってもいいかなって」
私が明るい灰色のニット帽を取り出すと、様子をうかがっていた彼女の顔も徐々に明るくなっていくのが分かる。
「良いんですか?」
「うん。それが気に入ってるなら無理にとは言わないけどね」
「嫌なわけないじゃないですか! ありがとうございます! 大事にしますね」
ふわっと軽いそれを受け取ると、さっそく今被ってる帽子を机の上に放り出して、新しい物を被ってみせる。
「どうです?」
「うん。可愛い。でもタグ付いてるから、家までは今日被って来たので帰ろ」
私の指摘でタグに気が付き恥ずかしくなったのか、顔を赤らめて帽子を取ると、大切そうに胸に抱きしめる。
「ほんとに、ありがとうございます」
「そんな大袈裟だよ……。喜んでくれて嬉しいけど」
「喜ぶに決まってるじゃないですか」
「服なんてただの布って言ってなかった?」
「プレゼントは別ですよ! 嬉しい布です!」
「なんだかなぁ……」
ニコニコと眩しい笑顔を作る彼女はテーブルの上に並んだニット帽と茶碗を袋に仕舞う。
「どうします? 麻里さんはお腹すきました?」
「食べよっか。丁度空いてきたし」
何食べますかと、いつもの様な会話と共に私は小さくお腹を鳴らした。
私も莉緒ちゃんも家に帰るや否や、一日人込みに揉まれた疲労から瞼を重くしていた。夏の空はまだ明るく、寝るには早すぎる時間だったけれど、すぐにでも眠ってしまいたかった。
毎日だらだらと同じことを繰り返し、楽しみもない毎日をただただ消化していく日々に慣れてしまった私には、刺激の強い一日だった。久しぶりだと感じるものも多くて、これもまた彼女のお陰かななんて感謝してしまう。
私は先にシャワーを浴びてすぐにベッドに倒れこんだ。湯船に浸からないと明日の筋肉痛が酷いだろうなと考えながらも、そんな体力はもう残っていない。
莉緒ちゃんはいつの間にか買ってきた物の整理を終えていて、私と入れ替わりでシャワーを浴びる。できた子だななんて感心しながら、私は目を瞑る。
心地よい疲労感が上から圧し掛かり、金縛りの様に動けなくなっていく。疲労に幸福感を抱いたのはいつぶりだろう。凝り固まったものが解かれていくような感覚。
明日は彼女と何をしようか。
暖かな物が胸の奥にあるのを感じながら、私の体重はベッドの奥底へ吸い込まれていった。
どうして。どうして。
いかないで。いかないで。
ごめんなさい。ごめんなさい。
わたしが――
「――っ!」
ベッドから飛び起きるようにして、目を覚ました。
視界がぐるぐると渦巻いている。
眩暈がする。吐き気がする。心臓が五月蝿い。
朝、ではない。外は真っ暗だ。
落ち着くために深呼吸をすると、少しだけ視界がクリアになる。
またこの夢だ。子供の頃から呪いのように見続ける悪夢。
脳裏にこべりつく記憶を忘れようと首を振りベッドに倒れこむ。
もう一度寝てしまおう。そうすればきっと忘れられる。
そうしてまた意識を手放そうとした時、不意に足音が聞こえ、体が跳ねた。
「麻里さん?」
「――っ!」
「……ごめんなさい。起こしちゃいましたか」
小声で囁くような莉緒ちゃんの声に驚くが、すぐに冷静を取り戻す。
家に人がいることに体はまだ慣れていないらしい。
「ううん。大丈夫。……何かあったの?」
「いいえ、トイレです」
「そう。おやすみ」
瞼をゆっくりと閉じようとした時、視界の端に莉緒ちゃんが映った。
夜の黒の中、月明かりに照らされる彼女の肌はあまりに白く美しい。
そして。
月明かりを反射して、彼女の目がギラリと光った。
その目は、あの日のように。
燃え盛るように力強い生の光を宿していた。
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