第44話 不死の彼女の望むもの(7)
そう。確認するまでもなく、死んでいた。
肉の魔女を打倒することに、成功した。
だというのに。
どうしてこうも、胸が騒ぐのか。
「しかし、何だ……?『私の子供に手出しするな』、とは」
「焼失! 死体だ! 焼け!」
魔女の死体が僅かに蠢いたのを見て、標識が声を上げる。
ほとんど同時に、焼失が炎を放つ。
存在していた事実ごと、この世から焼失させる、
全てを焼き払い、決して逃れることのできないはずの炎の内から現れたのは。
「だめだよ。お母様が言ったでしょう。『私の子供に手出しするな』って」
年嵩は七つに満たない程の少女。
黒天鵞絨のように深い黒髪に虹の光沢を備え、切れ長の瞳は夜空のように黒く輝き。
濃桜色の唇からは艶かしいというよりは、妖しい色気が漂っている。
身体には一糸まとわず、女性的な膨らみこそ見られないものの、幼児らしい、柔らかい輪郭が露わになっている。
その肌は吸い込まれるほどに白く、きめ細かい。
艶然と微笑んで見せるその表情は、彼女の『母』とまるで同一のものだった。
「ああ、お母様。生まれた瞬間生き別れてしまうなんて。けれど、私がこうしてここにいるもの。無駄ではなかったわ」
よよと泣き崩れるような素振りで、そんなことを言ってのける少女。
「どうして、お前が生きている。肉の魔女……!」
「いいえ。私はお母様の娘ですわ」
泣いていたのはどうしたのか、そう言って微笑みかける少女。
「母の腹から出てきた私が、お母様の娘でなくてなんだというのですか」
「生まれたばかりで、流暢に言葉を交わす赤子がいるか…!」
「それでも『世界』を騙すことはできた」
少女は笑う。
思惑通りに踊った魔法使いたちを。
次の瞬間、全員が魔法を使っていた。
顕が結界の斬撃を放ち、月彦と神一が、幻惑を試み、標識は白棒で殴りかかり、焼失が炎を放っていた。
そのどれもが、少女に届かない。
少女の薄い笑みを、止めることさえできなかった。
「次の夏。来たる最大の争奪戦。これで私が負ける未来は、大幅に減じた」
「争奪戦だと」
絞り出すようにして、月彦が問いを投げかける。
「そう。古部の大霊脈。『井戸』を巡る争奪戦。その行方が揺蕩っているから、未来視たちはその先を視ることができない」
くるくると回り、ステップを踏みながら、少女は続ける。
「かの大霊脈を抑えるということ……それは文字通り、世界の全てを手に入れるということに等しいわ。私が私として、永遠に在り続けるためには、絶対に負けられない」
そして、ぴたりと止まって、指をさした。
「でもあなた達は、もうそこで私と戦うことさえできないの」
上機嫌で、鼻歌さえ歌いながら、少女は微笑んだ。
「もう用はないから帰っていいよ。ばいばい」
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