第42話 不死の彼女の望むもの(5)

 羽原アイリの大立ち回りが始まるや否や、月彦は即座に焼失と標識に言霊を飛ばした。


『心配ない。傷が開いただけだ。すぐ止まる』

『脂汗まみれの奴のいう台詞じゃねえな。寝てろ。後は俺が焼くから』

『随分と自信があるようだね。そんなに君の炎の魔法は強力なのかい』

『火が回れば焼き消してやる。後は足止めだけだ』

『それなら私が請け負う』


 顕が懐から碁石を取り出した。


『結界操作は任せてくれ。火が届いた瞬間、結界を解除すればいいんだろう?』

『必要ない。奴の動きを止めてくれりゃあ、結界ごと焼いてやる』


 焼失の言葉に、顕が言い淀んだ。

 月彦が、代わりに言葉を継ぐ。


『…それは。君の魔法は、天仙道の結界使い、曲輪木顕の結界を、力押しで破れる、ということかい』

虚空蔵追放ダムナディオ・メモリアエ。俺の火はそれだ』


 天仙道の三人は絶句する。


『あ、あり得ないだろう! 虚空蔵追放ダムナディオ・メモリアエだと? アカシック・レコード干渉! そんなもの、おとぎ話の中の大魔法だ!』

『神一。無駄口を叩くな。炎使い。その言葉、嘘偽りはないな』

『ない』


 焼失の言葉に嘘がないことは、言霊使いの二人には確かに感じられた。

 しかしその言葉は、それでも、信じられるようなものではなかった。


『確認したのだろう? ならばそれを前提にして、動く』


 押し黙る朽網の二人を焚き付けるように、顕が言葉を継いだ。


『魔女の動きを止めるのは私がやろう。だが、どうやって接近する?』

『炎を、飛ばせばいい。俺の魔法で』


 青白い顔の標識が、そう提案する。


『いけるのか?』

『できる』

『じゃあそれで行こうや』


 話を纏めて、焼失は立ち上がった。

 羽原アイリの、悲哀の絶叫と共に。

 そして、『糸電話』に意識を向ける。


『郵便屋。今のはお前のミスだぞ』

『…あの子、魔法を打ち消してた。『解呪』の羽原だよ。僕の索敵も、効かなかったんだ』

『言い訳は聞かねえ。ミスは取り戻せ』


 標識にさえ届かない、二人だけの会話を一方的に終えて。

 標識と共に、無言で奇襲の準備を始めた。

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