第31話 最愛の子供と繋がる絆(1)
未来視たちは、無限に分岐する未来の中で、最も起こり得るであろう未来を視る。
未来はいつも不確かで、魔法使い達が魔法を使うたび、世界は軋み、僅かずつその未来はズレていくものであった。
それ故に、昨日視た未来が、今日見たら変わってしまっている、ということは往々にして起こる。
世界を支配するに等しい魔法であっても、万能ではないのだ。
その上、未来視が得た未来の情報は、その具体的な内容を他人に伝えることができない。
確定的な未来の情報は言霊による制限が発生し、未来について他人に伝えよううとすれば、それは意味不明の雑音にしか聞こえなくなってしまう。
この現象は、遠く昔に言霊使いである朽網の一族によって確認されていた。
未来の情報を守る、言霊の呪い。
言霊使いの朽網は真っ当なやり方で未来の情報を伝えることは不可能だと断じ、呪いと解呪の専門家、奉野と羽原は、この呪いを解呪することは不可能であると結論づけた。
必然的に、卜部一族による天仙道の舵取りは、先の見えぬ命令をただ下すだけという形にならざるを得ず。
そして当然の理として、それに反発するものが現れるのだった。
(だが、事態は上手く転がっている)
卜部灘は、朽網と葛葉が戦闘を始めてからすぐに、沼園の『影沼』の魔法ごと部屋から立ち去り、上手く離れることに成功した。
朽網月彦と曲輪木顕を、敵地で孤立させる。
それが、今回の襲撃に際して卜部本家から命じられた、極秘の指令だった。
「卜部を出し抜こうだなどと、大それた事を考えるからだ……本当に愚かしいな」
灘は薄い笑みを浮かべて、そう呟いた。
「……大丈夫ですか? あなたといえど、未来の全てを見通すことができるわけではない」
「大丈夫だよ、沼園。問題ない。未来の全てを見通す必要などないんだ。決定的な分岐点だけ分かっていればそれでいい」
「決定的な、ですか」
「そうだ。確たる未来を見なくても、それが来るということを、ボクら未来視は感覚的に理解できる」
それは、第六感だとか、勘と呼ばれる類の感覚であったが、卜部にとって、勘というのはただのあてずっぽうでは決してない。
未来を視る卜部の人間の勘とは、即ち無意識のうちに発動する未来視魔法に等しい。
近しい未来の自分の体感覚全てを『視る』卜部灘が、嫌な気配を感じないということはつまり、当分は身の危険が生じないということを意味していた。
「むしろ、調子がいいくらいだね。あの曲輪木と朽網の両方の力を、こんなに簡単に削げるのだから」
「あの女狐と性悪らしからぬ楽さでしたな。卜部の言葉を疑いもしないとは」
「所詮は下働き……本能的に染み付いているのさ。ボクら卜部の言葉を聞くことがね」
鼻歌でも歌い出しそうなほどに上機嫌な様子で、灘は廊下を歩む。
「さあ、長居は無用だ。そろそろあの『肉の魔女』が動き出すだろう」
「はい」
灘に付き随う沼園は、左手で腹を愛おしそうに撫で、それから何の前触れもなく、唐突に右腕を素早く振り、灘の首元目掛けて振り下ろした。
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