第24話 世界の終りの前哨戦(3)
「売られた喧嘩を何でも買っていたら我々天仙道はあっという間に破産してしまう。が―――朽網の言うとおり。こちらには大義があり、そして狙うべきものもある」
曲輪木はそう言って、部屋の中の魔法使い達を見回した。
「そういうわけで、ここに集められた六人。足すことの一人で、時計塔の本部を襲撃し、人工霊脈を奪取する」
「……本部を狙うにしては、少なすぎるのではないか? いくら時計塔の雑魚相手だからといっても限度がある」
眉を上げて抗議の意を示した沼園に、曲輪木は首を振った。
「いや。人員は少なすぎるくらいでいい。時計塔相手に数で押すのは悪手だ―――『肉の魔女』の駒を増やしてやるようなものだからね」
「そそ。身体操作しか使えねえような雑魚なんざァ味方にいようが敵にいようが、ものの数じゃねェ。重要なのはそれなり以上に使う魔法使いの数だぜ」
アロハシャツの男はそう言ってにやりと笑った。
「つーわけで、自己紹介といこうや。天仙道所属、『呪詛』の
それを見て、和装の男、朽網月彦が立ち上がる。
「それじゃあ僕も僭越ながら。まあ、僕のことは今更言うまでもなく知っているだろう? 朽網月彦。言霊使いだ。そして」
「
そう言って、白い詰襟の少年――神一は慇懃に頭を下げた。
黒ずくめの男はそれを鼻で笑う。
「卜部のボディーガードとして来た。
「
部屋の端に座っていた青年は、立ち上がってそれだけ言うと、言うべきことは言ったとばかりに再び座り込んだ。
「そして、曲輪木からは私、
「そのもう一人ってのァ、どうしてここにいないんスか?」
曲輪木の言葉を遮るようにして、奉野が口を挟む。
曲輪木は、珍しく顔を顰めて、目元を抑えるようにした。
「あー、それは言いにくいんだが、あれはこういう話し合いが苦手で―――」
「終わったですか! アキラ様!」
ドアが吹き飛んだかのような大きな音を立てて蹴破られ。
満面の笑顔の少女がそこに立っていた。
「リツはもう待ちきれねーですよ!!!」
「なるほどね」
月彦が愉快そうに笑みを深めた。
「精鋭揃いってわけだ、曲輪木?」
「……
渋い顔で答える曲輪木の元に、子犬のように走り寄る少女。
「アキラ様! リツを褒めたですか!!? わほー!」
魔法使いたちに胡乱気な視線を向けられて、曲輪木は小さく咳払いをした。
「以上七名。この七人がチームとして動く」
「七人が一単位ということか?」
「いや。不測の事態に備え、できれば二つに分けたい」
沼園の問いかけに、曲輪木は二本の指を立てて答える。
「ああ、それがいいね。せっかく曲輪木と僕ら朽網が二人ずついるんだ、二チームならば一人ずつ配置したいな」
「『肉の魔女』対策……。まあ、妥当スね」
朽網の提案に、奉野が頷く。
「触ったら即終了のクソゲーだ。結界は必須、精神攻撃使われても言霊がありゃ復帰できる」
「ええーーーリツ、アキラ様と一緒がよかったです」
頬を膨らませて抗議する律を、曲輪木は無視した。
「部隊を分けるなら」
部屋の隅から、卜部が口を開いた。
「曲輪木顕、朽網月彦、ボク、沼園禊。この四名を組とするべし。そう本家から通達されている」
「……その意図は?」
神一が、目を細めながら卜部に問いかける。
「万が一にもこのボクが時計塔の手に落ちないため」
「賛同しかねるな。片方だけに力を集中するのはよくない」
「その言い方は納得できねッスよ、曲輪木サン。それじゃあまるで、俺らが雑魚って言われてるようなもんじゃねッスか」
奉野が不機嫌を隠そうともせずにそう言うと、卜部が蝿を払うように二度手を振った。
「その通り。君じゃ役者が不足だと言っているんだよ、奉野の」
「んだとてめェ!」
「静かに」
ぱん、と。
それほど大きな音でもない、柏手を月彦が打つと、不意を突かれたように皆が黙り込んでしまった。
立ち上がり、激昂しかけていた奉野もばつが悪そうに席についた。
その隙に滑り込むようにして、曲輪木が口を開いた。
「ありがとう朽網―――卜部の。いくら卜部の決定とはいえ、現場の裁量権は私にあるはずだ。悪いがその要求は」
「いいじゃないか、曲輪木」
難色を示そうとした曲輪木を遮るようにして、月彦は笑顔で答える。
「僕は賛成だよ。つまらない仕事も、君が隣にいるなら耐えられるし」
「……おい、朽網。何を考えている」
「何も? 僕は卜部とことを構えたくないだけだよ」
へらへらとした笑みを浮かべながら、曲輪木を見つめる月彦の目は、しかしまるで冗談を言っている者のそれではない。
「後悔するぞ」
「それは誰がだい、曲輪木。僕か? それとも君か」
部屋の中には、呼吸の音さえ響かないくらいの静寂が満ちていた。
そんな緊迫する空気などまるで気にしていないように、
「卜部がそう言っているんだ。未来を見透す我々卜部がね。信じるがいい。それこそが最善なのだから」
と得意気に卜部は言った。
曲輪木は小さく息を吐いた。
「……では、そのように。だがこれはあくまで暫定的なものだ。不測の事態においては臨機応変に対応すること」
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