黒第2話

まほろば~黒~第二話









数十分後。


近くまで来ていたのか、その[マコト]という男をギルドの仮眠室(今俺が寝ている場所でもある)に呼び出していたらしく。

ここが仮眠室という事を忘れているんじゃないかという位のハイテンションで・・


奴は入って来た。


「ライルさーーん♪呼ばれて飛び出て参りましたよーー!」


「マコト、ご苦労様。実は今回君を呼んだのは・・・」


「えっえっ!やっぱり俺様を幹部の右腕として機能したくなったんですかあああああ!

俺様、ライルさんの為とあらば、あんな契約こんな契約しちゃってもいいなって!

もう全て捧げちゃってもいいって思ってますんで♡」


・・・なんでコイツを呼んだんだろう。


今ギャンギャン目をハートマークにさせて調子に乗っているこの男が[マコト]だ。

一見、見た目だけだと‘‘モデルさんみたい‘‘だとか‘‘アイドル‘‘だとか言われる位には

美貌を持つ青年だ。


コイツの中身が理解出来てない、付き合いの浅い女達は、大概‘‘格好良い‘‘とか‘‘綺麗‘‘

とか、顔を赤らめてきゃあきゃあ言う奴等が多い位、イケメンなのだろう。(戦闘に関しても抜きん出た部分があるから尚更らしい)


ただ、中身と見た目のギャップが酷いのだ。


根っからの女好きで、女には見境なく手出しをする。


兎に角ナンパ癖が酷い奴なんだ。


「タクマの知り合い??」


「一応な。最近よく組んで仕事することが多かったし・・」


「そうなんだ。へえ・・、タクマ、こんな綺麗な男の子と知り合いだったんだね」


「なんだよコトミまで!そんなに綺麗な面したヤローがいいってか!」


「ちょっと!別にいいとは言ってないでしょ!何で話が飛躍してるのよぉお!」


俺たちがぎゃあぎゃあと口喧嘩をしている間にあっちで話がまとまったのか。

ジュードさんに声をかけられた。


「タクマ、起きたばかりで悪いんだが。少しだけお前の血を分けてもらってもいいか?」


「・・は??」


血??何の為?と思っている間に、ジュードさんは腰に下げていたナイフを取り出し、素早く俺の二の腕に軽く押し付けてきた。


「ちょっと・・、な!何してるんですか!タクマをどうする気なの??!」


「安心してくれ。少しだけ血を貰うだけだって言っただろう?タクマがまたこうして倒れたり

しない為の予防でもあるんだ」


確かに深くは傷を付けられてはいない。

ナイフを外し、オレの腕から垂れてきた血に小さな石ころのようなものを押し当ててきた。


「まあまあ安心してちょーだいよ♥タクマ君がまた暴走しない為に俺様がしょーがなく

協力してあげるんだから」


「しょーがなくってなんだよ!お前は!」


マコトがそう喋ると同時に、俺の血を染み込ませた石に不思議な光が宿った。

ふんふんと鼻歌を歌いながらその石に古代の魔術を組み込んでいっている。

なんだか不思議な儀式を見ている気分だ・・・。

石に魔術も組み込み終わったのか、その石を半分に割って、俺に渡してきた。


「はい終了!お疲れちゃん☆これで俺様とタクマ君の簡単な契約は成立しましたよーん」


「あ、サンキュ・・・・って、契約??!!」


「ほえ??なーにさ。わかってなくてほいほい言う事聞いてたの?

だから俺様が呼ばれてわざわざ面倒くさい契約してやったんでしょー?」


‘‘俺だってさー、どーせなら可愛い女の子と契約したかったよー‘‘と仏頂面して喋ってる

この馬鹿は放っておいて、ジュードさんに目で訴えてみた。


「・・すまない。先に実行に移した方がわかりやすいと思ってな。

安心しろ、簡単な契約だからお前の魂までは侵食されるようなものではないさ。

それに、この手の契約は持って3ヶ月だ。

これで自在にお前の持っているあの能力が使えると考えたら安い物だと思ってな。

・・万が一思ったより上手く扱えなくても時期が過ぎれば契約も勝手に切れるように

なっているんだ」


・・・取り敢えず、俺の身体に変な変化が出ている感じもないし安全な契約だったらしい。

コトミはまだ不安がって【大丈夫?】という目で見てはいるが・・。


「あ、あとタクマ君?その石失くさないようにねー☆多分その位の大きさなら剣の柄に

はめ込めるようにもなってるし。俺も自分の槍に組み込むつもりではあるけど」


‘‘野郎とペアルックってやだなぁ‘‘とぼそぼそ言いながら、トボトボと仮眠室を後にするマコト。



と同時に扉が開いた。






【・・・・真っ黒の服の男・・・・】





一瞬、あの夢が頭にフラッシュバックした。




           『怖いのは・・・キミ自身なんじゃないのかい?』



           「「違う!!」」 




夢の中の黒装束の男の台詞が頭をよぎったその瞬間。


あの夢の中の剣士だった自分と今の自分の声が被って聞こえた。


と同時に



自分剣の柄の石も俺に応える様に眩く光っていた。




身体の力が溢れて止まらない。

熱い。



気づいたら剣を抜き、扉の前に立つ黒い服の男に斬りかかっていた。


‘‘もらった!‘‘と思った矢先。


「やめろ!」



と、マコトの声が響くと同時に、ふと・・冷静になってみた。




確かに夢の奴に少し似ているのかもしれないが


・・・こいつ誰だ・・?



よく考えたらあれは夢であるだけで、今現状、あの黒装束の男が目の前にいる訳もなく。


まずい・・・ギルドの奴であるのは間違いないがこの速度だと

斬りかかった体制を変えれない。


ぎいいいんっと


勢いよく剣は宙を舞った。


ジュードさんが投げたナイフが当たり、矛先が変わって、何とか怪我は

回避できたみたいだ。



・・・マントは思いっきり破いてしまったが。





「あああああああああああああああああああああああああああああ!」



目の前の男が吃驚する位、情けない声を出していた。

・・そこまで叫ばなくてもいい気がする。俺が悪いんだけど・・・・。



「ちょっと・・どうするのさあああああ!

これ、これ、俺の一張羅!子供だからって何やってもいいわけないでしょ??」


少し涙ぐんで叫んでいるこの黒い服の男は、よく見たらふわりと緩めの少し長い黒髪と、

顎に無精髭を生やしていた。

そしてちょっと頼りなさそうな雰囲気でもある。


夢の中の黒装束の男は少し短めの髪の毛でもう少し冷酷そうな雰囲気があった気がした。人違いにしては・・・・なんだか申し訳なく思ってきた



「ていうかオレは子供じゃねえ!」

「アンタその前に謝りなさいよ馬鹿ああああ!」



コトミの言葉が響き渡ると同時に、オレの頬に盛大な平手打ちが食らわされた。


「いってえええええええええええええ」


なんで一日でこんな目にあわなくっちゃいけねえんだ・・・。






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「リズが調査中に行方不明・・・・だと?」


「はい、そうらしいです。アリュートとパルナが不思議に思って捜査に出て得た情報だと、

隣街の教会に監禁されていると考えられるのでは・・と」


黒い服の男が急に入って来た理由はこうだ。


重要任務の依頼で、新米の[リズ]という少女が隣街の聞き込みをしていた時に、不審な動きをした人物を見つけ、近くにいた[アリュート]という隊員に通信している途中で

電波が妨害されて・・。


それ以降戻って来ないという。



その時のリズの通信中に発した言葉が断片的にしか聞こえなかったらしいが、【教会】、【神父】、【子供】、【異端者】、【狩られる】


今、その時一緒に行動していたもう一人の隊員【パルナ】も近くの教会を

捜索しようとしたが、『入れられない』の一点張り。

‘‘ギルドで働きながら殺生するような罪深い人を教会に入れることはできない‘‘

とかぬかしているらしい。

・・・教会に入れないっていう時点で・・なんだかきな臭い。


「タクマ・・悪いが今回の捜査、リズの救出を優先してやってもらってもいいか?こいつらとちょっとばかし変装して侵入して欲しいんだが」


「あ、まあ、別にいいですけど・・」


「有難う」


「あの、タクマ・・また危険な場所に行かされるんですか?」


「だーいじょーぶよお♡俺様もついていってあげてるんだから☆

それよりも・・俺様の心配もしてほしーなー、ねぇ・・おねーさん?」


そういいながらコトミの肩に手を回そうとしているのを思いっきり睨んでやると、小さく舌打ちしながらも‘‘しょーがないなぁ‘‘といった感じで手をひらひらとこちらにむけて振ってきた。


「・・・すいません、あの、部外者がこういう質問してもいいのかわからないんですが・・」


「いや、気にしないで質問してもいいわよ?

貴女はもう部外者ではないのだし・・。どうしたの?」


有難う御座いますとライルさんに軽くお辞儀した後、

コトミはマコトと黒い服の男をチラリと見た後にこう切り出した。


「・・・お二人共・・・髪の色合いが・・その、見た事のない色をしていたので・・。その・・・」


ああ、そういえばコトミに話そびれていたかもしれない。

この世界に生きている人間で、髪の色が真っ黒な人間はまずいない。

髪が黒い人間は俺もここのギルドに入ってマコトと会って初めて知った位だ。

[獣人]や、[ヒトから離れた生物]だけが黒い毛なのかと思っていたが、

後でライルさんに話を聞いたら、ほとんど絶滅しているが、

契約者(コントラクター)という種族がいるらしく、

その一族の生き残りなのだという話を聞かされた事はあった。


様々な人種と契約をしながら、その人物の能力をコピーし、生きながらえる種族。


数年前、コントラクター同士で揉めた事があったらしく、

その事件をきっかけに滅んでしまったもんだと思ってたから

マコトを見たときはちょっと吃驚した記憶はあった。


コトミも俺も孤児院で読んだ絵本では黒い髪の登場人物は

あまりいい書き方をされていなかったから。

コトミも頭では理解しているんだろうけど、精神面ではまだ不安に思ってしまってたんだろう。

何か伝えてやらないと、と。俺が声を発する前に、気づいたらマコトが声をかけていた。


「そんなにこの毛色が珍しいかい?そーそー、よく聞かれるんすよー。

謎が多い男って魅力的っすからねー♡」


‘‘ほんと俺って罪作りな男の子♡‘‘なんて、満面な笑顔で答えていた。

ふざけた調子で発言したコイツに安心したのか

「そうですよね」なんて、自然に笑みを零しているコトミを見て、少しほっとしている自分と、

何も安心させてやれなかった自分自身を歯痒くも感じた。


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「そういえば、挨拶まだだったね。初めまして、おチビちゃん、よろしくね?」


「チビ扱いすんなよ!・・まあ、さっきは悪かったな。俺はタクマ・・アンタは?」


「俺はシズル。マントはまぁ・・君の彼女が直してくれているから、それでチャラにするよ」


「か、彼女じゃ・・・ねーし!」


変にどもっちまったのが余計恥ずかしくて顔から火が出るんじゃないかという位に熱い。

そんな俺の姿を見てシズルはフフっと顔を緩めて笑っていた。


ギルドの噂で[シズル]は‘‘冷酷非道な魔法使い‘‘で、尋問を担当したりすることも

多いだの、‘‘大量殺人魔道士‘‘だのギルドや騎士団内では噂になっている名前ではあった。

しかし、実際に対面してみると、どうみてもゆるーいやつにしか見えない。

まあ噂は噂だし、大して気にする程のことでもないかもしれないけども。


「んんっと・・こんな感じですかね?・・あの、すみませんでした!

タクマが急に斬りかかったばっかりに・・。もう、アンタも!今後は気をつけなさいよね!

いつから誰彼構わず喧嘩売るようになったのよ!」


「だぁあ!!!もう終わった話じゃねーかよ!」


そうこうしている間にコトミは器用にシズルのマントを縫い合わせ終えたらしく。

コトミの作る飯はありえない位に不味いけど、裁縫に関しては神様が与えてくれた唯一の

長所なんじゃないかと思う程に上手いのだ。


「あぁ、有難う。いやー、凄いね君。随分派手にぶった斬られたから、もう修復も

出来ないんじゃないかって思ってたからさ。ここまで直るなんて・・。

気に入っていたから、こうしてまた着る事が出来るのが嬉しいよ。えへへ、いい奥さんに

なれるんじゃないかい?」


‘‘いえ・・‘‘と言いながらも満更でもなさそうな顔をして頬をピンク色に染めてしまっている

コトミを少しイラついた気持ちでチラリと横目で見ていると、マコトが妙な目で俺の事を

見ていたのに気づき視線を逸らす。

アレは完全に俺の事を馬鹿にするネタを見つけたっていう顔だ・・。

間違いない。

あの顔だけ男め。

こういう所が嫌いなんだ。


「・・タクマ?・・早速で悪いんだけど、隣街に行く準備をして欲しいんだ。

・・その前にまず、この服を着てもらってもいいかな」


シズルが早速直してもらったマントを羽織りながら俺に声をかけているのに気づいて、

「おう!」と取り敢えず返事を返した。

その格好っていうのが、コッテコテの騎士団さんが着ているフォーマル服だった。


「・・なんで騎士団のふりをしなくちゃいけないんだよ・・」


「わかりなさいよータクマ君。あっちにはギルド団体の存在は知られちゃってる訳なのよー?

教会は騎士団との交流は大事にしている筈だし、お国も関わってる事だしね。

そうそう簡単に追い返せないってわけよ」


それにしてもこんな服どっから・・とは思ったが。

そういやこのギルド団体は騎士団とも繋がりがある団体だったからか・・と思い出しつつも

それだけでこんな大事な服を貸してくれるのかと、ふと疑問にも思った。


「騎士団の服を着る事が嫌そうな顔してるけど・・、ごめんね?仕方ないんだ。

今回だけは仕事として割り切って欲しい」


「・・しゃーねーな。わかったよ。・・てか、え・・?

もしかしてアンタが今回の指揮を取るって事なの??」


「んーー、俺も本当はこういうの向かないから嫌なんだけどさぁ、正直ジュードさんとか

ライルさんにやって欲しいし。

只、あの教会の内部に妙な呪術が張り巡らされているのがわかっていてね。

万が一もあるし・・ってことで、俺が術をバレないように紐解いていきながらの

変装調査になるんだ。だから、魔法に長けてる俺が指揮を任されたって訳」


‘‘まあ、少しの間だけどサポートよろしくね‘‘と、ふわっと笑われて。

・・こんな、なよっちい奴の下で仕事とか。ちょっと不安だけど、まあ・・俺だって

やれる奴だって自分に言い聞かせて、「おう、よろしく・・」と、軽く握手をした。




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教会に意外にもすんなり入れたのだが・・。

ぴりぴりとした妙な感覚がずっと取れないでいた。

いかにも胡散臭いオヤジが教会から出てきて

「お祈りに来られたのですか?」

と言われてから

「地下はまだ清掃中だから騎士団の皆さんでも入れられないのです」と一言。

そう言われてから一時間位は祈祷したふりをして、小声で会議をしていた。


『なあ・・なんかぴりぴりした感覚がとれないんだけど・・』


『タクマ君・・それはね、きっとあのオヤジが‘‘何か‘‘と妙な契約をして、

魔物を錬成しているからだよ・・』


『はあ?魔物??・・どこにいるんだよ、ここからじゃわかんねーって』


『タクマも結構感受性豊かなんだね、ぴりぴりした感覚ねえ・・。

多分あの地下からだと思うんだけど・・・』


といい、シズルは小さくわかりにくい位の動きで魔法陣を手のひらに作りだした。

あー・・そういう陣形ですか?ってマコトも何故か納得したようにして、

マコトは小声で詠唱を初めて、俺とマコト本人に補助魔法をかけだす。


・・・話が見えねえ。さっぱりだ。


ふっとシズルが息を吐くと同時に、教会の周りに急にぶわっと風が吹き出す。


「よし、これで暫くは探索しやすくなったよ。行こっか」


「お、おいシズル!声でかいって」


というと同時に、妙に教会内部が静かな事に気付いた。


・・・・俺達以外皆寝ている・・・。


・・どうして?と思っていると


「ほら、さっきの魔法陣」


とマコトが口にした。睡眠魔法を使用したらしく、

あの胡散臭い神父もどきもお眠りになられているようで。


「俺達はなんで魔法にかかんなかったんだ?やっぱり体制が元々ついてんのかなあ?」


「何?絶対さ、‘‘俺やっぱすげー‘‘とか思ってたんでしょ?

タクマ君が寝なかったのは俺様の補助魔法のおかげなんだからね!

もー!睡眠魔法防止の魔法、唱えるの結構厳しいんだから。感謝してよね☆」


‘‘シズルさんの魔法力で寝かせない補助魔法使えちゃう俺様格好良い‘‘とか

言ってるコイツは放っておくとして・・。


この隙に神父の顔に落書きしてやりたくなる衝動を抑え、地下に向かった。






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「でええええええええええええい!」


ありえねえ。ありえない数の魔物の数だ・・・。


何でこんな神聖を売りにしているこの教会で。


借り物の騎士団様の洋服は、もう既に魔物の返り血でぐっちゃぐちゃだ。


「こいつら・・もしかして・・・・。」


氷魔法を浴びせながら、冷静に呟くシズルに「なになに何が何なんすかあああ」と、叫び放題に槍で敵を薙払うマコトがいた。


「・・・君たち・・気づいてる?・・・コイツら、見た事のない魔物の姿だっていうの」


「・・はあ、はあ、・・・へ?な、何言ってんだよ」


そろそろバテてきながらも、なんとか敵の攻撃を避けつつ応答する。


「まーー、なーんとなく気づいてはいたけど・・もしかして、この子達・・・。

へへ・・あんま想像したら殺しにくくなっちゃいますしね?

取り敢えずリズの事探すのを先決にしましょっか?」


「そうだねえ・・」


どういう事だよ!なんだよてめーらのツーカーは!とツッコミを入れている間に魔物を槍で一掃していくマコトに俺もついていく。





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食料庫らしき場所に何とか着いた。と共に小さな呻き声・・。あのピンク頭・・多分ギルドが探している[リズ]だ。

縄でぐるぐる巻きにされ、猿轡がされていた。


取り敢えず魔物達が出現する前に、リズの縄と猿轡を外していく。


「っだっはああああああああ!マコオオオオ!助けに来るのおっせーーよ!

アタシ、アタシ、あの変態ゲテモノオヤジに処女奪われるんじゃないかって・・

心配でハラハラしてたんだからあああ!」


「大丈夫だ、お前みたいな色気のない子供は奪われないから」


珍しく女に冷たくあたるマコト。リズくらいの歳の女には興味がないらしく・・。

(まあ14歳だもんな。そりゃあそうだろ)


「いや、確かに奪われるかもしれなかったね。

きっとここの神父は子供と綺麗なものが大好きらしいから」


「ちょっ、ちょっとシズ君!ななな何縁起でも無い事穏やかに言ってる訳?!」


「あの近くの子供達の姿・・気づいてた?」


そうリズに静かに問うシズルと同時に、微かに空いている扉から見えた子供達の姿を見て唖然とした。


先程のリズのように縛られている子もいれば、枷を付けられ、放心状態の子もいる。


どの子達もどこかかしかに痣が見え、服も薄着にさせられていて・・・。


あんまり想像したくはないが・・。

色んな仕打ちは受けてきたんだろうという事を想像させる位の姿になっていた。


「・・あの子達、助けてあげたかったんだけど、アタシ・・何も出来なくて」


悔しかったんだと、拳を血が滲む程握り震えるリズを見て。

俺もこの教会を何とかしてやりたくなった。

孤児院にいるアイツら位の子達が、なんでこんな目にあわなきゃいけないんだと・・。


しかし、

「どこからこんなにいっぱい集めたんだ」



「ほう、何やら騒がしいと思ったら貴様らだったか・・・この外道共が・・・・」


そう喋りながら階段から降りてくる人影が二人。


妙なピエロのような姿の人物と、先程の変態神父だ。


神父は思ったよりも魔法が解けるのが早かったのか。

それともあのピエロが魔法を解いてあげたのか。


「私が育て上げた子供達を次から次へと虐殺して・・。まさか騎士団体様に変装していたとは思っていませんでしたが。本当に貴様らギルド団体は腐った連中なんですね・・」


「腐ってんのはどっちだよ!罪もない子供達に散々な事しやがってる偽神父に

そんな事言われたくないんだよ!覚悟はいいか?ああ??!!」


兎に角イライラが最高潮に達して、叫びたい放題叫んだ瞬間に神父の懐に飛び込もうとした矢先、シズルに首根っこを掴まれた。


「だあああ!!もう!何でだよ!何で・・止めるんだよ!」


「このままだと君、殺しちゃうでしょ?俺達はあくまで‘‘捕らえる事‘‘を

任せられてる身なんだから、もっと考えて行動しなさいって。

あっちのピエロに飛び込むのは止めないけど・・恐らくあの神父はただの狂人に

なってしまった人間なんだから」


ふとピエロの方を見ると、ニタニタとした顔でこっちを見ていた。

・・・不気味だ・・・。すっげえ気持ちが悪い。

そう思っていると、小さな声でシズルが


「目は合わせちゃダメだよ。多分アイツ・・幻術みたいなのも使ってくる。」


と教えてくれ、目線を外した。



瞬間



ピエロが妙なナイフを持ち、こちらに向かって突っ込んできた。



「油断しないでくれってタクマ君!」


そう言いながらマコトの槍が弧を描き、何本ものナイフを弾き返していた。

・・・あのピエロ、いつの間にあんな本数のナイフを投げつけてきてたんだろう。

全く見えなかった。


「言わんこっちゃない・・・だから言ったのに、幻術使ってくるからねって」


「あ・・・・」



そうか、さっきアイツを見ていた一瞬、ニタニタと笑っていた瞬間に俺はまんまと

術に引っかかっていた訳だ。


「畜生・・あんにゃろう、舐めやがって!」


「タクマ君!とりあえずピエロは俺様とリズに任せて!シズルさんと一緒にあの神父

どうにかしなさいよ!このまま放っておいたら大変な事になるんだから」


そう言いながら、ピエロの訳のわからない呪術を防ぎながら、リズはマコトの

補助をするように拳をあわせて応戦しだした。


「取り敢えずあの神父が逃げる前に、捕まえる。多分あのピエロも相当の手練だから、

いくらあの二人でも体力を消耗している所だし・・・結構危険な状況ではあるんだ。

短期戦ですませないと、俺達も持たなくなる。いいね?」


ちょいちょい子供扱いされているのが腑に落ちないが、「わかってる」と返事をして、神父の事を追いかける事にした。


この歪みきった教会に残された情報を辿る為に。







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まほろば~黒と白~ 雛ひよこ @hinahiyotamago

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