まほろば~黒と白~

雛ひよこ

第1話~黒サイド~




                 とても綺麗な少女を見た。



 こんな汚い世の中には似合わないような、透き通るような綺麗な少女を。




真っ白な肌に真っ白な髪。しかし瞳は周りに倒れている戦場の人間から流れるものと同じ‘真っ赤な色‘に染まっていて。


何となくアンバランスな瞳の色と髪の色がまた綺麗にみえた。


「あんた、そんなとこにいたら危ないよ。」


気づけば自分からは出ないような優しいトーンで話しかけていた。

・・正直人と話すのには慣れていない。

やばい、話しかけるべきではなかったかもしれない。

そうこう考えていると少女は頭にクエスチョンマークが出ているような顔でこちらを見ていた。

・・・・この環境を見てさっき私が喋った事を理解していないのだろうか?

どう考えたってこの戦場に居たら駄目だろう。

危機感というものが無いからこの女はこんな所にいるのだろうか。


「どうして危ないの??」                                        

少女は純粋な笑みを浮かべ、こちらに伺ってきた。おいおい、本気か。


「状況を把握できないのか?ここは戦地だぞ。アンタみたいなお嬢さんが居ていいような、

平和な場所じゃないんだ・・」

一瞬キツい言い方をしてしまったかと考えたと同時に、とある疑問が一緒に浮かんできた。



何故、こんな少女が、戦地にいるのかと。平然と・・・。怪我一つ無く。


戦闘に参加するつもりの無かった自分ですら、先程戦闘に巻き込まれ、埃と返り血を浴びて・・傷も付き、それなのに・・こんな場所で傷、ましてや塵一つ身体についていないのが不思議な位だ。


ふと、綺麗にみえていた少女が、不可思議な不気味なものに思えてきた。


この女に関わっていいのだろうか?


「ねえ、どうして皆こんなにも争う事に夢中になっているの」


「え・・?」


「だってこの世界は素敵な世界なのに。とてもとても素晴らしい世界なんだって。

そう彼に教えてもらったよ?」


・・喋っている内容はまともだ。質問ばかりだが。

彼女への警戒心を解かないように気をつけながらも答えてみた。


「素晴らしい世界か・・・。どこのどいつに教えてもらったかはわからないが、この戦場を見て理解できないのか?私利私欲にまみれた人間達が多いから、こんな争いの絶えない戦場ばかりができてしまう。アタシはこういう世界が素敵だなんて理解できないね」


まあ、戦闘すること自体が大好きな野蛮な生き物だからそう考えると素敵な世の中なのかもしれないね・・というのは心にしまっておいた。

少女は ‘そうなんだ‘ と、少し残念そうにしつつも、直ぐに、にこりと笑ってみせた。


「でもきっと・・・この世界は君にとって素敵な刺激があるんだね。

魂の色を見ればわかるよ。」


「魂??」


「そう・・・・・だね」


ふと、彼女の無垢な笑顔に心を許してから・・遅かった。


即座に自分の心臓に小さな手をかざされ、不可思議な術にかかっていたのに

気づく前に意識を手放しかけた。


「彼に教えてもらったんだ。君の事」 

          



だれだ・・・そいつは・・・・




「大丈夫だよ・・」

 



怖い事はないからね、とひどく優しい声色で言われ、あたりが光に包まれた。

最後に彼女が言葉をいうと同時に、なにか、頭に小鳥のさえずりが聞こえてきた。

・・なんだ・・・・何か・・・・思い出せない・・・・・・



「・・・きなさい」

「ちょっと・・・・・・クマ・・・タクマ・・・起きなさいよ・・」



ああ煩い・・・・寝せてくれよ。まだ・・まだなんにも思い出せてない・・。

何かまた不思議な夢を見てた気がした。

もう一度眠りにつけば、きっと謎が解決するんじゃないかと。

 

あれ、ん?謎・・・なんの夢を見ていたんだっけ??


オレがあれ、何がどうだったんだっけ??


朝からこんなよくわからねぇ夢に対して頭を悩ませてるのも症に合わないと思っていた

矢先、


            ばちん



と、叩かれた。ケツを。



「いってええええええええええ!」


地味に痛ぇ!もうこの痛みで何について悩んでたかなんてかんっぜんに吹っ飛んだ。

どうしてくれんだこの女は!


「聞こえてんだから!叩かなくたっていいだろこの鬼シスター!」


「あーほら、やっぱ起きてたんじゃない!あんたやっぱり狸寝入りしてたのね!

子供達と同じような事するんだから!」


だからあの子達もアンタの真似して狸寝入りするんだからと、ガミガミ怒る様子はシスターという名前に似つかわしくない位恐ろしい形相をしていた。


この怖い形相で口煩ぇ女【コトミ】は、オレと一緒の孤児院暮らしで、母親のように育ててくれたシスターが病気で死去したあと、此処の孤児院を守っていく・・という事で今に至る。

それにしても・・・、もう少し大人しくならないもんかと思う。

いっつも親みてえにガミガミと。

もうオバさん化しちまってるんだからどうしようもない。


「ちょっと!聞いてんの?!」


「へいへい、聞ーてますよーー。」


「返事は一回!」


「う・・・はい。」


やっぱ煩せーの。昔はもっと可愛げあったのに。



早く起こされた内容はこうだ。

オレが最近所属することになった街のギルド団体「butterfly」の重要任務を

手伝ってくれないかという事で。


「重要・・任務??」


「ええ、タクマ・・・だったわね?ギルドに入りたてで急にこんな特殊な任務を受けてもらうのは本当に大変だとは思うのだけれど・・。貴方が今調べている事にも繋がると思うの。」


深い緑色の髪をかきあげて、そう言い放つこの女は、【ライル】。

ギルド「butterfly」を統括する・・まあてっぺんをはる、偉い奴らしい。


ここのギルドに入る何年も前。


オレの暮らしていた孤児院が何者かに半壊されたことがあった。



その当時、騎士団体も孤児院の近くを警備していたらしいのだが・・。

全く気づかなかったのか。

いや、それはない筈だ。

相手が強すぎて、応援を呼びにいっていたその短い間に半壊されたという事なのか。


            ・・・その時の記憶が、オレにはない・・・・・。


気づいたら半壊していた。

孤児院にいた奴らは奇跡的に死人こそ出なかったものの、大小怪我はあった。

コトミに当時の話を聞いても、覚えていないと言われ、困っている。

その半壊した奴は、情報からだとまだ生きているらしい。魔物でもなく・・・人のような形をしていた・・・と。

人のような・・っていうのが当時から引っかかっていた。


異端者なら、人ではない、‘人に似た姿‘をしている奴が出没して来ていると聞いた事が

あった。


半壊してから数年立って、ジュードと名乗る赤いサングラスをかけた謎の男が訪れると同時に、ギルド団体統括のライルまで押し寄せてきた。

話はこのギルド団体に入らないかという事だった。

今考えると、宗教団体に誘われるくらい怪しい事この上ない話だった気もする。

でも、異端者が多いギルドだという話はよく耳にしていた。

もしかしたら、半壊した犯人が潜んでいるかもしれない。

いなかったとしても、騎士団とも繋がってるギルドなんてここしか思い浮かばなかった。

騎士団やギルド団体から何かしら情報を聞き出せるチャンスがあるかもしれない。


返事は二つ返事で承諾した。



それから半年、オレにとったらすっげえチャンスだ。

こんな任務、受ける他ないじゃないか。


「特殊な魔物が出たという話が耳に入ってきたの。

ただ、そいつも”ヒト”の姿をしていたみたいで、街の人が襲われたときは、魔物に似た姿に変わっていたそうよ。」


「異端者・・・ってことなのか?」


「ええ、そうね。ただ、私たちも・・一般市民からしてみたら異端者なんでしょうけど。」


異端者が異端者を狩るなんて、おかしな話ねと、彼女はクスリと笑っていた。







あの後、赤い髪の男が部屋に突然入って来た所で、部屋から追い出された。

なんだか重要な会議でもするみたいで。

ギルド内でもバタバタしていた。


今日は特殊任務に取り掛からず、一般の任務をこなしてくれという事で、街の外に大量発生した魔物を何体も薙倒している。



「どうだ?タクマ、ギルドの仕事も慣れてきたか?」



この赤いサングラスをかけた金色頭の渋い男が【ジュード】さん。

当初孤児院にこられたときは借金取りかなにかと勘違いする位強面の見た目だったから、警戒しっぱなしだったけど。

中身はすげえ漢らしくて、今では尊敬している男の一人だ。

戦い方も無駄がないし、ギルド内の人間に対しての対応も大人で、なんつうか、すげーの。統括の右腕のような存在なのに変に偉ぶったりもしねーし。


「へへっなんとか慣れてきましたかねっと!」


会話をしている間にまた敵がうじゃうじゃと湧いていたらしく、思いっきり剣を振り回して

斬りつけていく。


「へへっ!今日も大漁じゃねーか!いっちょやってやるぜ!」

薙ぎ倒しても薙ぎ倒しても湧いて出てくる敵の量が半端じゃないけど、少しワクワクしてしまう自分がいた。昔、ガキの頃に‘ヒーローごっこ‘とかこんな感じで皆でやった事があったかな・・とか、そんな他愛ない事を思い出してしまうからか。

それともこの生きるか死ぬかの戦闘のスリルに酔っているのか。



          どっちもか。あの夢の中の自分もそうだったかと


          何故か急に思い出してしまうオレがいた。



ぱちっと頭の隅っこがしびれる感覚がある。

ああ、またこの感覚だ。


最近ちょこちょこ増えてきた感覚だ。

あの夢をよく見るようになってからも増えた気がした。

「大丈夫か?」

ジュードさんに声を掛けられ、意識が一瞬失くなっていたのに気づいた。

何とか頷きつつも、どこかおかしい。

随分前に、ジュードさんにギルドの説明をしてもらっていた時もそうだ。

血の匂いを嗅ぐと、変にうずうずして、おかしくなりそうになるときがある。


ギルドに入る当初、ライルさんに「お前は異端者だ」と言われ、女だからぶん殴るのは遠慮したけど、思いっきり腹がたって暴れそうになったことがあった。

暴れるオレを押さえつけられ、オレの見ているあの不可思議な夢は、本当にあった事だと

説明された。

なんでオレの見ている夢の内容を知っているのかと問いただすと、そのうちわかるようになるよと一言だけ。


「君はその過去の、夢の中の力を利用したことはなかった?」

と言われ、心あたりがなくただただ首を横に振った。


「その力は世界に必要とされるものなの。」

だからうまく使いこなせるようになって欲しいと、そう言われたことを思い出した。



「・・・なんか、ちりちりする・・」

そう言葉を放った後、妙な夢を思い出した。




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「・・・ん・・・が・・怖いかい??」


オレが叫んでたんだ。その言葉に対して・・・。


そうだ、目の前の黒装束の男が言い放ったんだ。




          







          『  怖いのは君自身がじゃないのかい? 』







「タクマ!後ろを見ろ!まだいるぞ!」



ふとした瞬間、ジュードさんが叫んだと同時に、自分の身体が熱くなり、妙な感覚になった。

身体が痛い・・熱い・・・・・



「う・・あああああああああああああ!!」



自分でもよくわからないうちに大量の敵を光のようなモノで吹っ飛ばしていた。

転げ落ちてきた敵は黒く焦げてしまっていて、遠くまで吹き飛んだ敵は血みどろに

なっていた。


近くの水たまりに映った自分の姿は、髪と瞳の色がいつもと違う姿で映し出されていた。


   黒い髪・・金色の瞳・・・・ヒトとしてありえない色をしている自分。


「な・・・・んで・・・・」

それを見た瞬間気分が悪くなり、そのまま意識を手放した。



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また夢だ・・・。


何度目になるんだろうか。


英雄のようにもてはやされている自分。


裏ではそんな自分を恐れている人々。


そして・・・


黒装束の男・・・・。


「悪あがきはよせ!」


剣を黒装束の男の喉元に持っていき叫んだ。


「魔女や魔法使いはお前みたいに屁理屈を言うやつばっかりだな?」


どうせ殺されたくないから変なプライドから妙な事をいっているだけだと言い聞かせた。


「私は・・・怖くなんかない!私は私を誇りに思っている!」

「・・・急に口数が増えたね?・・・図星かな?」



そう言ってきたこの魔法使いに、この剣先をそのまま突き刺してやろうかと思った。

そうだ、いつもみたく。

いつもみたく、殺ってしまえばいいんだ。

なにを恐がってる??


そう・・・恐かったんだ。


こんな自分自身が・・・・








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はっと意識を取り戻した時、コトミがオレの顔を覗き込んでいた。

・・孤児院??いや、違う。

ギルドのベッドだ。


「タクマ!なんでアンタこんな事なってんのよ!!心配したんだからね!!

私も、その、子供達だって!」

コトミは涙目になりながらも、そう言いながらオレの肩をバシバシと叩きに叩いてきた。

・・・地味に痛ぇ。

「痛いって・・・!」

叩くコトミを制御しようとした瞬間、不意に抱きつかれた。



・・・やばい・・・・本気で心配かけちまったのか。



自分の胸の中で啜り泣きながら、まだ馬鹿だのチビだの散々な事を言ったのは

可愛げないけど・・。


「な・・泣くなよ!今回死にかけた訳じゃないんだしさ。ちょっと頭がぐらついただけで」

「それを心配するなってのがおかしいでしょ!」

ぐずりながらも言う事は言い返してくるし。本当に・・

泣いてる時位大人しく出来無い物か。

・・まあ、オレが悪ぃんだけど。


「ごほん。えっと、お邪魔してしまい申し訳ないんだが・・タクマ、今話をしても

大丈夫かしら?」

と、ライルさんが思いっきり咳払いをしてこちらを見ていた・・・。


・・・・いつから?・・・・・


もう思いっきり恥ずかしくて、コトミを自分の胸元から引っペがして。

「だっ大丈夫です!」

何とか声を振り絞って返答した。

コトミも今の状況に気づいて、顔を真っ赤にして、オレから離れていった。


「今回の討伐ご苦労だったわね。

まさかこんなに早く能力を引き出してくれるとは思ってなかったわ。」


そう、オレが倒れたきっかけが、その能力を開放したかららしい。

あのチリチリとした感覚や、頭の隅っこがじりじりと熱くなったり・・。

能力が開放される前段階の症状だったらしくて。

だからなのか、開放した後にあの妙な夢を見てしまったのは。


「能力は確かに使えたけど・・・、どう使ったかもよく覚えてねーんだよ。気づいたら色んな部分が熱くて痛くて、そのあと変な光が出て、気づいたら敵がブッ飛んでたってだけでさ。」


これは本当だ。

正直妙な夢の記憶を思い出した以外は全く記憶にない。

どう戦ってあんな風に敵が倒れていたのか。オレが聞きたい所だ。


「お、もう起き上がれるのか。」

ノックの音と同時に、リンゴ片手にジュードさんが部屋に入ってきた。


「ジュードさん・・あの、戦闘では色々すんませんでした。オレその・・よく覚えてなくて」

「いや、いいんだ。気にするな。お前はよく戦ってくれていたし、あんな戦闘の仕方も出来るなんて、正直驚いていたとこだ。」

俺の眼でも追いきれないくらいの速さで後半戦っていたからなと、笑って言ってくれた。


「ライル、タクマは多分・・あの能力を使えたとしても、未熟な部分が多くて使いこなすのが

暫くは難しいとは思うんだ。もしかすると、‘アイツ‘に手伝って貰えば

方法がない訳じゃないかもしれないが・・。」


「・・・あいつ?」


「ほら、【マコト】・・。」


ああ、そういう方法かと、眼を輝かせている統括を見て、今度はなにをしなくちゃいけないんだろうと、コトミと首をかしげて考えてしまった。




マコトかよ・・・・なんかいい予感がしないんですけど・・・・・。




    序盤  完


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