第2話 かかし


これもけっこう昔の話。


俺らの年代からずーっと受け継がれることになったので、きっと今の島民はみんな知ってるヤバい話。



うちの島には年中通して、結構たくさんのイベントがあって、その中に、子供行事である「亥の子(いのこ)」というイベントがある。


これは毎年11月15日になると、小学校1年から中学校3年までの男の子供たちが、自分たちの住んでる地区の公民館に一週間泊まり込み、木魚のよな御影石にたくさんのロープを結わえたものを持って、唄を歌いながら、各家庭の庭先を突いて回るもので、

今年1年の大漁豊穣を祝う意味がある大切な行事だ。


この時に、「灯明銭」という名目で、500円~の運営費を集めて回り、後に余ったお金を子供たちで位ごとに山分けする。


これが結構な額になり、「大将」と呼ばれる中二の子供で、大体20,000円くらい。


「後見」と呼ばれる中三の子供が、大体15,000円。


一番下っぱの子供でも3,000円は取り分が貰える。


だからみんな、毎年亥の子が楽しみで楽しみでしょうがなかった。


完全に大人は出入り禁止の子供行事。

大将を柱に、男の子たちだけで一週間ずーっと公民館に泊まり込み。


ゲーム、漫画、エロ本、何でもあり。笑

ほんと、楽しかった記憶しかない。


昼間は学校。

夕方は真っ直ぐ公民館。

夜になると毎晩、大将と後見の最大の楽しみが待っていた。


肝だめしだ。


その年の大将の言うことは絶対に聞かなければいけない。


大将が、

お前は今からフ○チンになって島一周走って来いと命令すれば、必ずしなければならない。笑


泣いてすがっても、他のみんながそれを許さない。

どんなに年少でも。

命令は絶対だった。


島の男の子たちはみんなそうやって

上下関係を築いていき、島人ならではの不屈の根性を身に付けたもんだけど。

今は親が介入して、禁止になってる

みたい。笑


肝だめしは、毎晩行われた。

どんなに年少でも、必ず大将の決めた通りに、ひとりきりで、行かなきゃいけない。


毎年、毎日毎日泣いて嫌がって怯えて、失禁する子たちも続出。


大将も後見も、行くのをただ見てるだけじゃない。

ちゃんと脅かしに行く。笑


おかげで、毎晩のように気絶する子が居たなぁ。


でもみんな、一週間後には見違えるほど強い男の子になってた。


てな感じで

前振り長くなったけど、ここから本題。


これは、俺が大将だった時の話。



肝だめし前には必ず、みんな集めて怪談をするんだけど、肝だめしになると俺は、毎年すっごい忙しかった。


だって、島中みんな知ってるほど、有名な霊感体質。

俺は小3から毎年肝だめしは免除。

まったく恐くなかったから。笑


各地区の大将に呼ばれては、自らの体験談を語って聞かせて回っては、大将すらビビらせていた。笑


その年も、自分の地区の肝だめしはほったらかしで3地区を回り、4地区目の西地区でみんなを泣かせ 笑


その夜は西地区の肝だめしに参加することになった。


その日のオーダーは簡単なもの。


長い長い階段のあるさびれた無人寺のお墓の上に、みかんを置いて来て、次の者はそれを持って帰る。

また次の者がそれを置いて来るというシンプルなものだった。


みんな俺の話にビビりまくりで、泣き叫びながら長い階段を、懐中電灯一本握りしめて歩いていく。


時々、上から叫び声が聞こえてくるのは、西地区大将であるナオキが、隠れて脅かしているからだ。


最後の一人がみかんを取りに行って、長い長い階段を泣きながら降りてくる。

小五のミツヒコだった。


俺たち大将がそれを見て、公民館に戻ろうと踵を反した時。


ミツヒコの様子がおかしいことに、西地区大将のアキヒロが気づいた。


「ミツヒコが…おかしい…」


その言葉に、みんなミツヒコを見ると、ミツヒコはみかんを手にケラケラ笑っていた。

本当に、ケラケラと。


顔がまったく笑ってない。

それどころか、目は閉じたまま階段を降りて、俺らの後ろまで歩いて来ていた。

声だけは、笑いながら。



瞬間。

俺の全身の毛が一気に逆立った。


全身に鳥肌。

これはヤバい!


俺は直感的にミツヒコから後ずさって、いつも左手に巻いてある数珠を手にした。


そしてみんなを下がらせて、笑い続けるミツヒコを正面に、日蓮宗の十二番。成仏のお経をあげた。


刹那。

ミツヒコが笑いを止めて泣き叫び始めた。


酷い声。


今でも耳を離れない、この世の者から発せられたとは思えない甲高い声。


短い十二番を終えて、御題目を何度も何度も何度も唱えながら、泣き叫ぶミツヒコの肩を数珠で叩くと、叫ぶのがぴたりと止まり、地面に倒れた。


それら一連の出来事を、みんな遠巻きに見ていたので、すぐにアキヒロを呼んで、ミツヒコを抱えてみんなで公民館に連れ帰った。


公民館に着いて落ち着いたのも束の間。


アキヒロが


「ナオキは?ナオキが居らん?‼」


ナオキは寺の境内に隠れて脅かしてたはずだった。

ミツヒコが降りて来ても、ナオキはまだだ‼


急いでみんなで固まって、境内に向かって長い長い階段を登りきると、


寺の境内の真ん中にナオキが居た。




両腕は水平にピンと伸ばされ

片足で立って居た。


頭は傾げられ、

目は完全に白目、

長い長い舌をだらーんと垂らして、

片足で立っているのに揺れず、

動きもしない。


まるで

十字架に貼りつけにされたキリストのようだった。


あまりの得体の知れない恐怖に、さすがの俺もビビって、声も出せず呆然としていると、

一緒に上がって来たみんなは、早々と泣き叫んで逃げ出して行った。


俺も恐怖だけに支配されて、恐くなってみんなのあとを追って逃げ出してしまった。


ナオキを置いたまま。




公民館まで、もうちょっとのところまで走って来ると、先に公民館に着いたはずのみんなが、泣き叫びながら逆に引き返して来た。


「なんや?! どうしたんや‼」


泣き叫ぶアキヒロを捕まえて聞くと、ガタガタ震えながら、


「ナオキが…ナオキが…」


と言いながら公民館を指差す。


俺は急いで公民館に走って行くと、


「みんな何しとるん? なんでみんな泣きよるん?」


キョトンとした顔で俺に聞いてくるナオキが公民館に居た。




その後、ナオキに何を聞いても覚えておらず、ミツヒコもほとんど覚えていない。


こんな状況だったんだと、説明しても、本当に知らないの一点張り。


第一、境内から公民館までは一本道。

どんだけ急いでもナオキが俺らを追い越せるわけがない。


俺らのみたあの光景はなんだったのか。

いまだに分かってない。


あれ以来、あの寺での肝だめしは禁止になった。







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