年末の凧

 大掃除として倉庫をひっくり返していると、懐かしいものが目に入った。

 凧だ。閉じられた状態では歪な三角旗に見える朱色の布。子供の頃祖父に買ってもらったのだったと思う。それで、そうだ。確か子供が出来たらと思って、なんとなくそのまま取ってあったのだ。

 結婚後のごたごたでそんなことはすっかり忘れてしまい、いままで一度として思い返すことはなかったが。

 だが、と開け放たれた玄関から僅かに覗く空を眺めてみる。お向かいの家を陰に見えるのは本当に僅かな青色で、しかしそこには何重にも電線が行き交っている。

 海岸にでも行かない限り凧を揚げるのは不可能だ。

 子供の頃は……どうだっただろう。案外自分の時代も電線はそんなものだったような記憶がある。ただ、近所にはその例外になるような空き地があったし、きっとそれが無かったなら、あるいはもっと激しく風を求めたなら、それこそ海岸に行ったろう。

「みつる。凧があったんだけど、やるか?」

「タコ? タコって……凧?」

 リビングの掃除が終わったのを見計らってやってきた息子は、後ろにゲームの音を流しながらそう答えた。

「海岸にでも行けば、風もあるだろう」

「うーん、いいや。寒いし」

「だろうな」

 苦笑して、凧を不要品の袋に突っ込んだ。

 

 

 

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