果ての空

 過ぎ去るだけが人生だと誰かが言った。


 それが間違っていることは分かる。そこには何かがあるはずだ。だって、そうでなければ、人間に生きる意味などないではないか。二割近くが子供を成すことなく死んでいく今、人間はもう生物的に進化を望んでいない。なれば現状に満足していると結論付けるに他ならず。


 けれど、ああ――ならば、何を以て尊しと為し、何の為に私は在るのか。分からない。分からない。分からない。分からないから、今日も独りまた、空虚な世界を歩き続ける。進んだ先に何かがあるのだと固く信じて、混沌の坩堝に感覚を惑わされながら。


 ずっと。




 鉄砲雷火の先の、血の土壌に正義が咲く。


 それは間違ってはいないのかと疑問に思う。


 けれど世間一般、常識的に考えれば、なるほどそれは当然の事。つまるところ、異端であるのは私のほうだ。そもそも正義だ悪だと固定して考えるのがそもそも誤りであり、要領や運の良い人間が高い地位に就いているというだけの話。そこに矛盾点などない。私はその磐石な盾に打製の木矛を向けているのだ。程なく盾の後ろから、矢の雨が降り注ぐ。


 血の海に漂う私は、ああ、何の為に矛を取ったのだったか。


 忘れてしまう。


 きっと。




 それでも歩みは止まらない。


 軋む身体から砂塵を打ち溢しながら、血の海の上を歩き続ける。無数の針が足を貫いても、無限の号砲が頭上を掠めても。


 そうしてふと気づいたとき、周りは何も無くなっていた。


 草木のひとつも見当たらぬ、水も風も、太陽すらもそこにはない。ただただ、白い、地平線。光源はもうないのに、どうしてか明るい道に、ひたりひたりと血判を押す。ぐらり、ぐらりと揺れる視界、不意に肩に手が置かれた。


 そっと。




 振り向けばそこには黒いローブを纏った私が立っていて、大きな鎌を背に担いでいた。にこり、優しく微笑んで、背に手を回し、鎌を握った。それを見てようやく、私の足はそう、ようやくがらがらと崩れ去った。


 もうこれ以上、歩く必要はないのだから。


 それでは、また。




 良き人生を。








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