第22話「幼稚園教諭・生田絵理奈」③

 私はいつもより少し遅れて起床。顔を洗い、歯を磨き。お昼のお弁当を作ってから急いで出勤をした。家から40分ほど離れた幼稚園までの道のり。家から5分ほど離れたバス停からバスに乗るのが日常だ。しかし、今日は若干の寝坊からいつもの時間のバスに乗れそうにない。私はバス停まで走ったのだが、黒服3人集も走って付いてきた。

「もしかして、幼稚園まで来るんですか?」

「もちろんだ」と言わんばかりに頷く3人だったが、バス停まであと少し。このまま走っていけばギリギリ間に合うだろう。


 バス停まであと少しのところまで来た。すると、私の横でいつものバスが私を追い越して行った。

「ヤバいあれに乗らないと…!」と、私は全力疾走をした。そしてなんとか間に合いバスに乗ったのだが、黒服3人集はどうするのだろう。

「あの…、私ここからバスで通勤しなければならないので」と黒服3人集に告げたのだがその言葉も虚しく、私がギリギリに乗ったせいかすぐにドアが閉まってしまい、黒服3人集を置き去りにしてしまった。バスを追いかける3人であったが、みるみるうちにその姿は小さくなっていく。

申し訳ない気持ちにもなったが「まぁいっか」という言葉の凶器で片付けた私は、座席に座り幼稚園の最寄りまで向かったのであった。



 私が幼稚園についていた頃には、2つ上の先輩がすでに出勤していた。

「おはようございます」

「おはよう生田さん。今日の1日頑張っていきましょうね」と爽やかな挨拶。

いつも通りと変わらない風景に安心した。最後だからといって、朝からしんみりされても仕方がない。私は箒とちりとりを掃除ロッカーから出し園内の掃除を始めた。次第に集まってくる職場の人たちに挨拶をし、掃除も終えた頃だった。

「あっ」

そこには、ぜーぜーと息を切らす黒服3人集の姿があった。もしかしてここまでバスやタクシーに乗らず走ってきたのだろうか。おじさんに至っては今にも死にそうな顔をしている。

「何も走ってこなくても」と思ったが、私はその必死な姿を見て何だか笑ってしまった。

「ちょっと待っててくださいね」と黒服3人集に告げ、私は給湯室から3人分の水を汲み渡した。水を一気に飲み干すと「もう一杯!」と言わんばかりにコップを渡された。

「はいはい、今持ってきますからね〜」と園児をあやすかのような声で言い、私は給湯室に行き、また水を渡した。


 一息ついてもらったところで、私は念のため確認をした。

「あの、仕事の邪魔しないでくださいね」と伝えると「わかってる」と言いたげにした外国人2人と「私は子どもと遊びたい!」とアピールするおじさん。

「おじさんは絶対ダメ!どう見ても変質者だから!」

「えっ!?」と、その言葉にショックを受けるおじさん。そのまま、落ち込んでしまい、外国人2人に肩を叩かれ励まされていた。

「とにかく、おとなしくしててくださいね」と言い、私は園児たちを迎えに行くために、バスに乗った。


 送迎バスが、最初の園児を迎える場所に到着した。

「おはようーえりな先生」

「おはよう、ひろと君」

彼は元気良く挨拶をするといつも座っている席に着き、バスの車窓から見える景色を眺めていた。次に向かった場所では、5人の園児たちを乗せた。

「えりな先生、おはよー!」

「あら、こうた君は今日も元気がいいわね」

「先生こそ今日も元気だね!」

彼は幼稚園一のお調子者だ。元気が良すぎるし、純粋すぎてたまに大人が忘れがちなことをポンと言える子だ。


「先生、今日はお歌の時間ある?」

「もちろん。ひなこちゃんは歌うのが大好きだから、一緒に歌おうね」

「うん!」

彼女も元気の良い子で、外で遊ぶのも好きだけど歌うことも大好きな子だ。


 その後も続々と園児たちを乗せ、そのまま幼稚園へと到着した。

バスから園児たちが降りるところには、黒服3人集が立って待っていた。

「みんなびっくりしちゃうから、そこどいて!」と思ったのもつかの間、プシューと音を立てバスのドアが開く。わーっと園児たちがバスから降りるが、誰一人として黒服3人集には気づかない。

「もしかして、私にだけ見えてるの?」

きっとそうに違いない。外国人2人はお辞儀をしているのに気付かれてないし、おじさんに至っては、園児たちと一緒にはしゃいでいるのに全く気付かれていない。私はバスに忘れ物がないかチェックし、バスから降りた。バスから降りると、私が乗っていた送迎バス以外にも、もう2台が到着しており、園児たちが各々の教室に入ることがわかった。教室からは園児たちの元気な声が聞こえる。


 私は職員室に行き、職員たちとの朝の集会を始めた。

「では、皆さん。今日も一日元気良くいきましょう!」

「はい!」

園長の一言が職員の気を引き締めてくれ、各々の仕事に取りかかった。私も自分の席に向かい、今日やるべきことを確認した。午前9時。私の最後の幼稚園教諭としての仕事が始まろうとしていた。

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