第17話「サラリーマン・高田正志」②
定時をむかえたので、上司と一緒に会社を出ることにした。そして、駅前の宝くじ売り場へと向かった。何でも、今やっているものは最高で10億円が当たるらしい。数字が漠然としていてイメージがわかないが、当たったらこの会社すぐに辞めてやるくらいだ。
「もし、10億当たったらどうする?」
上司からの質問。このやりとりもなんだか滑稽に思える。
「僕なら会社辞めて、一生遊んで暮らしますよ」
「そうだよな。俺も会社辞めるもん」
このような発言は失礼だと思うが、会社の未来を担うかもしれない、一サラリーマンの上司がこんなことを言ってもいいのだろうか。僕は後輩だぞ。なんかもっと家族に尽くす的なことを言ったらどうなんだ。とは言わなかったが、また上司の点数が下がったのは明白だった。
宝くじを売っている場所へ着いた。僕はこの店の前をいつも通って帰宅しているが、いつもよりサラリーマン・OL客が多いと感じた。おそらく、僕らと同じ、夕方のニュースを見たサラリーマンやOLが、今日くらい羽振りを利かせてもいいだろうとか考えてきたのだろう。僕と上司は列に並び、購入の順番を待った。こういうとき、何枚買えばいいのか。わからないが、適当に5口くらい買えばいいか。1枚300円。こんなもので大金が手に入るのなら見せてほしい。僕は、依然としてこの「宝くじを買う」という行為をバカにしていた。前に並んでいる上司は、いったい何口買うのだろうか。その順番が来るまで待つことにした。そして、先に上司が買う番が来た。何口買ったのか、その姿は見えなかった。会計が終わり、自分の番が来た。
「すみません、この宝くじ、5口で」
僕は財布から1500円を出し、宝くじを買った。こんな紙切れで夢が叶うわけがない。僕は呆れながら、上司のもとへ向かった。
「高田、俺なんて20口も買ったぞ」
なぜ20口なんだ?という疑問の声をグッとこらえ、僕は上司にこう返した。
「それだけ買ったら、1000円くらい当たるんじゃないですか?」
「そうだよな!それくらい返ってこないと、ダメだよな!」
何がダメなのかわからないが、きっと1000円すら返ってこないだろう。僕はそう悟った。宝くじも買い、駅へと歩いた。駅へ向かっている最中も、上司の「宝くじが当たったら」という夢物語を聞いていた。夢は語るのは減るものでもないし、それでもいいかと、半分だけ聞く耳を持って会話を続けた。駅に着くと上司とは帰りの方向が反対なので、軽く挨拶をし、別々の改札口へと別れた。
家路についているときも、宝くじのことが僕の頭に浮かんだ。なんだかんだで、気になっているのらしく、当選発表がいつなのか調べた。
「今週の土曜日か」
とりあえず、今週の土曜日にほんのわずかの期待をしたが、当たることなんてない。もし大金が当たったのなら、人生のすべての運を使い果たして死ぬに違いない。そんなことを思いながら、家に着くとその宝くじをテーブルの上に半ば雑に置き、その日を終えたのだった。
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