プロブレムチルド5

「うおおおおおお!!!?」


 その頃大毅は、雄叫びを上げながら廊下を全力疾走していた。

 もう既に始業のチャイムは鳴ったため授業は始まっているのだが、背後には未だに追いかけてきているクラスメイトの姿がある。

 大過去に何度も授業をサボった事がある大毅は授業をサボることに抵抗はなく、なんとも思わないが、クラスメイトの中にはサボった事もない所謂いわゆる優等生と呼ばれる人達もいたことから、チャイムが鳴ったら追いかけてこないだろうと思っていたのだが、むしろチャイムが鳴る前より本気で追いかけてきている気がした。

 おそらくチャイムが鳴ったことによって、ノリで参加していたクラスメイトも後が引けなくなりどうせ補習室送りになるならと躍起やっきになったのだろう。


「はぁ......」

 走りながら大毅は深く息を吐いた。


 友人達と共に帰宅部という部活動にこそ所属しているが、日々自主トレをしている大毅は例え全力疾走だろうが五分や十分の走りで息切れをする事はない。そんな柔な鍛え方はしていない。

 そして大毅が所属する一組では、大毅の全力疾走に追い付ける人は居なかった━━━のにも関わらず、現在進行形で大毅のすぐ後ろに木造バットを持ちながらもピッタリとくっついて、スピードを緩めればその瞬間に攻撃しようとしている者がいたのだ。


「なははは!待て待て~」

「お━━━い、やめろすみれ!危ないって言ってるだろ!」

「聞こえーませーんー」


 次々と後ろから的確に急所を狙ってくるバットを紙一重で交わしながら、本来ならこの場にいない筈の二組の生徒、菫に大毅は声を荒げた。


(何でこいつがクラスにいるタイミングでやらかしてくれたんだ!)

 心の中で愚痴るも、圭子が来ているタイミングじゃなくて良かったと心から安堵する。

 もし圭子が来ていたらと思うと......考えるだけでもゾッとした。


「━━━にしてもおまえ足早くないか?何で放送室事件の時あんなに遅かったんだよ!?」

「あのときはまなちんのペースに合わせてたからねー。おりゃあ!」

「合わせてたってお前な......それと喋っている最中に攻撃するんじゃない!」

 

 いくら長い廊下と言えども、走っていれば端までなんてあっという間。

 廊下の突き当たりを右に右折し、そこにあった階段を三段飛ばしで駆け下り、教室の一階下。つまり二階の廊下を(本当は一階の方が運動場へ出れたりと選択肢が広がるため行きたかったのだが、何故か一階には大柄の先生━━━金剛ゴリラ彷徨うろついていたため行けなかった)三階の廊下と同じように走り出した大毅は、今何時だろうと、通りかかった教室をチラッと見て、つまらなさそうに授業を聞いていた一人の男と目が合った。合ってしまった。


(......めんどくさいことになりそうだな)


「ふはははは。授業中に鬼ごっことはな。俺も参戦するぞ!!!」

「ちょっと宗吾!?今は授業中よ!戻りなさい!!」


 瞬時にそう考え、予想通り教室から飛び出して来た宗吾とそれを追いかけて出てきた流音を見て、呆れたように苦笑する。


 ちなみに二階にある教室は宗吾と流音がいた三組だけではない。あの圭子がいる四組もある。超問題児の圭子の事だ。四組の前を通りがかったら最後、追いかけてくるのは目に見えている。しかし、廊下は一方通行で階段は廊下の突き当たりにしか設置されていなかった。窓から外に飛び出そうにも一階には金剛ゴリラが。


(ハハハ......マジかよ。これじゃあチェックメイトじゃないか)

 ここで初めて自分が追い詰められていたことに気がついた大毅は自傷気味に笑うことしか出来なかった。

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