プロブレムチルド4
「な、な......どうしよう大毅」
怒りが収まったのか、楽斗はこれまでの態度とは一変しておろおろとした感じで大毅の肩を掴んだ。その拍子で食事中だった大毅の手から箸が掴んでいた少量のご飯と共に床に落ちる。が、特に気にしたようすもなく、はぁ、とわざとらしい大きなため息を吐いて大毅は真顔で
「そこでオレに相談するな。ホモが感染するだろ」
「何それ酷くね!?」
「やめろ話しかけるな。ホモが感染する!」
大毅の冷たい反応に耳を傾けていた何人かのクラスメイトがブッと吹き出した。それから、それらにつられるように教室中から笑い声が上がる。
そんな中、自分が笑われたと、一人羞恥で顔を真っ赤に染めていた楽斗は
(こいつだけは許さない。だけど喧嘩では100%負けるしな......。剛で駄目なら柔。何か
悪事を働かせようとして、
しかし、この作戦には楽斗自身も相当なダメージを受ける可能性がある。だが、そこまでしないとクラスメイトからの信頼が厚い大毅を貶めることは出来そうになかった。
(......やるしかない!)
怒りで目の前が真っ赤に染まっていた楽斗は、大毅もろとも自爆する覚悟を決めて、比較的大きな声で、ハッキリと言った。
「酷いじゃないか大毅。昨日は宗吾と二人がかりであんなことやこんなことをしといて。お陰で俺はショックで立ち直れなかったぜ?」
昨日あったことを抽象的に、顔を赤らめながら話した。
事件の当事者から見ればただそれだけのことだが、事件の馬に居なかったクラスメイト達はその言葉に反応した。
「あいつら......どういう関係なんだよ!大野ばかりではなく大毅まで俺の楽斗ちゃんを!!!許せねぇ!」
「まさかの三角関係?......私大毅くんのこと密かに好きだったのに」
「わーお。これはスキャンダルですな~、どう思います?真愛氏」
「ひたすらショックです?って言っておけばいいのかな菫ちゃん」
「俺達のアイドル楽ちゃんを!大毅をやっちまおうぜ皆」
「「「おおー!!!」」」
その一声に何故かクラスメイト全員が賛同した。この学校は男子校じゃないためクラスには男子だけでなく女子達もいたはずなのに何故か全員が賛同した。
想像を越える団結力を見せるクラスメイトを横目に
「......ごめん、大毅。俺が悪かったよ」
「......で、どうしてくれるんだ楽斗。なんか凄い勢いで大人数がオレに向かってきているんだが?まさかゴメンで済ませるつもりじゃないだろうな」
「......冥福を祈る」
「楽斗ぉぉお!?くっ、危なっ!?おい菫!金属バットは卑怯だぞ.....って木造なら良いって訳じゃない!!!くそ、落ち着けお前らぁぁあ!!」
そう最後に叫び残した大毅はバタバタとクラスメイト達に追いかけられながら廊下を駆けていった。
教室にただ一人ポツンと残された楽斗は、自分の影響力の大きさに感心と畏怖を覚えながらも一人席に着いて、読書をしようと本を取り出した。
キーンコーンカーンコーン
「あっ......」
(そう言えば今放課だったな。ってことはこのチャイムは......)
刹那、教室のドアがピシャンと開き、大柄の先生が入ってきた。余談だが、ここで先生の名前を出さずに体格で表現しているのは単に楽斗が先生の名前を覚えてないからである。
(やっぱり始業のチャイムだったか)
すかさず出したばかりの本を机の中にしまい、代わりに教科書を出す、がそれは無駄な行為だった。
「さあ、授業を始めよ......って雨宮一人だけだと!?あ、アイツら俺の授業をバックレるなんて良い度胸してるじゃないか!!!」
そう言い残し大柄の先生は青筋を浮かべたまま教室を出ていったのだ。
またもや一人残された楽斗は『ごめん本当にごめん』と、クラスメイト達に心の中で謝った。
今出ていった大柄の先生は学校一厳しいと有名な先生だ。確実にクラスメイト達は放課後の補習室送りを免れることはできないだろう。この学校の補習室は地獄だと去年一度だけ食らった楽斗は身に染みて分かっていた。
だが、もう助けたくても助けれない。動き出した歯車は止まらない、動き出した先生も止まらない。
せめてもの償いと楽斗はクラスメイト達全員の冥福を祈る事にした。......五秒間だけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます