プロブレムチルド1
「オイオイ。聞いたか?あの噂」
「ああ。聞いたぜあれだろ?町中の放送機器を乗っ取ってプロポーズしたって話。残念だったな工藤、お前狙ってたんだろ?」
「俺は絶対信じない......まさか━━━」
楽斗は今、鞄を背負って教室のドアの前にいた。というか、今学校に着いたばかりだった。
時刻は十一時半。
こんな時間に登校したのは学校が通信制とか、そういう特別な理由ではなく、単に遅刻をしたからだった。
こうなったのも全てあいつのせいだ!
楽斗は憎き仇敵を脳裏に思いだし、嫌なものを思い出してしまったと、ガンガンと頭を壁にぶつけた。
先日、憎き仇敵━━━大野秀生に告白された楽斗は、ひょんなことからその事実を超がつくほど問題児である圭子に知られてしまった。普通の人に知られたら、からかわれるだけで終わりだっただろう。きっと楽斗も然程焦らなかったはずだった。
だが、流石は超がつくほどの問題児。圭子はその事実を一大発表と称して放送室を占拠し、更に、あろうことか一人でも多くの人達に知らせようと町の放送システムをハッキング。
それを知った楽斗は圭子の野望を防ぐため友人、家族である五人を利用して、結果見事それを阻止。
作戦は成功に終わった、はずだった。
しかし安堵したのも、つかの間の話。いつの間にか、その場に現れた大野は圭子がハッキングした機材を使い、大勢の前で自分の名前を公表しながらプロポーズをした。......おえ。
もちろん自分の名前を公表した大野は、瞬時にやってきた先生達に実行犯として取り押さえられ、停学と言う形で処罰を受けることとなった。ついでに放送室の扉を破壊した宗吾と大毅も処罰され、反省文を書かされていた。
......何故かハッキングした張本人である圭子には、結局何もしなかった後方メンバー同様に何の処罰も下されなかったが━━━何で始めの放送時点で先生達は来なかったのか、結局理由は分からずじまいだった━━━。
これにて事件は一件落着という形に落ち着いたように見えた。
しかし、実際はそうではなかった。
その後、流音によって家までおんぶで担がれていった楽斗は一晩中、
楽斗はまだ教室には入ってはいない。
何か嫌な予感がするからだ。と言うのも、さっき聞こえた話のことなのだが。
しかし、このままでは学校へ来たのに欠席処分へなってしまう。
(ええい。男は度胸だ!)
覚悟を決めた楽斗は教室のドアを開け─
「「「━━━雨宮楽斗が大野と付き合ったなんて」」」
ドアを閉めた。
もう欠席扱いでいいや。帰ろう。
回り右をしてUターンする楽斗。しかし、すぐに教室のドアから出てきた、さっきの話をしていたと思われる三人の男に行く手を阻まれた。
「オイオイ~。どこへ逃げようとしてるんだぁ?」
「俺たちにも詳しく話を教えてくれよ」
「何で大野なんかと!俺の方が━━━」
チィ。変な奴等に捕まったと楽斗は舌打ちをする。
「俺は大野と付き合っていない。そもそも男同士で恋愛とかあり得るわけが無いだろうが!」
誤魔化すのもめんどくさいし別に誤魔化す意味もないからと事実を淡々と告げ、じゃあなと格好つけて楽斗はその場から立ち去ろうとするが肩を掴まれ、またしても逃走に失敗した。
「またまたー。そーいうのは求めてないからさ。男同士?それは戸籍上の話だろ?」
「戸籍上の性別なんて気にするもんじゃないさ!」
「楽斗は可愛い女の子だぞ。自信をもってくれ」
ダメだ。話が通じない。まるで野性動物と話しているみたいだ。
しかし、「戸籍上の性別は関係ない」か。じゃあこいつらはどうやって性別を定めているのだろうか。少し興味が湧いたで聞いてみる。
「戸籍上の性別が全てだろ。そうじゃなかったらどうやって性別定めるんだよ」
「は?何言ってんだよ。外見に決まってるだろ」
「戸籍上が男でも可愛ければ女の子だろ?」
「ちなみに戸籍上が女でも可愛くなければ、特にデブス(デブブスの略称)は絶対に女とは認めない」
(極めてクズな回答が返ってきやがった。ここまでクズだと一周回って尊敬するぞ)
「じゃあお前らの思う女は誰なんだよ。そんなに審査厳しかったらさぞかし少ないんだろうな......」
「「「よくぞ聞いてくれた!!!」」」
何気なく呟いたその言葉に三人のテンションが上がる。
あっ、これヤバイやつだ。
「やっぱ言わなくてい━━━」
「「「実はこの学校には、五人も女がいるんだよ!!!」」」
聞いてもないのに喋りだしやがった。大野の話はどこいったんだよ。
まぁ、掘り返されても困るし、むしろこの話を聞いた方が面白そうだったので突っ込まなかったが。
「五人って多いのか?」
「「「多いに決まってるじゃないか。我々三人の審美眼に認められるのなんて凄いことだぞ!!!」」」
相も変わらずハモりながら熱弁する三人に何となく楽斗は一歩後退した。
本来ならば五千歩位後退するほどに気持ち悪いものだが、それでも一歩だったわけは、審美眼という言葉の響きがやけに気に入ったからである。
「そんなに凄いことなのか!じゃあ、その五人って奴は一体誰なんだ?」
「「「いいだろう。教えてやるよ」」」
そうハモった後、三人の内の一番身長が小さい奴が片手を胸に当て、もう一方の手を天に伸ばして叫ぶ。
「一人!学年の人気者にして学校のアイドル、
バッチリ知ってるやつだった。真愛が可愛いことなんて中学の頃から知っていたし何を今さらって感じだった。
楽斗は半眼でジトと背が一番低い奴を見る。期待していたのに何故か裏切られた気分だ。
背が一番低い奴は、その視線に気づいたのか、一瞬ビクリの肩を浮かせながらも背が二番目に低い男と交代した。
二番目に低い男は、すぅーはぁーと喋るように深呼吸して、同じように叫んだ。
「二人!その飛び抜けたルックスに引っ掛かった男は露知れず。愉快なムードメーカーにして小悪魔的存在、
また知ってるやつだった。ていうか菫、小悪魔的存在って言われてるのかよ。どっからどう見ても大魔王だろうが。見る目がないのかよ。
「三人!いつもクールでどこか令嬢っぽい雰囲気を出している巨乳女子、
そいつも知ってる。令嬢っていうかマフィアのボスって感じだけどな。
「四人!可愛さ余って憎さ0倍。ルールに厳しい風紀委員、
「何でだよ!?」
こうも知っている奴が連続で来られると何かの策略ではないかと疑ってしまう。もはや審美眼というものの存在自体が疑われるな。
(だ、だが、これで俺の友人達は出揃った。残りは一人、一体だれなんだろうか!?)
「「「五人!戸籍上は男。しかし、外見は女。明らかに戸籍間違えの可能性大の女の子━━━」」」
あっ、オチ分かったかもしれない。
「━━━
「やっぱりなぁぁ!!」
教室の廊下に本日一回目の楽斗の悲鳴が響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます