俺の友人達には問題がありすぎている件9

「ねぇ、聞いてるの楽斗?」

「何だい姉さん?」

「あなた前方メンバーでしょ!何で私の隣にいるのよ!参戦しなさいよ!」

「無理無理。死ぬって」


 楽斗は手を横に振り、既に戦場と化した放送室を遠い目で眺めた。


「ハアァアッ!中々やるな、そうでなければ!」

「チィ、この女完全に暴走してやがる!何で甲冑でこんな速度出せるんだよ!意味分かんねぇよ!おい大毅!」

「言われなくても分かってる!この場面で出し惜しみなんてしないさ!ウオォリャアッ!!」


 ガキィン!!!


 鈍い音と共に圭子の手から模造刀が吹き飛ぶ。

 流石の圭子も何事かと一瞬目を丸くしたが、大毅の手に持っているものを見て成る程と頷いた。


「はっはっは。素手で来たかと思いきや金属バットを隠し持っているとはな、驚いたぞ」

「ふん、先に武器を使用したのはそっちだ。泣き言は言わせんぞ」


 大毅は、ばつが悪そうに......しかし、はっきりと宣告した。

 おそらく誰よりもフェアプレイの精神が高い彼の頭の中では色々な葛藤があるのだろう。そんな感じだった。


「いいさ。別にこれは正規の試合じゃないしな。むしろドンドン武器を使ってくるといい。さぁ来い!」


 ビシッ。両手の中指を立てて挑発する圭子。

 しかし、二人はすぐに向かうことなく顔を見合わせて悪く笑った。


「宗吾、今の話聞いたか?」

「もちろんだ。ちゃんと言質も取ってあるさ」

「言質?」


 聞き覚えのない単語に、圭子は思わず眉間にシワを寄せる。

 すると、宗吾はフハハハと笑いながらポケットの中から小さな機械を取り出した。


「何だそれは?」

「ボイスレコーダーって聞いたことないか?」

「......そんなものを使って何をする気だ?」


 小さな機械がボイスレコーダーだと言うことは分かったが、この場において利用する必要性の無さに疑問を投げ掛ける圭子。


「そんなの決まってるだろ?こうするんだよ」

『いいさ。別にこれは正規の試合じゃないしな。むしろドンドン武器を使ってくるといい。さぁ来い!』


 ボイスレコーダーからリピートされる声。無論、その声が誰のものだったのか言うまでもない。


(これは、さっきの私の言葉か......言質取ったとはこの事だったのか。

 しかし解せぬな。一体何がしたいんだろうか)


 しかし、すぐに目の前の男どもが問題児、つまりバカと呼ばれている事を思い出し、考えるだけ時間の無駄だと一所懸命に考えていたさっきまでの自分を嘲笑った。


「で、結局何がしたいんだ?お前達は。別に私はさっきの言葉なんて撤回するつもりなど更々ないのだが?」

「念のためだよ。念のため!」

「はぁ......オレ的にはあんまり気が進まんのだが、ホントにやるのか?」

「当たり前だろ、何だ産気さんけづいたのか?」

「宗吾......頼むからドヤ顔怖じけづくと産気づくを間違えるないでくれ......。気色悪いぞ」

「すまない、素で間違えた。言葉のあやってやつだ。忘れてくれ...」

「あぁ。勿論頼まれなくても忘れさせてもらうさ」

「おい、私を置いて二人だけの世界に入るとはいい度胸じゃないか。このホモどもが!」


 ガシッ。と、突如目の前で握手する宗吾と大毅を見て気持ち悪いものを見たと吐き捨てる圭子。


「まて、お前は在らぬ誤解をしている!」

「オレはホモじゃないぞ!宗吾は知らんが」

「俺も違うわ!一緒に否定しろよ」

「男が産気づくと思い込んでるお前だから、否定は出来んかなと」

「お前、それ忘れるって言ったじゃないか!」


五月蝿うるさい!

 貴様らが腐女子達に人気なあれだと言うことは分かったから、とりあえず出ていけ。私は放送をしないといかんのだ」


 眼前で相も変わらず口論を交わす宗吾と大毅に、圭子が呆れたように呟く。

 しかしその言葉は結果、二人に本来の目的を思い出させ口論を止めさせることになった。

 口論を止め、ゆっくりと圭子に近づく二人。その迫力に圭子は気圧され、一歩引いた。


「圭子」

「な、なんだ?」

「お前は言ったよな。武器をドンドン使ってくるといいって」

「あぁ。確かに言ったが何か?」

「じゃあ使わせてもらうとするか。大毅、良いよな?」

「勝手にしろ。オレはもう疲れた」

「何をしよ━━━」

「黙ってこれを見ろ!」


 宗吾はボイスレコーダーが入っていたポケットとは違う方のポケットを漁り、それを圭子の眼下に叩きつけるような勢いで晒した。


(これは、写真か?しかし何でこんな物を......ぉおおおおおぉぉぉおおおお!?!?」


 換気の雄叫びを上げながら、宗吾の手にあったそれを即座に奪い取る圭子。


「今だ!やれ大毅」

「やれやれ。分かってるよ━━━っと!」


 その隙に大毅の蹴りが甲冑の腹部に吸い込まれるようにして突き刺さった。


「なっ!?」


 あのときは宗吾の拳もあったとは言え、凄まじい速度で頑丈な扉を蹴り飛ばした威力の蹴りだ。今回は宗吾の拳がなかったため扉の時よりは勢いが無かったものの圭子は壁にぶつかるまで吹き飛ばされてていた。


「ガハッ!!」


 衝撃で肺から空気が漏れる。甲冑を着てこの威力。生身だったら間違いなく意識ごと苅り飛ばしていただろう。

 壁にぶつかった拍子に落ちたのか、元々強く固定していなかった鉄仮面がいつの間にか頭から無くなっていた。そのせいか、もしくは肺に残っていた空気を全部吐いたせいか、空気が新鮮に感じた。


「くっ......無念......し、しかしここにいる者だけでもこれを伝えなければ......」


 ここで終わるわけにはいかない。

 そう言って放送で一大発表として話そうと思っていたことをこの場で大声で叫ぼうと圭子が口を開━━━


「させるかぁぁぁ!!」

「実は楽......むごッ!?」


 どこにいたのか、一瞬にして圭子の前に来た楽斗はすかさずその口のなかに丸めたティッシュを突っ込み、更にその上からガムテープを巻き始めた。

 

「む......むごごごがが!!?」


(なっ......これでは話すことはできないじゃないか......無念......。

 ......しかし、何故だろうか。楽斗プリティーガールに拘束されていると思うと、何故か興奮する私がい......)


 そこで、圭子は気を失った。



(よし、これで任務完了だな!)

 今さっき圭子の頭に振り下ろした放送室に落ちていたどんきを持ちながら、ふぅ。と、やり遂げた感に浸る楽斗。


(ところで、圭子は何を見たんだろうか)

 心配事が終われば、当然今まで気にしてなかったことも気になってしまう。楽斗は好奇心に負け、気を失っても決して離さなかった写真らしき物を強引に圭子の手から引き剥がした。

 そこには、黒髪のショートカットの女の子がメイド服を着てキャピッとドヤ顔している姿だった。この姿、この顔。心当たりもバッチリある。間違いない。楽斗自身だった。


(うん。見なかったことにしよう)


 静かに写真を元の場所に戻すことなくビリビリと破り捨てる。その姿に二人の友人は、


「おい......見たかあれ。あいつ圭子を嬉々して縛ってやがったぞ?縛った上に頭に鈍器振り下ろしやがった。しかもそれだけじゃ足りないと圭子の宝物まで破り捨てやがったぞ!?鬼畜過ぎるだろ」

「確かに宝物を破るのは、いくら同姓とは言えやりすぎだな」


(うん。聞こえなかったことにしよう)


 と、その時、大毅や宗吾ではない誰かが放送器具に向かって走っていった。

 

(......後方メンバーか?そういや、まだ放送器具は繋がったまんまだったな)

「後はよろしくな」


 後方メンバーだと信じていた楽斗は、誰なのかも確認せず投げやりに言った。


「OK!任せといて楽斗くん」

「おう。任せるぜ」


 はっきりと聞こえた肯定の言葉に迷わずそう返し、唖然とした。


 何で男の声がしたんだ、と。


 ここからすぐさま逃げ出せと本能が告げる。

 楽斗はダラダラと冷や汗を流しながら放送器具の方向へ、そぉーと視線を向け。


 そして、

「そいつを止めろおぉおおお!!!」

 気づいたときには既時遅し。先程まで楽斗とそいつの会話を聞いていた宗吾と大毅は、てっきり協力者だと思い込んでいたみたいで、咄嗟の事についていけず、呆然とその場に立ち尽くしていた。

 そいつは圭子がいつでも町中に放送できるように準備していた機器を迷わずOFFからONに変えて、叫ぶように宣言した。

 

『僕、大野おおの秀生しゅうせいは生涯、雨宮あまみや楽斗がくとちゃんを愛し続けることを誓います!』

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