ホテル・カリフォルニア 1

 東海林しょうじ美歩みほは小動物に触れるような手つきで、モモヒキ越しに男の下半身をいじった。

充血した男根特有の硬さを感じ、彼女は舌で唇を濡らす仕草をする。そのままおもむろにシャツを脱ぎ、男の腕を掴んで胸のあたりへ運んだ。男はふーっと生温い息を吐いたのち、ブラジャーのホックを外さんと指を伸ばした。東海林はそれを受け入れ、身を委ねる。その際、男はわざとらしく彼女の乳首を幾度か爪で弾いた。そのたび、東海林は短く息を漏らす演技をしてみせる。上半身を露わにするが、ホットパンツは未だ穿いたままだ。

「おじさん、御厨組みくりやぐみの人でしょ」

東海林は男の無精髭を撫で、耳たぶを食む。

「ああ、そうだ」

誇らしげに男は言う。

「ねぇねぇ、ヤクザって、どういうことするの」

「弱い者イジメ」

グフフ、と彼は黄色い歯を見せて笑った。ベッドサイドランプの近くに置いてあるコンドームのパッケージを無意味に指で弄んでいる。

「ひどぉい。任侠の精神は?」

「んなもんねぇよ」


 東海林はベッドに横たわる男に覆いかぶさるようにして、モモヒキを脱がせていく。膝のあたりまでそれを下げると、硬化したペニスがバネで弾かれたように屹立した。性的興奮により分泌された液によって、赤黒く膨張した亀頭にツヤが生じている。

東海林はそれに軽く息を吹きかけた。男根へ左手をかける。小指、薬指、中指……一本ずつ、それに指を絡めていく。そして、自身の鼓動と同じ間隔で、上下に扱く。

「御厨の親分って、どんな人?」

性器に伝わる快感に頬を緩めつつ、男は答えた。

「執念深いね。堅気の人間には手を出さないけど、自分を裏切る人間のことは絶対に許さない」

シュッ、シュッ――

エンコ詰めさせられんの?」

ふぅっ。うまいなみほちゃん。ふふぅ。男は戯言のように言う。

「それどころじゃない。徹底的に痛めつけて痛めつけて、この世にいられなくするのさ」

「殺すの?」

クチクチクチクチ――

「それだけじゃないの。まずは執拗にイジめてイジめてボロボロにして、まだ殺さない。そして、もう死んだほうがマシだーって思うようになってから、ようやくトドメを刺すの」

男のペニスがビクビクと痙攣するように脈打つのを確認し、東海林はそれから手を離した。

立って、と彼女は催促した。男は言われた通り、性器をいきり立たせたまま腰を上げた。彼女は膝を折り、ひざまずくような、あるいは祈るような姿勢になって、ペニスの先端がちょうど目の前に来るように身を置く。男の臀部へ腕を回して、パンパンに腫れ上がった男のそれを舌に乗せるようにし、口内へ咥え入れる。


 温度を感じる。東海林は目を閉じた。頭の中でカウントをする。

スリー。

ツー。

ワン。


 ゴー。

東海林は顎に全神経を集中させた。肉食動物のそれのごとく、上下の歯にて男根を捻り込んだ。血、精液、尿、汗、リンパ、それらの混ざり合った最悪の風味を舌に感じつつ、彼女は男のそれを噛み千切った。一瞬の出来事である。

男は唇から泡を吹いて失神した。東海林は口の中からペニスを吐き出し、バスルームへ駆け込む。

口の中を即座にすすいで、使い捨て歯ブラシのパッケージを破く。

執拗に歯を磨いていると、ホットパンツのポケットに差し込んだ携帯電話が振動した。

SNSを開く。『くみちょう』と登録した連絡先からメッセージが届いている。

「終わった?」

『YES!』と叫ぶウサギのスタンプを送信しつつ、洗面台に水を吐く。

「おつかれさま!」

そんな短文の後ろには、記号によって形づくられた顔文字が踊っていた。


 クローゼットに掛けられている男のジャケットを探った。ポケットから財布と車のキーを手に入れたのち、部屋を出る。

男の金を使って自動精算機にてチェックアウトを済ませ、駐車場でキーに対応するブラックのステップワゴンを見つける。


 エンジンをかけた。

オーディオから、イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』のイントロが流れはじめた。

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