第120話 大好き
翌日。
予定よりちょっとだけ早く起きた私は、まだ寝ぼけ眼のなゆを置いて学校へ向かった。
ガラガラッ
「おはようございま~す……って、流石に誰もいないかー」
勢いよく開けた生徒会室のドアから中を覗き込んでみたものの、そこには期待した顔はいなかった。
もしかしたら。
ケイ先輩が早く来てるんじゃないかなー? なんて。
早く来てたら、少しの時間だけでも二人っきりでお話できたりしちゃうんじゃないかなー? なんて。
淡い期待をしてみたんだけど。
春休みの朝。
運動部ですらまだチラホラとしか見かけないくらいの時間ともなると。
そううまくもいかないみた――
「あら、すばるん。
どうしたのこんなに早く?」
約束をしていたわけでもなく。
勝手にいたらいいなー、って思って、勝手にいなくて残念、って思っていた所に。
生徒会室のドアの前で一人百面相をしていた私の後ろから、今一番聞きたい声が聞こえてきて。
思わずフリーズしてしまった……。
こんな不意打ちずるい!
「もしかして、寝ぼけて時間間違えた?
って、それならなゆちゃんが気づきそうなものよね。
あれ? すばるん?
おーい?」
っと。
いつまでも固まってる場合じゃない!
「ケイ先輩!」
そう、もしケイ先輩がいたら言いたい事があったんだ。
「わっ! な、なに!?」
「あの、あの、ですね……」
勢いよく振り向いたら、思ったよりも顔が近くて。
ドキドキしすぎて言葉に詰まる。
「うん?」
ああもう、そんな可愛く首をかしげられたら、余計にドキドキしちゃうじゃんっ!
本人無自覚だけど、こういう不意打ちの仕草はほんと心臓に悪い。
ふーー。
心の中で大きく息を吐く。
よしっ!
「ケイ先輩。
私、ケイ先輩のこと、大好きです!」
じっと目を見つめ。
今日、もし朝会えたら言おうと思っていたことを伝える。
「う、うん。
えと……ど、どうしたの急に?」
「私、本当に、ケイ先輩のこと大好きなんです」
「わ、わかったから、ちょっとおちつこ! ね?」
「ああ、すみません!」
言われてふと気づく。
朝早いから周りに人がいないとはいえ、ここは学校の廊下だ。
一旦落ち込みかけてからのサプライズ登場で、テンションがおかしくなっちゃってたみたい。
というか、うん。
昨日の夜からずっと考えてたからなー。
「はい、紅茶でいい?」
ドキドキする心臓をなだめながら座っていると、目の前に紅茶の入ったカップが置かれる。
「ああ、すみません!!
私がやらないといけなかったのに!!」
「ふふ、別にいいわよこれくらい」
「……ありがとうございます」
そういえば、前にもこんなことがあったなぁ。
あれは、いつだったっけか。
「そういえば。
前にもこんなことあったわね」
「……私も同じこと思ってました。
私ってば気が利かなくて……」
「もう、変なことで落ち込まないの。
誰がお茶入れたっていいじゃない?
それとも。
私のお茶は飲めないのかしら?」
「そそそそ、そんなことないです!!
ケイ先輩に入れてもらうと本当においし――あつっ!!!」
勢いよく飲んだ紅茶は、それはもうとてもとても熱々で。
危うく吹き出しかけたよ。
「うぅ、
「もう、ばかね。
ちょっとお水持ってくるから待ってなさい」
「はーい」
「落ち着いた?」
「はい……」
うぅ、なんでこう私ってばドジなんだろう。
恥ずかしくて顔があげられないよ。
「それで、どうしたの?」
「え?」
「『え?』じゃないわよ。
急にその……あんな、こと……」
言いながら、先輩の声がどんどん小さくなっていく。
ちらっと顔を見ると、赤くなってる。
「あ! はい、えと……そうでした!」
「よくわからないけど、落ち着きなさい。
ちゃんと、聞くから」
まだちょっぴり顔は赤いけど。
優しい目で、まっすぐに私をケイ先輩が見てくれている。
私が口を開くのを待ってくれてる。
ああほんと、私、
「ケイ先輩のこと、大好きです!」
「そ、それはわかったから、急にどうしたの?」
「わかってないです!
ケイ先輩が思ってるよりも、私が先輩を好きな気持ちは大きいんです。
なにかあるとふとケイ先輩のこと考えちゃいますし、できればいつでも一緒にいたいって思いますし、もちろんいつまででも待つっていうのは変わらないですし、ちょっともどかしいですけどケイ先輩が私のことちゃんと考えてくれるのはすごく嬉しいですし」
ダメだ。
一昨日からずっと考えてて。
昨日めぐ先輩とお話してからも考えてて。
考えている間は、もっとちゃんと言いたいことまとまってたはずなんだけど。
「だから……。
ケイ先輩が大好きなんです!」
喋りだしたら全部飛んじゃった。
頭の中真っ白。
「うん、ありがとう。
待たせちゃってごめんね」
「いいんです。
今日は、とにかく私の気持ちをもう一回ちゃんと伝えたかっただけですから。
ちゃんとしてたかどうかは怪しいですけど……」
ついさっきのことなのに、自分が何を言ったか全く思い出せない。
「ふふふ、確かに、かなりテンパってたものね?」
「うぅ、先輩いじわるだー」
「ごめんごめん」
そう言うとケイ先輩が頭を優しく撫でてくれる。
それから少し。
他のメンバーが揃うまでの間、のんびりお茶を飲みながら二人きりの時間を満喫したのだった。
窓の外では、満開の桜が風に花びらを散らせていた。
今のこの作業が終われば、とうとう私も『先輩』になる。
あっという間なような、長かったような。
平穏無事とは程遠い、波乱万丈な1年だったけれど。
きっとこの先、一生忘れることのできない1年になった。
私の高校生活2年目。
なにが待ち受けているのか、とっても楽しみ!
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