第119話 好きは止められない

「今日は、ホント来てくれてありがとう」

 バッと両手を広げて全身で感謝を伝えようとするめぐみ先輩。

 さっき、むぎゅっとされたのを思い出して、一瞬身構えたものの、どうやら先輩も同じことを思ったみたいで。 

 広げた手をもとに戻すとその勢いのまま両手で私となゆの手をぶんぶんとしたのだった。

「あはは。

 こちらこそです!」

「ありがとうございました」


 あれ? なんだろう。

 ぶんぶんした手を掴んだまま、先輩は動きを止めた。

「……実は、さ。

 ちょっとだけ悩んでたんだよね」

「悩み、ですか?」

「うん。

 星空ちゃんたちからしたら、先輩ではあるんだけどね。

 この世界では私はまだまだ新人だからね。

 なかなかうまく行かないことも多くてさ。

 さっき見てもらった、私の『思い出の星空』。

 アレ、何度も企画を上げてはその度に却下されて。

 もしかして、私はこの仕事に向いてないんじゃないかな、なんて、思ったりもして。


 でもさ。

 でも……。

 やっぱり、好きなものって、諦められないじゃん?

 好きって気持ちはどうやったって止められないじゃん?

 好きだから、諦められないから、いっぱいいっぱいワガママになって、突き進んで。


 そうやって何度も挫けそうになって、それでも頑張って、そうしてようやく出来上がったモノをさ。

 星空ちゃんたちが見てくれて、すごい、ってキラキラした目で言ってくれて。

 ああ、私の好きは、ちゃんと伝わったんだな、って。

 頑張ってよかったな、って。


 ふふふ、あんまりかっこよくない先輩でごめんね。

 ありがとう、ふたりとも!」


 そう言ってめぐみ先輩は、私達二人をまとめて抱きしめた。



「じゃーねー。

 またよかったら遊びに来てね」

「はーい」

 先輩に見送られて、プラネタリウムから出る。


「ちょっとお腹空いたね」

「うん。

 なんか食べよ」

「だね」

 時間的には、お昼をちょっと過ぎたくらい。

 夢中でお話してる間は全然気づかなかったけど、時計を見た途端お腹がぐーっとなるもんだから、我ながら笑ってしまった。

「何食べるー?」

「んー……あそこでよくない?」

 なゆの指差す先には、見慣れたファーストフート店が。

「この辺よくわかんないし、オシャレそうなお店は高そうだし」

「だね、そうしよ」

 あー、やっぱバイトしようかなぁ……。

 ちょっぴり寂しいお財布の中身を思い出すと、ちょっぴりしょんぼりしてしまうのだった。


「めぐみ先輩、かっこよかったなぁ」

 期間限定のハンバーガーを食べ終わり(期待以上に美味しかったのでまた来よう)、ポテトをつついていると、ふとさっきのことが思い出された。

「めぐみ先輩はかっこ悪い、なんて言ってたけど。

 誰だって悩むのは当たり前なんだし、でもそれをまっすぐに受け止めて、夢に向かってまっすぐ突き進む先輩は、やっぱりカッコいいと思う」

「うん」


 それに、


『やっぱり、好きなものって、諦められないじゃん?

 好きって気持ちはどうやったって止められないじゃん?』


 去年までの私だったら、きっとわからなかっただろうなぁ。

 もちろん、お仕事と恋愛は違うけれど。

 『好き』という気持ちは同じなんだと思う。


『好きだから、諦められないから、いっぱいいっぱいワガママになって、突き進んで』


「私、もっとワガママでもいいのかな……」

「ん?」

「あ!」

 ついポロッと口にしちゃった。

「……いいんじゃない?

 というか、おねぇは、もうちょっと自分に自信を持っていいと思うよ」

「自信、自信かぁ……無理だよ~」

「……おねぇがカッコいい先輩になるのは、まだまだ先になりそうだね」

「うぅ、ひどい~」


 でも、うん。

 ちょっとだけ頑張ってみよう。

 自分に自信を持つのは難しいけど、ケイ先輩を『好き』な気持ちには自信がある!


「あー、早く明日にならないかなー」

 早くケイ先輩に会いたいな。

 って、ちょっとウキウキしてたったのに、

「おねぇは、単純でいいよね」

 なゆったらこんな事言うんだよ!?

「えー、なにそれー」

「だって、昨日はあんなに浮かない顔してたのに」

「……そんな昔のことは忘れたよ」

「おねぇは、単純でいいよねぇ」

「2回も言わなくてよくない!?」

 とはいえ。

 自分でもそう思わないので、反論はできないんだよねぇ」


「私は。

 あの作業の続き、って考えると明日が来ないでほしい」

「……う、ごめん」

 確かに。

 そう考える、さすがのケイ先輩効果をもってしても、気が重くなるのだった。

 ……あぁ、ポテトおいしいなぁ。


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