第112話 卒業生追い出し会

「それでは、在校生は椅子の片付けを手伝ってくださーい!」

「はーーい!!!」


 卒業生に続き、来賓や保護者の方々も全員出ていった後。

 残った在校生たちで慌ただしく準備が開始した。


 まずは、座っていた椅子を全部片付けないといけない。

 こうしてお手伝いをするまで、そういえば椅子ってどこにしまってあるんだろう? って思っていたんだけど。

 ステージから収納するための長い台車が出てきた時には驚いた。

 しかも、全部引っ張り出すと、体育館の真ん中くらいまで出てきたもんだから、さらにびっくりした。

 ステージってそんな広くないように見えるけど、色々な装置とかが裏にあって意外と奥行きがあるんだよねぇ。

 ちょっとした秘密基地っぽくて、なんだかワクワクしちゃった。


「あ、できるだけ詰めて入れてくださいね~」

 全校生徒総勢300人弱、保護者の方の分やら色々入れておよそ500脚の椅子だ。

 ちょっとでも隙間が空いてしまうと入り切らない。

 出す時もみっちりで大変だったけど、戻す時はもっと大変だ。

 ケイ先輩によるとコツがあるらしいんだけど、いまいち私は習得できなかった……。

 マキちゃんがばっちり覚えてくれたのでよかったけど。


「おーい、すばるー」

 なんて考えていたら、噂のマキちゃんが駆け寄ってくる。

「どうしたの?」

「椅子の方は私が見とくからさ、業者さんの方行ってきてくれる?」

「あ、そうだね。

 ありがと!」


 体育館をステージから後ろに向けて突っ走る。

 途中、紅白幕の取り外しの指示をしていたケイ先輩がいたので、

「ケイ先輩、業者さんの応対してきまーす」

と、一声かけていった。

「ありがと。

 あんまり急いで、転ばないようにねー!」

「はーい! っとと」

 振り向きながら返事したら、危うく転びそうになってしまった。

 言われたばっかりなのに……。

「もう、ホント気をつけなさいね?」

「はぁい」

 うん、走ると危ないね。


 卒業生追い出し会、というのは、うちの学校の伝統行事で、卒業式の後に行われる学内の人間のみで行われる立食パーティのことだ。

 元々はこじんまりとしたものだったらしいんだけど、年々規模が大きくなっていっているらしい。

 というのも、OGの人たちもいっぱい来るからだ。

 卒業後、色々な道に進む時のための“つながり”を作る場にもなっているんだって。

 宇宙関係のお仕事をしている人はもちろん、色んな分野で活躍している人もいっぱいいるので、在校生の私たちとしても貴重な話を聞くことができるいい機会だ。


 椅子を全部片付けて広くなった体育館に、業者さんがテーブルをずらっと並べていく。

 簡単な飾り付けは私達だけど、こういう大掛かりなのはさすがにやりきれないからね。

 で、もう少ししたらお料理を出してくれる業者さんがやってくる。

 そのお料理も、色々なバリエーションがあるので何箇所かにお願いしていて。

 ほんと、こんなにお金かけていいの? ってくらいに豪勢だ。


 まぁ、お金は先生方のお財布とOG会から出ているんだけど。

 集金に行った時、どの先生も気前よく出してくれるもんだから、かなりの大金にドキドキが止まらなかったよ……。




 そして。

 約2時間後。

「ふぅ、なんとかなりましたね」

 キレイに出来上がった会場を、ケイ先輩と並んで見る。

「去年もやったけど、さすがに自分で仕切るとなると大変だったわ」

「さすがに、業者さんは手慣れてましたね」

「そうね」

 あっという間に準備が整っていく様子は、なんとも壮観だった。

 開始まであと30分という所で、準備万端になった。

「さ、それじゃ、各クラスへの声掛け、先生方への声掛けを分担通りにお願い。

 私は、OGの方の受付をやるわ。

「はいっ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る