第113話 思い出の『星空』
「卒業生のみんな、本当におめでとう!
こうして無事送り出せることを嬉しく思います。
今日はたくさんのOGも来ていますので、気軽にどんどん話しかけて今後の糧にしてください。
では……かんぱーい!!」
学園長の乾杯の挨拶から、卒業生追い出し会はスタートした。
卒業生含む全校生徒(強制参加ではないけれど、よほどの用事がなければほぼ全員参加している)に、OGの方々がたくさん集まっていただいたので、立食パーティだけれどなかなかの人口密度だ。
しかも、OGも卒業生もみんな着飾ってるものだからとても華やか。
在校生は制服なので、逆に浮いてるんじゃないか、って心配になるくらい。
ちらっと周りを見渡してみると、TVで見たことのある人が目に入ってくる。
あ! あの人って、たしか日本人女性で初めて宇宙飛行士になった人じゃ……!?
うわぁ、ほんとすごいなぁ。
気軽にどんどん話しかけなさい、ってさっき学園長が言ってたけど、なかなか知らない方に話しかけるのは勇気がいるなぁ。
しかもあんな有名人なんて……でも、今日を逃すとお話できる機会なんてそうそうあるもんじゃないし……。
「すばるちゃん、なに百面相してんのさ?」
どうしよう、って悩んでいると、ドレス姿にグラスを持ったトラ先輩が。
金色の髪は結い上げられているし、体の線が出るドレスはセクシーというより、とてもかっこよくてすごく絵になる。
スーツかな、と思ってたのでドレスだったのは意外だったけど、とても似合ってる。
それに、体育館の照明だってのに輝いて見えるはなんだろう。
隣に立つステラ先輩もとても素敵なドレスを着ていて、二人並んでるとそこだけ違う世界みたいだ。
「ふふ、色んな人がいてびっくりしたでしょう?
私も1年生の時は呆然としたものだったわよ」
「ステラ先輩もですか!?」
「ええ、どこを見ても有名人ばかりだから、びっくりしちゃったわよ。
トラは全然気にして無かったみたいだけれどもね」
横を見て、いたずらっぽく笑う。
「いや、だってよー。
俺テレビとか見ねーから有名人かどうかなんてわかんねーんだよなー」
「……なんか想像できますね」
「でしょ?」
ステラ先輩と顔を見合わせて笑う。
ちょっと不満そうに見ているトラ先輩がなんだか可愛い。
「トラ、ステラ。
卒業おめでとう」
しばらく3人であの人はこういう人だとか、この人はどうだとかいう話をしていると、スラっと背の高い(トラ先輩と同じくらい?)スタイリッシュなOGの方が話しかけてきた。
「ありがとうございます、メグ先輩」
「ご無沙汰してます」
「ほんと、あんたたち二人は遠くからでもわかるくらい目立つね。
で、こっちは?」
あまりのキラキラしさについ呆然と眺めてしまっていたら、急に話を振られてびっくり。
「あ、は、はじめまして! 1年生の星空すばるです」
「お、星空ちゃんっていうんだね。
私は、OGでプラネタリウムクリエイターをやっている星めぐみ。
めぐみでいいよ。
“星“仲間だね、よろしく」
「よ、よろしくお願いします!」
「あの、プラネタリウムクリエイターっていうのは?」
初めて聞いた職業だった。
「お? 興味ある?
どんな仕事か、って聞かれると、そのままずばりプラネタリウムを作る人、って答えるしかないんだけど。
実際の作業としては、星の配置をプログラミングしてレンズにどうやって穴をあけるか設計をして……って、多分そういう話が聞きたいんじゃないんだよねぇ。
うーん……あ、そうだ。
星空ちゃんは、思い出に残っている『星空』ってある?」
「思い出の星空、ですか……?」
そう言われて一番最初に思い出したのは、天体観測部を復活させるきっかけにもなった、あの『星空』。
小さい頃にお父さんに連れて行かれた、名前も忘れた流星群を見たことだ。
「うんうん、いいね。
私の仕事はね、そういった『星空』を『再現』して届けることなんだよ。
私が小さい頃に初めて見たあの星空を、想いを、届けるんだ、って思うと、なんだか素敵だと思わない?」
「はいっ!」
そう話すめぐみ先輩の瞳が、なによりもキラキラ輝いていて。
とても素敵だな、って思った。
「ふふふ、いいねいいね。
なんなら、今度うちの仕事場に見学に来るかい?」
「いいんですか!?」
「もっちろん!」
「んじゃ、また連絡するね~」
「はい! ありがとうございます!」
そう言って、めぐみ先輩は他の卒業生のもとに歩いていった。
今日の所は連絡先だけ交換して、詳しいことは後日、ということになった。
「よかったな、すばるちゃん」
急な展開で少し頭がついていかなかった部分もあるけど。
手にしためぐみ先輩の名刺を見てぼーっとしていると、横に立つトラ先輩が、私の頭にぽんと手を置いて優しく声をかけてくれる。
「はい。
なんか、すごいですね、うちの学校」
「だろ?
こうやってさ、ずーっと昔からみんな繋がって行ってるんだよな」
どこか遠くを見るように言うトラ先輩の声は、どこか寂しそうに聞こえた。
「俺らはさ、今日で卒業するけどさ。
3年間やってきたことはなくならない。
すばるちゃんとも、この1年、一緒にやってきたことはこれからも絆として残っていくんだよ」
「……はい」
ああ、だめ。
急にそんな事言われたら、不意打ちで……。
「トラってば、なにカッコつけているのかしら?」
「う、うっせーな。
いいだろ? たまにはカッコつけさせろよ?」
「そうね。
たまには、ね」
さっきまでのしんみりはどこへやら。
ステラ先輩のツッコミにより、いつもの賑やかな雰囲気に逆戻りだ。
「あは、は、もう、先輩たちってばー……」
ほんっと、おかしい。
あんまりおかしくて涙が出てきちゃった……。
「もう、すばるちゃんたら、なんて顔してるのよ?」
ステラ先輩がハンカチで涙を拭ってくれる。
「だ、だって……」
「……よしよし」
ステラ先輩が、さっきのトラ先輩と同じように、頭を優しくぽんぽんしてくれる。
そこから先は、もう堪えられなかった。
先輩方に抱きついて、できるだけ声を出さないように泣く。
ああ、本当に卒業しちゃうんだ。
ああ、本当に明日からはもういないんだ。
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