第105話 大変そう
「ま、こんな所かしらね」
先輩たちがいない間の引き継ぎ、と言った所でそこまでいっぱいの仕事があったわけでもなく、ほんの1時間くらいで終わってしまった。
もっとも、いない間のメインのお仕事は卒業式の後の『卒業生追い出し会』だったから、トラ先輩とステラ先輩のお二人がいる前で相談をするわけにもいかない。
だからといって、せっかく来てくれたお二人を追い出すつもりはない。
話せる時に、いっぱい話しておきたいしね。
「それにしても、スミカさ。
このチョコどーすんだ? 食いきれるのか?」
一段落ついたところで、部屋の隅からトラ先輩がそう声をかける。
『このチョコ』というのは、お渡し会で受け取ったダンボールに山積みのチョコのことだ。
あまりにもすごい量だったので、トラ先輩とステラ先輩が待っている間に仕分けをしてくれていたのだ。
大きさで分けて袋に入れてお名前リスト作って、って。
「ああ、それはさすがに食べきれないので、施設に寄付することにしてます。
あ、もらった子たちにはちゃんと了解をもらってますよ」
「『手作りだから、どうしても食べて欲しい!!!』って子いて大変でしたね……」
何かを思い出したらしいなゆが遠い目をしている。
あの時そんなことがあったのか……ケイ先輩とお話できる、ってことで全然周りのことなんて見る余裕なかったな……。
「気持ちはね、すっごく嬉しかったんですけど、一人でもそれでOKしちゃうと、結局みんな手作りしてきちゃうから意味ないですしね。
ほんとは全部のチョコ食べたいんですけどねー。
物理的に無理な量なので」
「ですね……」
ダンボールに積み上がっている時もすごかったけど、紙袋に6つに分けて入れられているのを見ると、改めてとんでもないなぁ、と思う。
「じゃあ、これもそっちの袋に入れておけばいいですか?」
かばんから私が作ったちょこを取り出しながら聞く。
「ん? すばるちゃんからもあるの?」
「私もありますよ」
なゆも、同じくかばんからチョコを取り出しながら言う。
「おお、ありがとう。
さすがにそれはちゃんと食べるよ。
ありがと!」
「いいんですか? そんな贔屓して」
すっごくいい笑顔で手を伸ばすスミカ先輩に素直に渡す横で、なゆがそんなふうに聞いてくる。
確かに、さっきの話を聞いてると、いいのかな、なんて思ってしまう。
「良いに決まってるじゃん。
ファンだって言ってくれる仔猫ちゃんたちはもちろん可愛いけどさ。
それでも、元々の友達とかとは別だからね」
「そういうものですか」
「そういうもんだよ」
ファンなんていたことないし、今後も出てくることなんてないと思うけど。
楽しそうだけど、大変そうだなぁ、と思わずにはいられないのだった。
さて。
スミカ先輩へは流れで渡せた。
なので、このままケイ先輩にもスッと渡せば済む。
うん、ただそれだけのこと。
ケイ先輩用にちょっとだけ特別が含まれてるけど、袋に入れてあるし、わざわざスミカ先輩と見比べることもないだろうから大丈夫なはずだ。
大丈夫、だいじょうぶ、ダイジョ――
「おねえ? 大丈夫?」
「ふへ!? な、なにが!?」
「……大丈夫じゃなさそうだね……」
「そ、そんなことないよ!?」
……声が裏返ったよ……。
おっかしいなぁ……
「えっと。
スミカさ、これどうせ持ってけないだろ?
じぃが車で迎えに来てくれることになってるからさ、ついでに乗ってくか?」
「あー、でも施設の人が取りに来てくれることになってるので」
「今から持ってく、って連絡入れたらいいんじゃね?
取りに来るのも大変だろうし」
「そうですね。連絡してみます」
「よし、とりあえず車に積んじゃうか」
「私も手伝うわ」
「私も持ちます」
「あ、それなら私も……」
「おケイは大丈夫よ、2つずつ持つから3人いれば足りるから。
ね?」
「……はい」
わたわたしている私をよそに、スミカ先輩たちがチョコを持って生徒会室から出ていった。
残るは……え? 私と、ケイ先輩の……
二人!?!?!?
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