第104話 ため息
「はぁぁぁぁ……」
なんか、どっと疲れた……。
まさかお母さんが『送っていく』とか言い出すとは思わなかった。
ただでさえ1週間ぶりにケイ先輩に会える、ってのでドキドキ落ち着かなかったのに。
帰りは帰りで、ずーっといじられ続けたし。
『でも、確かにすばるが憧れる気持ちはわからなくはないわね』
って。
本当は『憧れ』ではなくて……なんだけど、さすがにお母さんにそんなこと言えないし。
いや、いつかは言わないといけない……?
うーん……。
「どうしたの? おねえ、難しい顔して」
「んー、ちょっと考え事」
きっと、なゆなら相談すれば一緒に考えてくれるんだろうけど。
なんとなく、もう少し一人で考えてみたかった。
「そっか。
あ、でもそんなため息ついてると幸せが逃げるよ」
「それは困る!」
思わず口に手を当て、机の上に置いた包みを見る。
別れ際に、ケイ先輩からもらったお土産のマカダミアナッツチョコ。
あまりゆっくり選ぶ時間なくてベタでごめんね、なんて言ってたけど、わざわざ買ってきてくれていただけで嬉しい。
なゆと二人分、ってのがちょっと残念だけど、わざわざ分ける必要もないしね。
本当は、私だけ特別に、なんてあったら嬉しかったけど、さすがにありえない。
……少しだけ、期待してたけど。
ちょっとだけね、ちょっとだけ!!
……うー、なんか私わがままになってる気がする。
「はぁ……」
「おねえ、また」
「あ!」
だめだめ、じっくりゆっくり待つって決めたじゃん。
なにかをして欲しくて気持ちを伝えたわけじゃないし、なにかを期待して好きになったわけじゃないんだし。
先輩の負担になるのだけは、絶対にいやだし。
明日……は日曜だから、明後日にはまた先輩といられる日常が戻ってくる。
うん、少し会えない時間があったから変になってただけだ。
落ちつこう私。
「よし。
なゆ、下行ってみんなでチョコ食べよう」
「……おねえ、大丈夫?
無理してない?」
「大丈夫、してないよ。
ありがとう、なゆ」
「うん」
ほんと、こうしてただ寄り添ってくれるってことが、どれだけ嬉しいことかよくわかる。
私もいつか先輩の――
◇
ガラガラッ
「こんにちは~」
週が明けて、その放課後。
先輩たちがいない間の引き継ぎなんかもあって、まっすぐ生徒会室にやってきた。
「あ、すばるん、早かったわね」
「やっほーすばるちゃん、一昨日はありがとねー」
元気よくドアを開けると、そこにはケイ先輩とスミカ先輩の二人が先に来ていた。
「先輩たちこそ」
「うちは今日は授業はなかったからね。
修学旅行の振り返りとか、反省会とか、レポート作成とか、そんなのだけだったのよ」
「班ごとにまとめて発表しなきゃいけないから、それの準備って感じだね」
「へー、そういうのがあるんですね~」
そういえば、中学の修学旅行のあとって、何したっけなぁ。
思い出そうとしてみたけど……なんか楽しかった、ってことしか思い出せない。
「それな、ちゃんとやらないと進級できないから気をつけろよー」
「わっ、トラ先輩!?」
なんだったっけなー、って思いを巡らせていると、急に後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには、トラ先輩とステラ先輩のお二人の姿があった。
もう、いきなりだからびっくりしたよ。
「……って、ええ!? 進級できないとかあるんですか!?」
「らしいぜ。
ま、実際に留年したヤツはいないって話だけどなー」
「結構、濃密で充実した内容の旅行になっていたでしょう?。
だから、手を抜く人なんていないのよ。
それどころか、毎年発表時間をオーバーして話し続ける班が多くて大変らしいわ」
「なるほどー」
「ああ、それはわかる気がします」
「ですねー、あれは、すごかった」
ステラ先輩の補足に、ケイ先輩とステラ先輩が深く深く頷く。
スケジュール見てるだけですごそうだったけど、実際体験するとそれ以上なのかな~。
なんだか楽しみだ。
「あれ、今日は人口密度高い……?」
出入り口でお話をしていると、少し遅れてなゆが来た。
「よ、お邪魔してるぜー」
「ごめんね、すぐ帰るから」
「いえ、全然お邪魔じゃないのでゆっくりしていってください。
おねえ、お茶入れるの手伝って」
「はーい」
かちゃかちゃ、と音を立てて、なゆがしまい込んでいたカップを取り出す。
そうだよね、ここの所は多くても4人しかいなかった(というか私が来ない日は3人だった)から、使うカップもそんなにいらなかったしね。
春に初めて来た頃は、ずっとこの人数いたのに、今となってはこの賑やかさが懐かしい。
「なんか、懐かしいね」
ぽつりとなゆが零す。
「うん」
同じことを考えていたみたいで、ちょっぴりしんみりしてしまう。
もうあとちょっとでトラ先輩たちは卒業してしまうから、こうして6人集まるのも今日で最後かもしれないな……。
あ、やばい、泣きそう。
「おねえってさ」
「ん? なに?」
しまわれていてホコリをかぶっていたカップをすすぎながらなゆが言う。
「結構、泣き虫だよね?」
作業の手を止めることなく、こっちも見ずにそう続ける。
ほんと、こういうとき双子ってのは以心伝心すぎて困る。
でも、
「なゆも、人のこと言えないよね?」
「……水が跳ねただけ」
さっきから、こっちを見ようともしないなゆの目も、きっと私と同じようになっているはず。
「そっか」
「うん、そう」
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