第102話 おかえりなさい

 駅へ着いて、まず最初に目に飛び込んできたのは、なぞの人だかりだった。

 制服こそ着ていないものの、何人か見た顔があることからうちの学校の生徒だろうなぁ、とわかる。

 と、いうか、あの人たちって……

「あー…………」

 誰だかわかると同時に、なんとも言えない声が漏れる。

「おねえ、あれって」

「うん、スミカ先輩のファンクラブの人たちだね」

 そう。

 あの生徒会選挙の時に発足したファンクラブ。

 『部』としての許可は降りなかったものの、活動そのものはしているようで、何かと見かけることが多くて覚えてしまった。

 この間の『バレンタインチョコお渡し会』のときもいたしね。

 会長さん、こと清流あみ先輩が列整理していた姿が思い浮かぶ。

 というか、今も周りに迷惑にならないように細々と動き回っている(そのおかげで、ファンクラブの人たちだ、ってわかったんだけどね)。


「なんというか。

 アレのおかげで、私がいても問題ないんじゃないか、って気がしてきた」

「今さら一人増えた所で、だよね」

 それでほっとしていいのか、って思わなくもないけど。

「なんか、すごいわね。

 あれ全部スミカちゃんだっけ、の追っかけ?」

「うん」

 もしかしたら、私みたいなのが一部混ざっているかもしれないけれど、ほとんどがそうだ、と言ってもいいだろう。

「懐かしいわね~。

 私が学生の時にも学園の王子様みたいな子がいて、それはもうすごかったわよ。

 バレンタインのときも行列ができてたし、卒業式なんかは第2ボタンの争奪戦が起こってたわ」

「第2ボタン、て1個しかないのに大変だね」

「とんでもない倍率だったわよ?」

 お母さんのこういう話って、あんまり聞いたことないから新鮮だ。

「お母さんも参加したの?」

「あっはっは、ないない。

 かっこいいなー、とは思ったけどね。

 そういえばあの子、今どこで何してるんだろうな~」

 懐かしそうな目で集団を見つめるお母さん。

 私もそんな風に思う日が来るのかなぁ。


「じゃあ、ちょっと駐車場入れてくるから」

「はーい」

 そこそこ広い駅前ではあるものの、大きなバスが何台か来るのに一般車が停まっていたら邪魔だろう、ということで車を置きにいくことになった。

「うぅ、寒いね~~」

 車から外に出ると、寒さが身にしみる。

「はい、マフラー」

「ありがとー」

 雪こそないものの、この時間は下手すると氷点下だしなぁ。

 ホッカイロも持ってきたらよかったかな。

「はい、ホッカイロ」

「わ、ありがとー!」

 ……さすが、うちの妹はできる子だなぁ。

「ついでに、もう一つ。

 ケイ先輩来たら渡してあげて」

「うわぁ……」

 さすがにそこまでは考えつかなかったよ。

「ん?」

「いや、気配りできすぎてすごいなぁ、って」

「そ、そんなことない、よ」

 おや、照れてる?

 ふふふ、珍しいもの見たな。


 そのまま少し待っていると、遠くにバスの姿が見えてきた。

 うう、ドキドキしてきた……。


 全部で5台のバスが停まり、続々と先輩たちが降りてくる。

 ケイ先輩はどのバスどれだろう。

 何号車か、なんて聞いてないしなぁ……と思ったけど、ファンクラブの人たちが集まってるアレか。

 スミカ先輩と同じクラスだし、さすがにバスも同じだよね。


「ほら、おねえ」

 なゆに、とん、と背中を押される。

「う、うん」

 ファンクラブの人たちから少し離れた所まで歩いていく。

 バスのドアからは、一人、また一人、と降りてきて――

「あら、すばるん??

 どうしたの、こんな所で」

 ちょっと離れているはずだったのに、いきなり目があった。

 そのままこっちまで来てくれる。

「あ、え、と、その……」

 びっくりしすぎて、おかえりなさい、が出てこない。

 この間の電話もこんなんだったなぁ。

 1週間会えないだけでこんなになっちゃうんだなぁ、私。

 我ながらびっくり。

「ん?」

「お、お……」

「『お』?」

「……おかえりなさい」

 なんとか絞り出せた。

「うん、ただいま」

 にっこり、と。

 いない間あった事とか、向こうでどうだったかとか。

 話したいことはいっぱいあったはずなのに、それだけでもう満足してしまった。

「ちょっとまってね、荷物取ってきちゃうから」

「はい」

 そう言うとバスに戻っていくケイ先輩。

 見つけてまっすぐ来てくれたんだよね……どうしよう、すっごく嬉しい。

 少しは、うぬぼれていいのかな……。

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