第14話 金の花咲く銀の庭
根本エレクトラは、生まれながらにとても目立つ赤ん坊だった。
父譲りの金髪と、母譲りの切れ長の瞳。
お人形さんのようだったと写真を見せられた時には、自分でも本当にそのとおりだと思ったほどだった。
目立つということは、残念ながらこの国ではあまり良く思われないようで、小さい時から何かにつけてイジメられていた。
小学校の時、何もしてないのに『生意気』とか言われて、上級生にイチャモンを付けられた時には、逆に笑ってしまったほどだ。
とはいえ。
やられてやられっぱなしでいられるような性格でもなかった私は、とにかく強くなろうとした。
親に頼んで格闘技を習わせてもらって身体的にも鍛え、その中で精神的にも強くなうとした。
人は人、なにを言われても動じない。
そんな人間を目指し、実際、自分でもそうなれていたと自負していた。
今にして思えば、ただ虚勢を張っていただけだったわけなんだが。
その当時は全くそんなことに気づいていなかった。
「おう、トラ! 今からサッカーの試合があるんだけどさ、お前も加われよ!」
「加われよ、ってなー。
お前、ただ単に負けそうだから助っ人がほしいだけだろー?」
「うひひ、そうとも言うな!」
「しゃーねーな。
この俺様の華麗な技に酔いしれるがいい!」
中学校に上がる頃には、そんな私をイジメようという不届き者はいなくなっていた。
まぁ、完全に男扱いされていた気がするのは多少なりとも不本意ではあったが、何の気遣いも必要がないというのは心地よかった。
よかったのだが……そうは言ってもな、俺だって女なんだけどな、って思うこともあったわけだ。
つまりその、あれだ。
中学2年の冬、初めて恋をしたのだ。
結論から言ってしまえば、惨敗。
他に好きな人がいる、とか、友達としか思えない、とかならまだよかったんだが。
女として見られない、はさすがにナシだと思わないか?
ほんとにそう思ってたとしてもさ、少しはオブラートに包め、ってんだよ。
なんつーか、自分を全否定されたような気がしちまってさ。
一体全体どうすればよかったんだろうなー、なんて。
雪の積もる校庭をぼんやり眺めながら、放課後の教室で1人泣いていた。
「あら……まだ教室に残ってる人がいるなんて。
……寝てる??」
「……ん、んぅ?」
「おはよう、もう外は真っ暗ですわよ?」
顔をあげて時計を見ると、既に18時を過ぎていた。
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。
あんだけ落ち込んだってのに、さっくり寝ちゃう辺り俺の神経も大分図太い。
「あ、いや、その。
起こしてくれてありがとう」
「いいえ。
こんな所で寝ていると、風邪引きますわよ?」
「そ、そうだな、うん」
「では、
ごきげんよう」
「お、おう、じゃーな」
それが、ステラと初めて交わした会話だった。
同じクラスだから挨拶くらいはしてたけども。
ちゃんとした会話、という意味ではこれが最初だった。
それから、俺とステラはよく話すようになった。
銀色の髪、日本人離れした目鼻立ち、透き通るような白い肌。
どれもこれも、とにかく目立つ、という点で俺と似ていた。
っても、男勝りな俺に対して、女の子らしさを全て詰め込んだようなステラとでは似ても似つかなかったのだが。
それでも、俺は勝手に親近感を持ってしまっていた。
だが、ある日、
「ねぇトラ?
あなたと私って、どこか似ていると思わない?」
ステラも同じように思っていたということがわかって、なんだか嬉しかった。
俺だけの勝手な思い込みじゃなかったんだ、って。
そうこうしているうちに。
あっという間に1年が経ち、卒業を迎えることになった。
ステラと初めて話をしてから、あっという間の1年。
明日の卒業式を前に、雪降る校庭を眺めながらぼんやりとしていると、
「あら、今日は起きているのね?
早く帰らないと、風邪ひきますわよ?」
「あはは、俺だっていつも寝ているわけじゃないぜ?」
「そうかしら? 授業中なんていつも寝ているじゃない」
「……それを言われると、言い返せねーなー」
「ふふふ」
そうやって微笑むステラを見て、
「なぁ、ステラ?」
「どうしたの? 急に改まって」
「いやー、うん、あのな。
明日卒業式だ、って思ったらな。
なんか……寂しくなってきてな」
「あら、珍しいわね、トラがそんなこと言うなんて」
「茶化すなよ」
「ふふ、ごめんなさい。
でも、どうしたの? 本当に」
「急にこんなこと言われても、困らせてしまうかもしれないけど。
ステラ、俺……お前のことが好きだ。
これからも一緒にいて欲しい」
「…………」
「ス、ステラ……?」
「ぷっ、あはははは」
えええええ、ちょっと、なんだそれ、ここ笑う所じゃないだろー!
「な、なんだよ、笑うなよ!!」
「ご、ごめんなさい。トラが真面目な顔してなにを言うかと思ったら」
「だ、だからって、そんな笑うことか!?
これでも、結構勇気いったんだぞ?!」
「ふふふ、トラは可愛いわね」
「はぁ、もういいよ、忘れてくれ。
変なこと言った、って自覚はあるんだ……」
「あら、それは嫌よ?」
「なんだよ、笑いものにする気か!?」
「なに言ってるの? せっかくの
「え?」
「だーかーら。私も好きよ、ってこと。
嫌だと言ったって、離れるつもりはないわよ」
「え? え???」
「というか。
とっくに両思いだと思ってたのに、なーんにも気付いていないなんて、トラってば鈍いのね」
「ええええええええええ!?!?」
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