第4話 金と銀

「おーっす! 星空連れてきたぞー!!」

 結局、私はどうすることもできないまま、生徒会室まで引きづられてきてしまった。

 トラ先輩(『生徒会長』って呼んだら、『トラ』って呼んで、と言われたので)、見た目によらず……いや、見た目通り? 力が強かった。

 うう、手首痛いよ……。


「あれ? おねえ?」

「ん??」

 手首をさすりさすりしていたら、なんだかとってもよく知ってる声が聞こえた気がした。

 いやいやそんなまさか、と、そっと心でツッコミながら顔を上げると……そこにはとても見慣れた顔があったのだった。

「え? なゆ??

 なゆも呼ばれたの??」



カタッ


「紅茶でよかったかしら?」

 私となゆの前に、綺麗なお花の形のティーカップが置かれる。

 中には澄んだ琥珀色の紅茶。

 しかも、今まで出会ったことのないようなすっごくいい香りがする

 え? 紅茶ってこんな感じだったっけ??

「あ、ありがとうございます」

 紅茶を入れてくれた先輩――生徒会副会長のアレサンドラ・ステラ先輩に御礼を言って、一口飲んでみる。


 おいしい……。

 すごい、私でもわかるレベルで味が違う!!

 というか……普段私が紅茶と呼んで飲んでいるものと同じ『紅茶』だとはとても思えない……。


「あの、おいしいです」

「よかったわ。

 今回はトラが迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさいね」

「あ、いえ、大丈夫です」

「そう? 先輩とか気にしないで、ガツンと言っちゃっていいのだからね?」

「いやいや、さすがにそれは……」

「それもそうよね。ふふふ」

 笑うとすごく可愛い。


 名前でわかると思うけど、ステラ先輩は両親とも外国の方、とのこと。

 フランスとアメリカ、って言ってたかな。

 ただ、生まれも育ちも日本なので、英語とフランス語はほんのちょっとしかしゃべれないらしい。

 髪は銀色、って言うのがいいのかな?

 アッシュブロンドっていうのが正しいのかな?

 詳しい色の名前はわかんないけど、さらーっとキレイな銀色、というのが私の最初の感想。

 肩より少し長いくらいで、白く透き通ったお肌、長いまつげに綺麗な青い瞳と……もうね、整いすぎていて。

 身長はトラ先輩よりちょっと低いくらいで、私よりちょっと高いくらいだから、160cmちょっとってとこかな?

 それにしても、トラ先輩生徒会長ステラ先輩副会長が並ぶとすごいビジュアル。

 金と銀の対比がとってもキレイだし……やっぱり、美人さんじゃないと生徒会に入れない疑惑が濃くなってきた!


 改めて。

 何が起こったのかを整理すると。

 な~んて、もったいぶるほどの話でもないんだけど。

 すごく単純な話。

 生徒会が本当に呼んだのは――


 新入生代表で入学式に挨拶をした(入試1位)の優秀な星空『なゆた』であって、体育館の場所がわからずに迷子になっていた、優秀じゃない星空『すばる』ではなかった


というだけのこと。

 確かに、新入生代表が双子で、しかも同じ高校にいるなんて思いもよらないだろうな~。

「ほんと、トラはいい加減なんだから。

 星空は星空でも、月組じゃなくて星組って言っておいたでしょう?」

「んなこと言ったってよ―。

 まさか星空が二人もいるなんて思わねーってー」

「……私、二人いるから間違えないように、って、言ったわよ?」

「え……?

 あ!

 ……あ、あー、そ、そうだったかなーーー???」

 トラ先輩、今思い出したっぽいな。

 笑っちゃうくらいに目が泳いでる。

「こっちを……見なさい?」

 あ、捕まった。

 顔を両手でがしーっと掴まれてる人、初めて見た。

 あれってマンガの中だけじゃないんだなー。

「いや、でもさ、ほら……」

「あんたねぇ……言い訳ばっかしよらんと!

 こげん迷惑かけようとに、ちゃんと謝らんね!!」

「う、ごめん……」

「うちに言うてどうするっちゃ。

 星空さん達に謝らんね!」

「あー、その……悪かったな。

 無理くり連れてきた挙句人違いでしたー、だもんな。

 わりぃな!」

「いえ、確かにびっくりはしましたけど、美味しい紅茶も頂きましたし、全然大丈夫ですよ!」

「そか、ありがとな!」

 そう言ってニカッと笑うトラ先輩は、やっぱり小学生男子のようだな、なんて思ってつい吹き出しそうになってしまった。

 あぶないあぶない。


 それにしても

「ステラ先輩って、ご実家は九州の方なんですか?」

「そうだけれど……私、そんなこと言っていたかしら?」

「なんでもなにも、さっきトラ先輩に博多弁? で怒ってたじゃないですか」

「…………うそ」

「うそじゃねーよ、もろ出てたぞ~」

「ううううう」

 赤面する先輩可愛い……。

「こいつな、興奮したりテンパったりすると博多弁が出るんだよ。

 この見た目なのにな、おもしれーだろ?」

「しゃーしか! バカトラ!」

「な?」

「あはは」


「それで……私が呼ばれたって理由はなんです?」

 このままじゃ話が進まないと思ったのか、おもむろになゆが話を切り出した。

「あら、そうだったわ、ごめんなさい」

 まだ若干顔が赤いステラ先輩が答えてくれた。


「なゆたちゃんを生徒会にスカウトしたいのだけれど、どうかしら?」

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